―― 今回はお2人が影響を受けたアニメについて、お話してもらおうかと思います。
長谷川 この連載のバックナンバーを読んだんですよ。
―― はいはい。
長谷川 今石(洋之)君のやつとか、佐藤(竜雄)さんのやつとか。なんかねえ、到底かなわないというかね……。
―― いやいや。
長谷川 僕はあそこまでマニアックじゃないし、かと言ってカッチョよくもないし。どうしたもんかなあと思って。
―― でも、長谷川さんのリストを見ると、「へえ〜」って感じですよ。
吉松 (リストを見ながら)うん、「黄桜」はイイっすよね。
一同 わははは(笑)。
吉松 「黄桜」は子供心にかなりインパクトありましたもんね。「これを見てていいのか? オレは」みたいな(笑)。
長谷川 思いっきりスッポンポンだし。隠してるのって背中だけですもんね。
吉松 ははは(笑)。
長谷川 だから、これは、「観てほしい」と言うよりは、「こういうふうにオレはアニメを観てきた」というリストなんですよね。
●長谷川眞也の「僕はこういうふうにアニメを観てきた」20本
『キューティーハニー』
『魔女っ子 メグちゃん』
「黄桜」CM
『大空魔竜 ガイキング』金田伊功回
『宇宙海賊 キャプテン ハーロック』36話「決戦前夜」
『サイボーグ009[新]』オープニング
『まいっちんぐマチコ先生』
『100万年地球の旅 バンダーブック』
『タイムスリップ10000年 プライムローズ』
『ルパン三世[劇場]』
『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』
『プラレス3四郎』
『BIRTH』
『超獣機神 ダンクーガ』オープニング[第2期]
『戦え! イクサー1』
『マシンロボ クロノスの大逆襲』
『ひみつのアッコちゃん[第2期]』羽山淳一回
『アイドル伝説 えり子』
『魔法使いサリー[新]』香川回
『らんま1/2』OVA1話「シャンプー豹変! 反転宝珠の禍」佐々木正勝パート
―― 『キューティーハニー』と『メグちゃん』は、どの辺が?
長谷川 ちっちゃい頃のアニメでしたからね。女の子の出てくるアニメって、「観るの恥ずかしい」と思うような時期があって。
吉松 ああ、それは分かる。
長谷川 でも、凄くカワイイし、こう、ドキッとするんですよ。「恥ずかしいけど、観たい。でも、家族の前じゃ観られない」みたいな。
吉松 僕も『キューティーハニー』はさすがに本放送は観れなかったね。1話は観たけど、その後は家族の手前もあって観られなかった(笑)。
―― オープニングなんかは特に、ドキドキものですからね。
長谷川 『キューティーハニー』は本放送や再放送でも、ほとんど観てないんですよね。「いつかこれをちゃんと観てやろう」みたいな、そういう気持ちがずっとあったんです。それが今も尾を引いているんです。
吉松 『まいっちんぐマチコ先生』も、その流れですかね。
長谷川 そうなんですよね。これもやっぱり恥ずかしくてちょっと観られないタイプのものだったんです。でも、この頃、もう僕は小学校6年か中学ぐらいなんですよ。だからすでに、観ていて「ちょっと画がショボいなあ」という気持ちもありました。
吉松 ははは(笑)。
―― 原作も、いわゆる達者な画ではないですよね。
吉松 そこがまたいい、というか(笑)。
長谷川 この頃はちょっと、作画の事も少し意識し出してるんです。『ハニー』の荒木さんの回じゃないけれど、6本に1本くらいはいい画の回があってもいいじゃん、と思ってたけど、『マチコ先生』では、とうとうそういうのはなかったと思います。
―― という事は、『まいっちんぐマチコ先生』は大体観てたんですね?
長谷川 そうですね。「いい回ないかな?」って、そういう見方なんですよ。
―― ははあ。そういう回がなかった、という事で思い出のアニメなんですか(笑)。
長谷川 そうですね(苦笑)。
―― それに対して『メグちゃん』『ハニー』はそんなに観てないけど、ググッとくる回があるのは分かってるんですね。
長谷川 それはなんとなく分かるんですよね。オープニングを観ていいなあとか思って、きっと作画のいい回があるんだろうなあと思っていたんです。僕は「ひたすら金田アニメを追っかけていた」とか、「このリアルな動きに惹かれて、それを研究して観ていた」とか、そういうのはあんまりないんですよね(苦笑)。
―― でも、「アクション」と「お色気」ですよね、長谷川さんの20本は。
長谷川 いやあ、選んでいて「オレってちっちゃい頃から、ホント何も考えてなかったんだなあ……。単なるエロガキだろ、コレ」と思ったんですよ(苦笑)。
一同 (笑)。
長谷川 エッチなものに凄く飢えていたんでしょうね。今のアニメだったら、エッチなシーンは下手すれば毎回あってもおかしくないでしょう。昔のアニメって、シリーズ通して1年にシャワーシーンが1回か2回あるかどうかでしょ。だから、何の気なしに観ていて、そういうシーンがあると、すっごい「得した!」と思ったわけです。
―― 「この日のために観ていたんだよ」みたいなね(笑)。
長谷川 そういう衝撃があるんですよねえ。子供番組だから、親と安心して笑って観ているのに、いきなりそういうドキッとする場面が出てくると。今みたいに、エッチなものが目的じゃないでしょう。そういう方が、凄いガツンとくるんですよね。
吉松 『(魔法のプリンセス)ミンキーモモ』で、パンツが見えるありがたみ、ってのがあったじゃない。たまーに、チラッと勝手に誰かが中割で入れたりして(笑)。
長谷川 あれは原画で描いてなかったんですかね。
吉松 動画で入れてたのもあると思いますよ。たまにニャンコのパンツが見えたりしてましたよね。
長谷川 そういうのに反応していたんですよ。普段可愛らしい男の子なんか描いている人が、たまに裸も描くんだ、と。そういうところに、ちょっと大人の世界を感じたんです。
―― 次に行きましょう。『ガイキング』の金田回。
吉松 金田さんだと、やっぱり『ガイキング』ですか。
長谷川 あと、『009[新]』のオープニングですね。それまで、アニメは「漫画が動いてるもの」という印象が凄く強かったのに、金田さんの回は、漫画が動いてるから面白いんじゃなんくて、動きが面白い、という事がガツンときた。そこで初めて、漫画がなんとなく動いて面白い、というんじゃなくて、描いている人がいて、それをコントロールしているんだ、というのを意識したんです。それが『ガイキング』でした。
―― 長谷川さんが『ガイキング』を観たのは本放送?
長谷川 本放送ですね。小学3年生か4年生ぐらいなんですよ。「なんか違う。ロボットの手足が凄く太い話数がある」と思って。「きんた」と書いてある人の話が、他と違うという事は分かったんですよ。
吉松 それは早熟だなあ。
長谷川 ちょっと話はそれますけど、僕がアニメという仕事を初めて意識したのは中学ぐらいの時なんですよ。友達のお父さんが、現像所で働いていて、その頃、ちょうど『超時空要塞マクロス』がやっていて、友達のうちに遊びに行ったら、そのセル画がいっぱいあったんです。セル画の下には紙があって……動画やレイアウトのコピーなんですけど、それを見ると、「A1、目パチ」とか「フォロー○mm」とか、書いてあるわけですよ。意味は分からないけど、なんだか格好いいなと思って。知らない「暗号」を使って、画を描いている人がいるんだ、と初めてそういう職業を意識しました。
―― 次の『ハーロック』は?
長谷川 『ハーロック』もあんまり内容がどうこうって覚えてないんですよね。ただ、この話が凄くエッチだったというのが記憶にあるんです。
―― この回と言えば、ゲストキャラの波野静香ですね。
長谷川 そうそう。シャワー室で裸のねーちゃんが倒れているというシチュエーションが凄くいい。波野静香がハーロックをちょっと誘惑するんですよ。ハーロックが、あのマント姿のままシャワー室で抱きかかえると、今度はチュウするわけ。で、その時にバックが透過光で光っていたんじゃないかなあ。「凄いヤラシイ!」と思ったんですよ。
吉松 ははは(笑)。
長谷川 「アニメでこんなラブシーンみたいなの、やっていいのかな」って。子供の頃、僕にとってど真ん中だった漫画家が松本零士なんですけど、松本零士の漫画を一番忠実にやってるなって感じたのが『ハーロック』だったんですよね。『(惑星ロボ)ダンガードA』とか『(SF西遊記)スタージンガー』で「松本零士って書いてあるんだけど、全然松本零士っぽくないぞ、コレ。どういう事なんだろ?」と思っていたんだけど、そういうところが『ハーロック』にはなかった。
―― 『バンダーブック』と『プライムローズ』というのは意外ですが。
吉松 数ある24時間アニメの中でこのチョイスは……。
長谷川 この2本がね、やっぱりエッチっぽいな、と。
吉松 やっぱりそれか(笑)。
長谷川 だから、記憶に残るのって「恥ずかしいな」という印象があった時が多いんですよ。24時間テレビって、午前中からやっていて、当然、親子で観てるわけです。ところが、裸のシーンが多いんですよ。
―― 『プライムローズ』はかなり強烈な描写がありましたよね。『バンダーブック』に至っては、血が繋がっていないとはいえ、主人公のラブシーンの相手が妹ですし……。
長谷川 そうそう。
吉松 ヤバイっすねえ。
長谷川 (妹が)変身する時に裸になっちゃうんですよね。
吉松 じゃあ、この『ルパン三世』劇場版っていうのは……やっぱり、“峰不二子”なわけですね?
長谷川 そうですね。しかも実は、公開当時、観てないんですよ。ひたすら覚えているのが、コマーシャルで、不二子が鞭打ちされて、尻がビリッっていう場面。
吉松 ああー、アレは鮮烈だったな、確かに。
長谷川 アレは衝撃的で。「いいのか? こんな事して」「こんな恥ずかしい映画、親に観たいって言ったら怒られるだろな」と思った事を覚えてますね。ただ、本編でそんなにドキッとしたかと言うと、あんまり覚えてない。
それで言うと『さらば宇宙戦艦ヤマト』も劇場に行けなかったんですよ。当時凄く流行ってるから、友達が持ってきた本を見せてもらったんです。戦艦なんかの設定も格好いいんだけど、いちばんググッときたのが、テレサですよね。
―― ああ、当時、雑誌や本に載ってるイラストは裸でしたもんね。
長谷川 そうそう。映画は無理でもせめて、小説なら許してもらえるかなと思ったけど、買ってもらえなかった。親がそういうのに凄くうるさかったんですよ。
吉松 それで抑圧されて、エッチなものが過剰に好きになってしまったんでしょうかね。
長谷川 そういうのはあるかもしれないですね。漫画にも厳しかったし、アニメもあんまり観せてくれなかった。おかげでこんな風にゆがんじゃったのかなあ(苦笑)とにかく、松本零士はそういうものなんだって、ちっちゃい頃から刷り込まれているんですよ、「裸のねーちゃんが出て、メーターが横にある」と。
―― 『プラレス3四郎』あたりから、長谷川さんのセレクションのムードが変わりますが。
長谷川 この辺でちょうど『マクロス』を知って、スイッチが切り替わったんですね。作ってる人間がいるんだ、というのが分かって、「この人の話数はいいんだ」みたいなことを意識するようになる。
―― えっ、じゃあ、『ルパン』と『さらヤマ』も、主にセクシャルなところで選んでいるんですか。
長谷川 そう。誰が描いてるといったような事は全然気にしてなかった。
―― メカやアクションにも興味がなかった?
長谷川 なかったなかった。設定はカッチョイイと思ったけど、スタジオぬえが描いてる、みたいな事は別段、気にならなかった。
―― ははあ。じゃあ、『ガイキング』の後、スタッフに対する興味みたいなものは、しばらく潜伏してたんですね。
長谷川 そうそう。
吉松 ふーむ。
長谷川 で、『プラレス3四郎』は、『マクロス』の後、しばらくすると始まったんですよね。金田さんも格好いいなと思ったんですけど、僕がいちばん引っかかったのは、佐野(浩敏)さんなんですよ。シャワーシーンなんかで、もの凄く念の入った画を描いてる人がいたんです。「もの凄く画に執着して女の子を描いている人がいるぞ」と思って観ていると、佐野さんという人がやってる話数が多い。それで引っかかったんです。後々、越智(一裕)さんも引っかかるんですけど。『プラレス3四郎』の時は佐野さんの印象が凄く強いですね。
―― この時は描く人の名前を意識して観てるんですね。
長谷川 そうですね。中学2年ぐらいかなあ。この頃はそういうのを意識して、真似してエフェクトを描いてみるような事もしていたんで。ただ、それをアニメとして動かすという意識はまだなかったですね。
吉松 パラパラ漫画は描いてなかったんですか?
長谷川 それはやっていたんですけど、やっぱりまだ、自分の中で漫画とアニメの境がハッキリしていなかったんですよ。「このデロデロ影を漫画で描けないかな」みたいに思ってた。
―― あ、つまり、漫画に「アニメ風の影がつけられないか」と思ってたんですね。
長谷川 そうそう(笑)。ロボットを描いたら、筆でそれっぽいものをデロデロって描く。
吉松 昔あったよね。ロリコン誌が創刊されて。「レモン・ピープル」だっけ?
―― 阿乱霊ですね。
吉松 そうそう。エッチ漫画なんだけど、妙に金田チックという。
長谷川 アレは衝撃的だったですよ。もうちょっと後になると思うけど、「モーションコミック」で芦田(豊雄)さんが漫画を描いていたじゃないですか。
吉松 「ウンガラの太鼓」ですね。
長谷川 アレを読んだ時に衝撃的だったのが、効果線を矢印で描いていた事なんですよ。
吉松 ありましたね。
長谷川 これは漫画として凄い画期的かも、と思いましたね。
吉松 ははは。
長谷川 でも、よくよく考えたら、それってアニメでよくやってる事なんですよね。原画の時に、動きの指示で矢印を使うじゃないですか。「漫画として、矢印ってすげえ」と思ったんだけど、実はアニメの作法だった。まあ、それに気づくのは後の話で、この頃はまだ、僕自身、アニメと漫画を分けて考えられなくて。
―― 次が『BIRTH』ですか。
長谷川 もうこの頃は高校生だったんですけど、マニアな知り合いも増えてきて、その知り合いからビデオを観せてもらったんです。全編金田さんっていうのを初めて観て、もの凄いビックリした。でも、「何か違うな」とも思ったんです。全編金田さんで嬉しいハズなんですけど、なんか嬉しくないな、と。あれは、なんなんだろなあ……。
吉松 なんなんですかねえ。
長谷川 それで初めて、アニメの、画じゃない部分に目が行くようになったんです。
―― ああ、画だけのアニメだったから、かえって?(笑)
長谷川 そうそう。作画の使いどころが違うんじゃなかろうか、と。凄いんだけど、何かもったいない。
金田さんと言えば、アクションが凄くて面白いのは分かってたんですけど、なんで面白いのか、という理由は分かってなかったわけですよ。で、『BIRTH』を観たときに「なんで『BIRTH』は面白くないんだろう?」と。そこで引っかかったんですね。
―― 金田さんだから面白い、というわけでは必ずしもなかったんだ、と気づいたわけですね。
長谷川 その時は何で面白くないのかが分からなくて、本人じゃない方が面白いのかなと思って、後継者の方達に行くようになったわけです。それで、山下(将仁)さんや越智さん、田村(英樹)さんなんかを観るようになるんですよ。『ダンクーガ』や『マシンロボ』は、そういう感じで観ていたんです。若い人が師匠よりも凄い事をやってるんじゃないか、と。
吉松 確かに『プラレス3四郎』でも、金田さんがやってるところはちょっと大人しかったですもんねえ。
長谷川 ええ、その後出てきた人の方がハッタリが凄いんです。大張(正巳)さんもこの頃知ったのかな。
吉松 大張さんと言えば、『ダンクーガ』ですが。
―― 『ダンクーガ』第2期オープニングは、合田(浩章)さんとか、豪華なメンバーでやっているんですよね。
長谷川 そうですか。田村さんが1人でやってるって聞いたんですけど。
―― 全部原画を描いたわけじゃないでしょう。作監が田村さんで、修正を入れまくっているという事なんだと思います。
長谷川 あ、そうなんですか。この頃は金田さんというよりは、「田村さん、凄え」とか「松尾さん、凄え」とか、もうそっちにいっちゃってました。
吉松 『イクサー1』は何話が?
長谷川 1話ですね。イクサーΣが出てきて、さてどうなるんだというところで終わったやつです。
吉松 正統派の展開ですよね。BGMがまたアオるからね。精神が高揚するよね。
―― いまだに平野(俊弘)さんの代表作なんじゃないでしょうか。
長谷川 僕の中では平野作品のベストです。これもやっぱり知り合いに観せてもらったんですけどね。「『マクロス』やってた人だ」というのがまずあって。当時は、平野さんのキャラクターをなんとか真似したいと思ってました。唇の描き方なんか、凄いなあ、と。
―― で、『クロノスの大逆襲』という順番になるわけですね。
長谷川 印象的なのは、やっぱり佐野さんが入ってる話数なんです。毎回画が違うのも面白いんですけど。
―― 激しく違っていましたね。
長谷川 そうそう。それが許されるのが凄いと思って。
吉松 かなりケッタイな作品でしたね(笑)。
長谷川 巧い人も全然似せようとしないんですよ。
吉松 まあ、当時は目立った者勝ちみたいなところがあったから。まあ“群雄割拠”してたんですかね(笑)。
長谷川 この頃にファンが描いた同人誌なんかも目にするようになって。同人誌の画って、元の作品に似てないけど、自分なりに元の画を消化しているんですよね。『クロノスの大逆襲』には、そういうものに近いところも感じたんですよ。
―― それが、長谷川さんの、後の『セーラームーン』でのブレイクにつながるんでしょうか。
長谷川 ははは、『セーラームーン』も毎回、画が違ってましたね(苦笑)。……話を戻すと、『マシンロボ』で業界を意識したんです。
―― 以前、『マシンロボ』を観て葦プロに入ろうと決めたっておっしゃってましたね。
長谷川 そうです、そうです。
吉松 長谷川さんは、葦プロにいたんですか?
長谷川 ええ。「あの凄い作画をしていた人たちに会える」と思って行ったら、もう誰もいなかった(苦笑)。
吉松 ありがち、ありがち。
長谷川 隣の部屋に羽原(信義)さんが残っているぐらいだったなあ。
―― 羽原さんは、『マシンロボ』の牛の回(14話「燃えて走れ姉弟戦士」)もよかったですね。
長谷川 そうそう。
吉松 オイラ、分からないよ(苦笑)。
―― 牛娘が出てくる回があるんですよ。
長谷川 アレは、今観ると思いっきり『ガイキング』ですよね。
―― そういう意味も含めて牛なんでしょうね、きっと(金田伊功の初作監回である『ガイキング』34話「猛烈火車カッター」には、ブラッドバッファローという猛牛型の敵が出てくる)。
長谷川 プロポーションなんか同じですよね。だから、そういうのだけを見ていると「なんか、凄い楽しそうにやってるなあ」と思えたんですよ。
吉松 そういった意味では、当時としては、葦プロは希有な会社だったんじゃないですかねえ。
長谷川 もう、すんごいドリーム抱いてました。世のアニメはみんな、こういう風にやってるんじゃなかろうか、みたいな。
吉松 葦プロ桃源郷説(笑)。
長谷川 もうメッチャハマってましたもん、この頃。
吉松 で、次が『ひみつのアッコちゃん』?
長谷川 そんなふうにドリームを抱いて葦プロに入るわけですよ。で、入って現実を知って……打ちひしがれて辞めちゃうわけです。そのあと東映動画に移るんですけど。
確か『アッコちゃん』って、まだデザイン学校にいた頃だったと思うんですよ。すでにプロになるつもりでいたんで、いろんなアニメを今から観ておこう、コマ送りもなるべくしようって感じで、色々観始めていたところで、なんとなく観たんですよ。そうしたら、結構いいわけです。「赤塚不二夫なのに、なんか、ちょっとエッチっぽいぞ」と。それが羽山さんの回だったんです。
吉松 またそっちですか(笑)。
―― どの話なんですか。2話?
長谷川 2話以降、ずっとですよ。動きが気持ちいいというのもあるんですけど、それより肉感的な描写に驚いたんです。そういうのを全然期待していなかった番組なのに、そういうふうに描く事ができる。それに驚いた。小さい頃の興奮が甦ってきたと言うか。誰も『アッコちゃん』でそういうものを期待してないのに。ちょっとこう、スイッチが葦プロから東映に少し切り変わってきたという事もあったのかな。
で、次の『えり子』も専門学校に行ってた頃に友達からいいって言われて観たんです。少女ものなんで、そういうものを全然期待していないのに、山内(則康)さんが、スカートをヒラヒラさせるわけですよ。
吉松 下半身に力入ってましたよねえ。
長谷川 そうそうそう。ライブのシーンで歌っていると、スカートが「ヒラッ」ってめくれてパンチラするんです。そんなとき、普通だったらもうちょっと、そちらに目がいくようなレイアウトの取り方するのに、それはしないでフレームぎりぎりのところでやってる。「それ、凄い!」と思って。
一同 あはは(笑)。
長谷川 「凄いエッチな人がいるなあ」って思ったんですよ。予想外のところでそういうのに遭遇すると、凄いビビッとくるわけです。
―― じゃあ、『えり子』は「スカートがヒラヒラ」だけなんですか?
長谷川 あ、大体そうです。
吉松 そうです……って、正直すぎる(笑)。作品的にも、山内さんとの出会いという事なんですかね。
長谷川 そうですね。それ以前に山内さんの作品はあまり意識してないんです。
吉松 山内さんが、全開になったのはやっぱり『えり子』からだよねえ。
長谷川 ええ。『(強殖装甲)ガイバー[旧]』ってこれより前でしたっけ?
吉松 あ、そうか。『ガイバー』があったな。『ガイバー』のバルキュリアは、ちょっと、あれはヤバかったよねえ。
長谷川 ただ、あの時は、松下(浩美)さんがやってるのか、山内さんなのかその辺ちょっと分からなかったとこがあったんですけど。
吉松 バルキュリアはほとんど山内さんがやってましたよ。
―― 長谷川さんは、山内さんについては、その後も含めてどうなんですか?
長谷川 その時の衝撃があって、その後の山内さんを追いかけたわけですよ。「普通のアニメなんだけど、山内さんの担当したところはきっと何かやってくれるに違いない」みたいな、何か期待感あるわけですよね。そうやっていろいろ観ましたね。……その後、西島さんと組んでOVAをやられるようになると、なんかちょっと違ってきたと言うか。言ってみれば、『BIRTH』の時と似たような印象なんですよ。全編山内さんで、延々とパンチラをやっているわけだから、すんげえ楽しいはずなのに、「なんか違うな」って感じちゃうんですよね。
―― つまり、隠し味は一部分の方がいい、という事でしょうか。
長谷川 そうなんですよね。
―― 喩えて言えば、いかにラーメンのチャーシューが美味しいからって、チャーシューのカタマリをかじってはいかん、という事ですかね。
吉松 ははは(笑)。
長谷川 そういうのって、「アニメーターの技」みたいなものかな、とも思うんですよ。普段は色々とこなすんだけど、ここいちばんで、そういうものをポンと出せる――そういう人に憧れてたんです。香川(久)さんとか羽山さんとか、なんでも描けるわけですよね。描けるんだけど、なんかそういうエッチなところは、「ギュン!」っとボルテージが上がるようなものを描ける。ま、そういう技を持っている人って凄いなと思うんです。
―― ええっ。ちょっと待ってください。香川さんの『サリー』もエッチなんですか?
長谷川 そうそう、そうなんです。
―― これは新説かも。えーと……肉感的だったんですか?
長谷川 そうですね。玉川(達文)さん、馬越(嘉彦)さんも当時入っていましたし、羽山さんも原画で手伝いで入ったりしてたんですよね。でね、女の子のひざの裏に2号カゲが入ったりするんですよ。
吉松 ははは(笑)。
長谷川 「『サリー』でそんな事するのか!」と思って、もの凄い驚いた。
―― それも、単なる一段カゲじゃないわけですね。
長谷川 そうそう。ひざの裏にポイントで2号カゲが入ってるわけですよ。『魔法使いサリー』でそんなものに期待するやつは誰もいないはずなのに、そういう事をやっている。そういうテクニックを持っていて、必要に応じてそれを出せるっていう……。
―― いや、応じてだかどうかは分かりませんが(苦笑)。
長谷川 そこにプロフェッショナルっぽい何かを感じたんですよ。「技を持っている」という感じがしたんです。で、そういう技っていうのは、必要なところで出すものなんだな、と……。
―― それは……必要じゃない時に出したから目立ってるんじゃないんですか?
吉松 いやいや、長谷川さんのために出してるんですよ。全国に何人かいる、長谷川さんみたいな人のために。
長谷川 ははは(笑)。
―― そうか……。何しろ長谷川さんは、『天使になるもんっ!』1話の「ほっぺたプルルン」を観て感動した人ですからね。「ほっぺたプルルン」も長谷川さんにとっては、そういう類のものだったんですね。
長谷川 そうですね。
吉松 じゃあ、「ほっぺたプルルン」に感動する人も全国には何人かいるんだ。長谷川さん級の人が……。
―― そういう吉松さんもアレにはキタでしょ?
吉松 いや、ビックリはしたけどね(笑)。
長谷川 『天使になるもんっ!』にしても、その前にすでに『あしながおじさん』を観てるわけですよ。で、加藤裕美という人がエッチな画を描くんだな、という事はすでに分かってるわけです。
―― ふむふむ。
長谷川 なんて言うのかなあ……アニメーターの中にも、なんでも描ける職人的――って言っちゃったら語弊があるかもしんないですけど――な人と、偏ったものしか描かないような人と、2パターンいるんじゃないかと思うんです。そういう意味で、香川さんとか羽山さんとか、加藤さんとかは、なんでも描けるわけですよね。おじいさんも描けるし、アクションも描ける、叙情的な画も描ける。だけど、そこで、こういう「偏り」もビンッて出す事ができる。そういう「必殺技」を持っているのって凄いなあ、と。
例えば、もの凄いメカエフェクトとか、もの凄いリアリティのあるレイアウトとか、そういった必殺技を持っている人もいるんだけど、僕はそういうものにはあんまり引っかからなかったんですよね。
―― なるほど……。じゃあ、最後に。『らんま1/2』OVA1話の佐々木正勝パートってどこですか?
吉松 何のエピソードですか? コレは。
長谷川 コレはねえ、なんだったかな……。そうそう、シャンプーの性格が変わるって話で……。
吉松 ああ、「反転宝珠」ね(笑)。
長谷川 そうそう。
吉松 それ、僕のリストにも入ってるよ。
長谷川 あ、ホントですか? 実は『らんま』はTV版はほとんど観てなかったんですよ。OVA版も何の気なしに観たんですけど、やっぱり、そういうところで技を出す人がいるわけです。それも、もの凄い技を(笑)。
吉松 かなり過剰だったよね。だって、アレ観てシャンプー好きになったよ、俺は(笑)。
―― 佐々木正勝パートってどこなんですか?
長谷川 要するにシャワーシーンですよ。
吉松 どか〜ん、とね。
―― ああ、あの場面ですか。確かに、あれは強烈だった。
長谷川 そうなんですよね。乱馬がきたというんで、バッと顔を上げるシーンがあって、一瞬だけ、バストのトップがチラッと見えるんですよ。トップが一瞬フレーム下からフッと現れて、またフッと隠されるんです。「これは凄い! なんでこんな事できるんだろう」と……。
―― じゃなくて、「どうしてそういう事思いつくんだろう」でしょ?
長谷川 ははは(苦笑)。佐々木さんって、何描いても上手いんですけど、その中でも裸を描くと凄く目立つんですよ。そんな「技」にガツンときたんですよ。
―― じゃあ、ここら辺でまとめにはいりましょうか。
長谷川 全然、まとまんないッスね(苦笑)。
吉松 いや、でも一本、筋は通ってましたよね。ちょっと常人にはうかがい知れない筋が(笑)。
一同 わははは(爆笑)。
―― 『サリー』が挙がっていたので、香川さんのアクションが格好いい、みたいな話をしてくれるのかと思ってたんですが……。
長谷川 あ、アクションが格好いいのはもちろんですよ。それはもう、大前提として……。
―― だったら、そこもちゃんと話していただかないと困ります(苦笑)。
長谷川 うーん……あ、そうか。今まで名前出た人って、アクションシーンがみんな巧い人ですよね。
吉松 ああ、なるほど。
長谷川 佐々木さんもそうだし、山内さんも……
吉松 飛行機アクションが巧いよね。
長谷川 そうそう。飛んでいる時のタイミングなんかカッチョイイですからね。だから、金田さんの流れでアクションの巧い人を追っかけようかなって観ていたら、それ以外の技が出てきたので、こう、仰天したっていう感じなんですよね。
吉松 それでリストの最初と最後がくっつくわけね。最初のアニメに対する興味と今のとが(笑)。
―― こういう人が『少女革命ウテナ』を作っちゃうんですねえ。
吉松 さもありなんって事で。
―― 「長谷川さんの仕事はどういうところにポイントを置いてるんですか」って聞くよりも、自ら作品を語る事で、長谷川さんの方向性がより見えたというか。
長谷川 いやあ、だからね、最初は格好よくしようかなと思ったんですよ。スタイリッシュな作品を挙げたりして。今は仕事上必要だから、そういうものもチェックするんですよ。でも、本当に好きかどうかは分からない。じゃあ、自分の原点としてはどうなんだろうな、と考えると、やっぱりこうなってしまった、と。だから、すんげー恥ずかしいですよ(笑)。カッコつけようと思ったけど、できませんでした!
吉松 いや、「好きだ」というのは伝わってきましたねえ。
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