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『イーオン・フラックス』DVD化記念
ピーター・チョン監督Q&A(2)


.自身のフィルモグラフィの中で、代表作と呼べるものは何になるでしょうか。そして、その理由は?

ピーター やっぱり『イーオン・フラックス』は最も世に知られた作品だし、それに色々な理由で、確実に僕のハートにいちばん近い企画と言える。自分で創造し、ストーリーを書き、デザインし、そして監督した唯一のシリーズだからね。
 主人公のキャラクターには、肉体的な機敏さとセックスアピールを与えたかった。その方が単純に見ていて楽しいからね。だが同時に、複雑な人格と知性も持たせたかった。
 アニメーションにおける最も大きな挑戦とは、線画や動作ではない。十分に確立された特性と、ユニークな思考と振る舞いを備えたキャラクターを創造する事だ。そういった様相が、僕にとってはモチベーションになるのさ。

.『イーオン・フラックス』(特に23分のシリーズ)には、シュールな設定、フィルムノワール風の婉曲な台詞、こじれた男女関係が山盛りです。さらに、キャラクター達は1エピソード内で頻繁に心変わりします。やはりシンプルな作品より、複雑なものを作る方が好きなのですか?

ピーター イエス。というのも、僕はいち視聴者として、先の読めない作品を観るのが好きなんだ。あるシチュエーションの思いも寄らない側面を発見し、驚きを体験したい。どんなにうまくまとまっていようと、紋切り型のプロットで作られた作品には飽き飽きなんだよ。特に、キャラクター同士が闘って対立関係に決着をつけ、最後にはヒーローが悪役に勝つ、なんてストーリーはまっぴらだね。
 『イーオン・フラックス』が最初に放映された時、物語が難解すぎるとして、MTVと僕は衝突した。彼らはおそらく、イーオンが正義のヒロインで、トレヴァーは悪役であるといった単純明快な図式にしたかったんだろう。MTVは僕の作ったストーリーが直線的じゃなく、モラル的にも曖昧だとクレームをつけた。だけど、それこそが僕の伝えたかった事なんだ。人生は直線的じゃないし、明快なモラルに沿ってなどいない。

.『イーオン・フラックス』の作中には、ねじれたユーモアを含むエロティシズムが多く含まれているように見えます。そこには監督自身のセックスに関する哲学が反映されているのですか?

ピーター 僕はその手の体系的な解釈、セックス哲学みたいなものは全く信じていない。フロイトの心理判断、マルキ・ド・サド、ジョルジュ・バタイユの書いたものについても然りだ。
 作品を作る時には、キャラクターの中にある感情や衝動を表す、肉体的な表現が必要になるんだ。フィルムの中のセックスは、愛や欲望を表現する身体的行動として描かれる。同様に、映画の暴力は、対立関係や闘争を象徴する。それは、普段の生活における肉体的暴力に結びつかない衝突や、あるいはもっと抽象的な意識も含めてね。
 『イーオン・フラックス』の場合、セクシュアルな行動は主に、キャラクター同士の関係を深める事で彼らの私的領域に入っていく、という意味で描いてある。通常、僕達は自らの秩序を守るために社会的なバリアーを築く。それは他者との関係性を定義する上で役立つものだ。
 その大半をトレヴァーという個人が支配する世界にあって、イーオンはそういったうわべだけのルールを破壊する事で、全てに対して自由を促す。特に、トレヴァーの私的な欲望からの脱却という点でね。違う言い方をすれば、イーオンはトレヴァー自身に自制心を放棄させるのさ。
 性的欲求はとても強い本能であるにもかかわらず、アニメキャラクターの場合はそれを抑圧するか、否定するケースが非常に多い。アメリカでは特にそうだ。でも『新世紀エヴァンゲリオン』や『少女革命ウテナ』といった日本のアニメ作品では、登場人物のセクシャリティが緻密に探求されているよね。
 僕が思うに、とりわけ成人の視聴者に向けてアニメーションを作る場合、大事なのはセックスやバイオレンス描写を過激にする事じゃない。シチュエーションをより洗練された見せ方で描く事だ。

.アニメーション作品にとって、最も大事なものは何だと思いますか?(色、動き、物語など)

ピーター 僕にとっては、何かひとつだけが重要という事はない。大事なのは、あるアイディアを表現するために、全ての局面が適切に結びついているかどうかなんだ。つまり、作品の内容と表現形式の完璧な融合だ。「内容」というのはフィルム制作に取りかかる時、真っ先に自分の頭の中にあるもので、それは観客が作品を観た後に受け取る、いちばん大事なものだと思っている。
 僕の考える最良のフィルムとは、表現形式と作品内容が決して切り離せない作品の事なんだ。フィルムそのものを観る以外に、その内容を把握することは不可能、というような作品が理想だね。
 僕自身いろんなフィルムを観ていて、テーマを深く掘り下げる機会を失っていると感じたり、演出家がストーリーの勘所を捉え損なっていると思う事がたびたびある。「自分ならもっと巧くやれるのに」とか、「少なくとも違うやり方で見せられるのに」とね。もしも視聴者の方がより優れた作品の姿を思い描いてしまった時は、その作者が適切な方法でアイディアを伝える事にしくじった、って事さ。

.デイヴィッド・リンチ監督の作品がお好きだという事ですが、彼の作品のどんなところに惹かれますか? そして、好きな作品はどれですか?

ピーター リンチは「映画においてストーリーを語る上で、表面上の肉体的リアリティや自然主義に制限される必要はない」と理解している演出家の1人だ。彼の作品では、登場人物の精神は外界と混ざり合う事が可能なんだ。意識の内で起こった事と、外で起こった事、その明確な境界線は存在しない。
 文学においては、作家がキャラクターの心象を描く事は容易に受け入れられる。同じ物語の媒体として、そこは映像よりも有利な点だと考えられている。だが、映像でも同様のアプローチで描いてはいけない、という理由もないじゃないか。
 しかしながら大半の視聴者は、画面内で物理的にありえない出来事が起こると、それを拒絶してしまう。ある種、想像力を必要としない方法で、それが正当化されない限りはね。たとえば、ファンタジーの確固としたルール、世界観設定などによって。リンチの映画では、それらの出来事のロジックは説明されない。だけど、理解できるように観客の意識へと働きかけるんだ。いつまでも日常的な精神状態にしがみついていると、楽しめないと思うけどね。
 彼の作品では、「イレイザーヘッド」「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」「ロスト・ハイウェイ」、そして「マルホランド・ドライブ」に多大な影響を受けた。「砂の惑星」や「ブルーベルベット」も、いちファンとして楽しんだよ。

.最後に、日本のアニメファンに向けて何か一言お願いします。

ピーター 僕は長年、日本で作られるアニメを観て楽しんできました。日本のアニメーションとの出会いは、僕自身がこの業界で仕事を続けていく上で、いちばん大きなインスピレーションを与えたと言えるでしょう。
 今回、僕の最もパーソナルな作品『イーオン・フラックス』が、ようやく日本でも完全なかたちでDVDリリースされて、非常に嬉しいです。DVDなら、全てのエピソードをまとめて観る事ができるので、このシリーズを楽しむには理想的な形態だと思います。


●関連サイト
「イーオン・フラックス オリジナル・アニメーション」スペシャルサイト
http://www.paramount.jp/aeonflux/

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