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「2005年春・この新番組がすごい!(……といいな)」対談 藤津亮太×小川びい(前編)

 週70本体制になって早幾歳。今年の春もまた数多くの新番組がスタートした。今回の新番組はいったいどうなっているのか。Newtype誌に「アニメの門」を連載中のアニメ評論家・藤津亮太と、本誌ライターの小川びいが、縦横無尽、融通無碍、唯我独尊、針小棒大にファーストインプレッションを語りまくる。題して「2005年春、この新番組がすごい……といいな」放談。

●2005年4月28日
対談場所/東京・神保町の居酒屋
構成/小川びい
構成協力/藤津亮太
小川 新番組が始まってすでにひと月経ってますが、このあたりで振り返って、新番組のファーストインプレッションをまとめつつ、あれこれ放談しよう、という企画です。
藤津 さっき呑みながら話そうとしたけど、いろいろあってどうも上手くいきませんでしたね。河岸を変えて再スタートです。
小川 ざっくり語ろうとしたら、かえって混迷してしまいましたね。まあ、あとでもう一度蒸し返す事になると思うけど……。というわけでルールを設けませんか?
藤津 いいですね。
小川 1、関東圏で番組が始まった順に取り上げる。2、もし語りたくないなと思ったらパスする。ただしパスは3回まで(笑)。という事で。
藤津 了解しました。
小川 では、カンパーイ。
藤津 カンパーイ。

小川 最初は『こいこい7』なんですが、どうですか藤本義孝監督作品ファンとしては?
藤津 えーと、パス。
小川 いきなり(苦笑)。
藤津 うーん、原作ファンの人が喜んで観てくれればいいな、と思って観てます。最近の原作つきアニメってよくも悪くも、原作を買っている人に対してのプラスαのサービス、デラックスな追体験の提供というのがひとつの要素だと思うんです。だから、その役割を果たしている事を切に願います。で、小川さんは?
小川 僕は藤津さんと意見が違って、最近のアニメは、原作を読んでいない人に読んでもらうための宣伝として作られていると思っているんですよ。そうすると『こいこい7』は宣伝になっているのかなあ、と(笑)。それは置いても、アニメファンとしては気になるところが一点あって、藤本さんって、これまでの作品をずっと見ていると――監督作品じゃないけど『ゾイド』なんかも含めて――、どう考えても胸の小さな――要するに“ナイチチ”の女の子が好きじゃないですか、多分。でも、『こいこい』ってみんな胸がある(笑)。
藤津 『(マーメイドメロディー ぴちぴち)ピッチ』が転機だったんですよ(笑)。
小川 いやいや、あの中で結構イジられてた波音は、やっぱり胸がない方じゃないですか! 藤本さんは胸がない女の子の方が生き生き動かせるんですよ、きっと!
藤津 それを言うならシェシェミミ(分からない人は検索してください)のほうかなあ。
小川 と、そこから考えると『こいこい』は、恐らく相性がよくないのではないか、と(笑)。藤本ファンとしては、胸のない女の子が活躍する番組をやってほしいですね。
藤津 そんな事言っても、昨今のアニメなんて、昔のキャラクターと比べて明らかにグラマーだから、もはやかなわぬ夢? みたいな。
小川 ははは。……次は『ふしぎ星の★ ふたご姫 』ですね。
藤津 世評通り、第1話はとても面白かったです。第1話に必要な要素がきっちり収まっていて、かつ自然に観られたのでバッチリだと思うんです。ただ、第2話以降を観て気になるのは、世界がファンタジックなのでファインとレインの苦労――って言っていいのかな――に切実感がどこか欠けているんですよ。全体としては緩やかでもいいんですけど。多少でも切実さがあると、現実との接点みたいなところが生まれると思うので、そういう部分が出てくるのか、出てこないのか、そこを気にしつつこれからを楽しみにしてます。今はまだ世界を紹介している段階だと思うんで。あと、主題歌が作品の雰囲気を凄く支えていますよね。特に「ち〜しき〜(主題歌を歌い出す)」……のところ。
小川 もう覚えてるんだ(笑)。僕が気になるのはやっぱり一点。赤い髪の元気な女の子が、声も演技もどれみちゃんにそっくりなのはどうよ、と。子供向け番組で誰からも好かれるキャラクターのパターンってかなり限定されてくるし、90年代にそれを確立したのが佐藤順一さんなので、ホントは文句を言う筋合いではないんですよね。でも、うさぎ、そら、どれみと並べると、その枠内にキャラクターが収まってしまうのは気になる。顔や性格が似ているのはまだしも、声が似ているのはどうなのかな、と。
藤津 あの、声が似ているで突然思い出したんですけど、『雲のむこう、約束の場所』のヒロインの声って『ほしのこえ』のオリジナル版に凄く似ているでしょ。あれを聞いて無意識的・意識的どちらにせよ、好みって出るなあ、と思ったんですよ。で、こういう対談で感想を語って好き嫌いを言う事も、それと似ているんじゃないか、と。感想の中に、己自身の無意識がきっと出てしまうんですよ。そう考えると、なんて言うか、こういう企画って自分の性癖を開陳するというか、エロ本のコレクションを見せるようなものかも……と思ってしまいました(苦笑)。
小川 この対談、さっきからどうも話が下品な方向に流れるなあ(苦笑)。じゃあ次は『英國戀物語 エマ』
藤津 1話は凄く丁寧にできていて、驚きました。難しい題材だと思うんですよ、時代もので、美術もレベルの高いものを要求されるし。やらなきゃならない事のレベルが高い。1話はそういうのを正面からやろうとしてましたよね。たとえば、町中を人が歩いているんで感心しました。あの、小林常夫監督って、ぴえろの中でもビミョーなラインという印象があるんですよ。『十二国記』とか。
小川 『超GALS! 寿蘭』とか『美鳥の日々』とかですよね。要するに伊達(勇登)監督や阿部(記之)監督と比べて、どちらかと言えば実験作的なラインが多い。
藤津 ええ。意欲作である一方、なんて言うか制作状況が限られているっぽい印象があって。それが今回は正面から戦う戦力が揃っている感じがしたんですよ。気になったのは、3話を観ると、インド人があまりにマンガだった事かなあ。
小川 ああ、「インド人だインド人だ」って言いたくなる。
藤津 若い人には分かりづらいネタを……っていうかむしろ時事ネタ!?(笑) あの原作がどうかは知らないんだけど、大人しい男女を引っかき回すのに、お節介や横恋慕する友達が出てくるのはマンガの定石じゃないですか。それそのものは悪い事ではないんだけど、言動や展開が定石どおりだったので、そこが逆に世界を緩くしている感じがして気になった。声はうえだゆうじさんですよね。うえださんって気になる声優さんで、不思議な役をやられるじゃないですか。
小川 難しい役を振られる事が多いですよね。
藤津 そう。『ハチミツとクローバー』の森田もそうだし。そういう意味では、うえださんに救われている感じはある。でも、こんな安直なラブコメ展開でいいのか、と。
小川 でも、古くさいラブコメをやるためにあの時代なんでしょ。
藤津 まあ、階級制とか、性へのタブーとか、あの時代だとありますからね。
小川 うん。この作品も僕が言いたい事はひとつなんですよ。冬馬由美さんって大好きな声優さんなんですけど、アニメ番組だと最近、その巧さを発揮できる役柄に恵まれてなかった。今回は久々にはまり役で、冬馬さんの実力が堪能できて嬉しいなあ、と。
藤津 作品自体も演技を楽しみながら観たいムードがありますよね。あの、僕は以前からもっと素直にアニメで「ホレたハレた」を題材にしてもいいんじゃないかと思っているんですよ。その意味で『君が望む永遠』はよかったと思うんだけど、あの場合、あのキャラクターの色は耐えられなかった。赤はギリギリ許せるんだけど、青い髪がしかもOLの恰好しているとつらかったんだよね。「あなたはどこの星の人ですか」という感じで。
小川 バッフクラン人だよね(笑)。
藤津 おかっぱじゃないけど(笑)。だからもう少し写実的なビジュアルにして、ああいう話を作ったら面白いんじゃないのかなって思ってるんですよ。『恋風』もそういうところがまず面白かったし。今回の『エマ』もその路線と思って期待はしているんですが。
小川 なるほど。気になるのは、『エマ』って「誰が幸福になるのかな」っていう事なんだよね。あの作りであれば、原作者や原作ファンや作り手はきっと幸福になれると思う。でも、その幸福はそれ以上に広がっていかないような気がするんですよ。
藤津 でも、エマが魅力的に描けているのは間違いないし、そういう意味では新しい読者やファンを得るんじゃないですか?
小川 うーん。僕は単にアニメファンなので、原作をメチャメチャにしてでもアニメとして面白い方が嬉しいなあ。最近は、アニメファンを幸福にしてくれる原作つきアニメが少ないような気がするんですよ。それはアニメの側の技術が上がったとか、商売の事をちゃんと考えるようになったとか、いろんな理由があるんだけど。もちろん、『エマ』が悪いというわけではないんですけど……。
藤津 確かにそういう流れの中にはきれいに収まっていますよね。つまり小川さんとしては、『鋼の錬金術師』で會川昇さんがやったみたいにガツンとやってほしいと。
小川 その喩えは極端だけどね(苦笑)。次は『IZUMO 猛き剣の閃記』ですか。
藤津 これもパス。
小川 すでにふたつめですよ。あとひとつしか使えないけど、大丈夫ですか。
藤津 うーん、危険かも(苦笑)。パスしないんですか?
小川 まだまだ。『IZUMO』は、それこそ誰のために作っているか分からないのが気になりますね。
藤津 たしかに「誰が幸せになるか」といった時に、イマイチ分からない。
小川 きっとね、作っている人が『(天空戦記)シュラト』ファンなんですよ(笑)。ほら、どっちも、ライバルで親友の学生2人が、異世界に呼ばれて敵同士になる話でしょ。女の子も一緒に連れてくるところが今風ですけど。
藤津 (苦笑)。1話ってAパートで、説明ゼリフがもの凄い勢いで出てるじゃないですか。あれがそのままオンエアされるという事は、何か現場で起きているんじゃないか、と思いましたね。……と、語っちゃったからパス撤回。卑怯でゴメン。
小川 (苦笑)キャラクター設定を主人公が語るところね。あれはアニメっぽくていいなあ、と思った(笑)。……えーと、次は『おねがい マイメロディ』
藤津 単純に第一印象は、現状サンリオの一押しはシナモロールなのに、なぜ今マイメロディか、とは思いましたね。それに曜日が連続しているので続けて観てしまうんですけど、『ふたご星』と『マイメロディ』では、向けている層は似ているのにスタンスの差が際立つなあ、と。そうそう、話していて思い出したけど、ああいう世界で人間のキャラクターを出すのは難しいなとも思いましたね。
小川 どういう事?
藤津 なんかどうもとってつけたように見えません? 『マイメロ』だと、さらに悪役側に人間キャラを配しているから、難しい事をやろうとしているなと思うんですが。小川さんは、どうですか?
小川 パス1です。
藤津 おお。理由は訊いてもいい?
小川 マイメロディ役の佐久間レイさんの大ファンなので、あまりアレコレ語りたくないんですよ。
藤津 じゃあ次が『メルヘブン(MARCHEN AWAKENS ROMANCE)』。僕は小学生が楽しんでいるならいいのでは、と思って観てます。少年マンガらしい、ざっくりしたところがあるでしょう。それを僕ぐらいの歳の人間が、素で楽しめるわけがないので。でもその緩さも小学生なら無問題だろうし、そこは原作の狙いじゃないのかな。
小川 今回始まった番組のほとんどの原作を読んでないので、これもアニメだけを観ての印象だけど、子供に見せるものだからこそ、もっと誠実に作ってほしいなあと思いましたね。例えば、同じような構造の作品でも『金色の ガッシュベル!!』って、凄く真面目に考えて作られていると思うんですね。それを思えば、もっといくらでも考える余地はあるんじゃないかなあ、『こいこい7』じゃないんだから。
藤津 まあ『こいこい7』は大人の見るものですから(笑)。
小川 『メルヘブン』ってわりと願望充足的な作品構造じゃないですか。だとすれば、そこには一定の倫理が必要だと思うんですよ。でも、それが少なくとも観ている僕には、はっきりとは見えてこないので、気になるんです。これは原作に忠実だから、といった問題ではないと思うんですよね。『ガッシュベル!!』なんかは、その倫理の一線の引き方が凄く上手いじゃない。
藤津 バトルする痛みみたいなものがある話にしてますよね。でも『ガッシュベル!!』があるから、同じものは2本もいらないでしょ。そもそもああいう作品の、スジの通し方ってそんなにあるわけじゃないから、倫理的に作れば似通う可能性は大だと思うなあ。
小川 うーん。ただそうであっても、やっぱりスジは通した方がいいんじゃないかなあ。大衆に見せる作品を作るという意識があるんであれば。
藤津 じゃあ、それとつながると思うんで、先に『甲虫王者 ムシキング 森の民の伝説』の話に行きましょうか。その話からすると『ムシキング』って、凄い倫理的な作品だという気がするんですよ。
小川 ああ、そうですね。
藤津 もともとが昆虫を戦わせるというゲームでしょう。それをアニメにする時に、じゃあ、戦いってどういう事かというのを真面目に考えて、諸々について設定しているじゃないですか。あれは大人の仕事ですよね。
小川 うん、子供に見せるべきものは何か、って考えて作ってますよね。
藤津 子供の反応はイマイチみたいな話をネットで読んだんですよ。そういうのを見ると、難しいなあ、とは思います。ただ、僕はそうであっても、こういう倫理的なアプローチはやるべきだと思いますよね。
小川 同感ですね。嫌な出来事があると、嫌な事が起こっているって分かるように演出されてて、観ている側がちゃんと嫌な気持ちになる。演出的な力量も凄いし、嫌な事も逃げずにやろうという意志がある事も凄い。これはなかなかできない事ですよ。アニメ番組に限らないんですけど、最近は、子供の教育上よろしくない番組ばかりじゃないですか。刃物で切られても血が流れないとか、大怪我負っても死なないとか、温泉に入る時にタオルを巻いたまま入浴するとか(笑)。そういう一見配慮したような表現って、子供には時に有害ですらあると僕は思うんですよ。その点、『ムシキング』はちゃんとしたものを見せようという意識がある。
藤津 やる以上はちゃんとやろうという話ですよね。このテのジャンルの元祖『ポケモン』って、あの世界のリアリティの設定の仕方って僕は凄く上手いと思うんですよね。要はスポーツという事にして、バトルが倫理的なひっかかりを生まないようにしている。
小川 ええ、あれは上手い。
藤津 ところが劇場版第1作(『劇場版 ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』)では、それを否定するような話をするでしょう。あれって切り札みたいな話で、エンターテインメントのために選んだリアリティを揺さぶる事でドラマを作ろうとしたんだと思うんですよ。で、『ムシキング』は『ミュウツーの逆襲』の地点から話を始めている(笑)。昆虫同士を戦わせるわけでしょう。やっぱり生き物だしね。そういうところは気にして作っている感じがするんですよね。
小川 はい、という事で、次は『うえきの法則』ですね。
藤津 僕は2話から観たんですが、不思議な話だな、と思いました。
小川 これは原作の問題ではなくて、昨今のアニメ全般の問題だと思うんだけど、いくつもの設定がバラバラな方向を向いているんで、初見では非常に分かりづらい。それぞれの設定が何かの隠喩だったり象徴だったりして、それが全体としてひとつのイメージを形作るというのが、本来理想だと思うんです。原作を駆け足で消化しているためもあるんでしょうけど、『うえきの法則』って、それがあんまり上手くいかずに、単に設定が投げ出されているように見える。ただ画期的なのは、90年代後半に出てきた、後方支援型バトルもの――『ガッシュベル!!』もそうなんですが――ってあるじゃないですか。
藤津 使い魔を使うやつですね。
小川 そうそう。で、主人公が使い魔の方だ、っていうのは新しいとは思った(笑)。
藤津 まわりまわって主人公が戦うハメに。で、次が『(創聖の)アクエリオン』ですか。これは愉快愉快。やっぱり世代的にロボットアニメにヨワイところはあるし。
小川 あ、そう?
藤津 うん。河森(正治)さんが、あんなに旧来のロボットアニメのスタイルを踏襲した脚本を書くとは思わなかったので驚きました。前半の描写が後半の逆転につながる、とかね。それに最近のメカものって、メカがあまり出ないじゃないですか。でも、『アクエリオン』って30分の間に2回合体してみせるとか、そういう昔のいわゆるスパロボだったら当たり前だった事をちゃんとやっているのは、エライ! というか、河森さんの真面目さを感じるなあ、と思いますね。……何、ニヤニヤ笑ってビール呑んでるんですか?
小川 いやあ、随分作品と距離があるような言い方をするんだなあ、と思って。
藤津 ええ、距離? 河森さんに取材した時にね、『(地球少女)アルジュナ』で仕事がなくなるのを覚悟した、という話をうかがったんですよね。それを思うと、『アルジュナ』的要素は入れつつエンターテインメントしようという姿勢には、好意的になっちゃうところはあるんですが。ただね、不満を言うと『アクエリオン』って、絵柄が濃いめなので軽いシーンがあまり軽くならないんですよね。逆に、顔が濃いんだから、Hっぽいアングルの時の体はもうちょっと濃厚に描いてほしい! と思う(笑)。
小川 ふむ、そうかあ。僕は頭が悪いので、真面目にやっているのかシャレなのか、そのラインをもうちょっとはっきり打ち出してくれないと、作品との距離感がとりづらいんですよ。僕はサテライトの作品はどれも、ピュアというか誠実な印象があるんで、これでも応援したいんですけどね。えーと、で、『こみっくパーティー Revolution』はまだOVA版の放映だから飛ばさせていただいて、『エレメンタル ジェレイド』はどうですか?
藤津 石田彰さんが元気な男の子役をやるのは珍しいですよね? と声優博士に振って……終わり。
小川 終わりですか!
藤津 期待された役割は果たしていると思うんですよ。小川さんは意見があるんでしょ?
小川 うん。とっても些末な事なんだけど。主人公が女の子と出会ってそれを守ろうとするわけですよね。でも、主人公って盗賊じゃないですか。相手から物を奪って、暴力も振るっているような人間が、いきなり「人をカネで買うのは許せない」って、その時だけ現代日本人の庶民的な感情になっちゃうのはどういう事なのか。主人公と女の子とそれを狙う3人組が珍道中を組むっていう設定が最初からあって、その段取りとして主人公が女の子と関係を結ぶように見えて、しらけちゃう。
藤津 さっき言った倫理と絡むような話?
小川 いやいや、そんな大げさじゃなくて、単に主人公の動機づけぐらいはちゃんとしてほしい、って事ですよ。女の子がかわいいからでもなんでもいいんだけどさ。ここで僕が言わなくても、作り手の方が何倍も分かっている事だと思うけど、どうしてこうなっちゃうのかなって。これは『エレメンタル ジェレイド』だけの問題じゃなくて、特に最近のファンタジーっぽい題材の作品に共通の問題じゃないかな、と思うけど。
藤津 おいしいシチュエーションが先に立って作っている感じがするって事ね。
小川 そうそう。主人公自身は類型的で、キャラクターの関係性だけが突出しているとか。しかも、それを許す視聴者が一方でいてね、なんか視聴者との共犯関係が成り立っているような感じがするのでね、それはイケナイ事だと思います。
藤津 なるほど。で、次が『ガラスの仮面』
小川 どうですか?
藤津 うーん、『ガラスの仮面』だからなあ(笑)。ただ、1話に関しては、ヘソが分からないのが気になったかな。わりと1話って漫然と話が進んじゃってますよね。シナリオからすると、本来はふたつヘソがあるはずなんですよ。ラーメンを運びきるマヤの情熱と、劇場に行って姫川亜弓に会う、このふたつですよね。それが、どちらにも力点が置かれないままになってる。昔のTVシリーズをそんなに観ていたわけじゃないけど、1話はラーメンを運ぶところから始まるじゃない。それはマヤがどういう子かをいきなり見せてしまうという意味で、つかみになるし、上手いと思うんですよ。そういう大胆なメリハリみたいなものがあまりなかったので、長い話なのに大丈夫なのかな、と。
小川 こっちとしてはあまり言う事はないんですけど、マヤ役の小林沙苗さんは今期、また急にレギュラーが増えたんでね、頑張ってほしいなあ、と。
藤津 勝生真沙子さんって、昔マヤでしたよね。
小川 うん。それが今回は姫川歌子という。これは狙いがあるのかどうか、ぜひ知りたいところだよね。次は『いちご100%』か。
藤津 原作はああいうもじもじした話をずっとやるの?
小川 まあ、そうかな。
藤津 歳をとったので、あれぐらいの刺激ではもうドキドキしないんですよね(苦笑)。ただ、深夜っていうのはよく分からない。『週刊少年ジャンプ』なんだし、ほんとは夕方6時とか、土日の朝とかの方が視聴者とのマッチングがよかったんじゃないのかな。
小川 いやいや、ああいうのを喜ぶ人たちは、今は20代以上が主流だと思うよ。まあ、僕としては、また声優の話だけど、豊口めぐみさん、能登麻美子さんという声のイメージが明快なヒロイン2人に、きわどいセリフもさわやかにこなせる鈴村健一さんというアンサンブルが、とてもよかった。という事で、サクサク行きましょう、『アイシールド21』
藤津 アメフトアニメって『(UFO戦士)ダイアポロン』以来?(笑) あ、『(機甲艦隊)ダイラガーXV』もあるか。
小川 それはラグビー(苦笑)。
藤津 とにかく人数が多いスポーツって難しいですよね。あのね、僕は、野球ほどアニメやマンガに向いているスポーツはないと思うんです。だって、ピッチャーとバッターだけ押さえればドラマが作れるじゃないですか。おまけにフレームの中で動く人数も1人か2人でなんとかなる。サッカーアニメも、いろいろノウハウが蓄積されているけれど、野球ほどプレイの面白さは抽出できていない。そういう意味では、『アイシールド21』は原作からしてチャレンジして、アニメも解説を入れたり、分かりやすくしようと作っているなあ、と感心しましたね。ただ、人数が多いと、主人公以外の影が薄くなりがちなので、そこが難しいかも。
小川 ただ、アメフトって覚えなければならない約束事が結構あるでしょ。集団作業であるアニメの現場でちゃんと伝わるのかな、っていうのが心配ですね。実際、第1話の冒頭は試合の流れを無視したイメージ的な編集がなされているんですけど、アメフトファンの知人はそれを観て幻滅していましたからね。アメフトって、野球やサッカーと違って20世紀になってできた「観るスポーツ」なんで、アニメに使える見せ場はいっぱいあるんだけど、その面白味を上手くスタッフがつかまえてくれるかどうか、心配しつつ期待したいなあ、と。
藤津 次は『極上生徒会』。……これは分からない。
小川 分からない?
藤津 キャラクターデザインを見た時は、期待していたんですよ。最近はコテコテが多い中で、わりとナチュラルなデザインだったんで。ただ、話も不思議とナチュラルなんでヘソが分からない(苦笑)。おそらくですね、これはヘソを隠しながら進行しているので、僕が分からないだけで、きっと驚くような何かがあって、前半のオレの違和感はこれで解消した! というのがきっと後半のどこかであると期待して録画し続けています。
小川 いやあ、アニメ評論家らしい、読みの深さですね(笑)。
藤津 えー、そういう前振りをしといて、パスなんて言わないでよ。
小川 パスです(笑)。
藤津 話が続かないじゃん!

●「2005年春・この新番組がすごい!(……といいな)」対談 藤津亮太×小川びい(後編)に続く

(05.05.13)
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