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アニメの作画を語ろう
animator interview
 田中達之(2)
▲ 『Green Legend 乱』イメージボード(「CANNABIS WORKS」より)
小黒 田中さんは今、動きの理想像はその頃からあったようにおっしゃってましたよね。理想像ははっきりしてて、それが描けるかどうかが問題だった、という事ですか。
田中 まあ、動きというか、画面作りを含むアニメ全体のスタイルについてですけど。それを形にできるような経験値が全然なかった……というかゼロでしたからね(笑)。
小黒 その理想像っていうのは、言葉で言うとどういうものなんです。
田中 説明が難しいんですけど……。俺は、マンガ好きで、宮崎さんが好きで、それと大友さんの、なんというか「等身大のリアル」という表現に強烈な洗礼を受けた、という感じなんで。そういう流れのその先の仕事を、アニメでもしたかったという事なんですけど……。当時アニメ界でリアルな作品というと、『CITY HUNTER』みたいな、いわゆる劇画調の物しかなくてですね。
 なんか、必ず軍隊とか出て来て、外人みたいなあり得ない骨格、頭身の人達が、影ギトギトの汚い絵柄で恐い顔をしてる、というあれが大嫌いで。かと言って宮崎さん達の、「目ん玉たて長」といった昔から使われてきた記号を自分達の基本ツールにしていくのには、大友さん以降の世代の自分としては抵抗があったんですよね。自分が影響を受けたこの辺の人達の方法論の、次の進化を見たかったというか……。
 要は、当時のアニメ界の作品スタイルに凄い不満があったんです。なんか『AKIRA』の後、何にもその後を受け継いだ作品が無くて、来る仕事も『ダーティペア』とか、またこんな古い方向に戻らなくてはならないのかと。多分本心としては、自分なりの方法論を極めたかったんだと思うんですけど。でも新人原画マンとしてやって行くには、やっぱり業界に適応しなくてはならないし。これが重大な問題で!
小黒 それはそうでしょうね。
田中 ある作品で、キャラの鼻の下に必ず2段影がついてるのが気になって、作監の人に聞いたんですけど、「じゃあ、アオリの時は? 影無いと鼻に見えないよ」って言われたりして。俺は「光源が変わったら、(鼻の下に)影がなくたっていいじゃん」って普通に思ったんですけど……。その頃はみんな、画面の中の光源とか関係なく、ここは絶対に影がつく、というかなり強引な、判子のような記号で画面を作ってましたよね。誰かの作った記号を真似して、さらにまた真似て、装飾して、もう誰も、この鼻の横の線が何を意味してるのか解らない、という(笑)。動きに関しても、歩きは中5枚、走りは中2枚で腕を振り上げてこういうポーズでっていう、がちがちのセオリーがあった。ビックリする動きは必ず一度縮んでから、とかね。悪い意味での紋切り型ってやつですね。
 とにかく、もっと画面の中に本当に生きた世界があるようにしたい、っていう欲求が強烈にありましたね。情感、空気感みたいな事がやりたいテーマだったんで、そこがクリアできないと話にならないんで。それは、必ずしも実写のトレスという事ではなくて、頭の中を1回通り過ぎてきたもの、やっぱりどこか「マンガ」ではあってくれないと気持ち良くないんですよね。みんなそうだと思うんですけど。俺は、リアリティってのはジャンプする為の道具だと思うんで。だから、「マンガ=記号」って事で言えば、現実を見て、もう一度その記号を作り直したいって事ですね。「再記号化」って俺は言ってたんですけど。
小黒 なるほど。再記号化ですか。言われている事は分かります。
田中 まあ、そういう野望があったんですけど、それ以前にまず、目の前の原画を上手く描く、というのが大前提で。それが全然ダメだったんですよね。
 業界入りする前は「もう(これからのアニメは)金田(伊功)調は卒業だ。金田さんが、動きの面白さについて皆を目覚めさせてくれた。もうその次の段階が来ている!」とか鼻息が荒かったんですけど、自分のやった作品のフィルム見ると、なんかそれどころじゃなくって……。
 『AKIRA』も今なら、まあ初めてにしては……っていう見方もできるけど、当時は、自分のへたくそさに愕然としてしまって。理想が、身の丈に合ってなかったんですね。とにかくもうそんな偉そうな事考える前に、きちんとした原画を描けるように、先輩達のスタイルに適応して一人前にならなくては、と考えてたんですよ。口幅ったい言い方になってしまうんですけど、そんな流れで、『ユンカース(・カム・ヒア)』のパイロットを見て、周囲は「新しい」みたいな意見だったんですけど、俺は「えっ、これでよかったの!?」というのが率直な感想で。
小黒 つまり、田中さんは「これ、普通の事でしょ」と思った、と?
田中 いや、そんな事はないんだけど……。なんかね、時代ごとに原画の流行り廃りというのがあって、それがこの世界では強烈なんですよ。だって、人の画に似せるのが仕事ですからね。この仕事は。ほら、西尾さんのインタビューにあった、「手のギザギザ」なんてまさにそうで。作画に関して、これをやらなきゃ今はダメだ、みたいな流行が時代ごとにあるんですよね。
 今ならハッキリ判るんだけど、俺はどっちかっつーと、色気のある、丸い線や動きが好みなんですよ。でも、どうもそれはダサいという空気がその頃あって、ラフな線でカクカクと、複雑な形の影が付いて、みたいな原画が主流で、実際そういう原画が画面でいちばん生き生き動いていたんですよね。そうなるともう、だんだん影響も受けてしまうし、俺もそういう原画を描こうと思ってた。経験値を上げて、上へ行こうとすればするほど、自分の画はおかしくなる、ってどこかで感じてましたね。ところが、『ユンカース』って、いきなり実直な描き方に立ち戻っているじゃないですか。
小黒 確かに、芝居にしても、決まり切った発想では描いてませんね。
田中 そう。素直に「こう動くよね」という発想で作ってる。あの時あれを描けたかと言われたら、俺には描けなかったと思いますけど。
小黒 思っていた事を、やられてしまった?
田中 いや、そういう言い方はしたくないです(苦笑)。これに比べて俺は、ずいぶん素直じゃない、ゆがんだ所に来てしまったんだな、という事を認識させられたというか。
小黒 じゃあ、『ユンカース』を見て、ショックはショックだった。
田中 ええ、それはもう。とにかく俺は、発想がリアルな「マンガ」つーのが好きだったんですよね。色々付け足してリアルにするんじゃなくて。そのちょっと前マンガ界では、望月峯太郎さん、さそうあきらさん、あと土田世紀さんとかタナカカツキさん、松本大洋さんとかがデビューして、大友さんや高野(文子)さんなんかの影響下で「等身大なリアル」を表現する人が活躍し始めた頃で。俺もほぼ同世代なんで、ホントはアニメでそういう方向に進みたかったはずなんだけど……。だけど実際は、『AKIRA』の後、自分が何が好きだったのか、よく判んなくなって。『ユンカース』はホントにね、「えっ、なんで俺はこれをやらなかったんだ?」って思いましたね。知らない間にできてたんで。何やってたんだろ。あれをやってたら、ひょっとして何かつかめてたかもしれない。
小黒 じゃあ、うつのみやショックはなかったんですか。
田中 いや、もう、バリバリっスよ。
小黒 バリバリっスか(笑)。
田中 うつのみやさんには結構可愛がってもらっていて。『AKIRA』の時にも話をしたりしていて、次に『御先祖(様万々歳!)』をやるという事は聞いていたんです。最初は作監補の一人として誘われていたんですよ。でもその時は、うつのみやさんがどういう方向をやろうとしているのか、まだ判らなかったのと、自信もなかったんで、辞退したんです。
 『御先祖』は、1話を観た時も「おおっ」と思ったんですが、特に4話、6話が驚愕で。磯君の描いた長回しのシーンも凄いし、どこをとっても驚きだった。友永さんの作画を見た時以上のショックを受けましたね。
小黒 ショックだったというのは具体的にはどういう点ですか。形の取り方とか動きとか?
田中 いや、もう演技の発想が違う。あれが自分がやりたかった事ではないんですけど、画や演技の組み立て方が今までと全く違う事がショックでしたね。さっき言った「再記号化」ってやつを、全く俺なんかの想像外の方向からいきなり達成してるって思いましたよ。
 本人の意図は違うのかもしれないけど、マンガ(アニメ)の記号的表現を、リアリティを元に再検討して、再構築して、再びシンプルなマンガの記号として提示した、という大仕事だと思います。
小黒 そうですね。いや、おっしゃる通りだと思います。
田中 あれ以降、アニメの表現の次元がひとつ上がったと思う。俺、うつのみやさんはまだまだ過小評価されていると思いますね。アニメに限らず、いわゆるアニメ絵と言われるマンガのスタイルも、ほとんど、うつのみやさんのあの頃の仕事がなければ、今とは全く違ってたと思いますよ。今から見ると、その間接的な影響下の作品が現在の主流なんで、その辺が分りにくい……、というのはパイオニアの宿命だと思いますけど。立体の考え方とか、光の表現方法とか、その後出た作家でどこにも影響を受けてない人を探す方が、難しいと思いますね。
 動きの話でも、爆発や、派手なアクションだけじゃない、日常芝居も含めた「演技」という方向に、アニメーター達の興味を目覚めさせた最初の作品じゃないかと思ってます。画の事ばかり言われがちですけど、うつのみやさんってタイミングの天才だと思うんですよね。
 他にも、例えば俺なんかは、頭の中ではテレコムの支配力が強いので、セオリーとしての宮崎・大塚調っていうのは自分の中で抜けないんですよね。あの、ゲージってあるじゃないですか。
小黒 はい。原画に描く中割の指示ですね。
田中 人の動きの場合、画1から画2へ行く時、中1枚、2枚の場合は(動画は)「後ろ詰め」っていうのが、セオリーだって俺なんかは教わったんですよ。ところが、うつのみやさんとか磯君は、動きまくるシーンは全部2コマ中1枚のベタ打ちで、ほとんど前詰めなんですよね。これ、同じ方法で原画を自分でも描いてみて「なるほど」って思ったんですけど。「あのダイナミックな動きの秘密は、これか!」という感じでしたね。そういう原画のスタイルも俺は初めて見たんで、激震! って感じでしたね。関東大震災というか(笑)。ちなみに、磯君の名前をうつのみやさんに最初に教えたのは、俺と柳沼君でして。
小黒 あ、そうなんですか。
田中 『EXPLORER WOMAN RAY』をやっている時に、やたら達者な設定があったんですよね。それが磯君の仕事だった。波が打ち寄せるところをボートが逃げていくシーンの原画は、驚異的に巧くてね。ただ、その頃は、俺が言うのもなんだけれど、原画は凄いんだけどタイミングはまだ、試行錯誤していたように見えましたね。とにかくそれで、うつのみやさんに磯君の話をしたんだけど、最初は「達ちゃんは誰でも褒めるよね」って言われちゃった(笑)。まあ、実際にはうつのみやさんもいろいろ評判を聞いて、『(MOBILE SUIT GUNDAM)0080』を見て誘ったんだと思うんですけど。そんな俺も、あそこまで凄いとは思わなかった。6話のOPで、犬丸が土手から飛び下りて走って来るカットなんか、なんでああいう原画プランが発想できるのか……。狂ってる、信じられなかったですね。
小黒 ちょっと話を戻しますけど、『AKIRA』の後、イメージボードの仕事も多くやられてますよね。
田中 要は原画の仕事から逃げてたんですよね。最初がOVA版『AD.POLICE』で。それを高山文彦さんに見てもらって、その縁で、『舞夢』なんかのイメージボードの仕事が来るようになった。
小黒 ああ、『舞夢』にも参加されてたんですか。
田中 ええ(苦笑)。イメージボードは思いついたものがパッと描けるんで、凄く楽しかったですよ。アニメでやりたいテーマの片鱗が、とりあえず形になるんで。原画の仕事は、もう頭の中が、がんじがらめになっていて、うまく行かなかった。動きは好きなのでラフまでは描けるんですけど、そこから先が……。最初に『AKIRA』をやった時に、「こんな動画みたいな原画描いてちゃダメだ」って先輩に言われて、そんな事にもどこか縛られてたんですね。
小黒 「動画みたいな」っていうのは、線がきれいという事ですか。
田中 そうそう。動きを描くのは好きなんでラフまでは楽しいんですよ。でも、そのあとが苦痛で。動画に任せるとエラい目にあうんで、「ラフな線で、かつ、きっちり清書できる画に!」って思ってた。そんなのできるわけがないのに。アホですよね。とにかく原画は全然ダメでしたね。大平(晋也)君や磯君が活躍してるのに、自分はまだ全然描けないので、凄く悔しかったですよ。何やってんだろうって。
小黒 でも、『Green Legend 乱』は成り立ちから原画までかなり関わった作品になるわけですよね。
田中 いやあ、あれもひどかったッスね(苦笑)。その前にTVと劇場版の『ナディア』に参加したんですよ。TV版『ナディア』の時は、自分の持ってるものを何ひとつ出せる世界じゃなくて、「海洋ものかぁ……う〜ん、まあ描いてみますわ」みたいな感じだったんだけど。劇場版『ナディア』の時は、好きにいじっていいという事だったので、ここで一発自分の作りたいものをやろうかなと思って、かなり気合いを入れて、イメージボードを描いて、脚本も書いたんです。
小黒 あ、脚本も書いたんですか。
田中 でも、それが当初の企画に収まるような話ではなくなってしまったんですね。『(天空の城)ラピュタ』か『STEAM BOY』かみたいな大きな話になってしまって。なんかね、衛星高度からでないと人型だと判らないっていう巨大ロボットを出したかったんですよね。ロボット好きなんで。ドーバー海峡をまたいで立ってるんだけど、その場ではそれが何だか判らなくて、スイス、イタリアあたりで初めて全体像が見えるっていう(笑)。結局、俺も暴走しすぎたし、向こうもそれをフォローできない、というんで決裂しちゃったんですね。そういう事があった後だったので、『乱』は、イメージボードも「お仕事」としてやって、自分の持ちものはあまり出さないで、監督や脚本の要求に沿いながらやっていこうと思っていたんですよ。イメージボードがそのまま使われる事はない。叩き台だろうと思って、とりあえず敵キャラはこんな感じで、みたいに描いていたら、それが設定として使われる事になって慌てたんですよ。
小黒 その段階では、お話はもうできてたんですよね?
田中 概略はできてたけど、脚本はまだ発注されてなかったんだと思う。
小黒 なるほど。
田中 凄く中途半端なポジションでしたね。演出的なアイデアは出すけれど、その処理について現場で口出しはできないという。
小黒 それは『乱』に限らず、その頃に関わられた作品達は、って事ですね。
田中 ええ。本来、イメージボードって監督が描くものじゃないですか。監督か、作画監督か。
小黒 作品の責任取る人が描くわけですね。
田中 そうそう。『乱』はそういう意味で焦って。「そういう風に処理されると意味が全然違うんだけど……」みたいな事のオンパレードになりそうだったんです。だから、せめて自分がやるシーンは動きだけでも面白くしよう、と思って、必死になって原画を描いたんですよね。
小黒 本編中にもイメージボードが挿入されてますよね。それとも、あれはイメージボードでなく、本編用の画ですか。
田中 あれは無理を言って、「俺が描く」と言って描いたんですよ(笑)。凄い怒られたんですけど……なんの意味もなかったスけどね(苦笑)。
小黒 具体的に原画をお描きになったのは、終わりの方で主人公がヒロインと一緒に遺跡の泉へ行くシークエンスと、ずっと前の……。
田中 ああ、ドンパチ。
小黒 追われていた男の人が撃たれて、バーッと街中に火が走って、というところですよね。
田中 あれも……いや、だから、イメージボードには確かに(そのシークエンスを)描いてたんですよ。でも、もっと畳みかけるようなシーンをイメージしていたんだけど、結局自分のコンテじゃないので、思ったとおりのシーンにならないジレンマがあって。まあとにかく原画として頑張ろうというだけですね。で、イメージボードから含めて、やっぱり10ヶ月ぐらいかかって。で、あがりがあれだったんで、もうショックで。
小黒 田中さんが原画を描いたところ限定だと思うんですけど、主人公の顔が番場蛮に見えるんですけど。
田中 (爆笑)。
小黒 コナンというよりは番場蛮に見えるんですけど(笑)。
田中 いやだから、大友調を否定したら、あとに出てくるのは宮崎調なんで。勿論、Aプロ好きでしたよ。要はその辺なんです。削いでいくと順番に出てくるだけなんで。高校・中学時代なんか、人に自分の画を見せると、何も言ってないのに「僕も宮崎さんが好きなんですよ」と言われるくらい、宮崎さんそっくりだったんですよ。だけど(乱は)性格がコナンというより番場蛮だったから、そういう表情になっていったんじゃないかなぁ。
小黒 ああ、確かに野生児とは言え、コナンはもっと上品な感じが……。
田中 この頃の事については、あんまり明るい話ができないなあ……。
小黒 見事な芝居もいっぱいあるじゃないですか。
田中 動かせばいいってもんじゃないよね、あれ。無駄に動いている。
小黒 異様にリアクションが細かいですよね。
田中 あれはだから、ブームだったんですよ!
小黒 ブームなんですか、ほんとに!?(笑)
田中 「うつのみやブーム」ですよ。フラフラ、クランクラン動いてなかなか止まらないという。みんなこぞってやってたし、俺もどっぷりでした。あれなんか流行りましたね。『真魔神伝』で、うつのみやさんが描いた頭がはねるやつ。ゴン、ゴン、って。
小黒 ああ、道場の場面で、倒れた拍子に頭が床に当たってリバウンドするところですね。
田中 「頭がはねるのは何回までOKだろう」ってバカな話をしてて(笑)。えーとね、『乱』の時はね、3回かな。俺もあれは何回かやりましたね。気持ちいいんですよアレ。アニメ界って、ホント、誰かが手法をひとつ発明するとブワーッとみんなそれ一色になりますよね。
小黒 「うつのみやブーム」について、そこまで断言して下さったのは、田中さんが初めてですよ。
田中 え? そうですか。
小黒 「自分は影響受けました。他の人は知らないけれど」と言う人が多くて。
田中 何言ってるんだか(苦笑)。あちこちで同じような作画見ましたけど。俺は、「骨董屋」でもやってますね。
小黒 女性が倒れたところですよね。田中さんは、回想のラストで女性を突き倒すところから、最後の現実に戻るところまで?
田中 そう。動きが堅かったですね。あの頃は、自分がどっちへ行きたいか全然分かんなかったんで、必死でうつのみやさんの真似してたんですよ。
小黒 ああ、そうなんですか。
田中 とにかく、俺の画って普通に描くと、異様にセル映えしなかったんですよ。今考えると、デッサン力がないんで、線の強弱で画を作る癖がついちゃってたからなんですよね。当時は理由が分からないから凄く悩んでた。ところが、うつのみやさんの画って、異様にセル映えしたんですよ。「うわー、立体だあ」と思って、それがショックだった。
小黒 じゃあ、『THE八犬伝[新章]』3話までが「うつのみやブーム」なわけですね。
田中 そうですね。あれが自分の混乱期の最後かなあ。「何やってるんだろう」って感じでしたよね。
小黒 しかも、3話の時は、うつのみやさん自身はすでに、画や芝居が落ち着いてきているんですよね。
田中 そうなんですよ! あれは、スタジオに入らないで自宅で作業したのが、敗因でしたね。
小黒 ははは。他の人の作業を知らずにやってらした、と。
田中 やっぱり、なるべく直されたくないから、キャラ表の山形(厚史)さんの画を、うつのみやさん風にアレンジして、一所懸命描いたんですよ。好きという事もあったんですけど、うつのみやさんの方向で描いていれば、俺でも少しは見られる画面が作れる事が分かったんで、自分の原画の混乱を鎮めるためにも、かなり無理やり描いてましたね。
 でも結局、画も芝居もガチガチになってしまいましたね。おまけに、うつのみやさんが何故か俺の原画を買ってくれて、俺がやったところはホントに無修正で出ちゃって、(橋本)晋治君とうつのみやさんの間に、浮いた奴が1人いるという事になっちゃった(苦笑)。結局ダメなんですね、人を追いかけてちゃ。好きというのと、それが本当に自分のやりたい事かという事は、また別なんですよね。

●「animator interview 田中達之(3)」へ続く

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