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アニメの作画を語ろう
animator interview
 板野一郎(4)
小黒 なるほど。『(機動戦士ガンダムII)哀 戦士』も参加なさってるんですよね。
板野 メカの、そこそこのところを描きました。安彦さんの作品は『クラッシャー・ジョウ』まで、劇場はやってます。その後、河森(正治)に誘われて、『(超時空要塞)マクロス』に行っちゃうんですが。
小黒 『(機動戦士ガンダムIII)めぐりあい宇宙』があるんですけど、これは相当の量を描いてますよね。
板野 描いてますよ。多分、見れば分かると思うんですけど。
小黒 ええ。煙で分かります。その前後と、全然……。
板野 違いますよね。
小黒 違いすぎるくらい違います(笑)。ちょっと分からないところがあるんですけど、2体ザクがいて、後ろの上官のザクが「お前、先に行けよ」って後押しするカットがありますよね。穴の中に身体を隠して、手だけ出して指差すんです。そこに板野さんのミサイルが飛んできて、ドカーンと爆発するんですけど。
板野 はいはい。あれは、基本は安彦さんのレイアウトが入ってるんです。
小黒 ですよね? いや、ザクの手は、安彦さんの画なんですよね。
板野 はい。でも飛んでくるのは……。
小黒 飛んでくるミサイルは板野さんなんですよね。あー、やっぱりそうか! それで分かりました。
板野 芝居は安彦さんなんですよ。安彦さんの第1原画とレイアウトは入ってます。
小黒 映画『ガンダム』の新作でも、全部に安彦さんの第1原画があるわけじゃないんですよね。
板野 基本的にレイアウトは全部あったと思います。でも、全部の動きが入ってるわけじゃなかったと思う。
小黒 当時、ムックに安彦さんの第1原画が載ってたじゃないですか。A1兼レイアウトが1枚、それと動きの途中の画と、エンドとか。全部のカットをあんなに描いてるわけじゃないんですね。
板野 最初の頃はかなり描いてますよ。普通は、最初と最後だけ。肝心なところはラフが何枚か描いてあって。だけど、大判とかリピートはレイアウト1枚とか。例えば(劇場版1作目で)ザンジバルが目くらましをして行くところは、レイアウト1枚でした。『クラッシャー・ジョウ』でも、僕は、空中戦は安彦さんのレイアウトに、自分のフォルムを乗っけて描いていたんですけど、空中戦以外の宇宙船は、全部安彦さん(の第1原画)なんです。僕が手伝ったのは『クラッシャー・ジョウ』の……。
小黒 真ん中のところですよね。チンピラ2人組のやつと、主人公達の空中戦ですよね。
板野 そうです。
小黒 じゃあ、最後の艦隊戦は安彦さんなんだ。
板野 ええ、安彦さんの原画です。煙が違いますよね。
小黒 でも、ちょっと安彦さんも、板野さんを意識しているんじゃないですか。
板野 スピードは意識しているんじゃないですか。
小黒 随分変わりましたよね。
板野 煙のフォルムとタイミングが、やっぱり違うんですよ。
小黒 じゃあ、『クラッシャー・ジョウ』の時も、基本的に安彦さんは、全カット、何かしら描いてるんですね。
板野 はい、描いてます。
小黒 キャラクターのところの方が、枚数多いんじゃないですか?
板野 メカのところは、1枚レイアウトで「こんな感じで」というのか、もしくは2枚で最初と最後、というのが多いんですよ。特に煙と爆発の凄いのとかは、そんなには描いてないんです。
小黒 劇場『ガンダム』や『ジョウ』だと安彦さんの作品だから、『イデオン』みたいな奥行きのある空間はあまり描けないですよね。
板野 ええ、描けないです。描いても、修正で直されちゃったりしてるんですよ。やっぱり安彦さんの世界観というものがあって、でもそれはそれでかっこいいんで、全然問題もないし、不平もなかったんですよ。逆に湖川さんとやった時は、放ったらかしにしてくれて、それも不平はなかったんです。(自分が勝手な仕事をしても)湖川さんは庇ってくれた。「好きにやっていいよ。ビーボォーがやったって言うから」と言ってくれて。固定概念を持った演出に対しては「ビーボォーはビーボォーで統一してるんだからいいだろう」と弁護してくれて。だから、開花したのはビーボォーのおかげですね。
小黒 なるほど。しかも、湖川さんの世界観と板野サーカスの間には、矛盾はなかったわけですよね。
板野 ええ、ないです。
小黒 “板野サーカス”という呼び名は、どなたがつけたんですか。
板野 誰かというのはっきりしてないんですけど、(スタジオ)ぬえの誰かが「板野の戦闘シーンは変わってる。サーカスみたいだ」と言い出したらしいんです。それまで(いいところは)全部安彦さんがやってると思ったのに、『ガンダム』の途中で安彦さんが倒れた後に、そこそこかっこいい戦闘シーンがある。それで「誰が描いてるんだろう」と話題になったらしくて。それでアニメ雑誌に「プロの中で、戦闘シーンが『サーカスみたいだ』って言われてるんですよ」という記事が書かれた事があったらしくて。それで板野サーカスと呼ばれるようになったみたいなんです(編注:「マイアニメ」1982年11月号で、メカデザイナーの宮武一貴がインタビューに応え、「ぼくらは“板野サーカス”っていってるんですけど」と発言している。なお翌12月号では“板野サーカス”の特集記事が掲載されている)。
小黒 なるほど。『マクロス』は、河森さんから声をかけられて参加する事になったんですね。
板野 そうですね。『クラッシャー・ジョウ』で、九月社という安彦さんのスタジオに彼がデザイナーとして来るようになったんですよ。その時に、同じメカ好き同士で話が合って。彼は彼で、網を買ってきて、海岸で(その網に)花火を差して、その下で焚き火して、1000発ぐらいのミサイルをいっぺんに飛ばしたりとかしていて。
小黒 同好の士だったんですね(笑)。
板野 ええ(笑)。やっぱりなんか同じような事やってる奴がいるな、みたいな。こっちは動きながらやって、向こうは数で。
小黒 『クラッシャー・ジョウ』は時期的に言うと『マクロス』の後なんですけども、制作はもっと前からやってたんですね。
板野 前からやってました。『クラッシャー・ジョウ』をやりながら、「実は、ぬえの企画がタツノコで通りそうなんだ。それが始まったら、戦闘シーンを描いてもらえないか」という相談を受けたんです。
小黒 で、「やりましょう」って事になるんですね。
板野 ええ。
小黒 『マクロス』では、もの凄い量の話数を、初めの頃はやってますけど。
板野 はい。極真空手の百人組手みたいな感じでやって、10話ぐらいで倒れていくんですけど(笑)。
小黒 平野さんがやってる回は、メカ作監をやってないんですけども、それ以外はほぼ、1話から10話まで……。
板野 ええ、倒れるまではやらされましたよ。
小黒 はあ。「やらされた」んですか?
板野 そうですよ。だって、石黒(昇)さんに「メカ作監は1本5万だから……」と言われて。
小黒 安っ!
板野 「月に4本やれば20万になるよ」って。10話で倒れてから文句を言ったら、1本7万になったんですよ(苦笑)。
小黒 板野さんの『マクロス』への意気込みはどんなもんだったんですか?
板野 「好きにやっていい」というところも魅力だったんですけど、なぜあそこまで頑張れたかっていうと、やっぱり河森のデザインの斬新さ。僕は飛行機が好きだったから、それがインチキなしでロボットに変形するのに驚いたんです。『クラッシャー』の空中戦やっている時に「(『マクロス』では)多分、これ(と似たような戦闘機)がロボットになるんじゃないかな。足がふたつあって、ここから顔が出るんじゃないかな」と思ってたんですよ。
小黒 ああ、確かに。『クラッシャー』で敵が乗っていた戦闘機には、いかにも脚になりそうなパーツがありましたね。
板野 「そんな感じだろう」と思ってたら、そうじゃなくって。全然発想が違うものだった。飛行機としても完成度が高いデザインで、ロボットも凄かったんで、これはヘタクソが描いたらボロボロになるだろう。このデザインをTVシリーズ(の普通の作画でやって)でボコボコにするのは勿体ない。こんないいデザインなんだから、やっぱりかっこよく動いてこそ活きるんじゃないかな、というふうに思って。それで、自分が今まで貯めてきたものを徹底的に出せたらいいなあ、と思ったんです。で、海外出しのよくない原画は破ったり、ホッチキスで留めたりして(笑)、ちぎっては投げして、全部描き直したりとか。それなのに、結局……やっぱり1人じゃ無理だなあ、と思いました。それでもなんとか、そういう悔しい思いで作ったのが「愛なが(愛は流れる)」(27話)ですよね。
小黒 その前に「パイン・サラダ」(18話)がありますよね。あれも「愛は流れる」に負けない板野さんの代表作だと思うんですが。
板野 はい、そうですね。
小黒 凄いクオリティですよね。量も多いし。背動も素晴らしいし。
板野 でも、それの後は、だいぶ身体もボロボロで。最終回では、庵野(秀明)達が学校の休みとか春休み使って助けてくれて。
小黒 最終回というのは「愛は流れる」の事ですね。
板野 ええ。あの辺はもう身体がボロボロだったんで。
小黒 「愛は流れる」って、輝が「アターック!」と叫んだあたりから、バルキリーのアクションが板野さんの原画ですよね。最後にマクロスがアタックをかけるところは違いますよね。あそこは庵野さんですか。
板野 多分、そうです。最後は庵野と飯田(史雄)君がやったんですよ。
小黒 要塞の中で、ダイダロス・アタックみたいな攻撃をする直前で、デストロイドの胸にDAICONの女の子が描いてあったりするのは……。
板野 あの攻撃の(要塞表面が)ボコボコと形が変わるのは僕が描いています。その辺は、庵野かな。止め画ですか?
小黒 止め画です。
板野 あの頃は、庵野が、止め画でディテールアップするようなカットを描いていたんじゃないかな。
小黒 前半で、地上が攻撃を受けるところがあるじゃないですか。花屋の前に兵士と女の子がいたり。
板野 ああ、それは僕です。
小黒 あそこは板野さんなんですか。
板野 はい。当時、庵野達はまだ学生だったんだけど、1話から手伝ってくれてたんですよ。(1話の)初原画は、結構、リテイクを食らったんだけど、いろんなシートや原画をコピーして持って帰って勉強して。途中から格段にプロっぽくなりましたよ。
小黒 「ミス・マクロス」(9話)でも、確か庵野さんが描いてますよね。
板野 描いてると思います。
小黒 アーマードバルキリーのパーツが、バシンと外れて。
板野 ええ、それは庵野です。
小黒 その後、ワレラ、ロリー、コンダが乗っている丸いメカと、輝と戦うんですけど。そこは板野さんなんですか。板野さんとは思えないエフェクトが入ってる……。
板野 どこかの何カットかが、(自分が描いた)ラフ原でそのまんまでいっちゃたやつもあるので、自分のだか、他の人だか分かんないのもある。……観ないと、分かんないですね。
小黒 あ、なるほど。じゃあ、今度ビデオを持ってきますので。
板野 いやあ、観たくないですよ(苦笑)。怖くて観てないんです、あれは。ヤバいのは観ない。恥ずかしいんで。
小黒 それで言うと『マクロス』はヤバいところが多いですよね。多分、原画はちゃんと描いたのに動画以降でメロメロになったところも多いのではないかと。
板野 そうなっちゃうんですよ。『マクロス』のオープニングの絵コンテは、山賀(博之)が描いたんですが。当時の彼はまだ素人で、画は全然ダメだったので、まったく変えちゃいました。
小黒 確か背動のところは元のコンテだと3カットぐらいに割ってあったんですよね。飛んでるカットと戦うカットと、みたいな。それを板野さんが1カットの背動にまとめた。
板野 そうでした。
小黒 あの背動は素晴らしいですよ。
板野 あの頃は、背動がつらいとか、そういう気持ちはなかったんで。やっぱり「観ている人をびっくりさせよう」とか「他の人に、ここまでの根気はないだろう」とか、そういう気持ちの方が強かった。確か、(「パイン・サラダ」で)クワドラン・ローが艦内に入ってきて、背動していくやつも、僕が原画描いて、森川(定美)が動画にしてくれて。そいつに「俺、原画ではここで力つきちゃったんだけど、ここら辺のビルをぬえにしておいてね」とか言って(笑)。
小黒 ぬえマークが描いてあるビルが出てくるわけですよね。以前、その背動のカットの原画を見たんですけど、原画もキッチリと描いてあるんですけど、動画が凄いんですよね!
板野 凄いですよ。
小黒 メカの足下で自動車を走らせたりして。あれが森川さんの仕事なんですね。
板野 そう、森川です。当時は、そんな風にして人が育っていったんですけど。今は、時間がないから、大変なのは全部海外に持ってっちゃって、だから、原画が育ってないじゃないですか。『GANTZ』をやって、それを思い知らされたというか。今は、制作も育ってない。アニメーターも巧い人は掛け持ちで映画とかをやっていて。TVでは、作品を支えるだけの力がない人達が作監やったり、「こいつが原画なわけないだろ」という人が原画をやっていて、「2枚原画」(動きの初めと終わりだけが描かれた原画)は当たり前、みたいな。ちょっとこれはきついなあ、っていう。
小黒 『マクロス』でよくビルの看板などに「AKINA」とか「聖子」とか、描かれてましたよね。あれは、どなたがやってたんですか。
板野 たぶん、ウチらが。
小黒 板野さん自身も?
板野 やってます(笑)。
小黒 外の動画の人が、勝手に描いたりした事もあったんじゃないですか。
板野 森川とか、本猪木(浩明)とかは遊んでいましたけど。僕らはアートランドからタツノコに飛ばされて、それを僕達は「シベリア強制労働」と言ってたんです(笑)。アートランド本社には美樹本晴彦とか河森正治がいるんですよ。僕達は外人部隊なんで、(アニメ)フレンドのプレハブに飛ばされて。フレンドはタツノコの下請け会社で、タツノコは当時『(未来警察)ウラシマン』をやってて、仮眠室は、大体『ウラシマン』班が独占しちゃって。『ウラシマン』班はちゃんと夜食がついてるんですよ。フレンドはないんですよね。仮眠室へ行っても空いてないから、結局、椅子を並べて寝るか、夏なら畑で寝るかなんですよ(笑)。
小黒 畑が近くにあったんですね。
板野 ええ、隣が畑なんですよ。アートランドに「人手が足りない! 補充してください!」って言うと、東デの中退生とか、代アニの卒業生とか、「なんにも知りませーん」ってのが来るんですよ。そういうのを鬼軍曹になって鍛え上げて、その中の鍛え上げられた奴が──森川や本猪木なんですよ。そういう奴は、動画の遊びをしてくれるんですけど、外の人はほとんどなかったですね。
小黒 その時、板野さんはアートランドの所属で、フレンドで働いていた?
板野 僕は、現場の指揮官だから最前線にいました。アートランドにいるのは美樹本晴彦とか河森とか。その時は、アートランドは新宿の百人町にあったんですよ。アートランドに行って、河森とか美樹本君と話したりというのが月に1回あったぐらいで、あとは本当に最前線にいました。
小黒 『マクロス』放映中に、何度かお倒れになったんですよね。
板野 2回ぐらい。
小黒 1回めが10話の辺りで。2回めはやっぱり「愛は流れる」の後に……。
板野 倒れました。
小黒 後半はほとんど参加なさってないですよね。
板野 はい。
小黒 「愛は流れる」の後は、31話に1回名前が出てるだけなんですけど、この時は何をしてるんですか。
板野 この時は平野さんに頼まれて、マクロスを描かされた。その頃は、自分の中で『マクロス』は「愛なが」で終わってたんで。
小黒 あ、やっぱり終わってたんですか(笑)。ご自身の気持ちとしても、「愛は流れる」が最終回?
板野 スタッフとしては「愛なが」が本当の最終回だ、というつもりでした。後は自分達が思ってる『マクロス』じゃなくなってくるんで。
小黒 それは内容面で?
板野 はい。やっぱり、あそこで終わるべきだったんじゃないのかなあと思ったんです。やるとしても、例えば制作的に半年先か、1年先にして。内容ももうちょっと煮詰めてからやるならいいと思うんですが。煮詰めないまんま「延長しなくっちゃあ」だと、付け焼き刃で作っている感じがして。
小黒 僕は20年近く前にも板野さんに話をうかがっていて、その時に『マクロス』では、板野さんの原画担当パートは、コンテにメカシーンが描いてなかったという話題が出たんですが。
板野 あ、描いてないのもある。特に、石黒さんがコンテ描いた時には、「よろしくー」みたいな感じだったんで。
小黒 途中に入るコクピットの中の芝居だけ描いてあって、空白に「メカ戦:○秒」とかって書いてある?
板野 そういうのもありましたよ。河森のは、そんな事ないんですけどね。中にはいい加減なのもあったんで。「この秒数で戦闘するから、なんとかしてね」みたいなのもあったかもしれないですね。一応コマは描いてあるんだけど、「それは無視していいから」みたいな。ノリで「かっこいい背動があれば、やってもらった方が助かるよ」とか、そんなノリで。
小黒 イージーですね(笑)。
板野 多分、オープニングからコンテなんかガンガン変えてやっちゃってたので、コンテ通りよりはノリで描いた方が面白くなっていいと分かっていたんでしょう。石黒さんという人は、キャスティングディレクターとして一流だったんじゃないかなと思っています。
小黒 誰に何をやらせるか、という事ですね。
板野 はい。河森のメカにしても、美樹本君のキャラにしても、自分の戦闘シーンにしても、やっぱりその采配を振るったのは石黒さんなんじゃないかな。

●「animator interview 板野一郎(5)」へ続く

(05.02.04)
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