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名コンビが手がける日常的ファンタジー『絶対少年』
伊藤和典×望月智充インタビュー(前編)


 少年少女とマテリアルフェアリーとが出会った時、何かが起きる――。『絶対少年』は、淡々とした日常、不器用な少年少女が織りなす微妙な人間模様、そしてそのすぐ傍にある異世界のハーモニーが魅力のファンタジー作品だ。シリーズ構成を勤める伊藤和典と監督の望月智充は、かつて『魔法の天使クリィミーマミ』において、魔法少女ものを日常を舞台とするファンタジーとして仕上げた名コンビでもある。
 第1部・田菜編を終え、いよいよ第2部・横浜編へ突入する『絶対少年』の今後を2人にうかがってみた。


●2005年8月8日
取材場所/東京・神南スタジオ
取材・構成/小川びい


●関連サイト
絶対少年
http://www.zettai-shonen.com/

●TV放送情報
NHK―BS2/毎週土曜日08:05〜



PROFILE
伊藤和典(Ito Kazunori)

脚本家。1954年12月24日生まれ。『うる星やつら』で脚本家デビュー。原案・構成・脚本を手がけた『魔法の天使クリィミーマミ』では、OVA『永遠のワンスモア』『ロンググッドバイ』で望月智充とコンビを組み、大きなヒットを飛ばした。代表作に「機動警察パトレイバー」シリーズ(脚本)、劇場「平成ガメラ」シリーズ(脚本)、「.hack」シリーズ(脚本)など。

PROFILE
望月智充(Mochizuki Tomomi)

演出家。1958年12月31日生まれ。北海道出身。亜細亜堂所属。監督作品に『きまぐれオレンジ★ロード あの日にかえりたい』『海がきこえる』『プリンセスナイン 如月女子高野球部』『ふたつのスピカ』など。最近では、NHK『みんなのうた』で、「カゼノトオリミチ」「トゥモロウズ ソング」を手がけ話題に。最新作は来年放映予定の『ひぐらしのなく頃に』(シリーズ構成)。


―― これまでもいろんなところで話されていると思うんですが、そもそもどういった経緯でこの企画はスタートしたんでしょう。
伊藤 そもそもは、トイズワークスの加藤(智)さんが、佐藤(眞人)さんの造形物をウチに持ってきて、「これで何かやりたいんだけれども、話を作ってくれないか」というかたちでオフォアーをしてきたんです。つまり、初めに造形物――マテリアルフェアリーって言うんですけど――ありき、だったんですよ。その時にあったのは、その造形物と佐藤さんの「絶対少年」というコンセプト。で、それを踏襲したかたちで、ファンタジーものができないか、という事になったんです。
―― なるほど。佐藤さんのWEBサイトも拝見したんですけど、「絶対少年」と言っても、ずいぶん抽象的なコンセプトですよね。
伊藤 逆に間口が広いから、自由にやれるなと思ったんです。最初はそれをWEB連載の小説でやろうとしたんです。ところが、ものの見事に挫折したんですよ(笑)。締め切りも割と緩い感じだったので。
望月 そりゃダメですね(笑)。
伊藤 うん(笑)。それで、一時中断していた。それから2、3年あって、加藤さんがアニメにしようと言い出したんです。それも最初はなかなか動かなかったんだけど、途中でジェンコの真木(太郎)さんが加わってきたら、途端に動き出した。で、その段階で「アニメにするんだったら監督は望月君がいいなあ」って、なんとなく言ってたんです。


  ▲第1話「憂鬱で奇妙な夏の始まり」より

望月 WEB連載の小説っていうのは、来るべきアニメの原作というつもりだったんですか?
伊藤 いや、それはなかった。その頃の構想では、WEB連載はそのまま本にして、それが評判になったら次はアニメだねと言ってた。その時、考えていたのは(第2部の)横浜編だけでアニメをやろうと思ってて……。
望月 えーっ、そうなんだ。でも、僕がこの企画に加わった頃は、田菜編はキャラクターや雰囲気は固まっていたけど、横浜編って何にもなかったじゃないですか。
伊藤 それは、田菜編はもともと小説に書こうと思ってたから、もうプロットがあったわけ。でも、横浜編は、漠然とアニメやるんだったらこれだねって言ってただけで、その時点ではほんとに何にもなかった。
望月 横浜を舞台にするという、構想だけがあった?
伊藤 そう。「冬」「横浜」って、そんだけ(笑)。
―― 2部構成というのは、最初から想定してたんですか。
伊藤 いや、実は3部作という狙いが頭にあった。で、もしあるなら第3部は劇場版で、という事になるんだけど、それはまだなんにも考えてない。
望月 知らなかった。そんな話があるんだ(笑)。
―― そもそも、最初に伊藤さんが構想されたのはどういうものなんですか。
伊藤 フェアリーがいて、それに少年少女が巻き込まれるっていうかたちですね。で、ファンタジーというのは、現実と地続きであってこそのものだという気がしているので、異世界にはしなかった。
望月 で、僕は、田菜編の主なキャラクターと大体のストーリーができているぐらいのところで入ったんだよ。舞台になる場所のロケハンをして、それから、伊藤さんが、ちゃんとアニメとしてのシナリオに入り始めたっていう流れだね。
―― じゃあ、キャラクター配置に関しては、望月さんはそんなにタッチしてなかった?
望月 してないですね。
―― タイトルが『絶対少年』ですから、少年が主人公になるのは間違いないとして、どうしてああいいった男の子が主人公に?
伊藤 うーん。どう考えてああいう主人公になったのかは、すっかり忘れちゃっているんだけれども、最初から、事件が起こってそれを解決するというアクティブな話にはならないだろうな、と思っていたんです。で、正統派のファンタジーをやろうと思っていたので、世界の成り立ちについて考えるとか、自分自身と向き合うとか、そういう内省的なキャラクターになるんだろうというところから、人づき合いがあまり得意じゃなくて、不登校ぎみの暗い少年という事になったのかな。
―― 前作の『.hack(//SIGN)』の主人公と共通するところがありますよね。
伊藤 順番からするとね、『絶対少年』の小説の方が先なんですよ。
―― あ、そうなんですか。
伊藤 『.hack』については、まずゲームが先にあったんです。で、ゲームの前にアニメをやろうっていう事になって、ゲームのキャラクターの中から主人公を選び出したんですね。で、まあ、『エヴァ』のシンジ君とか色々引きずってて、ああいうキャラになってしまいましたみたいな。
一同 (笑)。
―― 『.hack』では実は中身は女の子ですよね。今回、男の子が主人公というのは、伊藤さんの作品としては珍しいような気がするんですけれども。
伊藤 そうかもしんないね。
―― 望月さんとしてはどうなんですか、男の子を主人公という事については。あるいは、あまり主人公とは思ってない?
望月 いやいや、主人公ですよ。ただ、出てくる4、5人の少年少女がグループで動いてるわけで、1人が活躍したり、突出してたりする話じゃないから、特にどうのという意識はないですよ。それに、横浜編は主人公が女の子ですから、「少年」っていう言葉も若い男というふうには捉えてないですね。例えばヒーローものであれば、主人公の造形というのが凄く大事なんだろうけど、この作品では、それはあまり感じなかった。むしろ、ストーリーをみせていく方に重きを置きたかったし。ただ、歩は、すぐれた能力があるわけでもないし自分から行動を起こすわけでもないので、視聴者に受け容れられるのかなというのは、ちょっと考えたかもしれない。でも、ネットを見ていると、歩と美紀がうまくいくといいなっていう感想を書いている人もいて、案外受け容れられたんだなと思ったね。
―― ずいぶん現代風の少年だなあという印象があるんですけれど。
伊藤 そう、わりと今風のティピカルな少年ではあると思う。今風にしようって思ったわけじゃないんだけども、結果的にそうなっちゃった。
望月 普通の現代の日本で、普通の少年少女の話だから、普通になっただけだと思う。特に、今風にしようとか、今風イコールひきこもりである、とか、そういう事じゃなくてね。それが珍しいとしたら、他の作品との比較の問題じゃないのかな。
伊藤 他の作品とはアプローチの仕方が全然違うという事なんだと思うんですよ。これだけ何も起こらない、そういうシリーズってないじゃないですか(笑)。実はじんわりじんわり色んな事が起こってるんだけども、漫然と観てると、また何も起こらなかった、になっちゃうみたいな。
―― 起こらない代わりに、起こるかもしれないという緊張感でずいぶんひっぱってますね。
伊藤 だって、そうしないと、12、3本も持たないじゃない(笑)。
望月 何も起こらないし、原作もないから次に何が起こるか、誰も知らないわけでしょう。だから、ほんとに予測がつかないと思うのね。それが変な緊張感にはつながっているのかもしれない。例えば、敵が出てきてどうこうという話であれば、来週の予測はある程度立つわけじゃない。そういう予測が全く立たない作品っていうのは、結構、貴重なんじゃないかなっていう気もする。
―― ええ、緊張感がありますよ。
望月 そう? わりとゆるくも作っているつもりだけど。
―― 例えば、人間関係の微妙な緊張感とか。
望月 それはさ、現実にも微妙に緊張感はらむ事はよくあるじゃない。その程度の事であって。ただ、全体を凄く日常的にしたから、その現実程度の微妙な緊張でも、観てる方ははっきりと緊張と感じてしまう、そういう事なんじゃないかなあ。作品自体のテンションをうんと高いところに設定したら、(潮音の)「キスしてもいいよ」とか、そんな事はどうでもよくなるはずでしょ。
―― たしかに、女の子がちょっとカメラに寄るだけで、ドキドキしますね。
望月 そうそう(笑)。元々のテンションが凄く低く設定されてるので、ちょっとした事が大層な事になるんだよね。ただ、それは意識して作ってるっていうよりも、伊藤さんがそういう話をやるんだったら、こっちもそれに合わせた画面と演出で行こうかなっていうぐらいで、狙ってるわけでは全然ない。無理してああいう雰囲気作ってるわけでもなくて、わりと普通。自分としては自然にできたよね。
伊藤 多分ね、原因と結果が逆なんですよ。こうしようと思ってああなったわけじゃなくって、こういうのがやりたいね、ってやってたら、ああいうかたちになっちゃった。
―― 伊藤さんは、今の画面をなんとなく想像して、望月さんを希望されたっていう事だったんですかね。
伊藤 そうですね。……望月君って、無茶なカメラアングルをよくとるじゃないですか。ああいう見せ方の工夫がないと、これはもたないな、っていうのがあったかな。
―― 非常にフェティッシュな感じで、いいですよね。
望月 普通の作劇では、あるシーンには何か意味があって、そのシーンの中で何かが起こって、それが後に影響をもってくると思うんだけど、『絶対少年』では、キャラが出てきて何かを見て、歩いて、何かをまた見て、でも後に続く意味が何もないシーンというのがあるわけですよ(笑)。それを舞台劇みたいにやったら、とてもじゃないけど退屈で誰も見てくれないじゃない。
―― 当初、全部、望月さんが絵コンテを切るのかというような勢いでしたよね。
望月 いやあ、出崎(統)さんには敵いませんでした。
一同 (笑)。
望月 連続して切ったのは最初の5話までね。それも作画に入るだいぶ前からコンテに入っていたからできた事でね。ただ、普通とは違うテンポ感でやろうと思ったんですよ――その理由はもう忘れちゃったんだけど。だから、最初の1ローテーション分は、自分でやろうと。なぜかというと、この作品は、こういうテーマで、こんなだからこういうムードでやりますよっていう説明さえできないような中身だったので。うん、コンテマンなり演出家と打ち合わせする時に、こんなに説明しにくい作品は初めてで。「このシーンに何の意味があるのか」と、もし突っ込まれたら答えようがないなって、ドキドキしてた。
一同 (笑)。
望月 だから、最初の5本自分で絵コンテやって、これはもうこういう作品なんだと。理屈はないんだというような事にしたんです。あとね、この作品は、毎回カット数250カット未満厳守って決めてた。実際にはいちばん多くても230カットで、横浜編なんか、ほとんどが170、180カットで毎週やってる。
―― それは少ないですよね。どんな理由があったんですか。
望月 やっぱりテンポの問題かな。実際には見ていても、1カットが長く感じられないと思うんですよ。慣れれば普通に感じられると思うんです。元々、300カットや350カットあるTVアニメのカット割りは多すぎると思ってた。カット増やすと、チェックも面倒くさいし(笑)。それで、今回はそれを決まり事にしようと思ったんですよ。自分はこれを200カットぐらいでやるつもりだったから、他の人にもそうしてもらおうと。
―― それって大変じゃないですか。
望月 いや、現実に200以下で収まった話数が凄く多いんだけど、それも別に無理して少なくしてるんじゃなくて、自分にとってはそれが心地よいテンポであると、そういう事ですね。350カットあるようなアクションものでも、実際には無駄な切り返しが多いだけだったりするしね。
伊藤 うんうん(と大きく頷く)。

●名コンビが手がける日常的ファンタジー『絶対少年』
伊藤和典×望月智充インタビュー(後編)へ続く



「絶対少年」1巻(全9巻)
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(05.08.22)

 
 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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