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animator interview
三原三千夫(3)
『Paprika』から『ケモノヅメ』へ
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小黒 『Paprika』では、最初からパレードは三原さんが全部描く事になってたんですか。
三原 いや、俺はいつも仕事を始めるきっかけがいい加減なんですけど、『Paprika』がああいう話だとは全然知らなかったんですよ。有象無象が出てくるなんて全く知りませんでした(笑)。今さんの前の作品『TOKYO GODFATHERS』では、非常に面白い芝居がありましたよね。マンガ的な表現ですけど、顔が大きくなったり歪んだりして。小西(賢一)さんや、大塚(伸治)さんの仕事がやっぱり凄かったと思うんです。基本的に、止め口パクがない作品でしたよね、
小黒 そうですね。口が動く時は、顎も動くっていう(笑)。
三原 これを観て、次は絶対今さんの作品に参加しないと、作画の最先端からどんどん取り残されてしまうという危機感があって、『Paprika』に入ったんですよ。でも、今回は結局そういう芝居は全くなくて(笑)。ほとんど描けずじまいでしたね。
小黒 キャラクターは、ほとんど描いていないんですか。
三原 いや、描きましたよ。
小黒 タイトルが出る前のシーンは、三原さんも描いてますよね。
三原 そこのところと、あと、研究所で時田が粉川から質問を受けるところとかですね。あそこの芝居だけは、ちょっと面白く描けたと思います。時田の視線があっちこっちにいったりして。ああいうのが描けると思って『Paprika』に入ったんですけど、なぜかもうひたすら有象無象を描く事に(笑)。ああいう世界は自分の趣味だから、楽しかったんですけどね。
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▲三原さんが描いた『Paprika』パレードシーンより |
小黒 たぶんアニメスタイルの連載を見てた人は、何も知らずに『Paprika』観ても、ここは三原さんだろうと分かると思いますよ。
三原 そうですかねえ。(ヤン・)シュワンクマイエルのアニメとか、クエイ兄弟の『ストリート・オブ・クロコダイル』とかが元々好きだったから、何の抵抗もなく描けましたね。ただ、キャラクターを作ってしまいそうになるので、それはできるだけ止めようと気をつけてましたけど。
小黒 ああ、感情移入させるようなキャラクターにならないように。
三原 ええ。コンテの画を見ると分かるんですが、あれはキャラじゃなくて、モノなんですよね。今さんにあとで聞いた話ですけど、モノが歩いて、最終的にゴミ捨て場に行くっていうイメージになってるらしいです。だから、あくまでもモノとして描こうって意識はありましたね。キャラにならないように、キャラにならないようにっていうふうには気をつけてました。
小黒 あれ、物量が凄いんですけど、たぶんそんなにセル分けしてないですよね。
三原 いや、してますよ。
小黒 でも、例えば、手前のかたまりが原画1枚ですよね、多分。
三原 全部はセル分けしてはいないですけども、パレードが遠景になって俯瞰で来るところなんかは、A、B、C、D……Rぐらいまでいったんじゃないですかね。
小黒 おお、それは凄い。
三原 デジタル様様ですよね。デジタルじゃなかったら、とてもじゃないけどできません。セル分けは普通にしてますよ。それに、あそこは基本的に3コマで描いてますから、かなり省エネでやってます。
小黒 それでも、あれだけウジャウジャ動いていると、かなりの迫力ですよ。
三原 そう言ってもらえると嬉しいですね。あの辺りの画はポスターにも使われているので、ほんとに光栄というか。あと、自分が『Paprika』で嬉しかったのは、原画のクレジットで井上さんの次に名前があった事で(笑)。非常に光栄です! もう原画マンとして、あれ以上高いところに名前は載らないでしょうから。
小黒 いやいや。
三原 いや、多分、それは絶対そうですよ。
小黒 映画の冒頭は井上さんなんですよね。どこまでが井上さんなんですか。
三原 えーと、粉川の足がサーカスの舞台の床にめり込んで、落ちそうになるところまでですね。その後、粉川が空中に放り出されるところからが俺なんです。
小黒 あ、そうなんですか。じゃあ、最初のサーカスのところは全部井上さん。
三原 井上さんですよ。象のフォルムを見たって、井上さんですよね。
小黒 初っ端、ピエロの足がニョーッて出てくるところが、井上さんらしい遊びですよね。ちょっとディズニーっぽい感じで。井上さんの本気の仕事を観ました。
三原 あそこは相当凝って描いてましたね。で、舞台から粉川が落ちて、パプリカが空中ブランコで迎えにきて、「ローマの休日」とかの映画のシーンになって、ボートハウスに入っていくところまでが俺で、その後が安藤さんです。ホテルの廊下で謎の男を見つけて、粉川が走り始めるところ。
小黒 ああ、あそこは安藤さんなんですか。なるほどね。
三原 作画監督の安藤さんの前で、荷が重いなあと思ったんですけどね。で、また自画自賛してしまいますけど、謎の男の走りと、それを追ってボートハウスに向かって走っていく粉川の走りが巧く描けたなあ、と自分で思うんです(笑)。それは、やっぱり「アニメーターズ・サバイバルキット」で読んだ「ストレート・アヘッド」(編注:前述の3種類の作画法のひとつで、動きのプランを立てずに、送り描きで描いていく方法)で全部描くという事を実践してみたら、やっぱりかなり上手くいったんですよね。勿論、橋本(晋治)さんみたいに、ほんとに命のあるような動きを描ける才能は俺にはないので、そういう動きが描けるとは思いませんけど、全部描くって事の楽しさを目覚めさせてくれた『Paprika』の仕事は大きかったですね。
小黒 すみません。突然橋本さんの名前が出ましたんで、もう少し補足を。
三原 橋本さんの画は、動きに命があるでしょう。それは常々、井上さんが自分にはないところだみたいな話をしてましたけど。なんでしょうね……橋本さんは、ほんと天才だと思うんです。動きに魂があるでしょ。ほんとの意味でアニメーターだと思いますね。俺にはああいう才能は全然ないので。でも、必ずしも全員が全員、ああいう方向で描かなきゃいけないわけでもないですからね。逆に言うと、動きに魂はあるけど、無個性とも言えるんですよ。その、大平さん、田辺さん、磯さん達の画って、むやみに動いてますけど、どれもこれもおんなじに動くでしょう。
小黒 ああ、なるほど。キャラクターの芝居ではないんですね。
三原 そうなんですよ。突き抜けたところにある、「動いてる」という生命感みたいなものだと思うんですよね。あと、動きについては、最近『ベルヴィル』をよく引き合いに出して話すんです。あの作品の凄いところは、キャラクターの動きだけでその人物の性格が伝わって、台詞なしなのに、どんな話をしているかが分かる事なんですね。これは……凄いですよ。天才だと思います。こういうキャラだから、こういうシルエットで、こういうふうに動く、そういった事が表現できているから、台詞を言わなくても、パントマイムだけでストーリーが語れるわけです。今までそういう事は、比較的やられてこなかったですよね。シルヴァン・ショメの仕事が凄いなあと思うところです。
小黒 なるほど。
三原 ディズニー作品なんかの動きも、結局キャラクターシステムだから、描いてる人の個性は出ますけど、わりとどのキャラも、同じように動いているじゃないですか。『ベルヴィル』で一番凄いと思ったのはそこでしたね。キャラクターの作り方に、そのキャラの個性が反映されている。なおかつ、その動かし方にもその個性が反映させられている。それが最も上手くいっている作品だと思うんですよねえ。
小黒 『ベルヴィル』の動きには、相当感銘を受けたんですね。
三原 ええ。まあ、今話したような事を、誰も彼もがそうしなきゃならないってわけじゃないですよ。日本のアニメは、どのキャラも同じように動いている場合が多くて、つまらないんじゃないのかと思うんです。リアルなドラマを求めてるからそうなると思うんですよ。だから、1本の作品の中では、キャラクターの画が、みんな同じですよね。『攻殻(GHOST IN THE SHELL)』にしても、みんな同じフォルムしてますよね。『人狼』もそうですけど。
小黒 その作品の、ひとつの美意識で描かれてますよね。
三原 そうですよね。でも、キャラクターの顔って、三角形とか、丸とか色々あってもいいじゃないですか。それをやっているのが湯浅(政明)さんだと思うんですよね。今のところは、フォルムの美しさみたいなところを強調していて、キャラクターの性格にまでは反映していませんけど、いいと思うんですよ。あれは、意識してやっているんですかね。湯浅さんにバレエとか、パントマイムとか、アニメーション以外の教養があって、そうさせてるんじゃないのかな(笑)。
小黒 なるほど。
三原 日本のアニメーションは、描く方も観る方も不勉強すぎるんですよね。俺も含めてですけど。ノルシュテインも言ってましたけど、もっと他の芸術とかを観て、フィードバックがないと。いつまでも同じ事してちゃ、つまらないですよ。……なんだか話がでかくなって、凄く偉そうな事言ってますね(笑)。
小黒 まあ、そんな事も考えてますという事で。
三原 そんな事も考えてますけど、じゃあ、自分が描けるのかっていうと、それはまた別の話ですからね。
小黒 話を戻しますが『Paprika』は、ご自身にとっても大きな仕事になったんですね。
三原 原画マンとしては、一番今までやりごたえのあったんじゃないですかね。自分のやったシーンがあれだけ注目されると、ほんと嬉しいです。こんな事はもう2度とないと思います。たまたまですね(笑)。
小黒 そろそろ、『ケモノヅメ』(TV、2006)の話にいっていいですか。
三原 ええ。
小黒 これは、どういうかたちでの参加だったんでしょう。
三原 『ケモノヅメ』12話(珈琲味のキビ団子)は――『妄想代理人』4話(男道)の時もそうでしたけど、ほんとはあの時も自分で全部原画を描こうと思ってたんですよね。『妄想』の時も、実際スケジュール的にはできたはずなんですけど、結局、宮沢(康紀)さんに、20カットぐらい、ちょっとやってもらうかたちになりました。TVシリーズで丸々1本自分で原画をやってみたいというのは、前々から思っていて。なかむらたかしさんだって、『Gライタン』で何本もやってるじゃないですか。
小黒 やってますね。
三原 なんで、みんなそんなに分業するんでしょうね。作監がいて、原画がいて、動画がいて、みたいな。『ケモノヅメ』は、動画までやれるんじゃないかと思ったんです。6ヶ月あったら、動画まで全部できますよね。なんで分業にしてるのかっていうと、結局描ける人間が少ないっていう事と、みんな最初から無理だと思っているんでしょうね。(力強く)やろうと思えば、やれるんですよ。それをちょっと1回証明してやろうという、また思い上がった考えで……(笑)。
小黒 それは、演出の高橋(敦史)さんの協力もあっての事ですよね。
三原 そうですね。画は俺が全部描いてますけど、高橋君がCGを使ってアニメーションを作っているところもありますから、そういう意味では100%自分の原画じゃないですけどね。……何だか批判的な話ばっかりしてますけど、作監が「いやあ、原画がよくなくて」とか言ってる事あるでしょ。「だったら、自分で描けよ!」って(笑)。そんな事を言ってる間に自分で描けばいいじゃん、みたいな事をいつも思っていたので、描いてやるぞと。
小黒 何日間で何カットだから、1日何カットとノルマを決めて描かれていたんですよね。
三原 そうです。それができるのは、スケジュールがあるからなんですよ。だから、最初に受けた時に、スケジュールが4ヶ月しかないって聞いた時に、実は全部できないだろうなあって思ってたんですよ。何カットかは、こぼれるだろうと覚悟してたんです。放映スケジュールの関係で、2週間スケジュールが後ろに延びたっていう事もあって、結果として全部自分でできたんですよ。原画も作監も1人っていう……綺麗でしょう(笑)。
小黒 動画を描いたのは、1000枚ぐらいでしたっけ。
三原 いや。最初から動画として描いたカットが、100何カットかあるんですよ。その分の動画が、1300枚ぐらいあるんです。走りのリピートとかは、最初から動画出しするつもりはなくて、自分で全部描くつもりでしたからね。
小黒 つまり、そもそも動画に行っていない、原画だけで行っちゃったカットがあるという事ですね。
三原 ええ。あと、原トレ(原画トレス)不要のところとかも相当あったので、動画枚数6000枚のうち、半分以上は描いているんですよ。
小黒 なるほど。あの、12話の初めの方で、刃っておじいちゃんの顔がグニャグニャしているところがあるじゃないですか。ああいうところは、ほとんど三原さんの画そのままなんですね。
三原 いや、あそこはわりと中割りがあるんですよ。
小黒 そうなんですか。
三原 ええ。とにかく平均1日4カットこなさないと駄目だという事だったので、最初のあたりはかなり手を抜いてるんですよ。最後の、一馬がタコに襲われるあたりからは、1日1カットちょっとのペースでやってました。最初から、刃のところはできるだけ省エネで描いてしまって、あとでタコが出てくるところを一所懸命描こうとというプランがありましたからね。
小黒 後半の見どころは一馬の尻ですよ、尻。
三原 ああ、そう言ってもらえると嬉しいですね。俺もあの尻はちょっと上手く描けたかなあと思ってます。
小黒 凄いですよ。アニメーションで、あんな男の尻は初めて観ました(笑)。
三原 あんなに尻の肉がブルンブルンしてるのは、他にないでしょう。また自画自賛してますけど(笑)。
小黒 いや、素晴らしいです。
三原 おっぱいが揺れるアニメは多いですけど、男のケツはなんで相撲みたいに揺れないんだ、と思ってましたから。いや、俺は女の人が好きなんですよ(笑)。男好きじゃないんですけど、描いてて楽しいのは男なんですよねえ。
小黒 なるほど。あの動きの感じは、運動している男の人のお尻なんですか。
三原 ええ。あれでケツが小さかったらつまらないでしょう。
小黒 そうですね。
三原 民族アートなんかでも、お尻ってこう突き出てますよね。アフリカの彫刻とか、そうじゃないですか。結局、お尻っていうのは生命感の表れですよね。まあ、女性の胸の大きさっていうのも生命感みたいなものがあると思いますけど、男だったらやっぱり尻でしょうねえ。尻、いいじゃないですかねえ(笑)。
小黒 あと、終わりの方で、俊彦の顔がちょっとメタモルしますよね。あれは湯浅作品という事を意識したんですか。
三原 いや、あれは『Paprika』からのフィードバックなんですよ。
小黒 え、それはどのあたりからなんですか。
三原 『Paprika』のパレードシーンで、有象無象をどういうふうに動かすかってところで、冷蔵庫が四角のまま歩くのはつまんないから、変形させるって今さんが言ったんですね。それが思いのほか上手くいって、それから自分でも変形させる方向にいったんです。あの手法を使ってキャラクターを描いていくと、結構面白く描けるんですよ。だから、あれは『Paprika』からの影響が大きいんですよね。リアクションの時とは別に、かたちを歪ませて描く手法って、実は昔からあるんですけど、一時期忘れ去られてたでしょ。
小黒 そうですね。
三原 残像も使わなくなりましたよね。井上さんは、今でもわりとタッチとか使いますけど、なんでみんな止めちゃったんでしょうか。剣を振る時でも、今は1コマでわざわざ動かしてますけど、剣を振るとタッチが出るみたいなのは、やってもいいんじゃないかなと思いますよね。
小黒 なるほど。ご自身の線がそのまま商業作品で出たのは『自転車ショー歌』以来ですよね。
三原 そうですね。最初に、湯浅さんから線の荒れたタッチを出したいという話はあったので、それはもう願ったり叶ったりだと思ってたんですよ。どうして他ではやらないんでしょうね。観てる人の全部が、あれはちょっと汚くて観づらいとか思うんだったら、やるべきじゃないと思いますけど、あれはあれで面白いんだと思ってくれる人も若干名いると思うんですよねえ。だったら、ああいった表現があってもいいんじゃないかと。
小黒 しかも、三原さんの回ぐらい画に力があれば、影なんか必要ないっていう。
三原 (得意げに)うーん、影要らないでしょう(笑)。湯浅さんが最初に影は使わないですと言われた時には、願ったり叶ったりどころか、俺も最初からつけるつもりないぜって思ってましたからね。実際、影がなくても画面保つでしょう。
小黒 そうですね。今時のTVアニメによくある、細い線で影なしだときっついですけど。
三原 きっついですよ。細い線だけでは、もう無理ですよね。線が荒れて途切れたり、線が太くなったり細くなったりすると、それだけで情報量が増えるんですよ。結局、それは画面の密度を上げる事につながるんですよね。『タイガーマスク』とかも、そうでしたし。
小黒 『タイガーマスク』なんて、止めでもいけるぐらい画面が保ちますよね。
三原 オープニングとか、もう滅茶苦茶かっこいいじゃないですか。まあでも、あれは劇画からきた手法で、俺は劇画はあまり好きじゃないんですね。だから、自分の描いた画が、もし劇画的に見られていたとしたら、それはちょっと目論みとは違ってしまうんですが……。まあ、昔からあった色んな手法がなくなって、ほとんど均一化されてしまっている現状に対して、つまらなさはいつも感じていたんですよ。だから、『ケモノヅメ』が、こんなに面白い仕事になるとは思いませんでした。もっとつらい仕事になるのかなと思ってたので。
●animator interview 三原三千夫(4)「意識して40歳から巧くなる」に続く
●関連サイト
『Paprika』公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/
『ケモノヅメ』公式サイト
http://kemonozume.net/
(07.01.16)
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