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■『おお振り』
水島努監督
インタビュー

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『おおきく振りかぶって』水島努監督インタビュー
第3回 ここは大リーガーの空振りで!


── 水島監督の中で、特に印象的だった話数やシーンはありますか。
水島 やっぱり、自分で演出した回なんですけれど、24話は凄く印象的ですね。試合が終わった後、利央っていう敵の控えのキャッチャーと、田島が球場の外で会話するシーンは、カメラを持って実際の場所へ行ってきたんですよ。「(原作と)全部同じアングルで使おう」とか言って、半日かけて写真を撮って。
── へえー。
水島 ちょうど8月だったんですけど、とにかく暑かったんですよね。もう暑すぎて周りに誰もいないんです。あの場面にもベンチが出てくるんですけど、しばらくそのベンチでぐったりしてましたね。そうやって本物を使うと、レイアウトとして使いやすかったので、そういう意味ではうまくいったかな。あと、最後のラスト1カットに橋が出てくるんですけど、「(原作の)その橋はきっとここに違いない!」という事で、同じ日に車で行って撮ってきたりしました。でも、実は違う橋だったんですよね。
── そうなんですか(笑)。
水島 原作者のひぐち(アサ)さんに訊いたら、別の橋だったんです。だけどまあ、せっかく撮ったのでこっちを使わせてもらいました。
── ひぐちさんの方から、具体的に「ここは違う」とか「ここはよかった」みたいなコメントはあったんですか?
水島 いや、感想をもらうというよりは、大体事前に確認を取っていたんですよ。ここに元ネタはありますかとか、どういうものを使っているんですかとか。すぐにレスポンスが返ってくるので、助かりました。
── 個人的な話ですけれども、24話は観る側としてもかなり印象的でした。それまでの話も普通に引き込まれて楽しんで観ていたんですけど、24話は始まってから最後まで「今までの話数とは演出が全然違う!」という感じで、圧倒されました。
水島 立場的に、ちょっとわがままがきくんですよ。例えば、ブラバンのモブを全部作り直したりしているんですよね。
── そうですよね。応援団のモブも新しくなっていて。
水島 あんな大変な事やったら、普通怒りますよね(笑)。だけど「やりたかったんでどうしてもやらせてください!」みたいな。その分、みんなにもの凄く大変な思いをさせてしまったでしょうね。
── 細かいところで言うと、桐青の松永が空振って、膝からズドン! と落ちるところとか、本当にかっこよくて。
水島 ああ、はいはい! あれは満仲さんに描いてもらったやつだ。熱血度をどんどん上げていきたかったんですよ。あそこはやっぱり三振のカタルシスがほしかったので、まあ松永は2番だし、そんなに大振りするバッターじゃないんだけど、「ここは大リーガーの空振りで!」みたいな。で、このカットだけ嘘でもいいからちょっとカメラを下げたい、と。
── ローアングルで、かなり劇的なカットでしたよね。
水島 普通のアングルより、気持ちハッタリ使っている感じですかね。一瞬だけ、ちょっとそんな事をやらせてもらいました。
── あと印象的なのは、マウンドに立つ三橋が、自分が攻略された事を知ってしまった時のロングショット。あのカットは泣けます。
水島 あそこは、「リアルじゃなくてファンタジーでいきましょう」というお願いをしました。今までずーっと「リアル、リアル」と言っておきながら、ここはどちらかというとファンタジックにしようと。「人はいっぱいいるのに、独りぼっちの三橋」みたいな、寓話的な感じがいいというふうにお願いしました。
── そして、なんといっても花井のバックホームの2カット。
水島 あそこはホント、大変でしたねえ。俺じゃないですけどね、大変なのは(笑)。
── デジタルの使い方もダイナミックで素晴らしかったです。
水島 多分、本物の3Dを組んだのって、あのバックホームのところだけじゃないかな。あとはガイドとして3Dで球場をいっぱい起こしましたけど、ああいう使い方をしたのは、あのカットだけだったと思いますよ。
── 他で3Dをそのまま使っているのは、球ぐらいですか?
水島 そうですね、球ぐらい。あのバックホームも、実は球の見た目じゃないんですよね。
── そうなんですか?
水島 ええ。球の見た目そのままだと、高いところを飛んでいるので、スピード感が出ないんですよ。だからなるべくカメラを低くして、ボールがフレームの上を飛んでいるようにさせてスピード感を出しています。それと、実はあそこだけ、実際の球場より距離が長いんですよね。多分200メートルぐらい飛んでいるんだと思いますよ。
── (笑)
水島 それもまあ、ハッタリのひとつなんですけど。そうやってスピード感重視でやっちゃいましたね、あそこは。
── そういう派手な演出は、その前の話数ではなるべくしないようにセーブしたんですか。
水島 ポイントで使うのはいいんですよ。ただ、それを全部でやっちゃうと、そういうところが全然目立たなくなっちゃう。だからこの作品では、やっぱり普通にやっているところは普通に描いた方がいいと思います。例えば、9話で榛名が本気で投げるところは、作画で榛名の横顔からトラックバックしたりとか。そういう反則的なハッタリは全然OKですよね。ここ一番という場面 なら。
── そういう意味では、24話はかなり盛りだくさんで、見応えがありました。
水島 そうですね。それに巧い人がいっぱい参加してくれた、というのもありました。やっぱりクライマックスなんで押さえておかないとな、って。
── もう原作越えぐらいの勢いがあったと思うんですが(笑)。
水島 そこまではいかないけど……まあ、いきたいですけどね。それよりは、せっかくアニメで動いているので、動きの部分で勝負するという感じですかね。それと音。
── 先ほども話に出た「夏祭り」「Runner」のブラバン演奏も、劇的な音の演出でしたね。あと、試合終了後に片づけする河合の背後に聞こえてくる、浜田のエール交換。芝居も音のボリュームも、絶妙でした。
水島 試合が終わった後のエール交換って、なんか清々しいじゃないですか。実際に試合を観に行くと、ああいうところが凄くいいな、と思うんですよね。だからこれは活かしたいと思いました。あの声は一発録りで、「失敗してもいいから」という感じで録っちゃいました。むしろ巧くいっていない方が、声も裏返っちゃった方が絶対リアルでいいと思ったので。
── 24話は、わりと先行してコンテを描かれていたんですか。
水島 いや全然。カッティングの2日前までかかっちゃいましたね。
── カッティングの2日前!?
水島 はい。描き上げたら、そのまま引き続きコンテ撮の準備、みたいな。
── じゃあ、やっぱり相当キツキツだったんですか。今回は2クールだからクオリティが保てたけど、もし52回だったら……。
水島 ああ、途中でみんな死にますね(軽く)。無理です。
── 25回がギリギリ?
水島 多分、折り返し直後がキツいだろうから、28話ぐらいでみんな死んでますね(笑)。そのあたりでまだ何十本も残っているという、その現実の重みでまたグッタリするんじゃないですか。残りあと数本とかだと、多少キツくても頑張れたりするんですけど。いやあ、4クールは難しいですよ。2クールでもしんどかったです。
── 客席のモブシーンとかも、相当大変だったと思うんですけれども。
水島 あー、大変だったでしょうねえ。
── そんな、全く他人事のように(笑)。
水島 吉田さんとか谷口さんが大変な思いをしていても、俺は手伝える事がないんですよね。オロオロしてるしかない(笑)。

▲名場面の多い第24話「決着」

── キャラクターの感じといい、全体の空気感といい、「なんとなくいい感じ」というのが全編で維持できていると思うんですけど、これはなぜなんでしょう。
水島 やっぱり、キャラクターの味じゃないですかね。性格とか、そういうものだと思うんですけど。作画も含めて。
── いい意味で、イヤな感じがしないですよね。
水島 そう、悪人がいないんですよ。性格づけにキツいのがいても、実はいい子だったりして、毒々しいキャラが一切いない。全然、殺伐としてないですからね。敵も味方も、なんか(人間的に)理解できる人達というか、いい人達が多い。
── ちょっとみんな、もの分かりがよすぎるかな、とか思ったりはしなかったですか?
水島 いや、むしろそう思っちゃう人は、逆にひねくれているのかなって思いますけどね(笑)。
── 主人公の三橋君の可愛さは凄かったですね。
水島 うん、自分も三橋は可愛いと思うし、これもいろんなところで話しているんですけど、一歩間違うとウザイんですよ。だから、視聴者に嫌われるのがいちばんイヤだったんですよね。「可愛い」って思ってもらえるか。自信のないところも含めて、共感を覚えてもらえるか。その2点には凄く注意しました。
── キャスティングの要だったのは、やっぱり三橋ですか。
水島 そうですね。
── オーディションとかされたんですか?
水島 ええ。3次オーディションまでやりましたよ、ダラダラと(笑)。
── で、もう代永翼さんしかいない、と。
水島 いろんな意見があったんですけど、俺はやっぱり代永さんがいちばんいいなと思いました。ああいう喋り方なのにねちっこくないところ、あと媚びた声になっていないところが、魅力だと思います。だからもし媚びちゃったり、ウェットな声だったりすると、さっきも言った「ウザイ」という方向に行ってしまうのかな、って思いますよね。
── キャスティング全体のコンセプトは何かあったんですか。
水島 うーん、まあ強いて言えば、「自然な感じで」(笑)。そんなに大きな狙いはないですね。演劇のようなお芝居はいらないし、アニメの『ドカベン』みたいなアクもいらないので、なるべく自然な感じでやってもらうのがいいかなと思っていました。
── 女性声優さんを使うという考えはなかったんですか?
水島 最初はちょっとそれもアリかな、とは思っていたんですけどね。でも、どうせなら全員男の方が、チームとしてまとまるかなって。
── ああ、アフレコ現場でも。
水島 ええ。それはちょっと狙っていました。
── 一方で、マネージャーの篠岡のキャラがだんだん薄くなっていくんですが、あれは原作どおりなんですよね。途中からいなくなっちゃうような感じで。
水島 試合が始まるとあんまり喋らないんですよね。前半の練習試合とか、練習風景とかではよく出てくるんですけど。ホント、試合の時はやる事ないんですよ。
── 野球ものとかスポーツものの定石で、アニメになると女の子キャラの出番が増えるというのがあると思うんですけど、それは今回なかったですね。
水島 ええ。元々の性格づけ自体が大人しい子ですし、あんまりサービスしたつもりで出しすぎるのもよくないかなと思っていました。(篠岡に関して)個人的に注意しなきゃいけないと思っていたのは、紅一点じゃないですか。あんまり出張ると、やきもち焼かれるかな、って。
── ああ、観てる女性ファンに。
水島 はい。考えすぎかもしれないですけど。だからなるべく慎ましくしておこう、とはちょっと思っていましたね。
── 作品全体を通して、基本的に狙ったのは「リアル感」?
水島 そうです。
── それは、原作を読んでいる時にも感じた事なんですか。
水島 うーん、スポーツものは初めてなので、自分としてはその魅力をどこに持っていくかを考えると、そこかなと思うんですよね。リアル感の中に、キャラをきちんと立ててあげれば、架空の存在でも現実味をもって観てもらえるかな、と。
── その点に関しては、達成できたのではないかという事ですね。
水島 そうですね。まあTVシリーズなので、スケジュール的な事もあって、100パーセントは無理ですけれども(苦笑)。自分が贅沢なのは重々分かっているんですけど、やっぱり「もっといきたかった」という思いはありますよ。これだけ枚数使わせといて何言ってんだ、って思われちゃうでしょうけど。「まだまだ、次はもっと」みたいな感じですね。
── 第2期の話が来たら、ぜひやるという感じなんでしょうか。
水島 そりゃあ、やりたいですよね。ただ、そこら辺は水ものなので。タイミングとか。
── やりきった感想というか、『おお振り』はどんな作品だったでしょうか。
水島 萌えものじゃないし、シリアスものでもないし、今やっているアニメのジャンルの中では、かなり異質な作品になったのかなと思っています。結果としてそれでちょっとだけ目立つ事もできたわけだし、多少なりとも注目してもらえたのは、凄くありがたい事だと思いますね。今の自分の気持ちとしては、やってよかったとかいうよりは、ちょっと一休みさせて……という感じですかね(笑)。すいませんね、オチてないんですけど。
── いえいえ。
水島 野球はやりたい!
── あ、現実にですか(笑)。
水島 ええ。この前やったら面白かったので。
── それは25本やりきって野球に目覚めたとか?
水島 いや、オンエア前からいろいろ練習はしていたんですよ。本当はシリーズの制作途中でもずっとやりたかったんですけれど、作業に入っちゃうとそれどころじゃなくなっちゃって。その悶々としたものが、終わった時に打ち上げを兼ねた野球大会に発展したんですよね。負けちゃったんですけど。
── そうなんですか。練習をしていたというのは、『おお振り』のため?
水島 そうですね。
── シンエイ動画にいる頃とかに野球をやったりはしていないですよね。
水島 いや、報道健保(報道事業健康保険組合)の大会とかには出てましたよ。年に1回、野球大会があって、人数が足りない時とかに呼ばれて行ってました。その時はいつもセカンドを守っていて、全然打てなかったし、守備もエラーしなければいいや、ぐらいな感じでしたけどね。でも、とにかく今は、野球がやりたい!
── ありがとうございました。今後の作品も楽しみにしています!


●関連サイト
TBS『おおきく振りかぶって』公式サイト
http://tbs.co.jp/anime/oofuri/

『おおきく振りかぶって』各種情報サイト
http://www.oofuri.com/

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宛先:〒177-8691東京都石神井郵便局 私書箱32号
『おお振り限定イベント』係
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【お問合せ先】
oofuri_info@aniplex.jp



(07.12.26)

 
 
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