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animator interview
井上俊之(5)


小黒 ここで、話を井上さんに戻しますね。改めて訊くのも変なんですけど(笑)、井上さんの代表作は、どれになるのでしょうか。
井上 いや、あんまり何かを達成した感じはないね。いつも何か足りないと思っている。だからやり続けているんだ。
小黒 例えば、『攻殻機動隊』なんかはどうですか(注31)
井上 あの時は、非常に調子も悪かったし、スケジュールも短かったので、実は、あんまり意欲的にはできなかった。巧くいったのは、潜水シーンのアブクぐらいかなあ……。
小黒 (笑)。じゃあ、『AKIRA』はどうですか。担当なさったのは、冒頭のバイクシーンですよね。
井上 ゲリラが催涙弾を浴びるよね。それが終わって、鉄雄をフォローで撮っている場面から俺なんだよ。
小黒 ああ、じゃあ、その後、鉄雄を追いかけてきたバイクが爆発したりするあたりも……。
井上 そこも、俺だよ。それで、ヘリが飛んできて鉄雄を連れて行くところまでかな。それで次の日の取り調べの場面はもう、俺じゃない。
 後ね、もう2シーンやっていて。ひとつは、ファミレスに人が突っ込んでくるところ。突っ込んでくるところは別の人なんだけど、カットが変わって、カメラがあおりで捉えているところは、人間の原画は俺で、割れてくるガラスやカーテンは北久保がやっているんだよ。あとは、なんだったかな。路地裏のゴミに突っ込む場面があるよね?
小黒 ありますね。バイクが追いかけていって、路地裏へ突っ込む。
井上 うん。あのゴミへ突っ込むカットから、俺で。その後、路地を突き抜けて、鉄雄が転んで。そのあと鉄雄がバイクを起こして、走り去る場面まで。実はその場面をやったのは、俺が1年間やってきて、ようやく「『AKIRA』の世界の動きはこうだ」っていう確信がつかめたような気がしてた時で。だから、描いてて楽だったし、楽しかったな。
小黒 じゃあ、『魔女の宅急便』ではどこを担当されているんですか。
井上 2シーンやっている。ひとつは、街へ向かうキキ達が列車の中で雨宿りして、次の朝、牛に起こされるよね。その後、天窓を開けて、小さいキキが出てくるショットがある。そこからが俺。それで、飛び立って港が見えてきて、背面の海の上に灯台が入ってきて、港に着きました、というところまで。
小黒 ああ。列車から離脱したキキが、勢いでバランスを失ったあげくに、木の枝に引っかかって、くるくる回るあたりも、井上さんなんですね。
井上 そうそう。もうひとつは、トンボのプロペラのついた自転車が出てくる場面があるよね。あそこもやってる。トンボの工房みたいなところにキキが来た場面からかな。
小黒 工房の扉をトンボが開けるところからですか。
井上 そう。それから試運転に出かけて、国道沿いを自転車で走って、トラックをよけようとして落ちて、トンボのアップになるところまで。
小黒 プロペラが外れて、それを見上げるトンボのカットになりますね。
井上 そこまで。次の芝生に落ちてくる場面はもう、別の人だから。まあ、でも『魔女の宅急便』も、俺にとっては不本意なんだよね。
小黒 そうなんですか。
井上 うん。『AKIRA』でせっかく何かつかんだような気がしてたのに(笑)。体調を崩しちゃって、途中で不眠症にもなるし。
小黒 それはプレッシャーのため、ですか。
井上 いや、生活サイクルの問題でね。『AKIRA』でデタラメな生活をしていたんだけど、
『魔女宅』では昼間にスタジオに入らなくてはならなくて。寝ぼけたままスタジオに行って、帰ったのはいいけど、今度は眼が冴えて眠れなかったりして。そうやって、だんだん自滅していった(笑)。
小黒 それは辛いですね。
井上 宮崎さんが色々とアドバイスしてくれたのは、ありがたかったんだけど、あんまりにも色んな事を言われて混乱してしまったというのもあった(笑)。機会があったら雪辱戦をやりたいなと思うんだけどね。
小黒 自分の中で、これは巧くできた、というような仕事はないんですか。
井上 印象のよい仕事はあるよ。『くじらのピーク』が自分としては好きなんだ。冒頭の部分をやってるんだよ。
 それはなぜ気に入っているかというと、自分にはないものが少しは出たな、と思っているからなんだ。うつのみやと組んで仕事をするというので、自分を凄く変えて、「うつのみやのように描かねば」と思ってやった仕事なんだよね(笑)。実際に、自分ではないような動きが少しは描けたし。磯君の作画を観た直後だから、なんとか磯君的なものを巧く取り入れられないかと思ってやってみたし。さらに、『御先祖』で感銘受けた事を巧く形にできないかなと思って、うつのみやの真似もした。そうしたって、うつのみやの作品だから、なんのおとがめもないしね(笑)。
小黒 意外な答えですね。




(注31)『攻殻機動隊』
本編画面に従うならば、この作品のタイトル表記は『GHOST IN THE SHELL』。1995年公開の劇場作品。制作/Production I.G。監督/押井守、キャラクターデザイン/沖浦啓之。彼は冒頭シーンの作画を担当。

井上 そうかな。あとはやっぱり『MEMORIES』かな(注32)。普通は、1年も経つと、もう観るのも嫌になるんだけど、あれだけは、そんなに嫌にならないから。やっている最中はもの足りないと思っていたんだけど、スケジュールを引っ張った分、ある程度の達成感もあるからね。それに、「工事中止命令」で不満に思っていた部分がはっきりしてきて、それを自分なりに解消する事ができた気がするから。
小黒 その不満というのは。
井上 うん、さっきも言ったけれど、人物の動きや芝居について、だよね。観た当初はもやもやとした不満だったんだけど、それが、うつのみやや磯君の作画を観て分かってきて、その自分なりの答えみたいなものが、『MEMORIES』である程度出せていると思うから。スケジュールも倍かかって、プロのアニメーターとしては失格だなと思っている部分もあるんだけれど、なかなかそんなにしてまで、1本に力を出し切るという事はないからね。結果としてはラッキーだったと思う。
小黒 井上さんは、キャラクターデザインや、作画監督をほとんどやっていないですよね。『MEMORIES』にしても、大友さんの原作がある。僕らは、井上さんのオリジナルの画をほとんど見た事がないんですよ。
井上 自分の中に、こういう画を描きたい、みたいな、そういう願望がないんだよ。やっぱり、自分は動きそのものをやりたい。自分が描きたいのは画じゃなくて、アニメだから。
 だから、最近気づいたんだけど、俺はCGアニメでもいいんだよ。『ジュラシック・パーク』を観た時に、最初は何か機械の「魔法のような力」で動いていると思ったんだ(笑)。それが後から、ただのアニメだと知って、かなりショックを受けた。もし、もっと若かったら、その時に、そっちの世界へ行ったかもしれない。要するに、動きを作る事が好きなのであって、描きたい画があるわけじゃないんだ。勿論、画を描く事も好きだけれど、それは動きを描くための手段なんだよ。
(注32)『MEMORIES』
1996年劇場公開。総指揮・大友克洋。「EPISODE1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで」 「EPISODE2 STINK BOMB 最臭兵器」 「EPISODE3 CANNON FODDER 大砲の街」の3本からなるオムニバス。井上俊之は「彼女の想いで」のキャラクターデザイン&作画監督を務めた。

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(01.02.05)


 
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