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「アニメラマ三部作」を研究しよう!
 山本暎一インタビュー 第2回
── この「日本アニメーション映画史」のフィルモグラフィーのところ見ると「2時間23分で上がったものが、2時間8分で公開された」とあるんです。つまり、15分切られたと書かれてあるんですけど。この辺のいきさつというのは?
山本 そういうかたちで切られたという事はないですね。映倫へ出したわけですよね。で、映倫から、「こことここはマズイ」って言われたの。それが2ヶ所か3ヶ所あったと思いますけどね。
── それで短くなっただけなんですか。
山本 そこを切っただけです。
── それはどんなシーンだったんですか。覚えてらっしゃいますか。
山本 …………(黙考)。後半のバドリーが薬を手に入れるために、(警察長官の)奥さんとサドマゾをやるとこね。
── シルエットみたいな処理になっていてよく見えないですけど、今のバージョンにもあるじゃないですか。
山本 もっといろいろあったんですよ。
── 映倫にチェックされて、シルエットに直したんですか。それとも切っただけなんですか。
山本 切っただけ。
── 切って、シルエットを入れたわけじゃない?
山本 そうじゃないですね。それからどこだったかなあ、忘れちゃったなあ……。女護ヶ島のシーンかな。
── えっ!? 女護ヶ島って、もっと長かったんですか!?(笑)
山本 女護ヶ島もカットされたんじゃないかなあ。
── でも、それで15分にもなりますか。
山本 そんなにはないです。
── 「2時間23分を2時間8分に短縮」というのは、ご記憶にはないですか。
山本 いや、僕はそんなに切った記憶はないですね。
── 映倫で問題になったのは、女護ヶ島だとどこなんですか。
山本 男と女が絡んで、裸が出てきてというシーンじゃないんですよ。(人間の裸体とは)違うものが出てくるんですよ。で、それがエロチックに見えるんだよね。「これは(性的なものとは)違うじゃないか」といえば、違うんですよ(笑)。それを「ここはエロチックだ、切れ!」と言われて。
── 女護ヶ島のシーンは「あそこの原画は手塚治虫さんだ」と言われる場合と、「杉井さんが描いてる」と言われる場合があるようなんですが。
山本 そりゃあ、ギサブローですよ。
── 全部がギサブローさん?
山本 全部じゃない。エロチックなシーンは、杉井ギサブローですよ。
── そのエロチックなシーンというのが、さっきおっしゃられていたシーンですね。手とか脚とか、身体の一部がメタモルフォーゼしていくみたいな。
山本 そうそう。あの時に「ギサブローにはこういう才能があるな」と見つけたわけですよ。
── あれは力作ですよね。女護ヶ島で手塚さんがお描きになったとこはないんですか。
山本 女護ヶ島で、女王がいて、山羊がいるところがありましたよね。
── 山羊ですか?
山本 女王が蛇になって、そこにいた山羊が「食われるんじゃないか」と思って震えますよね。ああいうとこが手塚さん。
── その前後の女王がビクビクとなって、蛇の姿に変身しますよね。あれはどなたの原画だったか覚えてますか。
山本 それも手塚さんの原画ですね。
▲『千夜一夜物語』より。杉井ギサブローの手によるエロチックシーンと、手塚治虫が原画を描いた女王のメタモルフォーゼ

── やっぱりそうなんですか。「虫プロ興亡記」に、内容的に一押しするために女護ヶ島で追加のカットを手塚さんに描いてもらったとありますけれど、それはどこなんですか。
山本 それは、ちょっと覚えてませんね。後の方で、アスラーンとジャリスがいるシーンで、魔神の片方が馬になるところがありますよね。あそこは手塚さんの原画です。
── メタモルフォーゼのカットだけを描いてるんですか。
山本 細かいところは覚えてないんだけども。ああいうのは他の人が描くと、エロチックじゃなくなっちゃうんです。
── 手塚さんは「ここは僕が描くよ」みたいな感じで、自分の担当を選ぶんですか。
山本 ええ。手塚さんが作業をしていたのは、制作の終わりの頃で、僕は現像所に行ってましたから、実際にどこを描いたのかよく分からないんです。でも、上がってきたものを見ると、大体そんなところですね。
── 「虫プロ興亡記」だと、ヘラルドに対してパイロット的に見せるために、先に作画された中に、バベルの塔があると書かれてるんですけど。あのシーンには、かなり手の込んだ崩壊のカットがありますよね。あの辺は先に描かれたんですか。
山本 (先行して作画したのは)崩壊じゃなくて、バベルの塔を作っているとこです。
── その段階では、まだ絵コンテは完成してないんですか。
山本 そうです。
── でも、そういうシーンがある事までは分かっていた?
山本 ええ。作るところはね。でも、壊すというのは、後からつけ足したんですよ。最後にそれを壊す事になったのは、やなせさんが「作ったままではマズイよ」と言ったんです。本当は作ったまんまで、アルディンは、どっかへ行っちゃうんですよね。
── そうなんですか!? コンテでもそうなんですか。
山本 コンテもそうなんですよ。最後になって、やなせさんからクレームがついたんですよ。僕はマズイとは思わなかったけど(笑)。……まあ、それだったら壊そう、ってね。
── 塔が崩壊しないとしたら、アルディンはどうやって逃げたんですか。処刑シーンはなかったんですか。
山本 処刑シーンもあったかも知れない、ちょっと忘れちゃいました。とにかく、彼は逃れるわけですよ。で、もっともっと大きいものが世の中にはあるはずだと言って出かけていくんですよ。
── その展開は同じだけれど、そこに至るまでに塔の崩壊を加えたんですね。
山本 やなせさんは、そこのところにはこだわっていましたよ。
── もっと素朴な事をうかがいますね。セックスシーンとか、女性の裸とかふんだんに出てきますよね。当時の原画の方としては、そういう事に関していかがだったんですか。反発とか、あるいは凄くやる気を出したりとか(笑)。
山本 いや別にどうとはなかったですねえ。ごく普通にやってましたよ。ただ、その頃は、女の裸というのがね、子供のマンガには勿論ないし、青年のマンガというものはなかったし。あとは大人のマンガになっちゃう。大人のマンガと言っても、小島功さんとかね、数が少なかった。だから、女の裸がちゃんと描ける人がいないんですよ。描ける人があまりいない時期に、そういうものが出てきて、結構、皆さん難しかったんだろうと思いますよ。
── 『千夜一夜物語』で女性は、主には中村和子さんがお描きになったんですよね。
山本 そうそう。中村さんもね、臍をね、バッテンに描くんですよね。
── (笑)はっはっは、なるほど。
山本 「これは違うんじゃないかなあ」と言ったんだけど(笑)。なんか、つい描いちゃうんですよね。
── 当然、やなせさんも、デザインとしては裸は描いてはいないんですね。
山本 うん、裸はあんまり描かなかったですね。
── 実際に仕上がっている『千夜一夜』を拝見すると、前半と後半で別の物語が2本あるみたいな構成になっていますよね。アルディンとミリアムの話が前半で、後半ジャリスとアスラーンが出てくる。最初から大河ドラマみたいなところを狙って、そういう構成になっているんでしょうか。
山本 大河ドラマっていうほど、大層なもんじゃないんだけど。最初から前半と後半に分ける構成ではあるんですよね。魔法の船がありますよね。あのエピソードが終わったところで、ちょっと話が切れるわけですよ。
── 後半になると2人の魔神の夫婦が出てきますよね。彼等が出てきたところで、別の話が始まったみたいな印象が強くなっていると思うんです。アルディンの「もっと大きなものを求めて生きる」というテーマからすると、あまり必要なキャラクターでもないかと思うんですが、どういう意図であそこに出てきたんでしょうか。
山本 まあ、いらないかどうかは分からないんだけど、要するに面白く見せようとして出したんだと思いますよ。
── 魔神の夫婦は、手塚さんのコンテの段階であったキャラなんですか。
山本 そうです。あのキャラクターは月岡貞夫が作画してんですよ。彼は(絵的に)淡泊なんですよね。本当は毛むくじゃらでね、エロチックなキャラクターだったはずなんだけど(笑)。それが凄く淡泊になっちゃった。だから、いらない、みたいな印象を与えたのかもしれない。
── それから、手塚さんの描かれたコンテを、山本さんが随分圧縮なさったという事ですが。
山本 うん。元のコンテは4時間分くらいあったんですよね。だから、結構切ってるんだよね。
── シークエンス的に、丸々なくなっちゃったところとかあるんですか。
山本 多分、あると思います。もう忘れちゃいましたけど。
── もっともっと盛りだくさんだったんですね。
山本 うん、ちゃんとコンテ通りやればね。もっとふんだんに色々とあったわけです。
── 『千夜一夜』に関しては、完全にアフレコで録られた?
山本 プレスコです(※編注:先に役者が声を吹き込み、それに合わせて作画をするシステム)。
── プレスコなんですか。絵コンテで遅れていたという事を考えると、進行との兼ね合いが気になるんですけど。どこの段階で録ってるんですか。
山本 絵コンテがね、半分できてたのかな。いや、全体の3分の2ぐらいね。その段階でプレスコやったんじゃないかな。
── じゃあ、後半はアフレコに?
山本 終わりもプレスコですけどね。
── 何度かに分けて録っているんですか。
山本 そう、2回に分けてるんですよ。1回目は、絵コンテがあるところまで。それが3分の2ぐらいだったんですよね。2回目に残りを録ってるんです。両方ともプレスコなんですよ。
── で、それに合わせて作画をしている。
山本 そうです。
── プレスコは虫プロでは初ですか?
山本 先に『ある街角の物語』をやっていますから、2本目ですね。だけど『ある街角の物語』っていうのは、一般の人があんまり観ない実験映画ですからね。
── 山本さんは、『ある街角の物語』の経験を踏まえて、プレスコにしようと判断をされたんですか。
山本 当時は、みんなプレスコですよ。
── 『鉄腕アトム』はアフレコじゃないですか。
山本 アフレコっていうのは、TVが始まってからなんですよ。映画はプレスコなんです。僕は最近まで、映画はプレスコやってましたよ。
── 『クレオパトラ』も『ベラドンナ』もプレスコなんですか。
山本 ええ。
── プレスコの利点というのは?
山本 役者が芝居をちゃんとやれるって事ですよね。間もたっぷり取れるし。要するに「声本位で芝居ができる」という事。
── 俳優さんの側からすると、自由度は高いけど、どういうシーンであるかっていうのが、よほど分かっていないと芝居がしづらいのでは?
山本 それは色々な資料を見せて、「ここはどういうシーンで」と説明するわけですよ。しかもやるのが、専門の声優さんじゃなくて、(TVや舞台の)役者さんが多かったですから、懸命に説明しなきゃだめだったんです。その頃までの映画って、みんなそうでしたよ。東映の『(サイボーグ)009』とか、あの辺りからだと思うんですよ。映画をアフレコで作るようになったのは。
── 『千夜一夜』のバージョン違いについてなんですけど、先ほど最初に作られたバージョンでは、オープニングでペルシャ絨毯の上に直接テロップを乗せられていて、後に、画面に帯を引いてテロップが読みやすくなったバージョンに変えられたという事でしたよね(※編注:後のソフトは後者のバージョンで収録。前者は、現在リリース中のDVDに映像特典として収録されている)。それと、先ほどの映倫カットの話ですが。公開の時はすでにカットされてしまって、後にビデオ化等でそれが復活されたという事もないわけですよね。
山本 ないです。渋谷の公会堂がありますよね。最初に、あそこで試写会をやったんですよ。そこに来た人は、みんなそれ見てるんですよ。
── その時には、オープニングも最初のペルシャ絨毯のバージョンなんですね。
山本 ペルシャ絨毯もそうだし、映倫でカットした部分もあった。何しろ朝までダビングにかかってて、それを持ってきて上映したわけだから。とにかくギリギリで待っていた。そこからですね、リテイクをしたのは。そこからリテイクを続けて、劇場でやった時はもう(映倫でカットを指示されたところは)なかった。タイトルも色を変えて乗せかえればいいと思うんだけど、あれは製作の人がやってしまったから。今観て、残念です。
── 一般公開後した後も、リテイクの作業は続いたわけですよね。
山本 一般公開の後にはもうリテイクはしてないように思いますね。
── それから『千夜一夜物語』と言えば、必ずと言っていいほど話題になるのが、例の有名人の一言出演ですが。あれは完成直前に決まった感じなんですか。
山本 そうなんです。まあ全部が全部そうじゃないけど、ほとんどが直前に決まって。それで携帯用の録音機を持っていって、喋ってもらったんです。
── それは誰が行ったんですか。
山本 音響監督の田代(敦巳)君。当時は調子を合わせるなんて事はできないから(録った台詞の音声に)レベルの差があるわけですよ。それをそのまま使ってるんだよね(笑)。
── ああ、それで、あの凄い存在感のある声が(笑)。当初は全部、普通に俳優さんがやるはずだったんですよね。それが「この人に出演してもらえる」と分かったところで、「どこをやらせようか」みたいな感じで決めていったわけですか。
山本 そう。それで、どこを演ってもらうかは僕が決めたんです。
── 誰に出てもらうかの人選は、手塚さんだったんですか。
山本 そうです。頼むのは手塚さんで、録りに行くのはこっち。(一言出演をやるのが)もっと早く分かっていれば、ちゃんとそれに相応しい台詞を用意していたんだけど。
── なるほど。
山本 『千夜一夜物語』の時に僕が思ったのはね、手塚治虫の名前が出れば、ヒットするかというと、決してそうではないという事。とにかくギリギリまで、あらゆる事をやらなきゃダメだ! と。本当にヒットさせるためには、大変なんだなあと思いましたね。「手塚治虫だからヒットする」なんて事はありえないですよ。映画はね。
── 当時、大ヒットしたわけですよね。僕らは子供だったんで実感がないんですが。
山本 公開したら、映画館は次に(石原)裕次郎の映画をね、『栄光への5000キロ』だったかな、それを入れる事になっていたんですよ。それで、まだ人はいっぱい入ってるのに(ロードショーが)終わりになっちゃったわけです。もし次に裕次郎が入ってなかったら、その年の興行成績の第1位になってたはずですよ。
── なるほど。
山本 虫プロは、それまでも『ある街角の物語』を作っているんだけど、大衆レベルの娯楽映画は、これが初めてです。『千夜一夜物語』と『クレオパトラ』の2本は、一般の大衆が、大人が観る娯楽映画としてのアニメーションなんですよ。それは、この2本以降は出てないんだよね。僕らは『クレオパトラ』の後をやりたかったんですよ。だけど、虫プロが倒産してしまって、誰もそれに手をつけなくなってしまった。「虫プロ興亡記」の後で、僕が言いたい事、というのは、そこのところです。
── ファミリーものではなくて、大人のための娯楽映画という事ですね。
山本 そうそう。今、宮崎駿がそれに近い事をやってますけども、彼の作るものは子供が主役で、それを大人が観てる。それも悪くはないんだけど、やっぱり子供が主役というのは(大人が観るアニメーションとしては)違うな、という気がするんです。また、後で触れますけど。
▲アニメラマ第2弾『クレオパトラ』より

── 『クレオパトラ』の話も、もう少しうかがいたいんですが。こちらは『千夜一夜物語』に比べるとアッケラカンとしてるというか。随分と作風が違いますよね。これは手塚さんの持ち味なんでしょうか。
山本 多分、そうだと思いますね。マンガの登場人物をいっぱい出したり、最初と終わりに実写のシーンを入れたりなんかしたのも、手塚さんのアイデアなの。だからか、あれは手塚カラーでまとめた作品なの。
── ハチャメチャ、って言えばハチャメチャですよね。
山本 ただ、外国行くとね、結構評判がいいんですよ(笑)。
── 山本さんの関わり自体も『千夜一夜』とは違うんですか。今度は手塚さんのコンテを整理したりはしていないんですか。
山本 やってはいると思うんですけどね。手を入れる度合いが違うんですよね。「これは手塚さんの作品」だという意識がありましたからね。
── じゃあ、手塚さんのコンテを重視して、映画的に足りないとこを足すぐらいな。
山本 そうです。
── シナリオは里吉(しげみ)さんが書かれていますけど、それも手塚さんのプロットを元に脚本として起こしたようなかたちなんでしょうか。
山本 そうだったと思う。だけど、手塚さんはそれがあまり気に入らなかったんです。
── それじゃ、里吉さんの脚本は使われてないんですか。
山本 使ってはいますよ。だけど、かなり違っているはず。
── 『千夜一夜』に比べて、シークエンスごとに画風がガラリと変わるようなところがあるじゃないですか。冒頭と最後のSFのところは言うに及ばず、古今東西の名画が動くようなシーンもそうだし。個人作家に1シークエンスを任せるみたいなかたちになっていると思うんです。それは、山本さんの采配したものなんですか。
山本 僕が指名した人もいますけど、基本的にそういう事を「やろう」と言ったのは手塚さんです。
── 名画のパロディは、白組の島村(達雄)さんでしたっけ。あそこを島村さんに任せよう、みたいなのは手塚さんのアイデアなんですか。
山本 当時白組の島村さんは有名だったから、僕も知ってました。だけど、やっぱり指名したのは手塚さんじゃないですかね。
── あのシークエンスは全部、島村さんがおやりなんですね。個々のアイデアは手塚さんなんですか。
山本 いや、それは島村さんのとこだったら、島村さんがアイデアを出していると思います。
── 「名画が動く」というコンセプトだけで、あとは自由にやってもらった?
山本 そうです。
── 『クレオパトラ』の作画もキャラクター制に近いかたちだったんですよね。
山本 ええ、そうです。キャラクターによって、作画の担当が違うんですよね。全部を統合した作画監督はいないんですよ。
── たとえば、クレオパトラは中村さんがお描きになったわけですね。
山本 中村さんはクレオパトラとか、他の娘とか。
── あとは、波多(正美)さんとか、赤堀(幹治)さんとか、最初に名前が出てる人が中心にやってるんですかね。
山本 そうですね。
── アントニウスとかは、波多さんですか。
山本 波多君は、(リビアとイオニウスが捕まったシーンで)ローマの兵隊が興奮して男根が立っているとかね。そんなところをやっていたのを覚えている。
── 赤堀さんは、めんどくさいところを振られる事が多かったと聞きます。「東映仕込み」の腕で、モブとか大変そうなところをよくやるという話を聞いたんですけど。
山本 うん、そうなんですよ。東映仕込みかどうかは分かんないんだけど、そういうのが好きで。人がイヤがるのようなところを描いて、得意になってみんなに見せてましたよ。
── (笑)。『クレオパトラ』でも、やっぱりそういう大変そうなところを描いてるんですか。
山本 いや、彼はどこだったかなあ。
── ストーリーの事をうかがいたいんですが。これ、『クレオパトラ』の当時のパンフレットなんですけど(コピーを手渡す)。オチが、全然違うんですよ。ちょっとここら辺を読んで貰えますか。シナリオだとこういう話だったんじゃないかと思うんですけど(編注:パンフレットに掲載されたストーリーでは、未来世界で、クレオパトラについての報告を聞いたダラバッハ所長が自宅に帰る。そこで女房の顔を見た時に、「クレオパトラ計画」が、女性を使って地球人を骨抜きにする計画だった事に気がつく)。
山本 多分、そうですね。
── 今のかたちだと、一枚のテロップが出て終わるんです。手塚さんがコンテで、あのテロップで終わらせるかたちにしたんでしょうか。
山本 ……うん、そうでしょうね。その最後のテロップって覚えてませんけども。そうなっているのなら、手塚さんだと思いますよ。なんて書いてあるの?
── 「パサトリネ星の陰謀は進行してて、クレオパトラ計画は実を結びつつある。地球の男たちはもう骨抜きになりかかっているゾ」みたいな事をテロップで説明してするんです。
山本 うーん。あの実写のシーンはね、何度かやり直してるんですよ。実写をシネスコで撮るわけですよねえ。それ(左右が圧縮された35ミリのフィルム)に合わせて作画をしようとすると、縦長の画を描かなきゃいけないわけですよ。それを(シネスコ上映用のアナモフィック・レンズで)拡げてみたらね、ちょっと見られたもんじゃなかったの。それで、やり直したんですよ。やり直す時に、間に合わなくて、テロップとかになったのかもしれない。
── そのやり直しっていうのは、どの段階で行われたんですか。
山本 わりと早いうちに「これはダメだ」って事になってね。やり直しそのものは、後の方になってやったと思うんだけど。
▲『クレオパトラ』より。実写との合成シーンと島村達雄の手による名画のパロディ

── あそこの「顔だけをアニメにする」というアイデアは。
山本 それは手塚さん。
── あれはキョーレツですよね(笑)。『クレオパトラ』に関しては、映倫のカットはいかがだったんですか。
山本 ありますよ。2、3ヶ所切ったかな。
── 「虫プロ興亡記」で、カットされた杉井さんの描いた線画のベッドシーンが掲載されていましたね。
山本 もうひとつが、鏡を置いて、イラストを二つに分割して見せているカットです。
── ロールシャッハ・テストみたいな感じで、女体が絡んでるやつですね。
山本 そこがダメだって言われて。
── 実際にはもっと長かったのを、劇場公開時に短くした感じですか。
山本 そうだったと思う。
── それ以外にもありますか。
山本 あともう1ヶ所くらい切ったところが、あるかも知れないんだけども、そういう意味合いで切ったのはそれだけです。
── 『クレオパトラ』がTVで放映された時に、最初と終わりの未来世界のシーンがカットされていたんですが。そのバージョンはご記憶にないですか。
山本 僕は、それは覚えてませんねえ。
── 未来世界のシーンを切ったバージョンを作って、どこかで上映したというような事はないんですか。
山本 それは知らないです。
── キャラクターデザインに、小島さんを選んだのはどなたなんでしょう。
山本 それは手塚さんなんです。今度は(主人公が)女だから、小島功にしようって。
── 小島さんは、やなせさんみたいに、現場に深く入ったりはしてないんですよね。
山本 小島さんの場合は、自分のスタジオで描いてきましたよ。
── これに関しては、どなたかがクリンナップをしているんですか。
山本 多分、してると思いますね。やっぱりアニメーターが。
── それはやなせさんの時とは事情が違うわけですね。小島さんは背景設定にはノータッチですか。
山本 キャラクターだけですね。色もやっていないと思います。
── 杉井さんは、この時もエロチックなシーンを中心に、おやりなんですか?
山本 そうです。あの人にそういう才能があると見つけたのは、僕だから。『千夜一夜』とこれで、特別出演でやってもらいました。
── 『千夜一夜』の前にも片鱗があったんですか?
山本 『千夜一夜』の前はないですよ。なぜか僕は見つけたんだよね。この人はエロチックなシーンもいいって。

●「山本暎一インタビュー 第3回」へ続く
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