WEBアニメスタイル
更新情報とミニニュース
アニメの作画を語ろう
トピックス
ブックレビュー
もっとアニメを観よう
コラム
編集部&読者コーナー
データベース
イベント
 

 編集・著作:スタジオ雄
 協力:スタジオジブリ
    スタイル

WEBアニメスタイルについて メールはこちら サイトマップ トップへ戻る
もっとアニメを観よう
「もっとアニメを観よう」
 第4回 井上・今石・小黒座談会(4)
―― いよいよ、井上さんです。井上さんがお選びになったコンセプトは?
井上 俺の中では、作品よりもやっぱりアニメーターが先にくるので、「忘れて欲しくない20人のアニメーター」という形で選んでみました。

●井上俊之(アニメーター)が選んだ
「忘れて欲しくない20人のアニメーター」

政岡憲三
 『くもとちゅうりっぷ』
月岡貞夫
 『わんぱく王子の大蛇退治』
大塚康生
 『わんぱく王子の大蛇退治』
宮崎駿
 『長靴をはいた猫』
小田部羊一
 『どうぶつ宝島』
 『わんわん忠臣蔵』
青木雄三
 『ルパン三世[旧]』1話、5話
 『ルパン三世[劇場]』
 『侍ジャイアンツ』
近藤喜文
 『姿三四郎』
 『トム・ソーヤーの冒険』
 『NEMO[テレコム版パイロット]』
友永和秀
 『ルパン三世[新]』「マダムと泥棒四重奏」「死の翼アルバトロス」
 『銀河鉄道999[劇場]』
なかむらたかし
 『Gライタン』41話「大魔神の涙」
森本晃司
 『スペースコブラ』1話、12話
 『SF新世紀 レンズマン』
 『未来警察ウラシマン』26話「ネオトキオ発地獄行き」
大塚伸治
 『CAT’S EYE[第1期]』10話Bパート
 『おもひでぽろぽろ』
福島敦子
 『Manie―Manie 迷宮物語』「ラビリンス*ラビリントス」
うつのみやさとる
 『御先祖様万々歳!』4話
磯光雄
 『BLOOD THE LAST VAMPIRE』
 『御先祖様万々歳!』4話、6話
大平晋也
 『THE八犬伝』1話、[新章]4話
 『ユンカース カム・ヒア[パイロット]』
橋本晋治
 『課長王子』OP
 『SPRIGGAN』
田辺修
 『GOLDEN BOY ―さすらいのお勉強野郎―』3話
 『THE八犬伝』1話
 『ユンカース・カム・ヒア[劇場]』
湯浅政明
 『クレヨンしんちゃん[スペシャル]』「ぶりぶりざえもんの冒険 飛翔編」
松本憲生
 『逮捕しちゃうぞ[TV第1期]』39話
 『EAT―MAN』7話
 『地球少女アルジュナ』4話
田中達之
 『DOWN LOAD 南無阿弥陀仏は愛の詩』
 『Green Legend 乱』1話
 『夢枕獏 とわいらいと劇場』「骨董屋」

番外
ビル・タイトラ Vladimir William Tytla
 『ピノキオ(Pinocchio)』
ミルト・カール Milt Kahl
 『ビアンカの大冒険(The Rescures)』
ドン・ブルース Don Bluth
 『ニムの秘密(THE SECRET OF N・I・M・H)』
 『ドラゴンズ・レイヤー(Dragon's Lair)』

さらに番外
木上益治
 『さすがの猿飛』
岡田敏靖
 『シートン動物記 くまの子 ジャッキー』
才田俊次
 『じゃりン子チエ[TV]』
庵野秀明
 『オネアミスの翼 王立宇宙軍』
河内日出夫
 『ルパン三世[旧]』5話
 『侍ジャイアンツ』
小林治
 『まんが日本昔ばなし』
 『アタックNo.1』


小黒 番外の他に「さらに番外」があるんですね(笑)。
井上 そうなんだよ(苦笑)。絞り切れなかったんだよなあ。
―― 説明をお願いします。
井上 さて、歴史的な順番でいこうか。まずは誰かがどこかで振り返らないと忘れられかねない、政岡憲三さんとそのスタジオの業績。今、普通に観られるものが、『くもとちゅうりっぷ』しかないんだけどね。俺もそれ以外には『桜』と『すて猫トラちゃん』か何かの一部分がTVで流れたのを観ただけだけどね。他には『マグマ大使』のオープニングの円盤や翼竜もあるけれど、政岡さん自身が描いているかは分からないからね(編注:うしおそうじの証言によると、パイロット版でのジャングルの中での翼竜の飛行シーンは政岡の手になるものだという。1話にも流用されている)。
 『くもとちゅうりっぷ』は戦中の作品だけど、日本独自の技法で一旦ここで完成されていると言い切ってもいいよね。この作品に比べると、東映の初期は技術的には荒れているところがある。驚くのは、ディズニー以降の作品であるにもかかわらず、ディズニーの影響は受けていない点。デザインとしても技術としても、独自の発展を遂げているように、俺には思えるんだ。創成期の完成した作品という事で、忘れてはいけない。
今石 ソフトにはなっているんですか。
井上 『桃太郎 海の神兵』とカップリングでビデオが出てる(編注:インディーズでは、プラネット映画資料図書館から発売されている「幻の活動大写真」全6巻の第2巻に『べんけい対ウシワカ』が収録されている)。
 で、その後、日動から東映動画になって、初期の作品は色々あるけれど、一度技術的な頂点を迎えたのが、『わんぱく王子の大蛇退治』。そのクライマックスを大塚康生さんと月岡貞夫さんが担当されている。月岡さんのアニメーターとしての仕事というのは、今、意外に観る事が難しいかもしれない。『タッチおじさん』をはじめとして、CMアニメなんかでいい仕事をなさってるけれど。やはり、アニメーターとしての情熱がほとばしっているのは、『わんぱく王子』だと思う。あれだけのボリュームを2人でやっているのも凄い。大塚さんは、その後『ホルス』で日本的なアニメの作画を確立すると思うんだけど、それ以前の、もっとナチュラルな、アニメーションとしての仕事としては、この作品が最高だと思う。そもそもドラマ的にも盛り上がるし、音楽もいいしね。
小黒 あのクライマックスって、それまでのシーンとは違う映画みたいですよね(笑)。余談だけど、『わんぱく』は他にも見所が多い作品なので是非観てほしい。
井上 さて、次が宮崎駿さん。今だと、映画監督としての宮崎さんがもてはやされているけれど、俺にとっては、宮崎さんと言えばアニメーター。特に『長靴をはいた猫』のラストの追っかけシーン。大塚康生さんと共作して入り乱れているんだけどね。ピョンピョン跳んでいくあたりは宮崎さんだよね。天才肌の宮崎さんと、職人肌の大塚さんの競演というのも興味深い。
小黒 宮崎さんは、純粋にアニメーターだけやっている期間が短いでしょう。
井上 うん、そうなんだよね。そういう意味では『どうぶつ宝島』も忘れてはいけないんだけど、『ど宝』は俺にとっては、小田部羊一さんの作品として重要なんだ。小田部さんは『三千里』や『ハイジ』のキャラクターデザイナーや作監としては名高いけど、案外アニメーターとしては振り返られる機会は少ない。そのアニメーターとしての小田部さんが存分に観られる数少ない作品のひとつが、『ど宝』。旅立ちのシーンは間違いなく小田部さんだし、嵐のシーンも他には考えられないから、多分、小田部さんでしょう。
―― 旅立ちのシーンはやったと、ご本人から聞いた事があります。
井上 あとね、これは裏をとったわけではないんだけど、俺が確信しているのが、『わんわん忠臣蔵』で、冒頭で岸壁に流れ着いた子犬を少女が助けるシーン。あの巧さは、あれほどの波を描ける人は、小田部さん以外考えられない。小田部さんは、臨場感や存在感という点では、宮崎さんや大塚さんより断然巧いんだよ。そういうところが俺は好きなんだ。2人にはない、リアリズムが新しかった。存在感、臨場感を重視したいという気持ちは、俺自身の仕事にもつながってきている部分がある。
小黒 なるほど。
井上 さて、東映動画から影響を受け継いだ存在としてはAプロダクションの人達がいるんだけど、これは外せない人が多くて困る。俺の好みで言えば、近藤喜文さんをまず挙げたいところなんだけど、その前にどうしても挙げておきたいのが、青木雄三さん。『侍ジャイアンツ』のAプロ回は全部お勧め。ウルフが回転魔球を打つ回のラスト近く、手足が長くなるあたりは青木さんの画だと思う。あとは、旧『ルパン』だと、1話のF1とか、5話の、高速道路での車上の追いかけっことか。画も巧いし、タイミングも巧いよね。当時19歳だったというんだから、また凄い。
今石 えっ、そんなに若かったんですか。
井上 大塚さんが「天才中の天才」と言ったと聞いたことがある。
小黒 その後、青木さんはグラフィックな方向に行くんだけど、その頃の仕事がまた洒落ているんですよね。
井上 そのあたりのバランスが面白いのが、劇場版『ルパン三世[マモー編]』かな。
小黒 コンボイとのカーチェイスですね。
井上 タイミングの洒落た感じが素晴らしい。次元とルパンがくわえた煙草の煙が、シュっと消える感じなんか、切れ味いいよね。。
今石 コンボイの動きは5コマだか6コマだか分かんないだけど、あれで何か重たく見える
井上 画の巧さといい、タイミングの気持ちよさといい、奔放に描いているわけじゃなくて、トータルとして計算されているんだよね。ルパン達が笑っているところに、飛行機が飛んできて車に突っ込んで、最後に爆発するあたりの爆発の気持ちのよさ。生理的に気持ちのいいタイミングを踏まえながら、金田さんほど感覚的にならずにリアリズムを保っている。それでいてお洒落。
小黒 新『ルパン』のOPはどうですか。
井上 最後のやつはいいよね。あと、『とんでモン・ペ』のOPなんかもいいな。
小黒 あれって、青木さんの原画なんですか?
井上 そうだったと思う。絵コンテもやっているはずだよ。
今石 『侍ジャイアンツ』のAプロの回で、バイクで電車を追いかけるところが凄く巧くて、あれは青木さんじゃないか、って思ったんですけど。……大塚さんですかね。
井上 うーん、それは確証がないなあ。ただ、『侍ジャイアンツ』は大塚さんより、青木さんと河内日出夫さんに注目したい。これは推測だけど、OPもEDも河内さんだよね。中でも、EDの飛び上がったあと、バットスウィングするところの巧さは、多分河内さんだと思うな。
 河内さんと言うと、他には旧『ルパン』5話で、冒頭からサブタイトルまでが河内さん(他にもやられていると思いますが、確証は有りません)。アクションも非常に運動神経のいい動きが描けるんだよね。
今石 そういうのって、御本人も運動神経いいんだろうと思いますね。
井上 いいんじゃないかなあ。本人の運動神経がそれを描かしてる。バッティングやピッチングの体重移動も巧いし、キレもいいんだよね。
今石 『侍』って、全部大塚さんの手柄のような気がしてたんだけど、違うんですね。
井上 うん。大塚さんや宮崎さんが描くと、もっとマンガになるよね。
―― 次は近藤喜文さんですね。
井上 近藤さんは、青木さんとは対照的で、天才肌ではないんだけど、アニメに対する情熱でいいアニメーションを手がけたよね。近藤さんのいい時期って長いんですよ。興味深いエピソードがあってね。近藤さんは、『おもひでぽろぽろ』のときに磯光雄を知ったんじゃないかと思う。で、そのあとで、日本アニメーションに遊びに行った時に、佐藤好春さんに「磯光雄君って知ってる? 凄いんだよ」って、漏らしていたんだって。多分、アニメーターとしてライバル心を燃やしていたんだと思うんだよね。後の仕事を観ても、磯君を意識したような仕事をしているから。
小黒 と言うと?
井上 『海がきこえる』で、小さなTV画面の中に、実写を引き写したような走りを描いているんだよね。磯君を見なければ、ああいう描き方はしないと思う。そういう意味では、根っからのアニメーターなんだね。
今石 僕は『姿三四郎』は観た事ないんですけど。
井上 これは、近藤さんの代表作と言うと、怒られるかもしれない。別の作品の準備をしている時に、手伝い程度で関わったらしいと友永さんがなんかのインタビューで言ってた。街の中で乙美とぶつかるあたりから、スルメが焼けていくカットのあたりまでと他にもやっていて、手伝いとは言え、かなりのボリュームがある。
小黒 『姿三四郎』は作監が友永さんで、原画に大塚さんも入ってますよね。
井上 いちばんいい頃のテレコムスタッフがこぞって参加した作品なんだけど、俺にとっては近藤さんのフィルムなんだ。頭に描いた動きを全部原画で描く、っていう最近の作法の、ハシリなのかな。当時はどうしてこういう動きにできるのか分からなかったけど。そのくらい密度の高い画面が思い描けて、それを全部描いてしまえる画力があったんだよね。近藤さんのところが分からないようでは、ダメ。
今石 ダメですか(笑)。早速、観てみます。
井上 振り返ってみると、近藤さんは常に、かなり複雑な動きをイメージできて、それを全部原画で描こうとしていたんだね。そういうアニメの原点みたいな描き方をしていたんだと思う。後に、そうした描き方は磯君が現れるまで登場しなかった。そういう意味では、近藤さんが磯君に反応するのも分かるんだ。これは想像だけど、多分磯君を見て、悔しいと思ったに違いない。
小黒 『トム・ソーヤーの冒険』はどれが?
井上 近藤さんがやっているもの全部。ただ、これは新人達の面倒をみながら、という変則的なやり方だから、近藤さんが原画を描いているのかラフ原画まで描いて後は他人にまかせているのか、よく分からないんだけど、近藤さんが原画でなければ描けないような場面がいくつかある。まとまった形では見られないけど、随所に当時のTVとしては考えられないような動きがあるんだ。俺が覚えているシーンだと、ベッキーの家の犬にトムが追いかけられる場面とか、オバケ屋敷みたいなところで腰が抜けて動けなくなっちゃう場面とか。船上でのハックとトムの追っかけは「近藤喜文の仕事」にも収録されているよね。
 『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』の屋根の上でパパンダが落ちそうになるシーン。俺はずっと宮崎さんが担当したと思っていたんだけど、あそこも近藤さん。それに『パンダコパンダ』の縄跳びのシーンも近藤さんなんだよね。あそこの巧さは本当に凄い。
 近藤さんは、初期はAプロ的なリミテッドなんだけど、恐らく本来持っていたであろう、「動きを全部描きたいんだ」とでもいうような、フルアニメ的な描き方に移行していくんだよ。
小黒 『NEMO』のパイロットは?
井上 これは友永さんと共同で挙げておきたい。完成度は非常に高いよね。ただ、俺の思う近藤さんのアニメーターとしてのよさが出てるか、と言うと違うように思う。
 ジブリでは責任者という立場もあったろうし、テレコムでも作監をする事が多かったから、アニメーターとして本領を発揮した作品は意外に少ないように思うんだ。そういう中で、ある意味無責任に原画マンとして楽しんだのが、『姿三四郎』なんじゃないかなあ。
―― さて、友永さんですね。
井上 俺が、アニメーターとして最初に熱心に観ていたのが友永さんなんだよね。『999』が先だったか、『新ルパン』が先だったか……。
小黒 当時の友永さんの仕事を大雑把に順番で言うと、『新ルパン』初期、『さらば宇宙戦艦ヤマト』『未来少年コナン』『999』になると思います。それから『カリ城』『新ルパン』後期だと思います。
井上 まあ、友永さんのよさが発揮されていたと言えるのが、『新ルパン』だろうね。量もたくさんやっているし。
小黒 で、どの話ですか?
井上 全部ですね(笑)。特に挙げるなら、「ベネチア超特急」(8話)か。それと「マダムと泥棒四重奏(カルテット)」(92話)はマイナーかなあ。
小黒 いやいや、バッチリですよ。あの不二子が警官の頭をカンコンカンって叩くやつでしょ。
今石 何話ぐらいの話ですか。
小黒 90話くらいだよ。不二子がこう金田跳びみたいなアクションをするんだよ。
今石 ほお、そうなんですか。
井上 うん。友永さんが金田さんの友達っていうのがちょっと出てたりしてね。
今石 それは『カリ城』の後ですよね。
小黒 いや。『カリ城』の前だな。
井上 そうそう。『カリ城』を経て、テレコムに行かれるわけだからね。
小黒 『999』と『カリ城』の間にも、『新ルパン』をやっているんだ。
井上 俺は初期のオープロ時代の友永さんの『ルパン』はどれも好き。テレコムに行ってからも友永さんのよさは失われていないけど、オープロの頃は友永さんのよさがストレートに出ている。「ベネチア超特急」もいいけど、あと、前半と言えば……。
小黒 「カリブ海の大冒険」(14話)ですね。
井上 そうだね。「カリブ海の大冒険」は1本丸々原画を描いている。
小黒 「必殺 鉄トカゲ見参」(25話)もいいですよ。
井上 あと「父っつあんのいない日」(98話)かな。
小黒 あの回だと、銭形が入った棺が焼かれちゃうところの炎なんか、いいんですよね。
井上 友永さんは、奔放に描く人のようでいて、ベーシックな部分はちゃんとしているんだよね。パースなんかもしっかりしている。メカなんかも三点透視法で立体的に気持ちよく描いてあるんだよ。もしかしたら、アニメに三点透視を初めて持ち込んだ人なんじゃないかな。金田さんのものは感覚的なんだけど、友永さんの三点透視はちゃんとしてるんだよね。
今石 金田さんは本当に勘ですからね。
井上 うん。友永さんは理屈も踏まえながら描いている。大塚さん達が、パースを意識して描くような事はそれほどなかったから、アニメの中に初めて意識的にパースを持ち込んだ人のような気がするんだよ。特に『999』のアルカディア号なんかは、非常に立体感があって、巨大な感じがよく表現されていた。パースの理屈も踏まえないと、手前に飛んでくるカットの気持ちよさはなかなか出るもんじゃない。
今石 やられてしまう飛行機も細かいんですよね。
井上 そうなんだよ。アニメを緻密にした最初の人でもある。大塚さん達だと、緻密である事はあまり目標ではないんだけど。原画の密度を意識して上げたという意味では、友永さんが初めてに近いだろうね。それにエフェクトアニメーションって気持ちいいなあ、と意識させられたのも友永さんからだろうね。金田さんも勿論、気持ちいいんだけど、リアルで、それでいて気持ちいいというのは、友永さんかな。特に「死の翼アルバトロス」(145話)の空中戦での、ミサイルの爆発の気持ちのよさ。最終回「さらば愛しきルパン」(155話)での新宿の爆発。
―― なるほど。
井上 で、東映、Aプロ、友永さんときた流れから、全く違う系統から出てきてびっくりさせられたのが、なかむらたかしさん。今は監督だけど、俺にとってはアニメーターとして忘れてほしくない。中でも、俺にとって、いちばんほとばしっているように思えるのが『Gライタン』。これは衝撃だったね。
小黒 中でも「大魔神の涙」(41話)なんですね。
井上 いちばん最初に観たので、思い入れが強いし、振り返っても、ボリュームがあって、アニメ的な見せ場も多いよね。あとは「生きている人形」(22話)かな。
 なかむらたかしの出現はね、実はアニメの作画が狂っていくきっかけじゃないか、とも思っているんだよね。それまで作品や演出と切り離せなかった作画というものがね、独立して「作画だけ格好よければいいのだ」ぐらいになっていった。それぐらい、なかむらさんの作画というのは格好よかった。
今石 俺のところだけ格好よければいい、作画だけ観ていればいい、みたいな感じですか。
井上 そう。勿論、なかむらさんにそういう意図があったわけではないけどね。作画だけ切り離して観る事ができるようになってしまったきっかけが、なかむらたかしさんじゃないだろうか。手が格好よければいいんだ、破片さえ描ければいいんだみたいな。それに、みんながつまづいてしまった。
今石 つまづいた(笑)。
小黒 井上さんにとっては、そのきっかけが、なかむらさんなのかもしれませんね。僕らだと、そのきっかけは金田さんのような気がする。
今石 そうですね。でも、なかむらさんの方が、よりディテール寄りですよね。手がいいとか、破片がいいとか。そういう意味ではより細分化されている。
井上 岩石が格好いいなんて考えもよらなかった(笑)。みんなが手を格好よく描くようになったきっかけ。俺にとっては、その次に格好いい手を描いたのが森本さんなんだ。
小黒 『SF新世紀 レンズマン』ですか?
井上 俺にとっては『ウラシマン』かな。本家のなかむらさんより格好よかった。
小黒 26話「ネオトキオ発地獄行き」ですね。
井上 話をなかむらさんに戻すと、なかむらさんは初めて手をリアルに描けたアニメーターじゃないかなあ。
今石 特に肘は画期的ですよね。と言うか、骨格か。
井上 アニメーションに絵画的な要素を持ち込んだんだよね。それ以前にそういう事をした人が俺にはどうしても思い当たらない。その「絵画」と言うのは、なかむらさんの場合は、主にエゴン・シーレなんだけど。いちばん影響がはっきり出ているのが『ライタン』と『ウラシマン』。その後、なかむらさん自身はそうした事から離れていくんだけど。
小黒 ここで言い切っちゃいましょうよ。なかむらさんが後に与えた影響は多大だった。
井上 功罪も含めてね(笑)。あえて「罪」とも言いたいんだ。日本のアニメがつまづいたわけだから。なかむらさんがいなければ、演出と作画が一体となったスタンダードな形が主流だったんじゃないかなあ。
小黒 つまり、「作画アニメ」が独立するきっかけだった、と。
井上 さて、次に来るのは……俺としては、あんなぷるかな。なかむらたかしショックがあってから、それまでの東映系や友永さんが大好きという気持ちと、なかむらさんが凄く好きという気持ちを、俺の中で上手く消化できなかった。勿論、それを融合させるという発想もなかった。それを、上手く融合させて、さらに独自色も出したのが、森本さんであり、福島さん、大塚伸治さん。だから、『ウラシマン』の26話は、俺にとっては森本さんであり、福島さんが大事なんだ。Aパートの、「Aプロ的な中抜きでドタバタした動き」+「なかむらアニメ」っていう、リアルな画がカクカク、シャキシャキ動くという、奇妙な、それでいて変ではないところが魅力的。
小黒 僕は、冒頭の福島さんのパートが印象的ですね。
井上 俺にとっては、森本さんの方がいいかな。あのクロードの走りのあたり。さっきも言ったように、手を本人より格好よく描いていた。よりリアルにしたんだよね。なかむらさんの影響を受けて、一所懸命デッサンしたんじゃないかな。スッと上げる時の手、バタバタとしながら画面からOUTする時の手。とにかく格好いい。
今石 手がいい作画ですね(笑)。
井上 そう(笑)。森本さんで、特に挙げるのは『スペースコブラ』。あんなぷるの回は全部いいんだけど、特に1話「復活!サイコガン」と、4話「脱走!シド刑務所」(他には3話、10話、12話など)。4話は実は森本さんはほんの少ししかやっていないんだけど、俺がいちばん好きな回。コブラが通路の中を走っていって、そこまでは別の人がやっているんだけど、落ちそうになるところが森本さん。落ちそうになるコブラの、「コミカルな中抜きっぽい感じ」+「リアルなところ」がいい。他にも福島さん、大森さんのところも、もの凄い。
今石 その時にはすでになかむらさんの影響があるんですか?
井上 どうだろう。でも入っているかな? 杉野さんの影響下でああいう動きになるとは考えにくいから。
小黒 たぶん、対テレコムという意識も作用しているんじゃないですか。それまでにマッドハウスにはなかった、動きの濃さみたいなものが出てきたのは。
井上 なるほど。動きが濃い杉野アニメって、『スペースコブラ』と『ゴルゴ13』と『あしたのジョー2』の中盤から後半だよね。原画の動きが濃くなってくるのは、森本さんが来てからかな。福島さんだって、それまでは杉野さん直系みたいな感じだよね。福島さんだと――これは森本さんだとずっと勘違いしていたんだけど――『スペースコブラ』でラグボールのバッティングのトレーニングをしているところがいいよね(16話「地獄へ! ラグボール」)。
小黒 金田エフェクトまで入っている(笑)。
今石 森本さんも、金田エフェクト使いますよね。
井上 金田さんとなかむらさんと友永さんのセンスを融合させて上手いぐあいに描いているんだよね。
今石 なかむらさん的な骨格が入り始めるのって、どのあたりからですか。
井上 やっぱり『スペースコブラ』の途中からかな。ピラミッドでのアクションシーンを描いたもの(12話「恐るべし最終兵器」。岩石アクションもある!)があるんだけど、それが森本さん全開でね。俺にとっては、一時期まで、超えようとしても超えられない壁みたいな作画だった。単にリアルにするというのではなく、まず動きのアイディアが魅力的であり、それを体現していた。粘っこくて、リアリティがあって、それでいてアニメーション的な面白さもあって、華があって、エフェクトも巧い。自分はどうしても森本さんに敵わないという思いがあって、自分の中のリアリズム指向と相まって、俺は別の方向に傾いていくんだけど。
 あと、森本さんは、5話「謎!強敵スナイパーは?」で(あんなぷる回ではないんだけど)洞窟のコミカルなシーンを描いている。それも、東映―Aプロ系の動きと、虫プロ―杉野さんの力強いデフォルメとの融合が観られる。
―― で、大塚伸治さん。
井上 あんなぷる出身者で、森本さん、福島さんも挙げて、大塚さんもとなると、ちょっと欲張りかもしれないんだけど、どうしても外せない。アニメーターとしての勘、ポイントの押さえ方が、抜群にいい人なんだよね。森本さんは執着心で描くのに対して、大塚さんはヒョイヒョイと描くタイプなんだよ。特に大塚さんのよさがまとまって出ているのが、『CAT’S EYE[第1期]』10話のBパート。俺にとってはTVアニメの手本のような話。
今石 これは観なければ。『フリクリ』でご一緒したんですけど、そんなに詳しく存じ上げないので、まずいなあ、と思っていたんです。
井上 ああ、それはいかんね。10話はね、その手際のよさと技術的な完成度の高さと、動きの発想のアイディアがいい。単にリアルじゃなく、茶目っ気があると言うか、動き自体に魅力がある。これは当時のあんなぷるの全員に言えるんだけど、意表をついたポーズとかリアクションとかが出てくる。これは東映からの流れでは出てこなかったものだと思う。
 その後、俺もリアルなアニメをやる事になったわけだけれど、あんなぷる時代の森本さん、大塚さんたちがやっていたアニメの方が魅力的ではないか、と思う事もある。アニメーションでしかできない動きというのは、ひとつの武器だと思うから。そういう意味で、リアルでありながら茶目っ気のある『CAT’S EYE』10話を挙げたいね。これはBパート全部をやっているんだ。
今石 全部ですか。
井上 ここは大事なところなんだけど、これを読む人はこれからプロになる事を勝手に前提にして話を進めると(笑)、プロならば半パートぐらいやりきるスピードも大事(と言っても私にもできませんが、あくまで、そのくらい描きたいという気持ちが大切ということです)。たくさん描く事によって出てくる魅力というのが、やっぱりある。細分化されすぎた中でどんなに凄いカットを描いても、力にはならない。一時期までの大塚さんは非常に仕事が早かった。
今石 いやあ、『フリクリ』の時も原画マンの中で上がりがいちばん早かったですよ。
井上 そうなんだよ。今は粘るようになった、と言っても早いんだよね(笑)。画自体は淡泊な感じなんだけどね。俺とそういうところは似ているのかもしれないけど、画を描く事自体にはあまり執着がない。それが、あんなぷるからマッドハウスへ行って、川尻さんの「走る男」に参加するようになると、びっくりするぐらい粘っこい画を描いている。普段は動きを描くのに邪魔だから、そういう側面を出していなかったのか、って驚いた事があるよ。その頃の仕事で、これはというのを選ぶと、『カムイの剣』の松前三人衆。
今石 あの、吹き矢みたいものを吹く奴らですね。
井上 あそこは大塚さんの画がそのまま出ているよ。動きもそれまでの軽妙な動きとは違って、粘っこく、しつこい動きを描いている。動きの発想の面白さも観てほしい。帯が解けて刀になるんだけど、その奇天烈な動きを発想できる幅の広さ。そのあとジブリに行って、いくつかの作品にかかわったあと、『おもひでぽろぽろ』で、実写のような動きを唐突に始めるんだ。これは、磯君の影響じゃないか、と俺は推測しているんだけど。駅の出迎えのシーンとか、実写のような走りとか。で、以降はそれが続くような形でリアルな動きを描いている。ただ『フリクリ』ではちゃんとコミカルな動きも描いているところはさすがです。
小黒 大塚さんは『フリクリ』だと、どこをやってるの?
今石 5話の茂みでサバイバルゲームをやっているところですね。結構トボけた感じの画でしたよ。
井上 6話で、ロボットが水から出てくるところもそうじゃない?
今石 そうです、そうです。
井上 やたら原画で動くんだよね。あの女の子の(原画の)抜き方は若手は描かないな、って(笑)。かといって、ベテランには見えないし。
今石 ああ、なるほど(苦笑)。
井上 カレーを食っているところもそうだよね?
今石 ええ、そうです。あそこは面白かった。
井上 ギャグものだと、『うる星やつら』の「戦りつ! 化石のへき地の謎」(70話)の吊り橋のシーンが面白いよ。ああいうコミカルな作画もこなせるところが、大塚さんの懐の深さだね。
 で、あんなぷるからもう1人、福島敦子さん。あんなぷる時代も勿論凄いんだけど、ここは代表作という事で、「ラビリンス*ラビリントス」を。
小黒 結局、3人とも『迷宮物語』は選びましたね。
井上 これはやっぱり外せないよね。
今石 アニメマニアになるには、観ないといかんでしょう。

次回「第5回 井上・今石・小黒座談会(5)」に続く
一覧へ戻る


Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.