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アニメの作画を語ろう
animator interview
 西尾鉄也(1)
 正統的なスタイルの作画できっちりと動かす、なおかつ、パンチが効いている。それが彼の作画の魅力だろう。
 代表作は勿論、初キャラデザイン作品の『NINKU』と、作画監督として参加した『人狼』。原画等で参加した『BLOOD THE LAST VAMPIRE』『千年女優』『猫の恩返し』等での充実した仕事ぶりも印象的だ。彼は『人狼』以降はプロダクション I.Gを活動の拠点としており、現在は『イノセンス GHOST IN THE SHELL(仮題)』に参加中。今やプロダクション I.Gの看板クリエイターのひとりである。
 彼は『NINKU』や『人狼』での、男性キャラの見事な描きっぷりのため“オヤジアニメーター”とも呼ばれているが、また、その一方で『人狼』のキャラを自らパロディ化したジバクちゃん、同じく『機動警察パトレイバー』のパロディ作品『ミニパト』で、可愛らしいデフォルメキャラも披露。そういった愉快な画風も彼の持ち味だ。
 今回は、あまり触れられる事のなかった、初期の代表作『幽★遊★白書』、『NINKU』を中心に話をうかがう事にしよう。

2003年3月1日
取材場所/東京・プロダクション I.G
取材・構成/小黒祐一郎
PROFILE
西尾鉄也(NISHIO TETSUYA)

 1968年6月23日生まれ。愛知県出身。血液型はA型。東京デザイナー学院名古屋校を卒業後、上京してアニメスポットへ。初めて動画として参加した作品が『おそ松くん[新]』で、初原画が『八百八町裏表 化粧師』。『平成 天才バカボン』(動画)、『おれは直角』『丸出だめ夫』(原画)と、スタジオぴえろの土曜18時半放映の番組に連続して参加。『幽★遊★白書』ではアニメスポット班の原画の主力として活躍。イベント上映用作品『NINKU ナイフの墓標』で初キャラクターデザイン、初作画監督を経験。引き続きTVシリーズ『NINKU』でキャラクターデザインを担当。その後、フリーとなり、『人狼』にキャラクターデザイン、作画監督として参加。『人狼』公開までの期間に、プロダクション I.GのHPで「週刊少年ひとおおかみ」のタイトルで、デフォルメキャラによる『人狼』の内輪話を連載。阿川七生をモデルにしたジバクちゃんに人気が集まった。現在は『イノセンス GHOST IN THE SHELL(仮題)』に参加しつつ、『NARUTO』のキャラクターデザインを担当。また、ファミリー劇場の情報番組「加藤夏希のファミナビ」で、「ふぁみ&なみ おたのしみはコレかもね!?」というコーナーを持っており、イラストエッセイでドラマ等を紹介している。ちなみに、使っている鉛筆はHBと3H。

【主要作品リスト】

●関連サイト

プロダクション I.G
http://www.production-ig.co.jp

プロダクション I.G(英語版)
http://www.productionig.com
 
ファミリー劇場(ふぁみ&なみ おたのしみはコレかもね!?)
http://www.fami-geki.com


小黒 西尾さんがアニメーターを志したきっかけは何になるんでしょうか。
西尾 志したきっかけですか……。僕らの世代は大概同じようなもので、“ファーストガンダムインパクト”ですよね。それまでも普通の子供並みに、いわゆるTVマンガというやつを観てはいたんですけど、松本零士のアニメも松本零士が作っているんだろう、というくらいの、一般人的な認識だったんです。アニメーターという職業を知ったのが『(機動戦士)ガンダム』だったんですよね。
小黒 それは小学校6年生ぐらい?
西尾 そうですね。あの頃はもう本当に『ガンダム』ブームで、安彦(良和)さんの原画集みたいな本が講談社から出たりしていたんです。「(修正を)黄色い紙に描いているな」「影は色鉛筆でつけてる。カッコイイ!」なんて思いまして。「この“Aの6”という数字は一体なんだろう?」といったところから始まったんです。「もしかしたら、アニメの方が面白いのかもしれないな」と思うようになったんです。
小黒 漫画より?
西尾 漫画よりも。アニメーターという職業の方が面白味がありそうだなと思って。その頃、アニメ雑誌に載っていたアニメーター特集が少しずつ理解できるようになっていたんですよ。金田(伊功)さんの特集を見て、一般的には知られていないけど、金田さんは画面を観るとすぐに分かるんだな――そういう事が分かるくらい、目が肥えてきたぞ、と。それで段々興味が強くなってきたんですね。
小黒 実に正統的な作画マニアですね。
西尾 本当は「別にアニメは興味なくて、いつの間にか、こんな職業になっちゃったんですよ」なんて、カッコイイ事を言いたいんだけど(笑)。もう最初からアニメーターになりたくてしょうがなかった。
小黒 漫画を描きたいと思った事もあったんですか。
西尾 漠然と画を描く職業に対する憧れはありましたね。漫画でもいいし、イラストレーターでもいいし。具体的な目標ができるきっかけになったのが『ガンダム』だったんですね。
小黒 元々、画は描いていたんですね。それは模写ですか?
西尾 『ガンダム』にハマる前は、水島新司と藤子不二雄にハマっていたんで、大学ノートに野球漫画ばかり描いていましたよ。
小黒 描き上がった漫画もあったんですか。
西尾 ないです(笑)。いや、漫画と言っても、ノートに落書きでコマを割って「なんだ、この球は! ……つづく」といった中途半端なものでした。「続きは描かんのかい!」みたいな。
小黒 学校で美術部に入ったりといった事は?
西尾 してなかったです。
小黒 画の学校にも行かなかったんですか?
西尾 一応、高校を卒業してからアニメの専門学校へ行きました。その頃は大概、自分で解析し尽くしていまして、学校で教わる事は何もなかったですね。雑誌に載っている原画を随分見ました。例えば原画に「A3」と書いてあるじゃないですか。この「3」というのは「3番目の絵だな」というところまでは最初に分かったんです。でも「A」というのはなんのことだか分からなかったんですね。で、「待てよ、そういや、セルアニメは口だけ動く時には、口だけを別に上に重ねて撮影するという噂を聞いた事がある。……つまり、このアルファベットは下から順番に『A、B、C』というように、重ねる順番なんだ!」というのを、中1の時に自分で解明したんです。
小黒 あ、独力で!
西尾 ええ。独力で。
小黒 おお、それは素晴らしい。
西尾 で、高校の時に「先輩、この原画の隅に書いてある、線路みたいなマークは一体なんなんですか?」と訊いたんです。
小黒 おお!
西尾 「コレはゲージと言ってだねえ。中割りの詰まり方を指示するものなんだよ」「なるほど! これで全部分かりました」(笑)。専門学校は一応、ちゃんと卒業まで行きました。卒業制作でカメラがいじれる、撮影台がいじれるという事だけを目標にして、行き続けましたからね。カメラをいじれるなんて、多分プロになってもできないだろうって思って。
小黒 その頃に作品は作られたんですか?
西尾 卒業制作で1本作りましたね。
小黒 役職は?
西尾 監督、作監、キャラデ、原画。
小黒 ジャンルはどのようなものでした?
西尾 あの頃は80年代のバブル真っ盛りという嫌な時代で……レトロブームがあったじゃないですか。白黒映画がちょっともてはやされたりするような。そんな感じのレトロなやつを(笑)。
小黒 その頃から作画には気合いを入れていたんですか。
西尾 分からないなりに。今観ると、決して巧いものではないですけど。拙いなりに頑張ってはいました。でも、その辺はやっぱり、プロになってからの方が勉強になりましたね。
小黒 その頃にイメージしていた、理想のアニメーター像というのは誰だったんですか。
西尾 理想のアニメーター像は、その時にはなかったんですよ。
小黒 イメージができたのは、アニメ界に入ってからなんですね。
西尾 そうですね。
小黒 それで、卒業後、上京してきてアニメスポットに入るわけですね?
西尾 はい。学校に紹介されて色々回ったんですが、面接の結果が散々でした。「お前みたいなヤツではこの業界、生きていけないぞ」というような事を言われました。
小黒 それはなぜなんですか?
西尾 精神論的なものではないですかね。面接で「いやあ、ちょっとかじってみたくって」という感じにとられたのかもしれません。「俺って、地方じゃちょっと描けるつもりでいたけど、やっぱり本場は違うな、ダメかなあ」と思っていた時に、スポットの社長に「まあ、やりたいんならどうぞ」と愛の手を差し伸べられて(笑)。「ここは俺を受け入れてくれた。ありがてえ。名前は知らなかった会社だけど、入れてもらおう」と(笑)。
小黒 そんなこんなで、アニメの道を歩み始めたわけですね。
西尾 ええ。まあ、動画はヘタクソでしたよ(笑)。早く原画になりたかったんでね、動画時代は、とっとと早く枚数を稼いでアピールしようとしていて、荒い仕事をしていました。多分、動画チェックの人にはあまり、いい顔されてなかったんじゃないですかね。
小黒 それなら原画デビューした時は嬉しかったでしょうね。
西尾 天職だと思いました。いや、天職っていう程でもないか(苦笑)。
小黒 かなり張り切って描いていたわけですね。
西尾 ええ。そういうのを自分で分析して語るのもちょっと難しいんですけど、まあ、人に言わすと、当時自分が描いたのは、拙いなりに動かしたい欲求が満ち溢れていた原画だった、と。そう言ってくれる人もいましたけど。
小黒 原画デビューした頃には、「こういうアニメーターになりたいぞ」という姿が見えてきているんですね。
西尾 そうですね。もう『御先祖様(万々歳!)』を観た時のショックたるや……。
小黒 うつのみや(さとる)ショックですね。『御先祖様』を観たのは上京してからですか?
西尾 多分、1巻だけは田舎にいる時に観ていますね。貧乏な動画時代だからレンタルビデオも満足に借りられずに、会社の先輩から「全部持ってるよ」と言われて、やっと全話通して観られたのかな。その時に「コレだ! なんて、スゴいんだ」と(笑)。
小黒 分かりやすい展開ですね(笑)。それで、うつのみや作画に傾倒していったわけですね。西尾さんが動き系じゃない方向に行く可能性もあったんですか?
西尾 いや、動き系ではあっただろうと思います。
小黒 同じ動き系でも、例えば金田系にいく可能性があったとか?
西尾 例えばそういう感じですよね。金田系を模索していた時期もありました。
小黒 あったんですね(笑)。それはアマチュア時代に?
西尾 アマチュア時代もそうですし、原画になってからもです。さすがに金田さんのポーズをそのまま描くワケじゃなくて、タイミングに関して生理的に気持ちいいところを探るような事はしてみました。ただ、『御先祖様』ショックは、他とは比較にならないくらい大きかったですよ。筆舌に尽くしがたい程のショックでした。
小黒 具体的には、何がショックだったんですか?
西尾 よく言われる事ですけど、全てを画で描けているという事ですよね。
小黒 動きを?
西尾 動きもですし、キャラクターのポーズから水なんかのエフェクトに至るまで全て描けている。撮影処理や、ブラシでごまかしているんじゃなくて、とにかく線で描けるものは全部描いている。
小黒 しかも、描き切っている。
西尾 描き切っている。難しいポーズも難なく描いているように見える。素晴らしい!
小黒 『御先祖様』については、カッコイイと思ったんですか? それともリアルだと思ったんですか?
西尾 自分はリアルだと思ったクチですね。その頃は、暇さえあれば、いらなくなった動画用紙の裏に『御先祖様』のキャラクターの似顔絵を描いてました(笑)。
小黒 これもよく言われている事だと思うんですが、『御先祖様』の初めと終わりで、うつのみやさんの仕事ぶりも変わってきていますよね。最初の頃と終わりの頃、どちらが好きなんですか。
西尾 後の方ですね。やはり、段々(技術的に)上がっていった方が、より洗練されていますから。「凄いなあ」と思って観てました。ねえ、凄いとしか言いようがないんですよ(笑)。
小黒 さすがに『丸出だめ夫』なんかで、その影響を受けたような作画はやっていないんですよね。
西尾 うん。さすがにね(笑)。まだ、原画を教わっている時期だったんでね。
小黒 『幽★遊★白書』の14話(「迷宮城の四聖獣! 霊界への挑戦」)でナイフを持った不良が出てきて、幽助達に絡むシーンがあるんですよ。あそこは西尾さんですよね?
西尾 そうですね。
小黒 あそこで不良の身体が、ちょっと揺れてますよね。
西尾 やっていますね。バカですよね(苦笑)。あの辺は『(THE)八犬伝』ショックですよ。あの頃から比較的、演出のうえだ(しげる)さんも作監の榎本(明広)さんも任せてくれるようになっていたので、多少思ったように描けるようになっていたんです。『幽★遊★白書』自体、シリーズを通して、そういった作画的な盛り上がりが起こりつつあった時期でしたね。
小黒 すでにあの頃に起こりつつあったんですね。『幽★遊★白書』は初めの方を観ると、かなり大人しいアニメですが。
西尾 そうそう。最初は「3000枚で作れ」と言われていた作品でしたから。
小黒 うつのみやさんとの出会いは、この後でうかがうとして。この頃、他には印象的な出会いはありますか。
西尾 そうですね。この時期から、打ち合わせでぴえろに顔を出すようになったんですよ。それまではアニメスポットだけで仕事をしてたんです。それで、演出の新房(昭之)さんや、作画の吉原正行、西田寛治なんかと顔見知りになったりして、色々意見交換したり、お互いを意識し合ったりもしましたね。
小黒 新房さんは、若林(厚史)さん達と組む事が多かったですよね。
西尾 そうですね。新房演出・若林作監回が、ウチの回のライバルでしたから。「あそこがここまでやりやがった!」みたいに思っていました。
小黒 最初にスパークし始めたのが、あのチームですものね。最初の武術会とかね。
西尾 ええ。その頃は歯がみしてましたよ。「キーッ! 悔しい」って(笑)。
小黒 『幽★遊★白書』の劇場版第1作はどうですか?
西尾 1作目? どこをやったかなあ。
小黒 あそこじゃないですか。幽助と桑原が林の中で、蔦を使う敵に襲われて、蔵馬と飛影が助けにくるところ。
西尾 ああ、そうですそうです。あれはイヤらしい下心があったんですよ。蔵馬と飛影という女の子達に人気のあるキャラクターが大活躍するシーンじゃないですか。「ここを是非やらせてください」と言って。「ここは女の子達に注目度高いだろう」みたいな(爆笑)。
小黒 (笑)。描いてみて何かいい事ありました?
西尾 ないです(笑)。
小黒 ……ま、それはさておき、この頃だと、かなり充実した仕事ぶりではないかと。
西尾 そうですね。『幽★遊★白書』のスポットの回は、途中から会社の方の都合 で、コンテ、作監の榎本さんと演出のうえださんと、原画の俺の3人だけになったん ですよ。
小黒 原画のクレジットが2枚のうち、1枚目に西尾さんの名前だけが出ている時期がありましたよね。
西尾 そうです。半パートの原画をアニメスポットとしてやっていたんです。それで外注で井上敦子さんに入ってもらったりして。
小黒 その頃は、何カットくらい描いていたんですか。
西尾 毎回70、80カットくらいは描いていましたよ。
小黒 幻海が美形キャラと戦う話があったじゃないですか(第49話「残された力! 幻海の死闘」)。人魂みたいなエフェクトが出て、人を喰っちゃうところがあるんですが、あれも西尾さんの原画ですか。
西尾 そうです。
小黒 ああいうエフェクトも描くんですね。ヌルヌル系の。
西尾 ええ(笑)。まあ、あそこら辺も『八犬伝』ショックですよね。『八犬伝』を観ながら描いていたような気がします。
小黒 (笑)。
西尾 『幽★遊★白書』の中では、あの回がいちばん上手くいった回なんじゃないかなあ。「よっしゃ、この勢いで次の話数を」と思ってやったのが、次の(リストを見ながら)56話「決死の蔵馬! 最後の手段」か……。56話はすごいエンジンを回してやったんだけど、ちょっと空回りした感じでしたね(笑)。
小黒 これは蔵馬が、戸愚呂の仲間(鴉)と戦う話ですよね。Bパートの前半を担当ですか。
西尾 そうですね。AパートのラストとBパートのアクションシーンをやっています。この頃になると6000、7000枚使っていたかもしれません。なし崩しに(枚数が)増えていましたよ。
小黒 アクションシーンで枚数を使うのならまだしも、日常芝居で観客なんかが異様に動いていたりするんですよね。
西尾 もう、この頃は気が狂ってましたね(笑)。(リストを見ながら)58話かな、飛影が炎殺黒龍波を撃つ、上妻(晋作)さんが沢山原画をやっている回(「究極奥義! ほえろ黒龍波」)があるんですよ。
小黒 ええ。ファンの間で話題になった回ですね。
西尾 あれはインパクトが強かったですよね。
小黒 作画が炸裂しまくった回ですよね。
西尾 そうです、そうです(笑)。それを観て、もういてもたってもいられずにやったのが、62話なんです(「戸愚呂100%の恐怖!」)。それほど派手ではないですけど、自分が参加した中でいちばん枚数が多かったと思います。
小黒 戸愚呂の身体が1回細くなって、「本当の力を見せてやる」と言って、モリモリモリと逞しくなる話ですよね。
西尾 モリモリモリが井上敦子さんですね。その後で、指パッチンで攻撃するあたりが俺です。煙を延々リピートなしで描いたもんだから枚数くってるんです(笑)。
小黒 次の70話「恐るべき真実! 新たな謎」は、もう「魔界の扉編」に入っていますよね。
西尾 そうですね。この頃は、もうテンションが大分下がってます(笑)。ちょっと『幽白』に飽き出しています。
小黒 (笑)。この時にお描きになっているのは人物芝居ですよね。そもそもアクションがない回ですし。
西尾 キャラが動けない回なんですよね。
小黒 幽助が動きを封じられて。
西尾 そうそう。延々、並んで喋っているだけなんです。この回、そんなに動いてないのに、(アフレコ時に)随分ラフ原を出してしまって、怒られた思い出があります。(リストを見つつ)ああ、そうか。長編(『幽★遊★白書 冥界死闘篇 炎の絆』)の方の作監補みたいな事をやって、その次に70話になったのかな?
小黒 『幽白』の長編は作監が大勢いたんですよね。
西尾 あれは(アニメーターを)大勢掻き集めていましたよ。
小黒 原画マンが豪華でしたよね。普段はぴえろでやっていないような人まで参加していて。
西尾 そうそう(笑)。金田さんもやっていますね。
小黒 ご自身でまとめてやったところはあるんですか。
西尾 ここだ、というところはないです。テロップでは作監になっていますが、実際には拙い原画を描き直すみたいな感じでしたね。
小黒 で、話を戻すと、この時期はうつのみやさんの影響が非常に強いわけですね。
西尾 この頃は、全面的にうつのみやさんリスペクトでした。
小黒 実際にうつのみやさんに会ったのはいつになるんですか?
西尾 うつのみやさんが『(走れ)メロス』を終えた頃なので、『幽白』の途中かな。一時期、スポットにうつのみやさんが入られて作業をしていたんですよ。
小黒 『幽白』でうつのみやさんが原画を描いているのは26話ですよね。
西尾 19話でも描いてますよ。
小黒 19話もおやりなんですか。ご本人に会った印象はいかがだったんですか?
西尾 俺にとっては、うつのみやさんは黒船だったんです。色々な意味で。
小黒 うつのみやさんが来て、文明開化になったわけですね。
西尾 本当にそうなんです。それまで自分はスポットの純粋培養でしたからね。外の巧いアニメーターの話や、業界の常識もなんにも知らなかった坊ちゃんだったんですよ。うつのみやさんに凄腕の人の名前を教えてもらったりしてましたね。裏で流通している珍しいビデオを貸してもらったり。大変に勉強になりました。
小黒 では、14話の不良のユラユラを描いた時は、まだ、うつのみやさんとは会っていなかったんですね。
西尾 多分、まだ会っていないですね。
小黒 『(THE)八犬伝[新章]』への参加は、うつのみやさんに直接声をかけられてという事なんですね。
西尾 そうですね。
小黒 3話はどこをお描きでしょう?
西尾 3話は現八がヨロヨロ崖の傍を歩いていて。落ちそうになったり、ネズミの死骸がいっぱいあったり、化け猫を見て森の中を駆けずり回ったりするところです。森の中の途中から、違う人の原画になるんですけど。いや、この時は何もできませんでしたね。
小黒 まるで、うつのみやさんが原画を描いているような仕上がりだったと思いましたが。
西尾 俺のパートは、橋本晋治さんが作監だったから。
小黒 なるほど。うつのみやさんがチェックしているところと、橋本さんがチェックしているところがあるわけですね。
西尾 やった当時、晋治さんの方向性が俺には掴めていなかったんですよ。完成したものを観た時にそれが分かったんです。「これだったか! これは申し訳ない事をした」と思いました。今なら描けるのにという感覚で。いや、実際には描けないかもしれないけど(笑)、なんとか合わせられたのに。
小黒 橋本さんの方向性というのはどのような感じだったんですか。
西尾 口ではちょっと言いにくいですね。
小黒 うつのみやさんのラインとも違うわけですね。
西尾 若干違いますね。
小黒 もうちょっと、生々しい感じ?
西尾 そう……ですね。
小黒 3話は、うつのみやさんと橋本さんのやりたい事が、微妙に違っていたわけですね。
西尾 そうなんだと思います。それに対してなんにもできなかった。申し訳なかったですね。
小黒 西尾さんは、うつのみやさんに合わせようとしたわけでもない?
西尾 うん。それすらもできなかった感じですね。
小黒 では、直しも入っているんですか?
西尾 勿論、入っています。敗北感でいっぱいでしたね。
小黒 先に『八犬伝』の話だけ聞いてもいいですか。この後、6話、7話と2回やりますよね。6話の方がまとまった仕事になるんですか。
西尾 そうですね。「次の話数もどうですか」と制作の人に聞かれたんです。それが『幽★遊★白書』の2本目の劇場版が終わった直後かな。その時に、吉原正行に「やろうぜ。今は『八犬伝』だよ」と言って、一緒に参加したんです(笑)。
小黒 『御先祖様』と同じように、前の『八犬伝』にもビビッときていたわけですね。
西尾 ええ。『八犬伝』と『御先祖』を毎日観てましたから(笑)。
小黒 ちなみに『八犬伝』はどの話数を観ていたんですか?
西尾 どれも好きなんですよ。1話の大平(晋也)さんと橋本さんのハチャメチャなやつもいいし、山形(厚史)さんの上品な画も好きだし。5話の金井(次郎)さんのアクションもいいし。
小黒 6話で原画をお描きになったのは、お城の上のチャンバラですよね。あれはコンテどおりに描いているんですか。
西尾 ほぼコンテのままです。段取りをちょっと変えたりはしているかもしれないですけどね。最初は凄い気合いが入って、盛り沢山にやったんだけど、後半ちょっと力尽きたと言うか、スケジュールがなくなったと言うか(笑)。
小黒 お城に登っていくところからですか。
西尾 そうですね。信乃が周りをうかがいつつ櫓を登るところからで、ブーメラン持ってるやつと変な爆弾を使うやつと戦うあたり。そいつらを倒すまでをやったかな。
小黒 間に、地上の方にカメラがいきますよね。
西尾 ありましたっけ(笑)?
小黒 ええ。2回、地下の方にカメラがいって、それで戻って。
西尾 じゃあ、戻ってきてからもそうですね。櫓のアクションは、うつのみやさんづてに井上俊之氏が褒めてくれたという噂を聞いてちょっと有頂天でした(笑)。何を褒められたのかはよく分からないんですけどね。
小黒 この話は、うつのみやさん自身は描いていないんですか。
西尾 描いてないと思いますよ。
小黒 7話はどこをやったんですか?
西尾 最終回は、ちびっこ剣士(犬江親兵衛)が鎧武者の首を叩き斬るところです。でも、そこは後で追加でもらったカットなんです。一番最初に打ち合わせをしたのは、エピローグのような、海岸で八剣士達が、まったりとして海を眺めてるところ。
小黒 それは全然分からなかった(笑)。
西尾 キャラの、カッコイイ決めの絵ばっかりで、ここを俺にやらせて大丈夫なのかなと思って。やる事といったら、髪の毛が風になびいてるだけで。「ここ、俺?」みたいな(笑)。「これは作監さんがそのまま描けばいいんじゃないの?」と思ったり。
小黒 ちびっこ剣士のところというのは、その数カットだけですか。
西尾 そうですね。
小黒 この頃の西尾さんはイケイケというか、一年間にものすごい量の仕事をこなしていますね。
西尾 やっていますね。
小黒 凄いですよね。『幽★遊★白書』はローテーションで参加して、『八犬伝』は3本もやって。おまけに『NINKU』のイベント上映作品もあるという状況で。
西尾 確か、年末年始を挟んで7本ぐらいかけ持ちだった、バカな時期だったんですよ。『幽★遊★白書』のOPが新しくなるというんで、原画を3カットぐらい持っていて、全部、年末アップだと言われていて、何一つ終わらなかった(笑)、という時期ですよ。
小黒 『幽白』のOPは、後のバージョンだけをやっているんですか。
西尾 そうですね。2本目の「仙水編」のやつです。
小黒 どのカットですか。
西尾 最後の3カットかな。仙水が透過光の弾を蹴り飛ばすカット、幽助達のカット、それから、決めの全身集合みたいなやつ。その3カットだったと思います。
小黒 テリトリー能力をもった3人組(海藤、柳沢、城戸)の背動は誰の原画だったんですかね。
西尾 あれは若林さんですよ。
小黒 ああ、なるほど。『幽白』への参加は第86話、第92話で最後ですね。
西尾 この2回はですね、ローテーションがずれてしまって、スポットではない回をやっているんですよね。下田(正美)さんが演出の回かな。一緒に西田氏が原画をやっていて。違う人と組んでみるのは非常に新鮮なんで、最後の2本はモチベーションがちょっと盛り返したんですよ(笑)。
小黒 一回下がったんですね?
西尾 ええ。一回下がりましたね。
小黒 86話も92話も、仙水と戦っている回ですね。
西尾 86話は、仙水のもう1人の人格が出てきて、幽助をなぶるところです。「ミノルが喋ってた続きだぜ」とか言って、傷だらけの幽助を蹴飛ばしたり、鉄砲の腕で撃ったり。「お別れだ」というセリフのところで(自分の担当は)終わりだったような気がしますね。92話は鎧のような恰好をした仙水と空中戦をやっているあたりですよ。この2本も結構な枚数を使ったと思いますよ、
小黒 『幽白』だとトーナメントで、司会の女の子を無駄に動かす人達がいっぱいいたと思うんですけど(笑)。西尾さんもやっているんでしょうか。
西尾 やってますねえ。それは要するに、若林さんや吉原正行の悪影響と言うか、よい影響と言うか(笑)。
小黒 それが作品の見せ場であるかのようにクルクルと回ったりとか。
西尾 そうですね。あの頃は楽しかったなあ(笑)。それが高じて、LD―BOXの小兎のジャケットは俺が描いたんですよ。
小黒 あ、そうなんですか(笑)。
西尾 56話でも俺も結構、小兎をメチャメチャに動かしましたね。
小黒 螢子の愉快な芝居を描いた事もありましたよね。
西尾 螢子はそんなに描いていないんですよね。どれだったかな、26話かなあ。幽助とデートしてショッピングしているところ。
小黒 ああ、そこです。
西尾 俺、螢子はあれくらいしか描いてないんですよ。
小黒 もの凄い余談ですけど、あの時に変なハウスマヌカンを描いてますよね。身体をナナメにして幽助を見るんですよ。
西尾 思い出した(笑)。描いた描いた。あれはコンテにあったと思いますよ。「愛想笑いをするハウスマヌカン」って。
小黒 螢子が店から出てくるところが可愛いんですよね。
西尾 ありがとうございます。『幽★遊★白書』を振り返ると、桑原ばかり描いていたような気がしますね。86話も桑原ばかりだった。歯がみしている桑原達、みたいなところを延々描いていましたからね。
小黒 西尾さんは、飛影もあまりやってないですね。
西尾 飛影はやってないですね。飛影は、必ず新房・若林コンビに行ってしまう。
小黒 特に黒龍波が出るところは、ほぼ全部あのコンビでしたよね。
西尾 (笑)。
小黒 『幽白』で、スタッフ間の交流は結構あったんですか。
西尾 僕は独自に吉原氏なんかと飯喰ったりとか、あの回はどうだといったことを話していました。
小黒 西尾さんは、かなり他の回を意識していたわけですね。
西尾 ええ。毎週欠かさず観ていましたからね。俺は『幽★遊★白書』ファンでしたから(笑)。新房さんと若林さんのコンビだけじゃなくて、武術大会が始まった頃って、凄く作画のテンションが高かったんですよ。
小黒 高かったですね。
西尾 「毎話数、見逃せねえ」って感じで。さっきも言ったように「ヤロー、あそこの班がこんな事やりやがった!。負けてられっか!」なんて言いながら見てましたよ。まあ、そこまで意識していたのは俺だけかもしれないですけど(笑)。

●「animator interview 西尾鉄也(2)」へ続く

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