WEBアニメスタイル
更新情報とミニニュース
トピックス
ブックレビュー
もっとアニメを観よう
コラム
編集部&読者コーナー
データベース
イベント
 

 編集・著作:スタジオ雄
 協力:スタジオジブリ
    スタイル

WEBアニメスタイルについて メールはこちら サイトマップ トップへ戻る
アニメの作画を語ろう
animator interview
 板野一郎(2)
小黒 『ガンダム』に話は戻りますが、原画になられて、楽しく仕事できたんですか。
板野 やってましたよ。なんかね、名前が出てなくても、例えば、ハモンがカーゴで突っ込んでいった時の着弾や爆発とか(21話「激闘は憎しみ深く」)。ゴッグが地上用の対空砲台を鈎爪でバーッと潰して海から出てくるやつとか(26話)。あの辺も基本的には自分の原画なんで。
小黒 そうなんですか。
板野 だから、あの当時の爆発って、青鉢(芳信)さんの迫力のあるでっかい爆発と、中村プロのブラシを何枚も適当に重ねて差し替えちゃう爆発と、安彦さんのきれーいな爆発と、あと僕が描いていた爆発と、そんなんがあったんですよ。
小黒 なるほど。
板野 安彦さんは途中で入院されていなくなっちゃうんで、後半から、やっぱり大変だったんですけど。
小黒 最終回で、キシリアが頭を飛ばされるじゃないですか(43話「脱出」)。あそこは板野さんじゃないですか。
板野 はい、自分です。
小黒 あの前後もそうなんですか。
板野 はい。内臓も飛ばしたら(笑)、富野さんから「やりすぎだ!」って言われて、効果をかけられてあまり見えなくなって。
小黒 でも、コマ送りすると、ちぎれた腕やなんかが見えますよね。
板野 ええ。そこは僕です。
小黒 じゃあ、『ガンダム』の時も、撃たれてコクピットで人が死ぬ寸前とか、かなり……。
板野 結構やってますよ。
小黒 かなりやってらっしゃいますよね。
板野 あとは、基本的には、ドムのスカートの中にバーニアをつけたり、そういう、ディテールアップをしたんですよ。後で、劇場版の時は安彦さんも結構(ディテールを)つけてたんですけど。その前に、安彦さんがいないからって勝手な真似をし始めてるんですよ。例えば鉄人とか、ライディーンとか……。
小黒 あっ、鉄人を描いたの板野さんなんですか。
板野 はい。
小黒 当時ファンの間でも話題にになりましたよね(編注:『ガンダム』の戦闘シーンで、たくさんのジム、ボールに紛れて、鉄人やダイターン3らしきロボットが登場している。当時、アニメ誌でも記事になった)。
板野 ええ。ボールとジムしか描けなくて、いっぱい描いてると、だんだん飽きてきて。なんかのムックを見て「あ、鉄人描いちゃお」って(笑)。そしたら色指定から電話が来て、「すいません。ザンボットやライディーンは分かるんですけど、鉄人だけは色味が分からないんです。白黒の鉄人でしょうか? カラーだったら何色でしょうか?」と聞かれて。「あー、僕は白黒の鉄人しか知らないんですけど、カラーだったら何色なのかなあ」とか言いながら、変な相談を受けたりして(笑)。
小黒 黒っぽく塗ってありましたよね。え、ザンボットなんて出てました?
板野 出てますよ。
小黒 画面見ると分かります?
板野 ええ。描きましたよ。(実際の画面では)カットされてるのかもしれないけど、結構大判でたくさん描いたんですよ。飽きちゃって(笑)。
小黒 他に『ガンダム』で「ここは」というはシーンあります?
板野 なんだろうなあ。『ガンダム』じゃなくて、さっきの山本なんですけど。爆発してクルクル回って──爆発も変えちゃったんですね──クルクル回りながら遠くの方へ飛んで行って、キャノピーを開けて、山本が脱出してるんですよ(笑)。
小黒 あ、そうなんだ! 作画ではそうしちゃったんですか。実際の画面でもそうなってるんですか。
板野 ええ。でも実際の画面は黒く潰れて、火球の線が飛んだみたいな感じでした。「山本を殺したくないな」と思ったもので。そういう勝手な真似をたくさんしてるんですよ。
小黒 なるほど。多分、『イデオン』でも相当やってますよね。
板野 やってます。凄いやってます。
小黒 先日、まとめて『イデオン』を観たんですけど、乗ってる飛行機がやられて、コクピットの中でパイロットの顔が潰れるとか、燃えるとか……。
板野 ええ。『ガンダム』の最後の方で、湖川友謙さんと出会ったんです。安彦さんが入院されて、「アニメーターとしては再起不能で、もうアニメーションには戻れない、やってもイラストか漫画までだ」と聞いたんです。安彦さんの入院していた所沢の病院には、週に1回お見舞いに行ってたんですよ。安彦さんも「僕は子供もいるし、もう倒れられないから、ああいう激務はやれない」という話をされてたんですよ。「俺、先生がいなくなった。どうしようかな」と。その時に、こっちが『ガンダム』の後半で、椅子を3つ並べて寝ながら1スタジオで仕事やってる時に、変な髭だらけの眼鏡のおっさんが拉致監禁というか、拿捕されてきて(笑)。「この机を使ってください」と制作に言われて、安彦さんの机でキャラ表を作ってるんですよ。最初の1日めは本人も何も言わなくて、こっちも「あそこは安彦さんの席なのに、こいつ居座るつもりかなあ」と思いながら一所懸命仕事やってて。お互い寝ないでやってた。で、3日ぐらい一緒にやって。ある日起きた時に、その人が少し楽しそうな顔になってて。「君の名前はなんて言うの?」って言われて、「板野です」と。「紹介が遅れてなんだけど、僕は湖川友謙って言います。『ガンダム』の次の作品のキャラクターが上がらなかったんで、上がるまでここでやれと言われて、詰めに来たんですけど。君みたいなアニメーターは、最近では珍しいですよ」なんて。「仮眠しか取らないで、帰りもしないで、ずーっとやってる。昔はそういうのいたんですけどねえ。今度、家に遊びに来なさいよ。一応上がったので、僕は今日で帰りますから」って。で、名刺をもらって。「スタジオ・ビーボォー 湖川友謙」って書いてあって。その時は、それっきりだったんですよ。  『ガンダム』が終わって『イデオン』の制作が始まった。「ビーボォーで1話やってるから、板野君は2話やってくれ」と言われて、『イデオン』の2話の戦闘シーンやって。自分の分はさんざん、爆発、ミサイル、人殺して。「終わったー! 次は何話かなあ」と思ってたら、「1話の戦闘シーンのこぼれ分をビーボォーに詰めてやってくれ、と湖川さんから打診が来てるんだけど、板野君、どうしますか?」と言われて。「ああ、キャラ表を作ってた人ですね。名指しでやってくれと言われたんだったら、ぜひやらせてください」と言ったんです。そうしたら、ちょうど「アップに弱い平野さん」(平野俊弘)というのがいて。アップの1週間前に必ず熱出して風邪ひいて、カットを引き上げてもらうっていう癖のある人で。
小黒 それ、記事で書いちゃっていいんですか。
板野 いいですよ。
小黒 (笑)。
板野 で、湖川さんや平野さんのこぼれ分をやって。で、「やった! 1、2話で連続して名前が出るな」と思ってた。そしたら、「板野君、速いねえ。オープニングがまだ終わってないんだけど、イデオンの変形でパースが変わって大変なやつがあって、一応レイアウトはもう描いてあるんだけど、手伝ってくれないかな?」「分かりました、手伝いますよ」と。そしたら「悪い。板野君の原画を動画にしてくれる人がウチにいないんだ。動画までやって」と言われて(笑)、オープニングは動画もやらされた。で、「板野君、次は何話やるの?」「一応、サンライズの1スタの判断ですけど」と言ったら、「ビーボォーの次の6話をやらない?」って。「いや、あのー……はい」。で、「ついでにビーボォーに来ないか」「いや、教えていただけるんでしたら、ぜひ」って。社員になると、給料が安くなるんですよ。
小黒 歩合じゃなくなるからですね。
板野 そうなんです。『イデオン』の頃は結構稼いでいたんですよ。だけど、ビーボォーに行くと(固定だから)収入が減ってしまう。それでもやっぱり、巧い人の技を盗みたかったんで。安彦さんは演技力とか、上手な見せ方とか……例えばキャラ表ではハヤトが小さくても、アムロやブライトと並んだ時に、レイアウトとして見映えをよくするために、実写で言えばみかん箱の上に乗っけたりするみたいに、ちょっと高い位置にキャラクターがくるように描くんです。そうすると、パースは合ってなくても、凄くいい画になるとか。情を表す、丸みのある芝居が凄く巧くて、タイミングも巧くて。それと違って湖川さんは石膏デッサンをやってて、俯瞰とか仰りとか、もっと正確な画でドライに見せる。自分が安彦さんの画が描けなかったのは、(自分が)そこまで優しい人間じゃなくて、人間の事が好きじゃなかったんで。安彦さんから、しょっちゅう「板野君はメカは通用するんだけど、人間はクセがあって……」って言われてて。やっぱり特撮が好きだったんで、例えば、人間の芝居でも(ズバーッと見栄を切って)「貴様ぁー!」っていう芝居が好きだったんで。
小黒 ああ、ヒーローっぽい芝居が(笑)。
板野 ええ。だから、(自分が描くと)大げさなんですよ。カイにしてもハヤトにしても、地味な子どものくせに(笑)。「ガンダムはそのポーズしてもいいんだけど、このキャラクターがこんな事しちゃダメだよ」って怒られてね。安彦さんの画って凄く繊細で完成度が高いんで、全然そういうのが描けなくって。「あー、俺、人が描けないなー」って悩んでる時に湖川さんと会って、全然180度違うものを持ってる。で、安彦さんはもう帰ってこない……。
小黒 と、言われてて。
板野 そう、言われてたんで。それでビーボォーに行って、『イデオン』を一所懸命やって。戦闘シーンをバンバン作って重くして。大体、もう暗黙の了解で「ああ、ここは板野君好みだから、ここからここは板野君ね」と振ってくれて。で、湖川さんは自分の分を取るんだけど、大抵間に合わなくてこぼす。キャラは平野さんにこぼしを振って、メカはこっち。それで鍛え上げられていった。やっぱり、いい先生だった。勉強になったと言えば『ガンダム』の頃に1スタで安彦さんとか富野さんが作打ちやったり、ラッシュ・チェックやってるのが凄く勉強になって。安彦さんが倒れる直前か、その辺なんですけど。エルメスのビットっていう。
小黒 ああ、なるほど。
板野 サンライズは安彦レーベルとか湖川レーベルとか、作品を代表する将軍がいて、その下にいる人はあんまり名前が出ていかなかったんですよ。その中で、(自分は)安彦さんの芝居を描けないから、出ていけないんですけど、そうじゃないところで何かないか模索をしてたんです。僕が原画やり始めてから、(自分が描いた)メカとか爆発のタイミングを必ず安彦さんが直してて、安彦さんがいなくなってからは演出が直していた。シリーズは原画2枚の中3枚みたいな決めつけがあって、それを1回、中1とか中なしでシートつけて出したら、担当の演出さんが「板野君は中なさすぎ、早すぎだ」と言って、直しちゃって3コマ打ちにして。僕はその代わりに予備動作を原画で描いてるのに、分かってくれない。原画と原画の間の点々しか見てないんで。画が描けない人は、シートでしかタイミングの事を見れないんだな、と思って。
 その演出は酒飲みで、酒を飲みに行って帰ってこなかった日があって。その時に、撮影行きのカット袋を引っ張り返して、全部シートをつけ直して(笑)。で、ラッシュで見せてもらったら、富野さんが立ち上がって、「ここら辺の原画をやったのは誰だー!」ってその演出に言って。「えっと、板野君なんですけど、なんか僕がチェックしたシートと違うんですけど」「お前はどういう風にチェックしたんだ」「僕はTVシリーズだから、中3枚でやったんですけど、このラッシュ見てると違うんですけど」。で、「板野君がやったのか」「はい、演出さんが酒飲みに行ってる間に直しました」って。そしたら、演出に「『ガンダム』っていうのは今までのロボットのアニメーションの既成概念を破って、子どもだけのアニメーションじゃなくすために、いろんな新しい事をやってるのに、そんなTVの決めつけとかを押しつけるな」と。「なんで今までこういうのが出てこなかったのか、それはお前達がそうやって古い規格に沿うかたちでやるからだ。これはいいじゃないか!」と怒って。それで、富野さんが「好きなだけ好きな事やりなさい。この演出なんかどうでもいい」と言ってくれた(笑)。それで例えば、ジオングのデザインなんかでも、富野さんが描いた「こんな風にしたいんだ」という大ラフがあって、それをこっち側がちょっと形を整えて、大河原(邦男)さんの方に回って仕上がる、という風にしてデザインができたり。
小黒 板野さんがデザインの途中に関わっているんですね。
板野 ええ。途中の工程に関わったり、何かいろんな事をやらしてくれるようになった。当時、作画で自由な事ができたのは、スタジオNo.1とかZでやられてる金田さんのグループですよね。(金田さん達は)組織でやっていて1本丸々変えるんで、修正もしにくい。それだけの才能も実績もあったんで「あれは、あのままやらしとけ」と勝手な事が許されていた。あの頃だと、そこそこ描ける人はビデオデッキを買って、みんな、コマ送りで金田タイミングとか(を見て勉強していた)。金田さんのアニメーションセンスっていうのは、南斗聖拳みたいにたくさんの人に広まっていったんですよ。
小黒 なるほど(笑)。
板野 で、僕はやっぱり金田さんのセンス的な爆発じゃなくて、そうじゃないものをどうにかして(作り出したかった)。僕の方は地道に、市役所とか区役所に電話して「木造の建物を壊したりする、ビルとか学校があったら教えてください」って。「一体、あなたはなんなんですか」と言われて「自分はその、TVマンガの絵描きで、映画観たりアニメーション観たりするだけじゃなくて、やっぱり3次元の立体をデッサンをクロッキーして、2次元に落とし込んで、新しいエフェクトとか手法を(作り出したいんです)──デッサン教室に行っても、石膏が置いてあるか裸の姉ちゃんがいるだけだから、実際にそういう現場が見たいんです」と言ったら、「ああ、だったら、練馬の××小学校っていうところで、休みを使って木造校舎を壊してますから」って教えてくれた。で、日曜日にそこへ行って見たんです。だいぶ壊れてくると、木をグラウンドの真ん中に集めて、その時はダイオキシンとか気にしてないんでバンバン野焼きしてたんですよ。そうすると、でっかい焚き火なんで、冷たい空気が足元から流れていって、煙を巻き込んでいく。それまでの煙は(フォルムのパターンとして)丸、ちっちゃい丸、おっきい丸とあって、それが中3枚のリピートで、平面的に移動するのが多かった。でも本当は、巻き込んで、回転して、しかも同じ大きさじゃなくて、広がったり形を変えて枝葉に分かれていく形になる。(当時は)『ヤマト』のヒトデ爆発とか、パターンがみんな決まってたじゃないですか。
小黒 四方に広がっていくやつですね(笑)。
板野 そのパターンにはめるのが嫌だったんです。TVでも、ループにしたりして簡略化しながらも、見栄えがしてかっこいいと思えるものはないか、っていうところで、立体感をつけたり、空間を一所懸命意識したりして。だから、それが上手くいってるのが、『イデオン』のアディゴとかで、だんだん……。
小黒 花開いたわけですね。すいません、今の話ですけど、小学校の取り壊し自体は見てないんですか?
板野 いや、取り壊しも見てました。
小黒 むしろ、その後の燃やしてる煙とかの方が参考になった?
板野 はい。取り壊してる時の、鉄球がバーン! って当たって、ボゴーン! ってぶち壊れる時の、衝撃とか煙の流れとかも。
小黒 ああ、その時にも煙は上がるんですね。
板野 はい。だけど、一番印象に残ったのが、燃やしている時の巻き上がる黒煙なんです。「凄いっ! 煙ってこんなにかっこいいもんなんだ! 炎ってこんなに美しいもんなんだ!」と。形は同じじゃないし、だけど遠くから見てるとリピートに見えるし、よーく見てると全然みんな違うし。これを上手く画にできないかなって。他には、雨の滴のしたたりを見て『ガンダム』の時の円形の爆発とか(を作って)。それもただの円形が広がるんじゃなくて、半欠け、三日月、あと子ども(の爆発)をいっぱい描いたりとか。そういうところで、アニメーションのデフォルメが活きるリピートとか、そういうのも一所懸命に勉強して。
小黒 実際に色々見て、採り入れていった、と。
板野 ええ、実際に色々見たり、体験したりしてやる癖がついてる。
小黒 なるほど。その中でも、その小学校の取り壊しは大きい体験だったんですね。
板野 ええ。
小黒 取り壊しに行ったのはその1回だけなんですか?
板野 いや、何回か、鉄筋も見たかったんで。鉄筋の方が埃が出るじゃないですか。鉄筋も何回か行ったら……。
小黒 煙を見に行ったんですね(以下に、花火を使った遊びの話題が出てきますが、危険ですので、決してマネをしないでくださいね。念のため)。
板野 そう、燃やしてる煙じゃなくて。で、鉄球で壊すんですよ。でっかいやつで、ボーンと。それで何回か行ってたら、なんか喉は痛いし鼻は詰まるし、聞いたら古い小学校なんかの時はアスベストがいっぱいでヤバイって事で(笑)、あんまり行かなくなったんですけどね。ただやっぱり、取材に行くのは大事だなって。  例えば、“板野サーカス”のミサイルだって、自分の経験が元になっているんですよ。高校時代に自動車部の連中と仲良くなって、バイクの側面のフロントフォークに旋盤で発射台を作って、ロケット花火を撃てるようにしたんです。八木アンテナ拾ってきてポキポキ折って、(両サイドに)50本ずつハンダでつけて。八木アンテナって鉛のアンテナで、中が空洞になっていて、ロケット花火の竹ひごがちゃんと入るんですよ。トレールバイクだったんで、アルミの板を風よけにして。時速が大体70〜80キロで、100円ライターからジッポーのライターまでいろんなライター買ってきて、風洞実験して消えないライターを選んで。で、爆竹をいっぱい何百本も買ってきて、ほぐして。爆竹の導火線って、爆竹本体がこのぐらい(7cmくらい)だとすると、こんなに長いんですよ(10cmくらい)。その導火線を、両サイド50本のロケット花火に全部つなげて、計100本。それを用意して、江ノ島に行って。江ノ島海岸の、島に渡る橋があるでしょう。平日は、島の方から来る車はないんですよ。土日とか祝日に島に駐車した人が帰ってくるくらいで、平日はほとんどない。そっち方面に走って「よーし、キカイダーVSハカイダーごっこだ!」と言って。昔、特撮の「(人造人間)キカイダー」で、(マシンに乗った)キカイダーがハカイダーに追われて、変な黒い丸が道路に置いてある方に行くと、その丸がバーンと爆発するんですよ。(ハカイダーのバイクには)フロントフォークにロケット花火を仕掛けてあるんだけど、風で全然キカイダーに当たってないんですよ。だから避ける事ないのに、キカイダーは黒い丸の方に走って行って、ミサイルが当たってないのにボーンと爆発する。「これは面白いから俺達もやろうよ」と言って始めたんです。ジャンケンで勝った人がハカイダー、負けた人がキカイダー。
小黒 負けた人が撃たれる役なんですね。
板野 ええ、撃たれる方ですね。それで、道路で撃つんですよ。ハカイダーは最初に撃った瞬間、パパパーッと煙にまみれて、(煙の中から)シュバーッ! と出て行くのが気持ちいいんですけど、でも、ハカイダーはそれっきりなんですよ。追われるキカイダーの方は、バックミラーにロケット花火がどんどん近づいてきて、目の前をよぎったりする。
小黒 ああー。
板野 それが目の前で爆発したりする。全然キカイダーをやっている方が面白いんですよ。やって初めて分かった(笑)。実際にやってみると、結構楽しい画が見えて。ロケット花火のミサイルを撃ち尽くすと、そのままアドレナリンが出たまんま、今度はドラゴン花火とか、38連発とか46連発の花火でお互い撃ち合って(笑)――今で言うサバゲーですよね、ちゃんとヘルメット被って、手袋して、革ジャン着て、バンバン撃ち合って。
小黒 それはバイクから降りて、ですよね。
板野 うん、降りて。海岸で敵と味方に分かれて。海岸でバンバン、ウワーッて決戦みたいに。で、途中で38連発がなくなるとそれをかなぐり捨てて、今度はネズミ花火の束にそのまんま火を点けて(笑)、手榴弾みたいに思いっきり投げる。ネズミ花火がここ(襟の中)に入っちゃって、火傷した奴がいて、みんなで「ああ、花火は人に向けちゃいけないね」と言って(爆笑)、やめたんです。
小黒 (笑)。そういった体験が活きてるわけですね。
板野 ええ。みんな、戦闘シーンにみんな活きてるんです。体験を活かしてやるんです。
小黒 ロケット花火は何度かやってるんですか。
板野 そうです。機械科の友達が多かったんで、旋盤とか自由に扱ってて、フロントフォークにアルミの傘みたいなのをつけて。そこに(直角に)八木アンテナをつける。これは鉛のアンテナで空洞になってるんですよ。そこにロケット花火の竹ひごがちゃんと入るんですよ。で、花火の火薬部分が出てて、その導火線に爆竹の導火線をどんどん繋いでいくんです。それがちょうどこのぐらい(運転者の目の前あたり)まで来て、そこにはカバリングがあるから時速70キロでも火が消えないんで、ジッポーのライターで火を点けて、ピシュピシュピシューッ! ピシュピシュピシューッ! と、ね(笑)。……そういう遊びをしてたんですよ。火傷してやめた(笑)。
小黒 そのロケット花火って、何度かやったんですか。
板野 何度もやりました(笑)。バイトしちゃあ、花火買って。
小黒 さっきの話なんですけど、『ガンダム』のエルメスで、シートをちょっと工夫したというのは、ビットのあの動きですか。ピッピッピッていう。
板野 そう、ピッピッピッ。「早すぎて、これじゃあダメだよ」って。
小黒 それから、先ほどの『イデオン』のオープニングですけど、原画も描かれたんですね。どのカットですか。
板野 (OP終盤の)イデオンが立ち上がるのは、湖川さんがやったんですよ。僕がやったのは、そんなにかっこよくなくて、変形して首のところが広がって、合体するあたりとか。
小黒 1話で使われた本編の合体も描いてる?
板野 ええ。
小黒 1話の合体は、まるまるやってるんですか。
板野 まるまるではないですね。でも、かなりやってます。

●「animator interview 板野一郎(3)」へ続く

(05.01.20)
一覧へ戻る


Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.