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『バジリスク』木崎文智・千葉道徳インタビュー
第2回 演出プランとクオリティコントロール


―― 『バジリスク』では制作準備期間はたっぷり取れたんですか。
木崎 いや、1話を2ヶ月くらいで作ったのかな。その前段階で少しもめて、2ヶ月くらい動かなかったんですよ。実は、最初はシリーズ構成がむとうさんではなかったんです。本読みが始まって4ヶ月くらい経つ頃に、むとうさんに替わったんで、結局、いつもの時間がないシリーズになっちゃった。
―― マンガ版もそうなんですけど、奇天烈な忍者のスーパーバトルは前半に固まっているんですよね。後半は普通の人物の芝居が増えていくのは、見えてたわけですよね。
千葉 騙し合い中心になってきますからね。
木崎 前半は派手なバトルで作画も大変なんだけど、後半に来るにしたがって、作画の負担も軽くなっていくのは見えていました。ただ、僕の中で、この作品は忍者バトルアクションものじゃないんですよ。1話は掴みとして、ああいったかたちで作ったという部分はあります。

●第1話「相思相殺」より。甲賀忍者の風待将監と、伊賀忍者の夜叉丸のスーパーバトルが炸裂!

―― なるほど。演出のプランについてですけど、静的な作りのシリーズだったと思うんですけど、これは意識しましたか。
木崎 意識はしましたね。シナリオの段階でかなり意識したホンになっていたので。行間、「間」に関してはかなり気を遣っていると思います。
―― 1話でもスーパーバトルがある一方で、止め画の印象も強いですよね。
木崎 そうですね。逆にメリハリを付ける意味で、止めるところは止めて、動かすところは極力動かすという感じでやってましたね。で、表情というか、キャラクターの心情を訴えるようなカットの積み方をしてるはずなので、そのコントラストが上手く出てたのかな、とは思ってます。
―― ご自身的には狙いどおりなんですね。
木崎 基本的にはちゃんと考えてやっているので(笑)。千葉さんの密度の高い画がくる事や、表情もしっかり作ってもらえるのは分かっていたので。さっきもちょっと話題になりましたけど、構成のむとうさんが、キャラに喋らせないで表情だけで見せればいいじゃん、みたいな事を言う人なんですよ。
―― 脚本家なのに(笑)。
木崎 フィルムスタッフを信頼してくれている証拠でもあるのですが、それが千葉さんも凄いプレッシャーで。
千葉 むとうさんは(画の上がりについて)煩いんですよ。作画オタクで。
木崎 できるだけ、無駄な説明を排除してやっていこうというのは、最初の段階からありました。無口なキャラがたまに発する言葉に重みがあるのも、このスタンスだったからだと思いますね。実はセリフに名言が多いですし。スタッフ間ではかなり流行りましたね。
―― 1話で黒縄を使って戦うじゃないですか。マンガ版だと(夜叉丸が)「これは女の髪で」と戦いの中で、自分で説明するんですよね。それをアニメでは、見ているお幻に言わせてる事で、ナチュラルなかたちになっていますよね。やっぱり、戦っている最中に自分じゃ言わないだろうと思いますよ。マンガだと不思議と違和感はないんですが。
木崎 その辺のさじ加減は、随分やりました。
―― 色はどうですか。
木崎 なるべく原色系を避けて、渋めな感じで動いてたんですけど、最初は結構、試行錯誤に時間がかかったかな。後半からは、色彩設計の飯島(孝枝)さんが掴んでやってくれました。パソコンのモニタ上で見るのと、画面で見るのとでは全然違うんですよ。思いのほか発色がよくなってしまったキャラもいたりしました。僕、千葉さん、それと助監をやってもらった西本(由紀夫)君との3人で決めていった感じですか。色については、割と雰囲気はよく出てるんじゃないかな、と思うんですけども。
―― いわゆるジャパニメーション的なものが求められてる企画かな、と思ったんです。それは意識されたりはしましたか。
木崎 いや、全く意識してなかったですけど。
―― アメリカ人が見たら大喜びみたいな。
千葉 いやあ(笑)、1話を観て、アメリカ人はどう思うだろう?
木崎 やってる時は必死でやってるので、そういう事までは計算してやってないですかね。まあ、向こうの人は忍者は好きですからね。
―― 特に海外で成功する作品にしろ、というオーダーがあったわけじゃないんですね。
木崎 いや、全くないですね。(企画的にその狙いがあったとしたら)そういった部分は、作品の持ってる元々の魅力だと思いますけど。
―― 人間が真っ二つになって人が死ぬようなところも、やられていましたよね。ただ、原作だと女性キャラがすっぽんぽんになっている場面で、身体に帯がかかっているような表現に変わったり。
木崎 そうですね。マンガにある残虐なシーンはそのままやっちゃってたりしますね。その画のインパクトじゃないと『バジリスク』じゃなくなってしまうんで、逃げてはだめだと思っていました。ただ、バストのトップに関しては、安全策でなしにしました。U局メインなので「OK」とは言われてたんですけど、まあ、変にいじられるのも嫌だし、逆に見せなくても表現できる方法もあるという事で。
―― いじられるっていうのは、知らないところでモザイクをかけられたりとか?
木崎 そうですね。ただ、どうしても逃げられないシーンがありましたね。DVDリテイクで直しているところもあるんです。コンテの段階である程度計算してやってるんですけど、タイトな(スケジュールの)中でやっているんで、見えちゃいけないところが見えたりとかっていうのが。
―― 見せないつもりだったものが、オンエアで見えてしまったという事ですか。
木崎 つまり、ちゃんと乳房が映ってるんですけど、トップがないので変なふうに見えるカットがあったんです。それは、描き足して撮影処理を意図したものに戻すというか。
―― DVDだと乳首が見えるとか、そういう事ではないんですね。
千葉 見えるかもしれない。
木崎 かもしれない。だけど、別にそれをウリにしてるわけではないんで(笑)。
―― 誰かの技で次々に人が倒れていく時に、アブノーマルカラーになる処理が入っていて、これはDVDだと、死ぬ瞬間をちゃんと見せるのかな? と思ったりしたんですが。
金子 9話(「哀絶霖雨」)の弦之介の瞳術炸裂のシーンではないですか。
―― ああ、そうです。
金子 瞳術空間のシーンは異空間のイメージなので、蛍光色でやってますけど。
木崎 あの場面はオンエアのままです。特にいたずらに過剰な描写をしようっていう事は全然ないので。
―― ああ、80年代のOVAじゃないぞ、と。
千葉 いや、そういうテイストも好きなんだけどね(笑)。
木崎 作品として面白いものになっていれば、過剰にやらなくても大丈夫なのかなと思っています。別のかたちでやりたいところも、あったんですけどね。緊迫した状況の中だったから(笑)、なんとかかたちにするので精一杯というか。
―― 具体的な監督の仕事についてですが、どのような感じで?
木崎 そうですね。実作業的に言うとやっぱり、コンテを直す作業が大きかったですね。シナリオは全部上がってたんですよ。今年(05年)の3月くらいに上がってたよね。
―― もう放映開始前に。
木崎 うん。早かったんですよ。シナリオが上がってたので、とりあえず全体像は見えてて、スケジュールやスタッフを考慮して、このくらいの内容ならなんとか上がるだろうと調整をしながらやっていました。全体を見つつ、どうすれば効率よくできるか、破綻しないように終わる事を優先してやってましたね。
千葉 ダメージコントロールというか、余計な事はやらないようにしたり、皆にあまり負担をかけないように計算してやっていました。
木崎 要は(仕上がりが悪いと)全部が千葉さんなり、作画監督の責任になってしまう部分もあるんです。僕も基本的には絵描きなので、作画監督の負担を減らす事を考えて、ある程度コンテで押さえておくようにしました。コンテに描かなくてもいい、必要最低限の芝居や動きのキーポイントになる画を入れてみたりして。最悪の場合を考えて、コンテの拡大コピーに作画監督に修正を載っけてもらっても大丈夫な感じにしたり。でも、神戸(洋行)さんとか、松尾慎さんとか、巧い人もいらっしゃったので、そういう方のコンテはスルーというかたちで。
―― コンテチェックの段階で、ポーズや芝居を直したりしているんですか。
木崎 基本的にはそれをやっていました。「これをやったら作画が破綻する」とか「こんなん誰が描くんだよ」というのは、ほぼやめにして違うプランにしたり。それから、各話の演出にレイアウトが描けない方もいたので、監督チェック時にレイアウトを直したりとか(笑)。一応、ほとんどの話数はレイアウトに目を通してるんですよ。そういったところでの自分の責任を果たすというか、そういった調整はかなりやりました。
―― シナリオが終わってる事もあり、そのクオリティコントロールに徹する事が……。
木崎 そこで助けられましたね。で、なるべくその余計な負担をかけずに……まあ、つまんない作り方なんですけどね。でも、限られたスタッフでなんとか良くしていったので、さすがに2週ぐらいの作品で、知り合いのメンバーに声をかけるっていうのも厳しいものがあるので。
―― 2週というのは。
木崎 作画スケジュールです。まあ、今時では珍しくないと思うんですけど、1話と23話くらいかな、(声をかけて色んな)巧い方にお願いできたのは。
―― お願いできたというのは? 
木崎 コンテINが早かったんですよ。で、作画も2ヶ月くらいとれたので、色々巧い方に拾っていただいて。そのくらいスケジュールがないと、振れないんですよ。
―― 監督が全話のレイアウト見るというのは、なかなか聞かないですよね。
木崎 現実的に考えると全部は手を入れられないんですよ。基本作監に任せるのを前提にして見ていました。スケジュールが切迫して稀に誰も(自分も各話演出も)見てないカットがあったりして、それは尻拭いが大変でしたね。
―― 話は前後しちゃいますが、キャラクターデザインについても、うかがわせてください。基本的にはマンガ版のビジュアルを活かすかたちでしたよね。
千葉 ですね。まあ「あれしかないよね」と思えるものだったので、なるべくイメージを損なわないように。
―― といいつつも、マンガ版の細かい髪の毛とか、全部描くわけには……。
千葉 それはポイントですよね。必要であれば描くし、必要ないならば端折らせていただいて。それは調整はしますけど。
―― 男性のキャラクターは、本当にマンガの絵がそのまま動いてるような仕上がりですけれど、女性のキャラクターはほどほどにアレンジが加わっていましたね。
千葉 それは各話の人の個性になりますからね。それと似せるといっても、トレースしてるわけではないんで。実作業で画が上がらないようになると困るので、ある程度アニメなりにアレンジして。そういったアレンジは意識しなくても入るんですが。
―― お胡夷はマンガ版だと唇が厚ぼったくて、美人というよりは個性的な顔立ちでしたよね。
千葉 あれを描ける人はそういないだろうという事ですよ。
木崎 拡大解釈する人がいて、オバQになってる人がいる(笑)。
―― 描きようによっては、そうなってしまうわけですね。
千葉 もうちょい、キャラ表に文字でポイントを書いておけばよかったんだけど。かなりざっくりとした設定なんですよ。原作を参考にしてくれって言えば、ポイント分かるんじゃないかって思ってたんですけど。
―― お胡夷は、死ぬ回(8話「血煙無情」)では、割と唇があったような印象が。
千葉 あの話はバタバタしていて、みんなで直したりしてたんで。お胡夷に関しては自分で手を入れられたんです。
木崎 8話はお胡夷と夜叉。あの辺の死んじゃうくだりは、ほとんど千葉さんが画を入れられました。
―― 仕上がったものを観ていると、シリーズ通じて、非常に淡々と作られているかのように感じますが。
千葉 いや、その裏ではもう凄惨な。
木崎 「惨ここに極まれり」っていうね。『バジリスク』のキャッチコピーのひとつなんですけど、まさにそんな感じで(苦笑)。
―― 作ってる方も、作品内容と同じだったんですね。
木崎 状況的には崖っぷちなはずなんだけど、「なんとかするんだっ!」ていうスタッフ全員のモチベーションは異様に高かったですね。最後まで諦めない最高のスタッフです。

●「『バジリスク』木崎文智・千葉道徳インタビュー 第3回 スタッフ人別帖と最終回」に続く
 

●DVD情報
『バジリスク 甲賀忍法帖』(全12巻)
カラー/約48分(2話収録)/リニアPCM(ステレオ)/片面1層/16:9レターボックス(スクイーズ収録)
価格:初回限定版 7980円(税込)、通常版 5985円(税込)
現在6巻までリリース中(第7巻[初回限定版には“伊賀”BOX付き]2月22日発売)
発売元:GDH
[Amazon](初回限定版)
[Amazon](通常版)



●初回限定版特典・千葉道徳描き下ろし“伊賀”BOX(初回限定版7〜12巻収納)


(06.01.25)

 
 
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