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【情報局】冬の劇場アニメ(1)
珠玉の影絵アニメ「ロッテ・ライニガーの世界」
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ドイツの影絵アニメーション作家、ロッテ・ライニガーの特集上映「魅惑の影絵アニメーション ロッテ・ライニガーの世界」が、東京都写真美術館で現在開催中だ。今回の特集では、「世界初の長編アニメーション映画」として映像史に名を残す『アクメッド王子の冒険』(1926)をメインに、短編5作品をセレクション上映。35mmニュープリントで蘇った珠玉の作品群は、今なお観る者を感嘆させる映像美に充ち満ちている。
ライニガーは戦前から戦後にかけてヨーロッパで活躍し、芸術性と娯楽性に優れた作品を多く残した人物。モノクロ・サイレントの時代、光に浮かぶシルエットによって物語を紡ぐ「影絵」というプリミティブな映像手法を通して、彼女はアニメーション表現の無限の可能性を指し示した。キャラクターの動きは指先に至るまで活き活きと描かれ、豊かな運動性を獲得している。また、単純に横一面の平面的な構図だけを思い浮かべがちな影絵の世界に、様々な技法を用いて奥行きやスケール感を与え、ドラマティックな映像表現へと高めた。もちろん、影絵の持つ幻想的でスタイリッシュな魅力は失わずに。緻密に切り抜かれた模様やディテールの美しさは、それだけで芸術品の域に達している。初めてライニガーの作品に触れる人は、それまで影絵というものに対して持っていたイメージを払拭されるはずだ。先駆的な映像作家として、彼女が後世のクリエイター達に与えた影響は大きい。
3年を費やして完成させた長編影絵アニメーション『アクメッド王子の冒険』は、「アラビアン・ナイト」をベースにしたファンタジー活劇。悪い魔法使いの作った空飛ぶ馬に乗せられ、遙か異国へと飛ばされてしまったアクメッド王子が繰り広げる、摩訶不思議な冒険と恋の物語を描く。スケール豊かな波瀾万丈の展開、緻密な美術によって表現された濃密なオリエンタリズムには目眩がするほどだ。水面に映った波影の表現や、影絵以外の様々な技法を用いた特殊効果など、目を見張る映像表現も随所にちりばめられ、新鮮な驚きを与えてくれる。
今回上映されるプリントは、日本の配給会社の働きかけによって新たに制作された「完全修復サウンド版」。1999年にドイツ・フィルムミュージアムによって修復されたフィルムに、フルオーケストラ演奏による音楽トラックを付け加えた、世界初のサウンド版である。
併映の短編は、16fpsのサイレント期から現在の24fpsへと移行したトーキー時代以降の作品群から、秀作5本をチョイス。より緻密なアニメートが楽しめる逸品揃いだ。作品タイトルは、ドイツで制作した『カルメン』(1933)、『ガラテア』(1935)、『パパゲーノ』(1935)、そして戦後イギリスで手がけた『眠れる森の美女』『長靴をはいた猫』(共に1954)の計5作品。イギリス時代の2作品は「ファミリー・プログラム」として、『アクメッド王子の冒険』と共に日本語ナレーションつきで上映。東京では12月4日・11時開演の第1回目のみの上映となるので、お見逃しなく。
東京都写真美術館での上映は、12月16日まで(毎月曜、12月10日・11日は休映)。併映短編は4日までが『カルメン』+『ガラテア』、6日からは『パパゲーノ』+『ガラテア』となる。12月24日からは名古屋・名演小劇場での上映がスタート。2006年陽春以降は、大阪、京都、札幌と順次ロードショーされる予定だ。
映像的な面白さはもちろんの事、ライニガー作品には異国文化への限りない憧憬、女性ならではのユーモア、そして睦み合う恋人達の歓びが活き活きと描かれている。この冬は劇場の闇の中で、美しいシルエットが織り成す幻想的でロマンティックな「愛の讃歌」に浸ってみてはいかがだろうか。
●スタッフ
監督、影絵アニメーター/ロッテ・ライニガー
プロダクション・マネージャー/カール・コッホ
提供/アスミック・エース エンタテインメント
配給協力/レゾナント・コミュニケーション
配給/エデン
●公式サイト
http://www.reiniger-world.com/
(05.12.02)
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