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アニメの作画を語ろう
animator interview
 板野一郎(3)
小黒 なるほど。で、『イデオン』の29話「閃光の剣」のアディゴから、“板野サーカス”が始まったと言われていますが。
板野 はい。
小黒 ものすごいインパクトでしたよ。アディゴの動きはコンテでもあんなに?
板野 いや、コンテでは、あそこまではなかったんですよ。コンテでは何機かがミサイルに当たってやられて、1機ぐらい避けるという内容だったんです。それをロケット花火を思い出しながら描いて、ガンガン(カメラを)フォローさせて、ミサイルがまとわりつくように動かして──(バッフクランはイデオンと)重機動メカで戦って、敵わないから小さいメカを出してきたわけですよ。ちっちゃいから、それだけ速くてミサイルを避けるだろうと考えて。雑魚でも「死に花を咲かす」というところを出したかった。顔が出ないパイロットでも、やられメカでも、そういう粘り強さとかがあると、真剣に戦いながらもやられたというニュアンスが出る、それが凄く大事なんじゃないかと思ったんです。そういう事をやっていたので、目立っていたかもしれません。
小黒 通常のカッティングとスピードが全然違うんですが、カット数を増やしたりしたんですか。
板野 尺は増やしてますよ。カット数が増やせない分、1カットで3カット分やったりしてますから。
小黒 イデオンのミサイルを避けるカットが、5カットぐらい続きますけど、元々ああいうカット割りでは……。
板野 ないです。
小黒 ないんですね。それは元々1カットだったのを、何カットかに割ってるんですよね。
板野 はい、そうです。
小黒 ミサイルから逃げて奥にいたアディゴが、また手前に戻ってきたり(笑)。
板野 はい(笑)。観ている人の不意を突いたり、そういうのが好きだったので。まあ、あれを観てアニメ界を目指したっていう人が、後で何人か出てきて……。
小黒 そうですね。
板野 その時は嬉しかったなあ。『ルパン』を観て「うわあ、こんなTVマンガを作る人はどんな人達なんだろう」と僕らが憧れていたように、「自分も1回はこういう仕事をやってみたいな」と思ってもらえるような画作りが、1度でもできたのはよかった。そう思いましたよ。それができたのも、安彦さんや湖川さん、そして、富野さんのおかげなんですけどね。後から振り返ると、いい先生に恵まれて、かなりいい勉強をしていますよね。
小黒 爆発の形もさる事ながら、ミサイルが残す煙の軌跡も独特でしたよね。あの煙は、どうやって描いてたんですか? 普通に鉛筆で?
板野 鉛筆で描いてますよ。普通にというか、ヨレヨレ線とか言われてるんですけど。普通は、いいアニメーターって、タコができるんですよ。ここに(人差し指の第一関節)ペンダコがね。僕は、タコができないで、指が曲がるんですよ。
小黒 へえ。
板野 筆圧を抑えて、強弱つけるんですよ。それと、早いタイミングを使う時に、例えばミサイルだけだと(速い動きを目で追えないために)UFOになっちゃうんですよ。だからUFOにならないように道しるべとして、煙を使った。その煙が目に残る気持ちよさにこだわっていたんです。僕はレンズにもちょっと詳しかったので、広角レンズ・望遠レンズ・標準レンズの使い分け(を意識した)。それもカットごとに決めないで、1カットの中で広角から望遠に切り替えたり。
 「リアリティ」というのは「本当に近い嘘」だと思ってるんです。手品と同じで、別角度から見たらネタはバレちゃうんだけど、お客さんから見て不思議に見えればいいや、という考え方ですよね。(ミサイルの動きが)一瞬だけ、シャッタースピードより速くなって、ミサイルがソーセージのように伸びたりとか──やっぱり一番つまんないなと思ったのは、400ミリとかの超望遠レンズで安全なところから国境沿いに戦争を撮って、飛行機が領空侵犯しました、それに対してミサイルが飛んできました、爆発しました、というような感じで描いたものだったんです。そういう状況説明的な戦闘シーンが大っ嫌いで。だから、ミサイルにカメラをくっつけたりしたんです。
 僕は軍事オタクというわけではないんですけど、一応、工業高校出身ですから、そういった事に興味もあって、戦闘シーンに関してそこそこの知識はあったんです。普通に考えればミサイルも曲がったりしないで、真っ直ぐ目標に近づくのが一番当たりやすいはずなんですけど、それを防ぐため(戦闘機には)チャフやフレアがあるんですよ。で、大体の飛行機は「レーダーロックされて何秒後に当たります」と警告が出るんで、その時にレーザーセンサーのミサイルであれば、(戦闘機は)チャフという銀紙を細かく切ったやつでレーザー波を攪乱して、本体に当たらないようにする。熱追尾のミサイルなら、フレアというダミーの熱源を左右に放つ。そうすると、熱源センサーを使ったミサイルからは、飛行機が分身の術を使ったみたいになって、どこが本体だか分からないから当てられなくなる。
 (『マクロス』などで自分が作画する時は一度にミサイルを)6発ぐらいは撃ってるんですよ。少なくとも4発ぐらいは撃つんです。その内の2発が敵機を追尾してまっすぐ飛ぶ「マジメな優等生」。もう2発が先読みをする「頭よすぎるミサイル君」(笑)。パイロットっていうのは、エースパイロットでも(耐えられるのは)9Gから11Gまででしょう。プラス(の加速度)ではその辺りまでしか耐えられない。マイナスなら3Gまで。マイナス方向に行くと、レッドアウトして、眼球の血管が切れて修復できないので、マイナス方向のGはかけない。かけるとしたら、ブラックアウトする方向──血が下がっていく方だ。だから、パイロットのGスーツっていうのは血圧計(の腕に巻くバンド)のでっかいのをここ(足)に巻いて、血が下に行かないようにしてある。それで、生身だと9Gまでしか耐えられないのを11Gまで耐えさせて、Gに耐えて敵の後ろをとって敵を落とすっていうのが、ドッグファイトなんです。飛行機の戦いは、敵の後ろを取った方が勝ち、と言われてて、犬にとっては尻尾が弱点なんで、喧嘩する時にお互いグルグル尻尾を噛みに行くんだけど、その犬のケンカと同じなんですよ。それで、頭よすぎるミサイル君は「このパイロットは11Gまで耐えられるとして、あの機体精度ならマッハ2で旋回できるから、たぶん限界を保ちながら、マックスでそこに行くんだろう」と計算して、先にそっちへ行く。で、そっちに行った時にちょうど当たるようにする。まあ、先読みをするわけです。で、もうひとつのタイプがあって、これが「バカミサイル」(笑)。前の2タイプは基本的にはヒット狙い。最後のタイプはフマジメで、劣等生でアバウト。優等生も先読み君も行かないところに適当に飛んでいって、「僕達は当たらなくていい」と言って近くを飛ぶ。近接信管ってやつで、当たらなくてもいいから近くまで来て、そこで爆発して、いやがらせをする。羽や機体に破片を当てたりして、調子を悪くさせる。大体、優等生、先読み君、バカミサイルが一緒に飛んでいって。で、バカミサイルはバカだから、カメラがいると必ず寄ってくる(笑)。「イエーイ」なんていって、カメラに挨拶をしてから行く。そういうミサイルなんですよ。
小黒 なるほど。確かに、『マクロス』では手前で爆発するだけのミサイルがありましたね。そんな風に考えて描いてたんですか。
板野 はい。
小黒 それはいつぐらいからなんですか。『マクロス』の時はそうなってますよね。
板野 なってますね。
小黒 『イデオン』でもそうなってるんですか。
板野 はい。そういう風に考えていれば、監督や演出から「なんでミサイルが曲がるんだ!」と突っ込まれた時に、ちゃんと理で返せる。そうすると、向こうは何も返せない。突っ込んでくる人達はチャフも知らないし、レーザー追尾も知らない──まあレーザーは知ってたかもしれないけど――なんにも知らないんで。だから『ガンダム』のTVの最終回(43話「脱出」)の時に、(ア・バオア・クーの中で)セイラが手前に来て、振り向いてバーンって撃つカットが(演出のチェックで、弾の動画が)中3枚になっていたんですよ。あの距離って50mもないのに、中3枚動画が入ってて。バーンと撃って、1、2、3、4、で5枚めで当たってる。そんなに遅い弾はないですよ。シートでリテイクがきたんだけど、「拳銃の初速って何m/秒だか知ってます?」という話を演出として。「ここからセイラがジオン兵を撃つ時に50mしかないのに、中3枚なんかあったら初速も遅いし、当たったって跳ね返りますよ」と言って。それで、中を全部抜いたりとか。
小黒 あそこも板野さんの原画なんですか。
板野 ええ。逆に、中を3枚抜いた分、3枚分の予備動作を作った方がいいじゃないですか。
小黒 撃つ前のキャラの芝居などに使った方がいいって事ですね。
板野 『さらば』をやっている頃から、そうやって理屈こねてたんで。平気でツッコミを入れてたんで。
小黒 なるほど、リアル志向なんですね。
板野 ええ。
小黒 『イデオン』の頃の話なんですけど、湖川さんのパース理論は、参考になったんですか。
板野 なりましたよ、僕も電機科だったんで、設計パースをやらされてたんですよ。T定規使って、三点透視とか。アニメーターってパースに疎い人が多いんですが、湖川さんは石膏とかやられてたんで、パースに詳しかったんですよ。で、湖川さんは最低でも二点透視。アニメーターは大体一点透視しかしなくて、BGはどうでもいいみたいな感じなんだけど、湖川さんはそういうのが大っ嫌いで。湖川さんのパースっていうのは、建築パースとは違って──基本は建築パースと同じなんですけどね――やっぱり画をかっこよく見せたり、パースだけじゃなくてレンズ効果も入ってる。その辺が設計のとは違っていた。湖川さんの画作りの中には、レンズで標準・望遠・広角がちゃんと分かれてる。湖川さんの特徴的な俯瞰・仰り──キャラクターを仰ると、ブタっ鼻になるじゃないですか。(『さらば宇宙戦艦ヤマト』の)ズォーダーもそうだったし。ブタっ鼻になるけど、かっこよく描こうとしないで、そういった意味ではリアルに描く。あとは、湖川さんは巧いから、ズォーダーが大スクリーンに映ってる時には、スクリーンに映ってる平面感を出していた。今だとphotoshopの貼りつけで角度を変えるところですけど、それを手で描いていた。他の人が描くと、スクリーンの中に人がいる感じになっちゃうんですよ。それをちゃんとぺったんこにしてたりとか。その辺のリアリティが。
小黒 並はずれたモノがありましたね。
板野 ええ、「凄いな」と思いました。安彦さんには柔らかい面とか、強弱、ためや詰めを教わって、湖川さんにはそういうリアリティを勉強させてもらった。その時は、手取り足取りじゃないですよ。見て盗んで覚えるっていうやつです。
小黒 そういった事もあり、板野サーカスが開花するわけですね。
板野 はい。
小黒 もう少し聞かせてください。湖川さんは安彦さんみたいに、原画マンに一原を描いて渡したりというやり方はしてないんですよね。
板野 してないです。湖川さんは(原画マンが)描いたやつに修正を乗っけるタイプなんですよ。湖川さんはまず(レイアウトと原画を)描かせて、それをレイアウトだけ全修正する。で、「これに合わせて(原画を)描き送っておいて」という感じなんですよ。
小黒 ビーボォーの回では、湖川さんがレイアウトを描いて渡すようなやり方はしてないんですね。
板野 『銀河鉄道(999)』のTVシリーズを湖川さんがやった事があって、その時はレイアウトを描いてもらいました。ただ、太いマジックで描いていて、ラフなものでしたよ。さっき言った『イデオン』オープニングの変形の何カットかは、湖川さんが自分で(原画を)やるつもりで描いたレイアウトがあったカットもありました。でも、それくらいです。他は(湖川さんからレイアウトをもらって原画を描いた事は)ないですね。
小黒 そのオープニングのレイアウトも、ラフなものだったんですね。
板野 ええ。
小黒 安彦さんが描くようなものではないんですね。
板野 安彦さんのはレイアウトと言っても、ほとんど原画なんですよ。それを渡して「この続きはあなた、描いてね」と言われるんだけど、(安彦さんと同じ画が)描けるわけない(笑)。それは大変でしたよ。湖川さんは、そうじゃなくて、描かせてから乗っけるタイプでした。
小黒 板野さんは『イデオン』の劇場版では、どのあたりをお描きなんですか。
板野 三脚メカがソロシップに乗り込むあたりの乱戦を稲野(義信)さん達のスタジオバードがやっているんですけど、それ以外の(劇場用新作カットのメカは)ほとんど僕がやってるんです。
小黒 ちょっと他の人の話になっちゃうんですけど、三脚メカがソロシップに入った後で、ドバ総司令と、髪の毛が緑色のオジサン(ギンドロ・ジンム)が話してるシーンがありますね(ギンドロ・ジンムが撃たれるシーン)。あそこは誰の作画なんですか。
板野 あのあたりは湖川さんですね。平野さんもやっているかもしれない。
小黒 全身のカットでの個性的なポーズとかは?
板野 あれは湖川さん。
小黒 今さら言うまでもないですが、とてつもない巧さですね。『発動編』の前半は、TVシリーズ用に作画してたところですよね。中盤以降が新作で、そのメカアクションは、ほとんど板野さんがやられた?
板野 そうですね、こっちでやってますね。一番最後のイデオンが(バイラルジンに)突っ込む2、3カットはやってないんですよ。その前まで(メカは)僕が全部やってたんですけど、そこだけ湖川さんが描いているんです。その頃、ちょうど安彦さんから『ガンダム』の劇場を手伝ってくれ、と言われて。僕は、湖川さんと安彦さんの両方に義理があったので、劇場『ガンダム』と『イデオン』の両方を行ったり来たりして劇場を手伝っていた。それが湖川さんは面白くなかったみたいで、ちょっと関係が悪くなってしまって。それで『発動編』が終わったところで、ビーボォーを辞めるんです。その後ですよ。北爪(宏幸)君達が入ってきて。
小黒 『発動編』で、板野さんは人物は描いてないんですか。人が死ぬところとか。
板野 いや、何人かは殺してますよ。
小黒 あ、やっぱり。
板野 はい。メインは湖川さんがやってるんですけど、大体コクピットで押し潰される敵はほとんど描いてますね。
小黒 余談ですけど、手前にベスがいて、後ろで富野さんらしきキャラクターがコンテを持っているカットがあるんですけど(笑)。あれは誰が描いたんですか?
板野 あれは、修正は湖川さんが入れてると思います。
小黒 原画は誰だか分からないんですね。
板野 う〜ん、原画は誰だろう。あの辺だと平野さんかもしれない。

●「animator interview 板野一郎(4)」へ続く

(05.01.28)
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