アニメスタイルイベント特別企画
『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー(2)

小黒 さっき手塚治虫の名前が出ましたが、手塚タッチを意識したのは、キャラクターデザインだけなんですか?
湯浅 そうですね。初期の手塚治虫の画って、なんか凄く憂いがあって、よく言われますけど、ちょっとエロティックな感じもある。そういうのがいいなと思ったんですけど、伊東君はそういうのも描けたりするんでビックリしました。

カイバ場面写2_1

▲第9話より。カイバを陥れようとする「一想団」リーダー、ポポ

小黒 ポポなんて、凄くロックっぽいですよね。
湯浅 かなりその辺を採り入れて、自分のものにしてますよね。絵柄とかだけじゃなくて、動きとか、エフェクトとかもね。今回、エフェクトも少し変わったものにしたくて、最初の頃はそれで宮沢康紀さんにも絡んでもらったんです。凄く面白いエフェクトを描く人なんですよね。リアルなものと違って、童話っぽい絵本的なエフェクトで。残念ながら、宮沢さんは途中で企画から離れてしまったんだけど。
小黒 宮沢さんが参加していたのは、準備段階なんですか。
湯浅 そうです。でも、ララっていう星に穴があいてたり、ちょっと画っぽい太陽とか、パルっていうカイバを守るキャラクターは、宮沢さんが描いた画をもとにしてるんですよ。あの辺のものは、宮沢さんが描いたものを活かして描いてるんです。それと、記憶の卵っていう設定を描いたのも宮沢さんですね。その時は、1人に1個、大きな卵があるという設定だったんだけど。
小黒 それは、「記憶=卵」という文字の設定が先にあったんですか?
湯浅 いや、なかった。最初は普通の脳という風に考えてたんですけど、こっちの意図に関係なく宮沢さんがいっぱい画を描いてきて(笑)、世界観とかも描いてもらったんです。3話の街並み、クロニコの実家、5話に出てくる宇宙船なんかも、雛型は宮沢さん。あと、雨とか雲とかの感じは、久保まさひこ君という人がやってます。
小黒 エフェクトデザインとしてクレジットされてますね。
湯浅 そうですね。爆発とかは、各話で変わった感じでやっていこうと。ひらったいのも入れたり、炎も出たり。

カイバ場面写2_2

▲第2話より。撃たれるカバ。独特のエフェクトに注目

小黒 今回、アニメーション的に「こう作っていこう」というのは、他にありました?
湯浅 まあ、動きについては、わりとまったりやろうと思ったんですけどね。伊東君が描いてきたデザインが、結構スポーティーな感じだったので、最初に考えていたよりはアクションが多くなったし、各話のみんなも動かしてくるんですよ。「まあ、動かすならしょうがないな」って感じで。
小黒 監督の意図としては別段、動かそうとは思ってなかった?
湯浅 ええ。最初は、凄くまったりとしたものを考えてたんですけどね。ゆっくり動くとか、淡泊に、記号的に動くような感じ。
小黒 それこそ『ファンタスティック・プラネット』的な。
湯浅 でも、もうみんな動かしてくるんで。動かすとそれだけお金がかかるから、ちょっと懸念もあったんだけど、マッドハウスもそれについて文句を言わないんでね。でも、こういう画だからこそ出せるような動きの魅力みたいなものがいっぱいあったから、いいなと思いましたけどね。
小黒 わりと、今まで見た事ないような、柔らかい人物アクションが多かったですね。
湯浅 そうなんですよね。伊東君だけじゃなく、他の人もみんな描いてくるんですよね。結構みんなやれるんだなーって。今、ああいう動きって全然要求されない空気じゃないですか。
小黒 TVアニメの歴史の中で、あまりなかった動かし方ですよね。だから、次に手塚キャラを動かす時は『カイバ』を参考にすればいいんじゃないかと思うぐらい(笑)。
湯浅 うん。多分、手塚先生もこんな風にやりたかったんじゃないか、ぐらいの(笑)。僕はそういうマンガっぽい方向から来てるので、なんとなく自分で描けそうな気もするんだけど、伊東君なんかは元々サンライズ系じゃないですか。それでもちゃんと描けるんだ、という驚きがありました。各話のみんなもね。それが面白かったし、そういうのを楽しんでもらえるといいかなと。

カイバ場面写2_3

▲第5話より。コンテ・演出・作監を務めたCHOI EUNYOUNGの個性が光る

小黒 美術については、いかがですか。
湯浅 美術も、凄くシンプルに、絵本みたいにやりたかったんです。色も2色ぐらいで、あんまり使わない。あっても3色ぐらいで、原色も使わないとか。ちょこちょこ入ってきてますけどね(笑)。特別派手な回もあるんだけど、できるだけ何も描かない事に挑戦しようと。描かないと怖いんですよね。つい、できるだけ細かく描いちゃったりする。
小黒 でも、今回は極力シンプルに。
湯浅 そうですね。後ろに山がぽこーんとあって、あとは何もない、みたいな。最低限でいければ、それがいちばんだと思うので、美術監督の河野(羚)さんに「こんな感じです」とお願いして。下手すると凄く単調になるんですよ。でも立体感とか奥行きは欲しい。キャラクターがちゃんと入っていけるぐらいの空間はあって、なおかつリアルにならない、記号的で、絵本っぽい感じでやってほしかった。
小黒 なるほど。
湯浅 美術スタッフみんなに凄くやる気があったので、いい感じに仕上がったと思います。全員、女性だったんですよね。だから打ち合わせとかも凄いんですよ。女性が5〜6人いて、男は僕1人みたいな感じで。もうみんな仲が良くて、ドーナツ買ってきて食べたりしながらワイワイ話してる。で、こっちは全然入っていけないような(笑)。
小黒 (笑)

カイバ場面写2_4

▲第3話より。惑星トトの情景

小黒 今回、メインスタッフの数が凄く少ないじゃないですか。コンテ・演出も数人のローテーションで回していたり。これはどういう意図があったんですか?
湯浅 大人数でやると、それも意外と大変なんですよね。任せられる人と一緒に少数でやった方が、説明も楽だし。たとえば、初めての人に5カットの原画を描いてもらうにも、いちいち世界観から説明しなきゃいけない。それも面倒くさいじゃないですか。だから、できるだけ少数で、分かっている人たちだけでやれれば、余分な説明も必要ないし、バラつきも出ないし。ホント、5班くらいでやれればベストですね。
小黒 コンテ・演出・作画監督をやれる5人ぐらいの各話担当者を立てて、シリーズ12本を回すと。
湯浅 そうですね。1人2〜3本やればシリーズを作れる、みたいな状況が理想的ですけどね。
小黒 実際、『カイバ』はスタッフルームにいる人間だけで、メインの仕事はほぼやりきったんじゃないですか。
湯浅 そうですね。あんまり外に出す事もなく、みんな近場でやってますね。外に出したのは、原画・動画・背景ぐらいじゃないかな。
小黒 それが実現したのは、制作期間があったから?
湯浅 うーん、そんなにあったわけではないんですけど、いろいろそういう風にやれるよう動いてくれたんじゃないですかね。スケジュールもかなり変則的だったんですけど。三原(三千夫)さんは1人でやっていたし、コンテを書くのに慣れてない人もいたし、なかなかシステマティックに上がってこない時もあった。そういう事にも対応しながら、まあ、わりとうまくできた感じですね。

カイバ場面写2_5

▲第4話より。三原三千夫が脚本・コンテ・演出・作画を手がけた力作

小黒 例えば、このシステムで全26話のシリーズとかできます?
湯浅 うまくやれれば、その方がいいと思います。やる側にもやる気があれば(笑)。なんかね、原画に20人とか入るのが嫌なんですよ。バラつきがあるし、やった方もやった感じがしないし。制作にしても、20人の原画マン達の間を回らなきゃいけないから、凄くロスがある。
小黒 ああ、なるほど。『カイバ』はシリーズを通じて、原画の人数もそんなに多くないんですね。
湯浅 そうです。やっぱり、ただ仕事として「はいはいやりましたよ」って感じで描くだけじゃなく、できるだけ作品に参加してもらって、アイディアも入れてもらって、「自分がやった感」というか、自分の作品だと思えるようにやってもらいたい。いつも、できるだけそうしていきたいな、と思ってます。
小黒 昔の世界名作劇場シリーズとかって、そうやって作れてましたもんね。毎週同じ人が原画をやってたり。
湯浅 そうなんですよ。ホント、4〜5人とか、8人ぐらいでやってるじゃないですか。そういう昔のスタッフに対する対抗意識みたいのがあるんです。もの凄く仕事が速いですしね。今はみんな時間をかけて、まあ丁寧にやってるんだけど、じゃあ昔の方がつまらないかっていうと、全然そんな事はなくて、面白かったり凄かったりする。それが嫌だな、と思うところがあって。
小黒 そう思ってしまう現状が嫌だな、って事ですね。
湯浅 ええ。できるだけ少数でスピードがあって、さらに面白いものができれば、それがいちばんだと思うんです。

●『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー(3)へつづく

●関連サイト

『カイバ』公式サイト
http://www.wowow.co.jp/anime/kaiba/

マッドハウス公式サイト
(湯浅監督コラム「カイバ←湯浅政明←ケモノヅメ」連載中)
http://www.madhouse.co.jp/

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(08.10.16)