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なかむらたかしが語る「僕とマンガ」3

── ケッペル氏を主人公にした話が2本ありますよね(第5話、6話)。ケッペル氏を主人公にして何本か描かれようと思ったんですか。
なかむら そうです。だけど『AKIRA』が忙しくなって、描いていられなくなった。それで自分からお願いして、連載を終わらせちゃったんです。本当は、もっと色々描きたかったんですけど。
── あのまま連載が続いていたらケッペル氏が、色んな立場で登場していたんですね。
なかむら 色んな事をさせようと思ったんです。ケッペル氏も、キャラクターも徐々に変えていこうかなと。ケッペル氏のキャラが、いまいちだなあって思っていたから。そういうプランを考えていた矢先ではあったんですけどね。
── 5話「ケッペル氏の散歩」が坂口尚っぽいですよね。
なかむら うん。坂口さんも好きですけどね。
── 坂口さんの、柔らかい時の画に近いんじゃないですか。
なかむら あ、本当? 嬉しいな。COMも好きでしたね。
── 第3話「来訪者」はどうですか。
なかむら 割と好きなんですよ、線の感じとか、8ページでストンと終わる感じとか。自分で言うのもなんですけど(笑)。
── 最後のコマで、スパッと終わらせる感じがいいですよね。
なかむら そう。描いてみて「8ページってこういうのかな」と思った。
── 『ロボットカーニバル』的なキャラクターが出ていますよね。
なかむら これは『ロボットカーニバル』をやっている頃に描いたんだろうね。
── その制作中の作品だろうと思います。連作シリーズのタイトルを「星の風」にしたのはなぜなんですか。
なかむら いちばん最初の「星の風」で、女の子が抱えているわけの分からない気分というのは、魂の感情だから。つまり、あの話の中で言っている星の風というのは、魂の事なんですよ。そういった事を話のポイントにして何話も作っていけば面白いかなと思って、「星の風」というタイトルにしたんだよ。
── なるほど。星を絡めて魂の物語を。
なかむら それが『ファンチル』まで続いているという事なんだけど。
── なるほど。『ファンチル』では、もっと直接的に魂の話になったわけですね。
なかむら そういう事ですね。
── 「星の風」はモーションコミックに描かれたものよりも、作品としてまとめようとする意識が強く働いている?
なかむら うん。そのつもりではいたんですけどね。自分でも、このシリーズは割と好きですよ。
── 原案として、MIEKOさんという方がクレジットされてますが。
なかむら これはうちの奥さんです。第1話の「星の風」もアイデアを出してくれたし、ラストに掲載した描き下ろしの「TWILIGHT」は、彼女の夢ですから。
── そうなんですか。
なかむら カミさんが5歳の時に見た夢の話を聞いて、面白いと思って、なんとかそのまま画にしようと思ってやったんですよ。
── 第2話から第6話までも、奥様のアイデアが入っている?
なかむら 入ってますね。
── 始まり方からオチまで、奥さんのアイデアなんですか。
なかむら オチとかではなく「こんな感じの雰囲気はどう?」みたいな。「TWILIGHT」に関しては、オチまで、夢のままです。あの自分の父親の足が斬られてしまうというオチが面白くて、マンガよりも映像化したいと思ったぐらい。
── 奥様が子どもの頃にみた夢でも、ああいう不思議な村……。
なかむら あれはね、彼女の実家なんです。そこを夢の中で見たんです。
── じゃあ、ストーリーとしては決まっていたんですね。てっきり、違うオチを考えてたんだけど、描いている最中で新しいアイデアを思いついて、ああいうふうにまとめたのかと思いました。
なかむら あ、それは全然違いますね。最初からあそこがやりたかったんです。鬼が出て、不気味に家の周囲を回って、それを取り残された子が見てしまった。で、その罰として、見てしまった女の子じゃなくて、親の足を持っていく。それが面白いと思ったんですよ。
── 話は戻りますけど、『AKIRA』の作業のために連載が中断して、『AKIRA』が終わった後は自分の監督作品の企画を始めたため、マンガを描く機会はなくなったという事ですね。
なかむら そうですね。マンガというのは、アニメーションに比べればすぐかたちになるから、ある意味ではやりやすいんです。だけど、自分は音と空間のあるアニメーションに惹かれている。オリジナルのアニメの企画をやりながら、それと別にマンガのためにストーリーを作って、描いていくエネルギーはなかなか湧いてこないというか。
── 今回の描き下ろし「TWILIGHT」が久々のマンガ作品になったわけですね。
なかむら まあ、これは短編だったから描けた。
── だけど、またマンガを描かれる予定があるんですよね。
なかむら ええ、まだどうなるか分かんないですけど。それは、アニメーションの企画としてリンクさせるつもりでやってるんです。
── 「夢の中へ」は、アニメでやりたい事をマンガで描いてる感じもしますよね。
なかむら それはそうかもしれない。
── 「夢の中へ」は、本当はOVAとかでやりたい内容をマンガにした感じで、「星の風」はマンガならではのものをやろうとしてるように思いますね。
なかむら ああ、なるほど。
── だって、「ケッペル氏」はアニメではやりたくないでしょ?
なかむら いや、そんな事ないよ。ライナー・チムニク(Reiner Zimnik)という絵本作家がいて、「タイコたたきの夢」とか「クレーン男」といった本が、矢川澄子さんの訳で出てるんですよ。「クレーン男」というのがいいんですよ。ケッペル氏に似てるわけではないけど、現実とファンタジーが混在してるような内容で、それがとても面白い。「ああ、これはアニメーションにしてもいいものになるな」と思うぐらいに、魅力あるんですよ。だから「ケッペル氏」みたいなものも、売れるかどうはおいといても、アニメーションとして作れない事はない(笑)。
── なかむらさんはファンタジーとはいっても、空間的にはリアルなものを作っていて、ああいう平面的な空間の捉え方のものは、映像ではやってないですよね。
なかむら あまりやってないですね。
── アニメでも、そういうのをやる可能性があるんですね。
なかむら いやあ、それは分からないですね(苦笑)。
── やっぱりアニメになると、つい奥行きとか空間を描きたくなるんじゃないかと。
なかむら ねえ。それは思いますよね。ペタッとしたものだと欲求不満になりそうな。
── 僕は、そういうなかむらさんであってほしいですよ。
なかむら (苦笑)。
── 最後に、単行本として作品がまとまった事について、感想をいただけますか。
なかむら 本当は単行本化の話をもらった時に、ちょっと抵抗あるな、とは思ったんだよ。「収録する作品の全部が、マンガとして魅力があるのかな?」と思ってしまったんです。だけど、自分が描いたものがまとめてもらえたのはありがたいし、と思っています。