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アニメの作画を語ろう
animator interview
うつのみやさとる(2)


小黒 その、うめださんというのは?
うつのみや テレコムの8期生だった人で、もうアニメはやっていないんですけど。なんて言えばいいのかな、彼こそ天才だと思うんですよ。「天才」って軽々しく使っちゃいけない言葉なんですけど、彼は紛れもなく天才だったと思います。19歳の専門学校生の時に作った卒業制作を見て驚いて(注7)、その後、実際に友達と一緒に彼の実家にお邪魔して、原画を見せてもらったんです。その時に、月岡さんのパラパラ漫画と同じぐらいのショックを受けたんです。どうして、彼がああいう原画が描けたのか、未だに謎なんですけど。
小黒 それは、どういう点が凄かったんですか。
うつのみや そうですね……。アニメーションを長くやってはいるんですけど、僕は、仕事ができる、というタイプではなくて、逆に、自分の技術的な欠点を、色んな知識とか方法論を見つけて補うタイプだと思うんです。そういう意味では、井上君のようなタイプとは違うんですよ。喩えて言うなら、小さな排気量のエンジンを、色々とチューニングして走るタイプが僕で、凄い排気量のエンジンでガンガン走るタイプが井上君だと思うんです。才能だけで比べると、僕は井上君に劣るんですけど、チューニングして、なんとか誤魔化して走ってきたわけですね。
 そうしたチューニングのノウハウを集めて、僕は、長年かかって、ようやく最近、結論に到達しつつある、あるスタイルがあるんですけど、それを未だに、うめだ君は少し越えているんです。今考えても、どうしてあんな事ができたのかなあと思いますよ。
小黒 ええ? どういう事なんですか。
うつのみや つまりね、僕らが自然に行っている人間のアクションというのは、様々なジョイントによってお互いに作用し合っている色んな動きの複合体なんですよ。そうした動きの組み立て方を全体として構築するというのは、凄く難しいんですね。それがうめだ君の場合、殆ど、かなりの完成度でできていたんですね。
小黒 えーと、つまり、例えば、腕を動かすにしても、付け根と手の先では動く速度が違うし、それにつれて、腕に着けている付属物も動いていく。それを一緒に動かさなければいけない。
うつのみや そうですそうです。それを描く事そのものが大変なんです。
小黒 そうした動きが、その時点でうめださんはできていた。そうした動きができている人というのは、今でも少ないんですね。




(注7)卒業制作
ここで話題になっている、うめだりゅうじの作品とは数分のペーパーアニメ。女の子が妖精となって飛び回る様子を描く。驚くほど、リアルで丁寧なアニメートの作品である。



うつのみや そうですね。……あの、大平晋也君が巧いです(注8)
小黒 あ、なるほど。
うつのみや 湯浅(政明)君や(橋本)晋治君も巧いけど……うん、大平晋也君は、抜きん出て巧いですね(注9)
小黒 そういう感覚っていうのは、割と近年のものなんですね。
うつのみや うーん……あんまり考えた事はなかったけれど、そうかも知れないなあ。昔の人はあんまりやってなかったのかな。あのですね、僕らが、画を描いて動かす時は、頭の中に残っている映像を引っ張り出してくるんです。実際に何か参考を目の前にして描かない限りは、それ以前に実際に見た事があって記憶に残っている映像を、手探りで思い出しながら描くんですよ。それは、殆どの人の場合、断片的な映像の記憶でしかないんで、「最初はこういう画だったな。で、次はこうだったな」と段階を追って、画を起こしていくしかないんですね。そういう時に、リアルタイムで動いてる映像がパッと浮かぶと――僕でも調子のいい時は、そういう事がたまにあるんですけど――、動きの速度が各部で違うとか、ジョイントの重さ軽さといった細かいところまで、手が行き届くんですけど、なかなかそうはいかないんです。どうしても、「動く付属物の部分は、なんとなくこんなもんでしょう」みたいな感じで描いてしまって、実際にフィルムを見て、全然違うな、って反省するんです。なかなか、そうしたジョイントの動きの重さ、軽さというのまでは想像がつかないんですよ。
小黒 大平さんや湯浅さんは、そのあたりの計算がちゃんとできているという事ですね。
うつのみや うーん……、大平君や湯浅君は、計算して描いてるのか、直感で描いているのかどちらなんでしょうかね。僕は知らないんですよ。頭の中で映像が見えてしまえば、そういう計算は要らないですから。もの凄く映像を記憶する能力が高くて、いつも僕の最高の状態にあるような状態の人がいるとすれば、それはもう、計算しないでも、初めから、動かす事ができるんですね。もう見えてるんだから……みたいな感じで描けるんです。
小黒 イメージが最初から完璧にあって、それをこう紙に置いていく?
うつのみや ええ。そういう方って確かにいます。僕もホントに調子のいい時は、そうしたイメージが浮かぶんですけど……。でも、殆どないですけどね。僕の場合は、元々エンジンの性能が低いんで。
小黒 いえいえ。
うつのみや だから、僕の場合は計算するんですよ。経験知に従って、CGの演算処理のように、「こういう風に動いたら、付属物はこういうふうに動くはずだから」っていう事を計算して描くタイプなんですね。
小黒 それで言うと、井上俊之さんはどちらのタイプなんですか?
うつのみや これは、僕の想像ですけど、彼は本当にオールマイティで、計算もできるし、イメージが見えてもいるっていうタイプだと思うんですよ。
小黒 さっき、森本さんと梅津さんのお名前も出ましたけど、このお二方は、またちょっと違いますよね。
うつのみや そうですね。
小黒 あの方達は、そういうリアリズムは、多分求めてないはずですよね。
うつのみや そうですね。それは時代もあると思うんですよ。あの2人が、もうちょっと後の世代、例えば、大平君達の世代に生まれていれば、ああいうアクションを描いていたかどうかっていうのは分からない。逆に言えば、湯浅君が、森本さんの時代に生まれていれば、違うアクションを描いていたかも知れないですね。それはやっぱり、その人が生まれた時代背景があるんで。だから、その人の資質だけではないでしょうね。でも、お二方とも凄く魅力的なスタイルですよね。
小黒 そもそも、お二方のどこがお好きだったんですか。影響を受けたところというのは。
うつのみや これは失礼な言い方になるかもしれませんけれど、森本さんは、自分の感覚に凄く似ていたんですよ。「僕だったら、こう動かしたいな」と思う時に、そのお手本が目の前にあるような感じだったんですね。
 梅津さんは、それとは違っていて。まず、画がとても達者という事がありますよね。で、タイミングが凄く巧いんですよ。勿論、森本さんも巧いんですけど、なんて言うのかな……多分、美意識が独特なんでしょうね。「実際にはこういうタイミングで動くのではないか」というのを越えて、「こうしたら面白いじゃないか」という感じで動かしていたように思えたんです。
小黒 あ、なるほど。全くそのとおりですね。梅津さんは、自分にとっての理想の芝居なり動きなりをやろうとしている。
うつのみや そうかもしれませんね。だから、あの当時、僕にとっては、両極という感じだったんですよ。森本さんには共感して、梅津さんには憧れを感じて。両方から凄く影響を受けました。
小黒 でも、ご自身の仕事としては、リアル志向なんですね。
うつのみや ああ、今はそうですね。それは、あの後、どんどん時代が変わって、僕らが最初から諦めていたような、フルアニメーションに実際に挑戦する若い人達が出てきて、それに刺激を受けたからなんですよ。
小黒 え……? あ、そうか、分かりました。つまり、うつのみやさんが、森本さん達に憧れていたのは80年代ですよね。
うつのみや そうです。で、僕が『御先祖様万々歳!』を作ったあたりから、フルアニメ志向の方達が出てきたんですね。そういう方達は、ある程度、自分の生活を度外視してでも、やりたい事をやるっていう方々――ホントに、凄い精神力の強いタイプなんでしょうね。極端に言えば、10枚描けばいいところを、「そこにやりたいものがあるから、100枚描きます」みたいな、そういう孤高の精神を持ったアニメーターが出てきたんですよ。それは、僕にとって――多分、井上君にとっても――ショックだったんです。で、やられると悔しいじゃないですか。だから、徐々に、僕らも「やらなきゃなあ」みたいな意識になってきたところはありますね。
小黒 先程、なかむらさんの名前も挙げてましたよね。
うつのみや ええ。そもそも、名前を平仮名にしたのは、たかしさんの影響なんですよ。
小黒 ああ、そうなんですか。具体的にはどういう影響があったんですか。
うつのみや こういう技もあるのか、と色々勉強させてもらいました。なかむらさんは、カットの構成の仕方が巧いんですね。スタイリッシュなんですよ。例えば、同じ画面の中に、ゆっくりした動きのものと速い動きのものをふたつ入れてメリハリを作るんです。あるいは、奥から手前に来る動きと、それとは交差して横へ動く動きを組み合わせる事で、相対的に効果が上がる、とか。
小黒 ははあ。なるほど、まさにテクニック的なところなんですね。……まあ、現在のリアルアニメのルーツにいる方ですからね。
うつのみや あ、それは違うと思いますよ。たぶん。
小黒 えっ、そうですか?
うつのみや 今のリアルアニメを目指している人達――磯(光雄)君や、大平(晋也)君とは対極に位置すると思います。リアルアニメをやっている方々のひとつ前の世代に影響を与えたとは思いますけど。
小黒 ひとつ前、と言うと?
うつのみや つまり、梅津さんとか、僕らの世代ですよね。
小黒 ああ、なるほど。そう言われると分かります。なかむらさんがいて、梅津さんやうつのみやさん達がいて、そして、磯さん達がいる。
うつのみや そして、付け加えるなら、これからのアニメーションの話を少しだけ……。
小黒 はい?
うつのみや また横道に逸れてしまうかもしれませんが、さっき、アニメのスタイルについての、僕のひとつの結論、という話をちらっとしましたけど、無意識のアクションという事について、今考えているんですね。と言っても、無論、まだ最終的な結論ではないんですが。
小黒 と言いますと?
うつのみや 役者が「演技する」という場合を考えてほしいんですけど。役者の演技というのは、実際の人間の動きに比べて、どこか硬くなると思うんですよ。それはどうしてかと言うと、今、こうして、僕らが話している動きをアニメにするとしますよね、その時、僕らが行っているはずの無意識のアクションは削られてしまうと思うんです。僕らが普段生活している時に、意識しないでやっている動き。それが削られれば削られるほど、「演技する」という事に近づいていってしまう。今のアニメーションというのは、その無意識の動きを削りすぎているんです。だから、リアルじゃない。その無意識の演技をやろう、というのが、今の、僕のテーマなんです。勿論、そうした無意識の動きをランダムに入れれば入れるほど、そのカットの持つテーマが薄れてしまうんで、そこはバランスなんですけど。
小黒 つまり、どこまで無意識の動きを取り入れて、どこまで捨象するか。
うつのみや そうなんです。そのためには、あるキャラクターを動かすにも、色々考えなければいけない。でも、今のアニメーションは、絵コンテの段階で、そのキャラクターの説明が、凄く少ないんです。このキャラクターが、短気で、物事に過剰な反応をする、ぐらいの事は分かっても、どういう生い立ちで、どういう風なリズムで動く人物なのか――急に怒るのか、ある程度リアクションまでの時間がかかるのか。あるいは、その日は、どういう心境で、それまでどういうふうに時間を過ごしていたのかとか――それが分からない。だから、それを埋めるために、僕らはF々と想像して描いていくんですけれど、その段階で、やり過ぎると演出家の意図から外れてしまうんだろうなと思って、どうしても抑制してしまうんです。そうなると、「演技」になってしまうんです。最小限の「演技」にしかならないんです。
小黒 なるほど、不必要な動きは削られてしまう。
(注8)大平晋也君
大平晋也には、次回の「animator interview」で登場していただく。

(注9)湯浅政明君、橋本晋治君
湯浅政明は『クレヨンしんちゃん』等で知られるアニメーター。最新作は『ねこぢる草』。詳しくは「アニメスタイル」第2号を参照。橋本晋治は、大平晋也と共に『THE八犬伝』1話の作画監督を務めている。他の代表作に『課長王子』のオープニング等がある。
うつのみや ええ、そういう余計な事をしているフィルムというのは、今のところ、あまり記憶にないですね。『ファイヤー&アイス』みたいな、実写をそのまま取り込んだようなフィルムぐらいかな(注10)。あれは無駄な動きがありますね。是非とも一度、その無駄な動きをやってみたいんですよ。ある程度、融通の利く監督さんじゃないと、そういう事って許してもらえないし、ただのお遊びに見られちゃうんですけどね。それに一個人がやっても、「ああ、あの部分だけ細かいね」で終わっちゃう。これが、丸々1本通してやれれば、多分、観ている方には「よくわからないけど、なんだかリアルだったね」という感想を抱いていただけるんじゃないでしょうか。
 まあ、それは、この前まで取りかかっていた短編で、実際にやろうとしていたんですけどね。結局中断してしまったんですが。


(注10)『ファイヤー&アイス』
ラルフ・バクシ監督による劇場作品。ロトスコープを使用している。日本未公開。

●「animator interview うつのみやさとる(3)」へ続く

(01.04.05)


 
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