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なかむらたかしが語る「僕とマンガ」2

── その後、中編の「夢の中へ」の連載が始まるわけですね。
なかむら そうです。この頃はマンガが描ける楽しさだけでやっていたから、ストーリーを組み立ててドラマを作っていく事についての意識が薄かったんですよ。アニメーションでも、演出の方向に行くとは全く思っていなかったし。だから、今はちょっと恥ずかしいんだけど(笑)。
── 今見ると、思いのほか主人公の顔がタツノコ風で。
なかむら ねえ。何だろう、やっぱり微妙な影響出てるんですね。
── 最終回では、まるで『紅三四郎』みたいな顔になっていて。
なかむら そうなんだよ。目の感じ、眉の太さ。
── なかむらさんは、タツノコのあの傾向の作品はあまりやっていないはずなのに。
なかむら でも、僕は『(科学忍者隊)ガッチャマン』もちゃんと描いてるよ。タツノコを出てからだけどね。『パート2(科学忍者隊ガッチャマンII)』とかをちゃんとやってますよ(苦笑)。
── あ、なるほど。それから「夢の中へ」は美術的な部分が面白いですね。絵画的というか。
なかむら ああ、アルフォンス・ミュシャ(Alfons Maria Mucha)そのままみたいなね。
── ミュシャは当時興味があったんですか。
なかむら この当時に、たまたま見たのかな。
── 背景にもかなり力が入っていますよね。
なかむら ほら、そういうのを描きたい時期だったから。でも、今見ると、やっぱりちょっとね。これも恥ずかしいですよ(笑)。
── 単行本の巻末解説で、お話のタッチが『ファンチル(ファンタジックチルドレン)』とか、最近の監督作品に近いと書いたんですけど、それについてはいかがですか。
なかむら 言われてから、そうなんだな、と思った。解説で小黒君も「切ない物語だ」と言っているけど、そういう物語が好きなんですよ。でも、『ファンチル』を作る時、「夢の中へ」は全然意識していない。ほとんど読み返してないからね。I.G(Production I.G)の石川(光久)君に「ずっと『亜星人』みたいの描いてれば、もっとメジャーになれたのに」と、つっこまれたけど。
── それ、いつ言われたんですか。
なかむら このあいだ。この本を「見ましたよ」と言われて。
── 「亜星人」は分かりやすいもんですね。
なかむら 分かりやすいですよ。そのまんまだからね。だけど「そのまま」っていうのが、どうもね。
── 「そのまんま」ですか?
なかむら 永島慎二を好きだったりとか、そういう時期があったでしょ。ああいった傾向の物語は「そのまま」ではないですよね。自分自身が作品の中に入り込んでいるようなリアル感とでも言うのか……。
── なかむらさんが言っている「そのまんま」というのは、いわゆるお話なんですね。「いわゆるお話のまんま」。
なかむら そう。永島さんの漫画は、決して「お話」を伝えるだけの作品じゃない。僕は『AKIRA』が終わった後で、アニメーションの企画を立てるようになって、それで『ファンチル』まできてるんだけど。アニメーションでも「いわゆるお話」を分かりやすくシンプルに、「そのまんま」に作る方向には、なかなかいけなかった。それは、今でもいけていないのかもしれない。自分なりにエンターテイメントにしているつもりなんだけど、「ちょっと違う」と言われたりしてね(苦笑)。
── モーションコミックで発表されたもう1本、「その空間…」。これはどういった作品なんでしょうか。
なかむら いや、分かりやすい話でしょ(笑)。
── 着想は分かりやすいですよ。要するに、ホラーですよね。
なかむら 「世にも奇妙な物語」みたいな。
── だけど、オチの鮮やかさよりは、主人公の追いつめられた気持ちに力が入ってる感じですよね。ちょっとサイコっぽいというか。
なかむら やっぱり、好きなように描いていただけで、読者に何か伝えようという意識が弱かったんだろうね。
── いや、今見るとこれも、なかむらさんらしい作品だと思いますよ。モーションコミックの作品は『(風の谷の)ナウシカ』の原画を描きながら、描かれていたんですよね。『風の谷のナウシカ』は1984年の3月公開で、「夢の中へ」が1984年の4月発行号だから、『ナウシカ』の作業が終わる頃に連載が始まった。「亜星人」は前年ですから『ナウシカ』の作業中ですよね。
なかむら 「亜星人」を描いた時は、時間があったんじゃないかなあ。随分前から依頼がきてたから、時間があったと思うね。だから、『ナウシカ』をやりながらでも描けたんじゃないかなあ。
── 『ナウシカ』の後も、『カムイの剣』等の重たい劇場作品に、次々と参加していたじゃないですか。同時にマンガを描くという事は、過酷だったんじゃないですか。
なかむら いやいや、全然そんな事なかったですよ。単発みたいなものだったし、内容で悩む事もなかったし。
── むしろ楽しく。
なかむら うん。楽しくやっていました。
── モーションコミックの前後に、アニドウの「月刊ベティ」でも描かれていますよね。
なかむら はい。よく知ってますね。
── よく覚えていないんですが、どんなもの描かれたんでしたっけ。
なかむら それこそストーリーなしで、文章と画のイメージだけの心象風景的なマンガを描いてますよ。「何でも好きに描いていい」と言われたんですよ。
── 今回の単行本で、それを再録しなかったのはどうしてなんですか?
なかむら 多分、提案しても小黒君が「いや、これは載せなくていいんじゃないの」と言いそうだからさ。
── ええっ、そんな(笑)。原稿はあるんですか!?
なかむら もちろん、原稿はありますよ。
── 言ってくれれば考えたのに。なかむらさんが言い出さないから、載せたくない事情があるのかと思いました。
なかむら あ、そうなの(苦笑)。あれは本当に「何なのこれ?」と言われるようなものでね。マンガとも言えないようなものだよ。
── で、モーションコミックが終わって半年後ぐらいに、今度は「コミックモーニング パーティー増刊」の連載が始まるわけですね。
なかむら あれは突然講談社から電話がかかってきてね。僕と梅津(泰臣)君で、8ページぐらいの短編をどうですか、と言われて。それで「是非描きます」と(笑)。
── 即答されたのはモーションコミックで描いて、楽しかったから?
なかむら 楽しかったというのもあるし、8ページぐらいの短いものなら、仕事やりながらでも描けるかなと思って。
── で、今回の単行本で読んだ人も驚いたと思いますが、ああいった様々なタッチのマンガを描かれたわけですね。
なかむら 画を色々変えてやったら、自分なりに面白いかなと思ったんですよ。第1話の「星の風」では、キャラの横顔を高野文子みたいな感じで描いてみたり(笑)。