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『新SOS大東京探検隊』
高木真司・小原秀一・大友克洋インタビュー



 5月19日から新宿バルト9他にて公開中の劇場アニメ『新SOS大東京探検隊』。大友克洋の短編マンガ「SOS大東京探検隊」を原作に、東京の地下に潜入した少年達が体験する奇想天外な冒険を描いた、良質のエンタテインメント作品だ。大友マンガのテイストを巧みに抽出したストーリーの楽しさ、3Dと2Dを柔軟に取り混ぜたビジュアルの面白さなど、40分の中編ながら見応えは十分。映画版ならではのスケールアップされた内容も見どころだ。
 アニメスタイル編集部では、今作の監督を務めた高木真司、アニメーションディレクターを担当した小原秀一、そして原作者である大友克洋の御三方にお話をうかがってきた。


▲左から小原秀一、高木真司、大友克洋

プロフィール
高木真司

1961年生まれ。東京大学工学部卒。『らんま1/2』等の演出をしながら、将来アニメ制作がデジタル化される事を考え、コンピュータの知識を習得。Production I.Gに入社し、デジタル部門の責任者兼演出として『BLOOD THE LAST VAMPIRE』『フリクリ』などに携わり、制作現場のデジタル化を牽引する。その後、大友克洋監督の劇場大作『スチームボーイ』に演出として参加。同作で積んだ経験値をもとに、サンライズ・エモーションスタジオで『新SOS大東京探検隊』を制作し、劇場監督デビューを果たした。

小原秀一
1956年生まれ。鹿児島県生まれの宮崎育ち。アニメーター、 演出家、キャラクターデザイナー。国立都城工業高専工業化学科卒業後、トップクラフトに入社。『風の谷のナウシカ』等に参加した後、CM制作会社スタジオアローに移る。現在は独立し、個人プロダクション・スタジオアロハとしてCMをメインに活動中。代表作に「Qoo(日本コカ・コーラ)」「ごはんがススムくん(味の素)」「Aleph(資生堂)」等がある。劇場オムニバス『MEMORIES』の大友克洋監督編「大砲の街」では、キャラクターデザイン・作画監督を務めた。その他の代表作に『ディープ・イマジネーション ─創造する遺伝子たち』収録の短編監督作「ダン・ペトリー教授の憂鬱」等がある。

大友克洋
1954年、宮城県出身。73年に短編「銃声」でマンガ家デビュー。「気分はもう戦争」「童夢」等でブレイクし、「AKIRA」でその人気を決定づける。その作風の新しさで日本のマンガ界に多大な影響を与えた。また、劇場アニメ『幻魔大戦』のキャラクターデザインに起用されたのを契機に、アニメ制作にも携わり始める。オムニバス作品『迷宮物語』の1編「工事中止命令」を監督した後、88年に待望の劇場長編『AKIRA』を発表。海外で熱狂的な支持を得て、日本のアニメが世界進出を果たす基盤を築いた。以降『MEMORIES』(原作・総監督、第3話「大砲の街」監督・脚本・美術等)、『スチームボーイ』(原案・監督・脚本)といった話題作を世に放っている。実写映画の監督も手がけ、「ワールドアパートメントホラー」以来16年ぶりとなる新作「蟲師」が先日公開されたばかり。

●2007年4月26日
取材場所/バンダイビジュアル
取材/小黒祐一郎、岡本敦史
構成/岡本敦史



── まず、企画の成り立ちからお聞かせください。
高木 元々は「スチームボーイスタジオ」というところで『スチームボーイ』の続編企画を進めていたんです。けどそれが中断して、代わりの企画を立てる事になって。何本か企画が出た中で、私から提案したのが「SOS大東京探検隊」のアニメ化だったんです。
── それは、大友克洋原作というのが前提だったんですか?
高木 いや、中には完全なオリジナル企画もあったんですが、僕は大友さんの原作でやりたくて、個人的に「SOS」という作品が好きだったんです。子供が主人公なのでアニメにしやすいと思ったし、ストーリーも膨らませやすそうだし。東京の地下を探検するという話自体、僕はワクワクしながら読んでいたので。
── じゃあ、大友作品とは縁もゆかりもないタイトルになる事もあり得たわけですね。
高木 そうですね。中でも「SOS」は理想的だった。初期の短編だと主人公が浮浪者やオカマだったりして(笑)。かといって「童夢」とかだとハードすぎるし。それに今回、CGでキャラクターアニメーションをやりたいというのもあって、この作品ならやりやすいかと思ったんです。
── プロジェクトとしては、かつて「デジタルエンジン構想」というのがあって、その中の1本として『スチームボーイ』が生まれ、さらにそこから今回の『新SOS大東京探検隊』が作られた……という認識でいいでしょうか。
高木 まあ、参加してくれたのは『スチームボーイ』のスタッフも多かったりするんですけど、完全に繋がっているわけではないです。今回新たに小原さんにも参加してもらっていますし。個々のスタッフが前の作品の経験をもとに何をやろうか考えて、その集積として今回の作品があるのかもしれません。
── もし『スチームボーイ2』が実現していたとしたら、今回のようなCG寄りの作品になっていた?
高木 いや、逆に作画の部分がもっと増えていたかもしれませんね。最初は『新SOS』も、作画の比重がもっと多いつもりだったんですよ。例えばキャラクターの表情のアップなんかは作画してもいいな、なんて思っていたんだけど、いろいろテストしてみたらキャラクターのアップも3Dで堪えられるというのが分かってきて、結果的にこういうかたちになった。その辺は試行錯誤しながらやっていましたね。
── これからのアニメのあり方を模索する意味でも、3Dと2Dをより大胆に混在させて作るというのが、今回の企画意図としてあったわけですか。
高木 キャラクターを3Dでやってみたら今はどうできるか、という事ですね。周囲のアニメ作品を見ても、かなり普通に3Dを使うようになってきている。基本的にはメカが多いわけですが、一昔前のぎこちなさに比べると、ロボットなんかでもちゃんとアニメっぽく動かせるようになっている。そういうのを見て、3Dスタッフの成長の早さや、技術的な成熟が感じられたので、これならできそうだなと。だったら他より早くやっちゃおう、という事でスタートしました。
── 高木さんが監督をされると決まったのは、どの段階なんですか。
高木 企画を出した時、「じゃあ監督もやってよ」とプロデューサーに言われて(笑)。
── 『スチームボーイ2』の時はどんな立ち位置だったんですか。
高木 その時はまだ、どういう役職になるかは分からなかったですね。
大友 多分、監督する事になってたんじゃないの?
高木 そうなんですかね? まあ、いろいろ曖昧なままやってたんでしょうね(笑)。
大友 『スチームボーイ』は始めたのが随分前だから、「もっと新しい事ができるよな」というのがあったけれど、作っている間にそれができなかった。だから終わった時には新しい事がしたいという欲求が凄くあって、『2』ではキャラクターも3Dでいけるんじゃないか、という気はしてましたけどね。問題はどういう風にやるか、という事で。
高木 よく話してましたよね。「ハイブリッドでやれるんじゃないか」とか。
大友 そうそう。まあ、『スチームボーイ』は作画で苦労したんでね。ただ、今度の作品だって、最初は3Dのキャラクターアニメーションがこんなに成功するかどうか、まだ分からなかったからね。
高木 そうですね。下手をすると、かなりぎこちない動きでまとめなきゃいけないのか、という危惧もありました。でもテストしていくと、なかなかいい動きができてきた。「きらめく動き」って言うのかな。それらを組み合わせていくと、「もう全然大丈夫だな」という実感に変わっていきました。
大友 動きをあんまりリアルな方向に持っていかなかったのが、よかったんだろうね。一回それを始めると、急にハードルが上がって大変な事になってしまうから。そこを上げずにやったのが、いいんじゃないの? って、俺が勝手に「上げずにやった」なんて言っちゃいけないんだけど(笑)。
高木 そこら辺は小原さんにコメントしてもらいましょう(笑)。
小原 2Dアニメ的な省略のよさを、うまく3Dで表現できたら、いちばんいいですよね。観る側にとっても作る側にとっても、気持ちいいところにあればいいかな、と。
── 制作期間はどのぐらいあったんですか?
高木 トータルでは大体1年ぐらい。大半がテストやモデリングだったり、平行してコンテや設定を作ったり、その辺のプリプロ的な部分が結構長かったんですよね。最終的に3〜4カ月ぐらいでモーションとかをやっていた。長いと言えば長いんだけど、集中していたとも言える。スタッフの数もそれほど多くなくて、大掛かりな現場ではなかった。
── これを手描きのアニメでやったとしたら、もっと大勢のスタッフが必要だった?
高木 まあ、40分の作品で、あの内容であそこまで動かすとしたら、多分もっと人数が必要だったでしょうね。
大友 原画マン集めるだけでも大変だったろうね(笑)。
高木 4人組が別々の演技をしながら地下道を歩いていくところなんて、手描きだったら凄く手間がかかっていたと思います。なるたけ見ていて飽きないように、それぞれいろいろな演技を加味してもらったので。それに3Dの場合は、例えば歩きのシーンで動きができてチェックする段階で「あと何歩か歩かせてくれ」とか言えるんですよね。
── 手描きだったらとんでもない話ですね。
高木 そうなんですよ(笑)。その時は「3Dアニメを演出するのは、なんて楽なんだろう!」と思いましたね。作画だとそれこそ制作とやり合って、また最初からアニメーターさんにお願いして、という労力を使うんだけど、CGだったら「あと何歩、あと何秒ほしいです」と言えば、難しい芝居でもない限り、同じ動作をコピペするだけで済む。それは演出的に非常に楽で、その分、内容の方に集中できたと思います。
── 今回、フルサイズの芝居がかなり多いという印象を受けました。普通ならバストショット以上のアングルを重ねて省力化すると思うんですが、そこは今回、チャレンジされた部分なんですか?
高木 いやあ……。
大友 全身の方が楽だったんじゃない?
高木 実はそうなんですよね(笑)。3Dキャラの表情のアップで、どこまで堪えられるか心配なところもあって。後半はわりと自信がついたので、何カットかアップも入れたりしてるんですけどね。コンテを描いている時から、どちらかというとロングで演技させた方がいい、と意識していたかもしれません。引きの画で丁寧に芝居をさせる事で、観ている人にキャラクターの感情を伝えていく、という方法論で作っていたと思います。
── 今回、小原さんはアニメーションディレクターとしてクレジットされていますが、どんなお仕事をされていたんですか。
小原 ポジションはちょっと曖昧なんですけれどね。まず、3Dのモーションのディレクションをする上で気をつけたのは、機械を介する事でいかにも3Dっぽくなってしまわないようにする事。簡略化する事でアニメーションの良さを出そう、と。綺麗だけど、どこかヌルッとした感じの動きになるのは避けて、あくまでもアニメーターが作った手付けの感じが、最後まで画面に残るようにしました。あとは、アニメーションに関するアドバイスですね。最初に3DCGのスタッフが集まった時点で、キャラクターを動かした事のない人が多かったから。例えば物を投げるとか、蹴るとか、触るとかいった時に、どういうテクニックを使えばそれを簡略化して表現できるか。その辺りの事を助言しました。
── 実際に3DCGで動いているキャラクターに対してディレクションはしているんですか?
小原 アドバイスはしていますよ。監督の意図を汲み入れながら、ちょっと動きとして足らないところは指摘したり、余計な部分があった場合は「それはやらないでくれ」とか。
── 紙に描いて作監修正を入れるわけではないけど、動きの監修はしているんですね。
小原 そういう事ですね。まあ、今回は口頭でそれができたという事です。
── 作品全体で、3Dと2Dの割合はどのぐらいなんですか?
高木 8割ぐらいは3Dじゃないですか。2Dは2割もいっていないと思います。
小原 作画に関しては、予算やスケジュールの事も鑑みながら、例えば1カットしか出ないようなキャラクターをいちいちモデリングしていられないので、だったらそこは作画でやろうと。
── 例えば中盤で、地下に暮らす人々を映していくシークエンスがあるじゃないですか。ああいうところは作画なんですよね。
高木 実は3Dも混じってるんですけどね。あの辺はキャラクターデザイン的にも3Dにするのが難しかったので、作画でお願いしたんです。
小原 おかしかったのは、僕がキャラクターデザインしているのに、本番で描く時には3D風のキャラクターをまたもう一回描かなくちゃならない(笑)。そんな変な現象が起きたんですけどね。
大友 作画部分って、主にはエフェクトじゃないの?
小原 そうですね。エフェクトは橋本敬史さんにやってもらいました。
── 橋本さんはどのぐらいの量をやられているんですか?
高木 エフェクト全般の作監と、戦車が登場するシーンではエフェクトの原画を描いてもらっています。
大友 戦車の動きはやってるの?
高木 そこも監修的に見てはもらっていますね。
── 今回、アニメーションとしての理想型というのは、どんなものだったんですか? 技術的には、やろうと思えばもっとセルアニメっぽく仕上げる事もできたんですよね。
高木 画としてですか? その辺は小原さんからの提案もあって、セルっぽさを意識しつつ少し違うものを意図的に狙っているところはあります。それは作っている上で「それができるならやろう」という事ですね。顔の鼻の部分にテクスチャを張ったり、服にワッペンを付けたり。3Dによって少しでも表現が豊かになるんだったら、それはやった方がいいという判断です。
── 動きに関してはどうですか? リアル一辺倒というわけではないですよね。かといって中抜きをいっぱいするようなデフォルメの仕方でもない。
高木 今回、ほとんどの動きを12コマでやったんですよ。ホントは2コマ打ちとか3コマ打ちとか、いろいろ混ぜようとも思っていたんですけど、それだと全体のコントロールが難しくなる。3Dスタッフの方からも、わりとベタなコマ打ちのほうが作りやすいという提案もあったので、基本は秒12コマのベタ打ちにしたんです。セルっぽい動きにできるし。
── なるほど。
高木 キャラクターはもうちょっと3Dで統一できればよかったな、とは思います。うまく混ぜられたとは思うんだけど、作った側からするとまだ違和感がなくもない。もちろん時間的な制約もあって、「ここは作画にしましょう」という判断もあったんですけど。モーションに関しては、やっぱり自分は井上俊之さんや磯光雄さんのリアルな動きが好きだったので、その辺のタッチが念頭にあったと思います。今回、3Dで作るにあたって、ゼロから動きのスタイルを作るのはやっぱり難しかった。そういう意味では、リアル系作画っぽい動きのつもりで作っていたんですかね。もちろん小原さんにもしっかり動きのイメージはあったと思うので、そのアドバイスも加味されて、こういう仕上がりになっているのだと思います。
小原 僕の方から、スタッフが嫌がるほど細かい指示をガンガン出した期間は、1ヶ月ぐらいしかないんです。その後は、それぞれ一所懸命、工夫して作ってくれてるんですよ。スタッフがみんな優秀だったので。そのかたちが画面にちゃんと表れているので、僕はいいんじゃないかと思います。
高木 さっきの話にも出ましたけど、スタッフは3Dのキャラクターアニメーションを作った事のない人達ばかりだった。最初は不安だったんですけど、作っていくうちにどんどん巧くなるんですよね。でも、僕としては「巧くなりすぎなくてもいいな」とも思ったんです。そのぎこちなさが、かえって味になるんじゃないか。多分、めざそうと思えばもっと凄い作画的な動きもめざせたかもしれないんだけど、そこまで行かなくても、CGのアニメーターが一所懸命作ったものとして非常にいい動きだなと思ったら、そこでもうOKを出してました。
── 今回、レイアウトはどういうかたちになってるんですか?
高木 レイアウト代わりに、アニマティックというラフなCG動画を作ってるんです。ローポリゴンの簡素なモデリングのキャラで、初期段階に手の空いているスタッフで作ってもらった。1枚の設定画をもとに、円柱や立方体を空間に配置してもらって、そこにラフなモデルを置いて、スライド程度の動きをつける。その映像をレイアウトの代わりにしてます。それをスチルのかたちでプリントアウトして、美術監督の谷口(淳一)さんに渡して原図修正してもらって、それを最終的に背景に起こしてもらって貼り付けたり。
── 3Dで作った映像をもとに、手描きで背景原図を起こして乗せる、と。
高木 そうです。キャラクターは本番のポリゴンモデルでも、動きやパースは大体守るようにして。なぜそうしたかというと、レイアウトをそれだけ起こせる人がいなかったという事があります。それと、手描きの背景と3Dキャラクターを単純に組み合わせると、パース的なマッチングがとれなくなる恐れがあった。だから、最初にラフでもいいからそうやって設計しておけば、動きに合わせた微妙なパース変化等にも対応できるし、もちろんレイアウトのチェックもできるし、流れも分かりやすくて説明もしやすい。そういったいくつかの意図があって、まずアニマティックを作りましょうと。
── そのやり方に対して、美術スタッフからの反応はどうだったんですか?
高木 美術監督の谷口さんは苦労されたと思います。おかげで3Dとの馴染みはとてもよくなった。今回はできなかったけど、アニマティックから原図を起こすスタッフがまた別に立てば、よりよいやり方になると思います。
── 結果的にその判断はよかったと思いますか?
高木 うん、時間的な制約がある中ではいちばんいい作り方ではないかと思ってます。まあ、大友さんみたいに自分でレイアウトが描ければいいんですけど、私はそこまでできないので(笑)。ただ、何カットかは自分で描いたりしたんですけどね。戦車の中とか。
── 要するに、手描きのレイアウトから3Dを起こすよりは、現実的なやり方である、と。
高木 そうですね。そもそも3D作品を作る上で、アニマティックというのは非常に一般的なやり方なんですけど。せっかく3Dで作るんだから早めにラフなムービーを作っちゃいましょう、というのは早い段階から提案していました。
小原 今回、その方法をやって面白かったのは、フル3Dだとキャラも背景も同じレンズで撮ったものになるんだけど、かっこいいレイアウトっていうのは大体頭の中でできているものなので、キャラと背景はレンズを変えなくちゃいけないんですよね。それが凄く面白かった。
── 実際に完成画面でそういう事になってるんですか?
小原 なってるところもあります。
高木 意図的にどちらかのパースを殺したり、別々に作ったり。それも一応、アニマティックの段階で合わせているから、破綻なくできてるんです。
小原 キャラクターをこのアングルで立たせるために、ちょっと地面に潜らせたりとか。やっぱり自分達の欲しい画を作るためには、3Dでも自由にそういう事をしていった方がいい。
── 計算だけで作ると、思った通りの画にはならない?
高木 そうですね。アニマティックでは、そういうレイアウトの見栄えのチェックもしています。ラフなムービーでも、ある程度はイメージできるので。例えば、カメラ位置によっては画としてあまりよくないので、部屋のものを一部動かしたり。あるいは、大きく画郭をとって設計しておいて、後でトリミングしたり。
── そういう時は使うサイズだけ描くより、大きめのサイズで作ってしまった方がいいんですね。
高木 3Dの場合はそうですね。小さな範囲を作り込むより、パッと大きく作って「じゃあここを使おう」という方が、むしろ楽なんです。
小原 だからやっぱり、イメージが先行するべきだな、という事は思いましたね。何でもそうですが。
── キャラクター造形についてはいかがですか?
小原 それはもちろん、大友さんのテイストを残そうと思って作りましたし、3Dになった時点でも(デザイン画と)非常に近似値のところで仕上がっているので、よかったです。
高木 3Dモデルは元のキャラクターデザインと差異が出ないよう、小原さんとモデリング担当の山田(裕城)君との間で、かなりしつこくやりとりして作ってもらいました。
── 細かい事なんですけど、鼻の頭が赤いのは何の表現なんですか?
小原 ああ、いいところに気づきましたね(笑)。
── いやいや、いちばん気になるところでしょう!
小原 あれはですね……原作が描かれた頃の大友マンガを見ると、鼻の上にタッチをつけて立体を感じさせる処理がしてあるんです。実は『(MEMORIES)大砲の街』でもそれがやりたかったんですけど。今回は3Dでテクスチャを貼ってああいう表現ができるという事なので、2Dによる優れた立体表現を3DCGでやってみました(笑)。
── ややこしい話ですね。
小原 まあ、ぐるっと回ってるんですよね。でも実は、あそこに関してはものすごくやりとりして作ってるんです。
大友 あの鼻は立体になってるんでしょ?
高木 なってるんですけど、やっぱり3Dだと、角度によって鼻の稜線が消えちゃうんですよ。出たり出なかったりする。
大友 ああ、だからあの赤いのを貼り付けたんだ。
小原 そうです。その貼り付け方も、ちゃんとデッサンをする時のように、光はどこから当たって、いちばん暗いところはどこで、どう馴染ませるかというやりとりがあって、もの凄く大変でした。
大友 ハイライトはいつも真ん中にあるんじゃないの?
小原 まあ、貼り付けですからね。でもその時に、ちゃんといちばん立体に見える濃淡の入れ方というのを細かくやっていたので、それを描くのに凄く時間がかかった。僕がなかなか「うん」と言わないもんだから(笑)。
── 「描く」というのは?
高木 一回テクスチャとして描いたものを貼り付けて、チェックして、「まだ立体じゃない」と言って描き直しては貼り直す、というやりとりがあったんです。
── ああ、あの鼻はそもそもモデルにくっついているものじゃなくて、パーツなんですか。
小原 そうですね。だから顔はペタッとしているけれども、立体に見えるという風にはしてあります。シンプルですけどね。

……………………
※以下の部分は、映画のオチに関わる話題に触れています。
劇場で作品を観てから読む事をお勧めします。
……………………

── なるほど。で、お話に関してなんですが、今回出てくる主人公の父親と、地下に住んでいるおじさんというのは、原作の主人公だった少年の成長した姿なんですよね。
高木 ええ、そうです。
── どうしてあんなダメな大人になってるんですか?
一同  (笑)
── あれはやっぱり大友マンガ的な皮肉なのかな、と。
大友 俺は全然タッチしてないから知らないよ。
小原 でも、大友さんは登場人物が不幸になるのが好きだものね(笑)。
高木 まあ、大友さんの作風を考えると自然な流れかな、という。逆に、お父さんが奥さんに逃げられて寂しくフィギュアなんか作ってるので、子供達も放ったらかされて寂しくて、気晴らしに冒険したくもなるだろう、という構造にはしているんですけどね。
── なるほど。あと、もの凄く些末な件なんですけど、なんでお父さんが作っているのが『舞-HiME』のフィギュアなんですか?
高木 あれはですねえ、元々は普通によくあるフィギュアという感じで作ったものを描いて、置いてたんですよ。そしたら「これは特定の作品のキャラクターを想起させるからダメ」とプロデューサーに言われまして。別にそのモデルをそのまま貼り付けていたわけじゃないんですけどね。それでも文句をつけられる可能性がある、と。「じゃあ何なら大丈夫なの?」って聞いたら「サンライズ作品なら文句は来ません」と言われて。
── 一瞬、大友ワールドに『舞-HiME』が! という衝撃を覚えたんですが。
高木 私は別にそんな衝撃を与えるつもりはなかったんだけど(苦笑)。他にもロゴとかフォントとかもそうで、ちゃんと「DELL」とか「SONY」とか出してるのは、使っていいと言われたから出してるんです。まあ最初から少しずつ変えちゃうという手もあるんだけど、あんまり嘘くさくなるのもイヤだった。銀座の町並みなんかでも、看板とか百貨店のマークとか使えるものは使っているし。その辺はわりと丁寧に調べて作っています。
小原 僕はCFをやっているからよく分かるんだけど、そこら辺はやっぱり大きいんですよ。バカバカしいんだけど。
── では最後に、作品の手応えはいかがですか?
高木 小原さんや美術監督の谷口さんを始め、スタッフが力を出しきって頑張ってくれたと思うので、非常に手応えのある仕上がりになったと思います。私としても、周りが頑張ってくれるので、内容面で面白くなるように努力したつもりです。とても面白い、楽しい作品になっていると思います。ぜひ多くの方に観ていただきたいです。
── 小原さんは今回のお仕事を振り返っていかがでしたか?
小原 ええ、面白かったですよ。いろんな事が分かったし。それは、3DCGがなんでもかんでも万能ではないという事も含めてね(笑)。いろんなアプローチをしていかなくちゃならないという事が、よりはっきりした。楽しかったです。
── では、原作者として、大友さんからも何か一言。
大友 いや、面白かったですよ。自分はお客さんとして観て、非常に楽しめました。これであとは原作本が売れてくれれば(笑)。いろんな人に観てもらいたいな、という気が凄くしますよね。
── ありがとうございました。


●関連サイト
『新SOS大東京探検隊』公式サイト
http://www.tokyotanken.com/

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animator interview 小原秀一



(07.05.28)

 

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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