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『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(5)


細田 そうそう。ああいうふうにしないと、お茶の間海賊団がルフィと関わらないんだよね。だらしない人だったパパが、どうすればやる気を出すのかな。娘にどんな事を言われると、最後に力を発揮するのかな、という事ですよね。
小黒 お茶の間の長女は、設定としてはいくつぐらいなの?
細田 18です。
小黒 なるほど、それは親の言う事なんてきかないよね。
細田 きかないきかない。
小黒 でも、お父さんは、彼女もパパっ子だと思っていたいわけだ。
細田 そう。多分ね、お父さんがああいう調子だったから、お母さんに何らかの事があったんですよ。
小黒 直接の死因にならないまでも、お茶の間パパの性格が、死ぬきっかけぐらいにはなっていそうだよね。
細田 うん。まあ、死んじゃったのかどうかは映画では分からないけど。
小黒 そもそも、本当なら屈強な仲間を得て海賊をやっているところなのに、家族でやっているところも何だか気になるよね。
細田 実はシナリオではママもいるんですけど、映画ではあえて片親にしました。人間関係の最小単位は家族だと思うので、ルフィたちとは別の関係性の危機も提示しておきたかったんです。
小黒 お茶の間のパパが弓で打ち抜いちゃったところで、物語的にはほぼ終わってるんだけど、あれはあれでよかったの?
細田 うん。Bパートに出てきた時から、最後にパパが決着をつけるんだろうな、と思ってやってました。予感として(笑)。なんて言うかな、今回の事件の決着は、いちばん決着をつけそうにない人がつけるんだろうなと思ってました。
小黒 なるほどね。
細田 だから、ルフィでもブリーフでもなく、パパがつけるんだろうなと。そういう意味では、今回の映画は、ルフィ、ブリーフ、パパ、オマツリの話なんですよ。つまり、船長の話。
小黒 4人の、仲間を思う船長達の話ね。

細田 そう。それで仲間のために何をするか、という話。オマツリも含めて、船長という同じ立場にいる人間達の連帯みたいなものは、なんとなく出てるとは思うんですけど、どうなんでしょうかね。
小黒 4組の船長が出てきて、それぞれの仲間が問題になってて。……お茶の間は、まだそんなに不幸な目に遭ってないんだね。
細田 いや、お茶の間は家庭崩壊寸前でしょ。ブリーフとオマツリは、すでに仲間を失った人でしょ。で、ルフィは失いかけてる人。
小黒 もうちょっと幸せなサンプルはないのか(笑)。普通は「仲間」というもののポジティブな面ばかり捉えがちだけど、今回は「仲間を持つという事」によって生じるつらさとか、悲しさを描いた、という事だね。
細田 うん。いや、まとめていただいてありがとうございます(笑)。でも、船長を描こうと思ったら、そうなってくるんじゃないかなあ。
小黒 で、最初の話に戻るけど。その中で、ルフィは仲間を失っても、新しい仲間と生きていけるかも、というのをチラッと見せた。
細田 うん。ルフィってそういう奴じゃないのかな、と思うけど。
小黒 仲間を「助けられる」と思ってる間は、助けるために頑張るけど。
細田 でもね、それは冷たい奴だという事ではないんだと思う。例えばさ、小学校の時の友達がいて、中学高校になって別の友達ができて、大学や社会人になってまた新しい友達や仕事仲間ができて、古い友達とはどんどん疎遠になっていく。でもそれって当たり前じゃない、という事だと思うけど。気心の知れた古い友達と遊ぶのは居心地いいけど、新しい友達を作るには、一から自分をさらけ出さなきゃいけないし、相手も一から認めなきゃならないし、実は大変な努力が要るよね。でもそうしないと鍛えられないし成長もないし、違う世界も見えてこない。今の社会って、そういうことをめんどくさがって引きこもったり、新しい環境や組織を拒んだりして、すぐに鬱だとか適応不全だとか言いがちだなって思う。新しい仲間を求めるって事はさ、古い仲間からすれば冷たいように思えるけど、仮に今までの仲間を失った時にでも、前を向いて新しい仲間を求める活力というのが、僕らには必要だなって思ってるわけ。この映画を観てくれるような若い奴らにもね。だから、ルフィっていうのは、仲間を失った時に、もう一度別なかたちでそれを探せる奴であってほしいと思うんだ。多分、それはゾロ達もそう思ってると思うよ。
小黒 自分達が死んじゃったら、海賊を辞めちゃうようなルフィであってほしくない。そう思うよね。
細田 そうそう。あいつはオマツリみたいな奴じゃない、と思ってるはずだよ。
小黒 あ、なるほど。今回、ゾロ達が死んじゃってもルフィがやっていけるかも、という事を示したのは、ルフィがオマツリ男爵とは違う人間だ。主役になるだけの事がある、という事を示してるわけだ。
細田 うん。そうです。
小黒 原作の話になるけど、少し前に、ルフィとウソップの喧嘩があったじゃない。そのあたりの話が掲載されたのは『オマツリ男爵』の制作中だったと思うけど。
細田 メリー号を巡るくだりがありましたね。
小黒 あの時に、ちょっと話がメリー号の事から外れて、「本当は、お前は俺の事なんか必要じゃねえんだろ」みたいな事をウソップが言うじゃない。あれは多分、作品の本質的なところに触れているよね。
細田 「お前らが超人過ぎて、俺はついていけねえよ」とかね。
小黒 そうそう。いや、冷静に能力だけを考えたら、確かにそうなんだけど(笑)。それをマンガでやっていた事もあって、『オマツリ男爵』は色々と感慨深かったよね。
細田 やっぱり、そういう事を突きつける原作だと思うよ。今回の映画では、1時間半という短い時間の間で、そういった事をやったから色々無理はあったかもしれないけども。それは、僕らの中にある「仲間」とか、人と人の関係性とかをどう考えるかという事でもあったんだろうね。
小黒 これもさっき言った事だけど、最後に助かったゾロ達が、戦ってくれたルフィに優しい事を言わないところがね、凄い!
二人 (笑)。
小黒 世の中の厳しさが、あそこに見えるよ。
細田 俺は、そんな優しい事なんか言われてないよ(笑)。それは監督だからね。
小黒 いやあ、あそこは細田さんの人生観が出てるよ。俺だったら、よくぞ助けてくれたって言われたいもの。
細田 いや、俺だって言われたいけど、船長たる者、それは求めるべきじゃない。
小黒 で、にこっと笑って終わるのね。
細田 うん、そう。だからエンディングも黒味なの。それだけでいいんだよ。
小黒 『オマツリ男爵』で面白かったのは、細田守ファン・カッコワライとしては……。
細田 うん、かっこ笑いとしては。
小黒 『ウォーゲーム!』が理路整然としてきっちり作られていたのに対して、今回は曖昧模糊としたところがあって、そこに想いがほとばしっているのが面白かったね。今回のムードが、友人の橋本カツヨさんの作品に近いのは、そういうところだよね。ああ、細田守はこういう作品も作るんだ。その事に少し驚いたな。
細田 そうなったのは、やっぱり、自分の中ではまだ解決してない問題をモチーフにしちゃったから。要するに、ジブリの一件とか、仲間とか、そういった問題に、まだ自分自身でもがいてるって事なんじゃない(苦笑)。まあ、解決しようがないような問題でもあるけどさ。
小黒 で、今後、本人的にはどういう映画を作ってみたいんですか。
細田 えーっとね。
小黒 細田さんの嗜好から言うと、ああいうふうに自分のまとまりきらない思いをフィルムに叩きつけるのは、どちらかというと、嫌なんじゃないかっていう気がしたんだけど。
細田 いや、そんな事はない。それは「アニメスタイル」第2号でも言ってるけど、まとまらない映画も映画ですよ。「まとまらない」と自分で言っちゃいけないけど(苦笑)。なんだろうな、全ての理屈が噛み合ってる映画も映画だけれども、そうじゃない映画も映画だと思う。で、「アニメスタイル」第2号で「計算ずくじゃない映画っていうのもありうる」と予告をしてるんだけれども、それがちょうどこの『ワンピ』じゃないかという気がしている。
小黒 なるほど。次回作はどうなりますか?
細田 次はもうちょっと、計算が及ぶと思うけど。まあ、やってみないと分からない。少なくとも『ウォーゲーム!』ほど計算ずくじゃないと思うよ。またしても、わりと理屈じゃないモチーフを扱っているからね。それでもなんとか理屈でねじ伏せたいと思っているけど、どうかな。
小黒 「細田守・作家への道」に期待してますよ。
細田 作家なんですか?(笑) 作家じゃないですよ、ただの一演出ですよ。でも、一演出としてやる事は、ちゃんとやりたいな、というふうに常に思ってますけど。
小黒 なるほど、ありがとうございました!
細田 ありがとうございました。


●DVD情報
「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」
DSTD02437/カラー/91分/ドルビーデジタル5.1ch/片面2層/16:9
価格:4725円 (税込)
発売日:2005年7月21日
映像特典:初日舞台挨拶、劇場予告、TVスポット
発売元:東映
販売元:東映ビデオ
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(05.08.19)

 
 
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