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■『ピアノの森』
小島正幸&岡田こずえ
インタビュー

■前編
■後編

 
『ピアノの森』小島正幸&岡田こずえインタビュー
前編 音楽映画という猛烈に高いハードル


 現在、全国劇場にて公開中の長編アニメ『ピアノの森』。一色まことの同名人気コミックをマッドハウスが映像化した、アニメでは珍しい音楽映画の話題作だ。監督を務めたのは、同じく一色まこと原作のTVシリーズ『花田少年史』を成功させた小島正幸。
 今回は、『ピアノの森』映画化にあたって特に力を入れたという音楽面の話題を中心に、小島監督と音楽プロデューサーの岡田こずえのお2人にお話をうかがった。見事な演奏シーンのメイキングなどについても語られているので、劇場で作品を観ておくと、より興味深く読めるはずだ。



PROFILE
小島正幸(KOJIMA MASAYUKI)

1961年3月16日生まれ。山梨県出身。東京デザイナー学院卒業後、アニメの世界へ。タツノコプロ作品や『楽しいムーミン一家』などの演出を手がける。TVシリーズ『あずきちゃん』を監督して以降、マッドハウスを主な拠点としてTV作品を中心に活躍。監督として『MASTER KEATON』『花田少年史』『MONSTER』『太陽の黙示録』など、ヒット作・話題作を次々と手がけている。『ピアノの森』は小島監督にとって初めての劇場長編となった。

岡田こずえ(OKADA KOZUE)
AMO所属の音楽プロデューサー。「マルサの女」をはじめとする伊丹十三監督の7作品で音楽制作を担当。その他「バカヤロー」シリーズや「守ってあげたい!」など多数の作品を手がけている。劇場アニメ『METROPOLIS』ではレイ・チャールズの曲の使用権をクリアするなど、音楽面での充実に多大な貢献を果たした。以降、『茄子 アンダルシアの夏』『時をかける少女』『BLACK LAGOON』『シグルイ』などのマッドハウス作品に多数参加。

2007年8月1日
取材場所/荻窪・マッドハウス
取材/小黒祐一郎、早川優、岡本敦史
構成/岡本敦史




── 小島監督は、今回の企画のどのあたりから参加されたんでしょうか。
小島 「ピアノの森」を映像化する、という話は前から聞いていたんです。3年くらい前かな。原作は読んでいましたけど、その時は「誰かがやるんだろうな」という感じでした。それで僕の方に話が来た時、これは大変だなあと。でも、音楽という部分を含めて僕の中では今までやっていない分野だったので、ちょっとやってみたいな、とは最初に思いましたね。
── 最初から2時間枠の作品という事だったんですか?
小島 尺については定かではないけど、劇場作品であるという話は聞いてました。
── その時点で、原作はどこまで進んでいたんですか?
小島 僕は連載じゃなくて単行本で読んでいたので、正確なところは分からないですけど、今回映画化したブロックは当然あったと思います。かなりの長編なので、どこでまとめるんだっていう部分はあったんですけどね。
── 例えば、長大な原作を噛み砕いて、全然違う形で組み上げるというようなプランはなかった?
小島 それはなかったですね。僕は原作を読んで凄くいい作品だと思ったので……心配だったのは、それを1本の劇場作品としてまとめなきゃならない、という事でした。原作からするとプロローグに近いような部分を、どれだけまとめられるか。その不安はありました。
 ただ、シナリオについて話している時、脚本を書いた蓬菜(竜太)さんの方から「修平君の視点でやりたい」という話があったんです。僕も「あ、そうしたらこの作品がまとまるかもしれないな」と思った。それで実際やってみて、映画として一応まとまりはついたかな、という気はしてます。
── 淡々とした語り口というのは、最初から意図されていたんでしょうか。ドラマとしてはもっと派手に作れたとも思うんですが。
小島 まあ、僕の気質なのかもしれないですね(笑)。やっぱり、地に足をつけて作りたかったんです。今回は音楽の絡みもあるし、なるべくリアリティを持って作りたい、と思っていたので。どっちを取るかという選択もあったかもしれないけど、僕はこっちを選んだ、という風に解釈していただければ。
── 今回、ピアノ演奏にウラディーミル・アシュケナージ(注1)が参加されていますが、海外の有名演奏家を招くというプランは最初からあったんですか?
小島 僕自身は正直言って、クラシックに親しく接してきたわけではないので、アシュケナージさんがどんなに凄い人かというのは、名前を聞いた時には全然知りませんでした。後からいろんな話を聞いて「ああ、凄い人なんだな」と。実際、彼の演奏をホールで録音した時に聴いたんですけど、その時初めて凄さが分かった、という感じでしたね。
── 映画を観ていて、おそらくストーリー構成や演出プランとは別のラインで、音楽をどう作っていくか、という綿密なプランニングがあったんじゃないか、と思ったんですが。ひとつの脳味噌で作った映画じゃないな、という気がしました。
小島 うーん、なるほどね。
── 今回、映画の構成要素として音楽はかなり大きいじゃないですか。
小島 やっぱり、原作を見ても分かるとおり、ピアノの演奏シーンというのが主軸になりますからね。だから音楽のプランニングは、もちろん僕も関わってますけど、アサツー ディ・ケイの音楽制作スタッフと、音楽プロデューサーの岡田さんにも協力してもらって、いろいろ構成していただきました。
岡田 音楽ものは難しいんですよ。実写の場合でも。多分、アニメーションでここまできちんと真面目に音楽ものに取り組んだ作品って、古今東西なかったと思うんです。
 音楽というのは、独立した芸術のジャンルとして成立しているものなんです。だから例えば、実写の演奏シーンで役者が演奏している姿を、音楽の愛好家が見た瞬間、すぐ醒めちゃう。吹き替えだってすぐ分かるから。だからといって実際に役者に演奏させると、ヘタなんです。要するに、世界最高水準のものをレコードなりCDなりで聴いているわけじゃないですか。実際に日本のクラシックファンは、カラヤンから始まって世界No.1、No.2っていう人達の演奏を生で聴いているんですよ。それが映画という作り物の中で切り取られた時、明らかな嘘、それもレベルの低い嘘になるという場合がほとんど。だから、音楽ものに手を出すのは相当難しいんです。
── 鬼門に近い、というか。
岡田 映像を作るという事、特にアニメーションの長編映画を作るという事自体が、大変な作業ですよね。そこで音楽ものをやるとなると、プラスαで猛烈に高いハードルができてしまう。この作品は、最初からそういう企画だったんです。
 実際に3年くらい前、マッドハウスさんの方で「ピアノの森」を映画化したいという話があった時、丸山(正雄)さんに「どう思う?」って訊かれたから……「死んでもやりたくない!」と。音楽を見せる事の難しさを分かった上でやるというのは、そのくらい大変な事なんですよ。
── そんな簡単にできるものではない、と。
岡田 もちろんです。実際に映画として作っていく部分、脚本や演出といったところは、別のラインでちゃんと進んでいたと思います。でも、演奏シーンをどういう風に見せるのか、劇場でどう聴かせるかという部分では、正直なところ相当な混乱があったのは確かなんです。やっぱり3年ぐらいかけて、じっくり1個ずつケーススタディして、何度も録音し直すぐらいの事をしなきゃできないものですよ。それを短期決戦で、1年ぐらいで作っていくというのは、非常に大変な事ではあった。
 音楽と音響に関して言うと、実はこの映画には、日本でもトップクラスのスタッフが入っているんです。自分で映画1本を仕切れるぐらいのクラスの人達が、2人も3人も入っている。そして、アシュケナージさんというのは海外のアーティストですから、当然ライツ(権利)のライセンス契約をするところから始まって、大騒ぎが起きるわけですよ。普通に日本人の演奏家に「弾いて」というのとは違ってね。
── オファーする前に諦めてしまいそうですよね。
岡田 実は、ご本人がとても協力的だったんです。彼は17歳でショパンコンクールから出てきた、ピアニストとして長いキャリアを持っている方で、ショパンを弾くピアニストとしては世界有数。おそらく20世紀を代表するピアニストを3人挙げなさいと言われた時、必ず名前が入るという人なんです。その彼が今さら「エリーゼのために」なんて弾くはずがないわけ(注2)
── そうでしょうねえ(笑)。
岡田 「子犬のワルツ」なら、辛うじてショパンの曲だから弾く事もあるかもしれないけど。ベートーヴェンなんて絶対に弾かない。ましてや「運命」をや、なのね(笑)。そのアシュケナージさんが、「これは海が弾いているピアノ」「これは阿字野が弾いているピアノ」と、映画のシチュエーションに合わせて弾き方も工夫して変えてるんです。多分、クラシックファンの方達がこの映画をご覧になったり、サントラ盤を聴かれたりすると、「これは普段のアシュケナージのピアノではない」とお気づきになると思います。要するに、彼本来の持ち味だけでピアノを弾いていないという事に。
── なるほど。
岡田 このマンガが映画化されると聞いたクラシックファン、それからクラシックと原作マンガ両方のファンの方達が最初に心配したのは、「アシュケナージのピアノで大丈夫なのか?」という事だった。全然タイプが違うじゃん、と。つまり彼は、海のようなピアノを弾くタイプではないんです。そこを凄く心配なさったと思うんですけど、実際に彼が弾いてくれたのは、単なるピアニストとしてだけでなく、映画の設定に合わせた演奏だった。彼が今回、「ミュージックアドバイザー」という肩書きを別に持っているのは、そこに理由があるんですけれども。
── 相当真摯に、作品に取り組んでもらえたんですね。
岡田 アシュケナージさんという方は、非常に親日派でもあるんです。ずっとN響(NHK交響楽団)の常任指揮者をなさっていて、今も桂冠指揮者という名誉指揮者のようなポジションにいらっしゃる方なんですよね。今回、本当にシナリオを読み込んでくれて、「こうした方が映画の中のピアノとして相応しい」という、彼が今までやったことのない事に挑戦してくれたんです。齢70にして。
── そもそもアシュケナージさんが映画のサントラで弾く、というのが初めてですよね。
岡田 もちろんです。だからヨーロッパから実際に問い合わせがあって、「アシュケナージがカートゥーンの音楽をやったというのは本当か?」って訊かれたくらい(笑)、凄いエポックなんですよ。喩えは悪いけど、外人タレントが名前を貸すようなレベルじゃなく、今回彼は「映画作りに参加する」という取り組み方をしてくださった。その辺で、普通の映画とは一線を画していると思います。アサツー ディ・ケイの音楽制作スタッフの功績ですね。
── アシュケナージさんの参加が決まったのはいつ頃なんですか?
岡田 脚本も上がってしばらくした去年の春あたりです、多分。とにかく脚本が上がらないと、口説けないんですよ。「どんな話やねん」「俺に何させたいねん」ってなるでしょ? で、脚本が上がってから彼にオファーした、って事かな。今度は彼のスケジュールに合わせて、録音できるタイミングを調整して。それが去年の夏ぐらいですね。
── シナリオ段階で、劇中で使う曲はもう全部決まっていたんですよね?
小島 そうですね。絵コンテに入る前に決まっていたはずですから。
── 岡田さん自身はいつ頃の段階で参加されたんですか?
岡田 3年前には「イヤだ」と言ってました(笑)。最終的に入ったのは、去年の11月。(アシュケナージの演奏した)録音物があらかた揃った状態の時です。それらをレコーディングした時は、まだコンテも完全には上がっていなくて、コンテに合わせてピアノを弾いてるわけじゃないんです。もちろんクラシックの楽曲だから、演奏するものは決まっている。映像に合わせてかたちを変えられるタイプの音楽じゃないから、音楽が先にないとコンテが描けないんですよ。
── ミュージカル映画のプレスコみたいな。
岡田 その録音物が映画のスタッフのもとに届けられて、尺なども含めて「こういう音になりました」と分かったのが、去年の11月。これを映画の音楽にするにはどうしたらいいんだ、というところで、「さあ入ってください」と言われたんです。
── イレギュラーなタイミングで参加されたんですね。
岡田 まず監督と私と2人で、後半30分のコンクールのシーンをどう見せるか、というプランニングから始めました。要するにあそこは、ホールでピアノを弾いてるだけのシークエンスになるわけじゃないですか。そこに、ホールで録音された「映画音楽以前」の録音物を使って、映画のフィールドでどう切り取り、どう見せるかという事を、7ヶ月ぐらいかけて死にそうになりながらやってました(苦笑)。
小島 まず、絵コンテを撮影して、それをつないだ映像に上がってきた音楽を貼りつける作業から始めたんです。貼りつけながら、多少(画を)変更したりもしました。小川さん(小川高松。本作のサウンドデザイナー)にも作業に来ていただいて、「ここ編集したいんだけど」「ここから音楽を入れたいんだけど、音楽的にどうかな?」とか、そういうところから。
岡田 アディショナル・オーダー(追加発注)もしています。2回レコーディングを行って、都合4日間にわたって演奏していますからね、アシュケナージさん。
── 岡田さんが入ってから、録音した曲もある?
岡田 あります。
── 基本的には、脚本→演奏録音→絵コンテ、という順番なんですか。
小島 そうですね。同時並行で作業したところも当然ありますけど。
岡田 何百年も伝わっている譜面 も、演奏者によってテンポも違えば、抑揚のつけ方も違う。だから演奏シーンを構成するためには、音が先にないと絶対にできない。そこからまた(録音物と絵コンテを)合わせていく作業になると、弾き方によって曲のスピード感や聞こえ方も変わってくるわけだから、そのあたりも調整し直して。
小島 作画まで入ってるのに、絵コンテを変えるとか(笑)。
岡田 凄まじい事をしてますよ。で、どうしても変更したいところは、最終的にアディショナル・オーダーを出したんです。
 クラシックは特に、パフォーマンスというものに再現性がないものですから、同じ演奏というのは二度とできないんですよね。ジャズのアドリブなんかと近くて、演奏者の感性で作っているものなので。やっぱりそれは「初めに音ありき」じゃないとできない。画に合わせて音楽をつけるという作業は、サウンドトラックを作るプロなら職人技としてできる。けど、コンサートピアニストというのは、そういう訓練をされているわけではないですから。世界共通の譜面を使って、弾き手の感性で曲を変えていくというジャンルなので……。だから結構、大変な題材なんですよ。
── 元々、そこまで大変になる予定だったんですか?
小島 (苦笑)もちろん漠然と覚悟していたと思うんですけどね。音楽を絡めるという点では、僕自身その経験がなかったので、どのくらい大変なのかは正直言って分からなかった。

▼一ノ瀬海のピアノに衝撃を受け、生涯のライバルとなる雨宮修平

── キャラクターごとにピアノ演奏者を変えるというのは、初期から決まっていたんですか?(注3)
小島 原作では、もちろん(コンクールで演奏する課題曲は)全部同じ曲なんですよ。「同じ曲でも、それぞれのキャラクターによって弾き方が違う」というのは、映画でもある程度は表現できると思うんです。でも、ピアノやクラシックを全く知らない人達が聴いた時、その違いがどの程度出るのかな、と。それが凄く不安だった。だったらこの際、別に課題曲っていうのはひとつだけじゃないんだし、それぞれのキャラクターに合わせた曲にした方がいいんじゃないか、と考えて。
 まずそういう事にした段階で、「じゃあ、アシュケナージさんが海なら、修平君や誉子ちゃんの演奏は違う人でもいいんじゃないか」と思ったんです。もし違いが出せるんだったら、そうした方がいいかな、と。
── 演奏曲をそれぞれ変えるという発想が先で、その後で演奏者も別々にしてみようという事になったんですね。
岡田 コンクールで全く同じ曲を10人弾いたら10人違う、というのは、音楽畑の人間なら分かるんです。だけど、音楽に興味のない方も映画を観るわけじゃないですか。そこでAとBとCの演奏が違うんだという事が、ある程度の分かりやすさをもって提示できないのであれば、映画として成立しない。プロや愛好家は分かるかもしれないけど、普通にお子さん連れのお母さんが観て、全員同じ曲を弾いているように見えちゃったらね。
── 感動しようにもできませんよね。
岡田 監督やプロデューサーにも言ったんだけど、まあ「時代劇の時代考証みたいなものよ」と。この時代にこういう着物を着ているはずがない、髷はこうじゃないといけない、云々。それは非常に大事な事だけれども、ドキュメンタリーをやるわけじゃないから。分かった上で嘘をつかなかったら、ドラマにならないじゃない? 知らないでやったなら出鱈目だけど。
 音楽好きな人が音楽映画を観に行った時、最初の5分で出鱈目をやられちゃったら「もうダメ。金返せ」ってなる。醒めちゃって、ドラマに入れない。だから「それは嫌よね」って。ちゃんとはしたい。でも、ドラマとしての効果を出すため、映画として成立させるためのアレンジはする。それで、終盤に3人のピアノ演奏が延々と続くという構成は分かっていたから、そこは弾き手も変えて、できれば曲も変えようと。
── そういう事だったんですね。
岡田 普通、クラシックの大きいコンクールなんかだと、課題曲が3つぐらいまではあって、チョイスもできる。裏は取ってあるんです(笑)。原作者の一色先生のアドバイザーでもある下田さんからの提案でもありました。全くの嘘ではない。原作マンガの設定とも少し変えた部分は、もちろんそういう事を狙ってやっているんです。

▼コンクール会場で丸山誉子と出会った一ノ瀬海は、図らずも彼女の心を癒す

── 修平と海は、モーツァルトのピアノ・ソナタ イ短調K.310から、第1楽章と第3楽章をそれぞれ弾いていますが、誉子だけはバッハですね(イタリア風協奏曲ヘ長調BWV971より 第3楽章プレスト)。
岡田 本当は、ピアノ・ソナタは第3楽章まで3つでワンセットなので、ワン・ツー・スリーで1人ずつやる、というアイディアも出てたんだけど、第2楽章というのがあまりポップじゃないんですよね(笑)。誉子ちゃんがそれを弾くと、彼女のキャラクターのファンシーなところが全然出ないというのがあって。その時に「じゃあ、こんなのどうだ」って出てきたのがバッハの曲なんです。
── ああ、そうなんですか。謎が解けました。
岡田 これは子供達がやっている予選会なのでそういうかたちですけど、コンクールによっては、課題曲1つと自由曲1つみたいな感じで、自分が得意な表現をたくさんアピールできる曲を選んだりするところもあるんです。フィギュアスケートに規定演技と自由演技があるのと一緒。だから一応、クラシックのルールの考証には基づいてるんです。まあ、多少の嘘は入ってますけどね(笑)。確信犯的に。
小島 その辺の嘘と本当を、いろいろと見極めていただきました。
岡田 (笑)
── コンテを描いてから「これは嘘です」と岡田さんに見極められてしまう事もあったんですか?
小島 そうですね。まあ、監修みたいなかたちで。
岡田 監督が「この曲のこの部分を使いたい」とかいうのを、「ごめん監督。これはちょっと変だから」と言ったり。あるいは「この部分だけポンと使うと変だから、もうちょっとここまで使ってくれないか」と言ったりね。やっぱりクラシックファンが聴いた時の事を考えて、結構無理なお願いをしてますよ。アサツー ディ・ケイの音楽制作スタッフが、クラシック畑の専門家だったので、私も随分勉強になりました。
 普通、映画の監督さんならもっと好き勝手に(音楽を)使えると思うんですけど、音楽ファンは「これはないでしょ」というのがあった瞬間に醒めちゃうんですよね。せっかくそれまでいろんなものを積み上げてきたのが、そこで一気に……。やっぱり、そういう人たちも納得させたい。せっかくやるんだったら、そこまで頑張ろうか、と。小姑のようになってましたね、私は(笑)。
小島 岡田さんの場合は、もちろん音楽が本業ですけども、映像もよく分かってらっしゃる方なんで、そういう意味でも非常に助かりました。
岡田 音楽屋さんだけでもできないし、映像屋さんだけでもできない。それで私が、通訳のような仕事をさせられてたんです、ずっと。

●『ピアノの森』小島正幸&岡田こずえインタビュー 後編につづく
●公式サイト
http://www.piano-movie.jp/

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(注1)ウラディーミル・アシュケナージ
幼少時代からその神童ぶりを発揮し、17歳の時に出場した1955年のショパンコンクールで世界的に注目を集めたピアニスト。以来、現代における最も有名かつ敬愛されるピアニストとして、そして芸術家としても輝かしいキャリアを築いてきた。
1998年から2003年までチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を経て、2004年からNHK交響楽団で音楽監督を務める。その他、数々の名門楽団と親密な関係を築いている。現在は指揮者としての活動に大半の時間を割いているが、ピアノへの情熱も失わず、1999年度グラミー賞を受賞したショスタコーヴィチ「前奏曲とフーガ」など、多様なレパートリーの作品をリリースしている。

(注2)「エリーゼのために」なんて〜
『ピアノの森』の劇中、音楽教師の阿字野が主人公・一ノ瀬海(カイ)の前で、音楽室のピアノを使って「エリーゼのために」「結婚行進曲」「運命」「子犬のワルツ」を立て続けに弾いて聴かせるというシーンがある。あまりに有名な♪タタタターンという「運命の動機」や、難易度の低いピアノ曲を、マエストロ・アシュケナージが演奏しているというクラシックファンびっくりの場面だ。

(注3)キャラクターごとにピアノ演奏者を変える〜
『ピアノの森』本編では、メインキャラクター達の弾くピアノは、それぞれ別のピアニスト達が演奏している。ウラディーミル・アシュケナージは一ノ瀬海と阿字野壮介を、中学3年生の橋本健太郎が雨宮修平を、高校1年生の野上真梨子が丸山誉子の演奏をそれぞれ担当している。



(07.08.14)

 

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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