井上 そうかな。あとはやっぱり『MEMORIES』かな(注32)。普通は、1年も経つと、もう観るのも嫌になるんだけど、あれだけは、そんなに嫌にならないから。やっている最中はもの足りないと思っていたんだけど、スケジュールを引っ張った分、ある程度の達成感もあるからね。それに、「工事中止命令」で不満に思っていた部分がはっきりしてきて、それを自分なりに解消する事ができた気がするから。
小黒 その不満というのは。
井上 うん、さっきも言ったけれど、人物の動きや芝居について、だよね。観た当初はもやもやとした不満だったんだけど、それが、うつのみやや磯君の作画を観て分かってきて、その自分なりの答えみたいなものが、『MEMORIES』である程度出せていると思うから。スケジュールも倍かかって、プロのアニメーターとしては失格だなと思っている部分もあるんだけれど、なかなかそんなにしてまで、1本に力を出し切るという事はないからね。結果としてはラッキーだったと思う。
小黒 井上さんは、キャラクターデザインや、作画監督をほとんどやっていないですよね。『MEMORIES』にしても、大友さんの原作がある。僕らは、井上さんのオリジナルの画をほとんど見た事がないんですよ。
井上 自分の中に、こういう画を描きたい、みたいな、そういう願望がないんだよ。やっぱり、自分は動きそのものをやりたい。自分が描きたいのは画じゃなくて、アニメだから。
だから、最近気づいたんだけど、俺はCGアニメでもいいんだよ。『ジュラシック・パーク』を観た時に、最初は何か機械の「魔法のような力」で動いていると思ったんだ(笑)。それが後から、ただのアニメだと知って、かなりショックを受けた。もし、もっと若かったら、その時に、そっちの世界へ行ったかもしれない。要するに、動きを作る事が好きなのであって、描きたい画があるわけじゃないんだ。勿論、画を描く事も好きだけれど、それは動きを描くための手段なんだよ。
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(注32)『MEMORIES』
1996年劇場公開。総指揮・大友克洋。「EPISODE1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで」 「EPISODE2 STINK BOMB 最臭兵器」 「EPISODE3 CANNON FODDER 大砲の街」の3本からなるオムニバス。井上俊之は「彼女の想いで」のキャラクターデザイン&作画監督を務めた。
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