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リニューアル記念放談 佐藤竜雄×小黒祐一郎
その3 番組の成り立ちと周辺事情


小黒 『鋼の錬金術師』とかの記事を読むと、毎日放送も、ティーン以上向けのアニメに積極的みたいだよね。
佐藤 『エヴァンゲリオン』や『ナデシコ』の頃は「TV局を除いたかたちでビジネスをしましょう」というところから始まったわけだけどね。
小黒 製作委員会方式が始まった頃の話ね。そのやり方で、TVでアニメファン向けの作品が成立しやすくなった。勿論、製作委員会にTV局が参加している場合もあるんだけど。
佐藤 最初は夕方の6時台の番組だったけど、それが深夜枠になっていった。あれって各TV局が制作費を出していたわけじゃなくて、それどころか、製作委員会側がお金を出して放映しているわけでしょ。
小黒 基本的に製作委員会が放映枠を買って、放送しているんだと思うよ。
佐藤 そうなると、TV局にとってはCMと一緒だから、作品に対して責任を持てないしね。企画段階で放送局が参加していない弊害は出てきているわけじゃない。ちょっと過激な作品を作っていたら、放映時に問題になったり。
小黒 なるほど。
佐藤 そういう企画段階での問題って、結構あるんじゃないですか。それもビデオメーカー主体の弊害だよね。夕方にやっていた時よりも、一歩進んじゃったよね。
小黒 TV局が積極的に関わっているタイトルも、あるよね。最近の作品で言うと『ハチクロ』とかがそうなんじゃないの。クレジットには製作委員会の名前が入っているけど、あの場合は、フジテレビが自分の枠でやっているわけでしょ。
佐藤 次第に変わってきているんだろうね。将来的に作品を作っていくシステムをどうしていくかは、また別の問題として。今あるこの括りの中で、それぞれの役目を持った人たちが、よく考えて番組を立ち上げてかないと。企画書ができて予算がとれたら、すぐ本読みに入っちゃうのはどうかと思う。
小黒 あんまり安直に始めちゃいけないよ、って事ね。
佐藤 「やりゃあ、儲かるから」みたいな風潮だけど……ん? 今はそんな風潮でもないか(笑)。実際問題、本当に儲かってんの? と思ってる人は作る方も売る方も正直数多い。
小黒 実際に売れている本数を聞くと、よく会社が成り立ってると思うよね。
佐藤 その一方で売れているタイトルがあるから、ちょっと黒字になっているんだろうね。6勝4敗でOKくらいのスタンスだろうと思うよ。もはや、DVDの売り上げで、予算の全部をカバーするのは無理になってきているのは分かってる事なんだし。もうちょっと違う考え方しないといけないんだよねえ。でもビデオメーカーはDVD売るのが仕事だからそこまでの義理はないし、製作委員会の他の企業も実際はDVDの収益をアテにして集まってきてるから、自分ところでアレコレやる気がないところが多いし……アレコレやるノウハウがないってのもあるか。最近はやりのSPC(特別目的会社)ってのもあるけど、あれは結局原作ものに限られてくると思うよ。コンテンツに力があるかどうか、アニメの場合は面白くて人気があるか、という事なんだろうけど、そこら辺の指標は詰まるところDVDの売り上げって事になるから、金を出すなら後出しじゃんけんに限る。どんなものかも分からないオリジナル作品に金を出すってのはあんまり考えられないよね。だったらすでに原作に人気のあるもの、売れそうなものにお金を出しましょうという──そう考えると立ち上げの時にお金を出しましょう、というのはかなり勇気のいる事だなあ。
小黒 やっぱり、スポーツシューズとか、学習机とかのメーカーにスポンサーになってもらわないと(笑)。
佐藤 昔は普通に電機メーカーとかがスポンサーになっていたものだけど。
小黒 東映の作品とかだと、ちょっと前まで学習机や目薬のCMをやっていたじゃない。『セーラームーン』とか『SLAM DUNK』の学習机もあったよね。うさぎちゃんや花道と勉強しても、成績が上がらないんじゃないかと思ったけどさ。
佐藤 ははは(笑)。やっぱりそれは古典的な番組成立のモデルなんだろうね。TV局と代理店が仕切っている枠に、そういったスポンサーがつく。それとは違うものとして考えられたのが、製作委員会方式だったわけだから。
小黒 歴史的に言うと、かつては玩具会社とかお菓子会社とがスポンサーになる事で、TVアニメが成立していたけど、製作委員会というものが発明されて、そういう事を抜きにアニメが作れるようになった。
佐藤 まあ、そうだね。特にオリジナル。
小黒 それで10年やってきたら、これもしんどいぞという事になってきた、という事かな。
佐藤 そういう事。ビデオメーカーの負担は大きいし、結果的に作品の予算がキツキツになっちゃう。売れる作品を作っていれば、スポンサーもつくんじゃないか、と言われるかもしれないけれど、1クール、2クール全盛の最近だとなかなかね。『ナデシコ』だって2クールだったし、放映時のファンの食いつきって思ったほどよくなかったんだよ。むしろ放送終了から劇場版公開までの期間があったおかげで、1年シリーズと同じようにファン層を広げたり商品の展開ができたりしたわけだから。実際、グッズの発売は放映後の方が多かったんだよ。劇場版のDVDの発売まで入れるとほぼ3年のプロジェクトだったんだな、あれは。2クールのアニメだとこんな売り方しないよね、普通。でも今のアニメのペースで資金を回収しようったってできないよ。立ち上げてる初年度の売り上げは芳しくないだろうし、実際商品を出したところでこれまた大儲けできる保証はない。そんなもんに金を出すのはよっぽど酔狂な人でないと──昔、スポンサー会社の社長が時代劇が好きで「時代劇を作れ!」と言って「大江戸捜査網」ができたという伝説があるんだけど、そんな事はアニメでは、まずあり得ないからね。「俺はアニメが好きだから、うちでもアニメを作るぞ!」みたいな事を言う大企業の社長が出てくるのは、あと何年後だっていう(笑)。
小黒 アニメ好きな社長が出てきてもね、きっと「君が作りたいアニメを勝手に作れ」とは言ってくれないよ。
佐藤 「俺の観たいアニメを作れ」ってか。

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(05.06.21)

 
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