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第13回
長谷川眞也・吉松孝博対談(2)


―― さて後半です。吉松さんはどういうコンセプトで選ばれたのでしょう?
吉松 基本的に、アニメーターになる前に観ていて好きなもの、ですかね。
―― 「これを観て僕はアニメーターになりました」という事でしょうか。
吉松 うん。そもそも、ビデオデッキ――東芝のビュースターを買って、アニメとプロレスが録画できるようになって(笑)。で、アニメをコマ送りして喜んでたんですよ。
長谷川 それはいくつぐらいの頃ですか?
吉松 中学2年か、3年かな。
―― なるほど、ではリストを……。

吉松孝博の「これを観て僕はアニメーターになった」20本


「ピンクパンサー」の劇中アニメ
ディズニーのディスコ
『わんぱく王子の大蛇退治』オロチ退治のところ
『Dr.スランプ アラレちゃん』76話「ペンギン村 八ッ墓ものがたり」
『うる星やつら』
『銀河旋風ブライガー』オープニング
『ルパン三世[旧]』
『ルパン三世[新]』
『チキチキマシン猛レース』
『幽霊城のドボチョン一家』
『らんま1/2』OVA1話「シャンプー豹変! 反転宝珠の禍」
『さすがの猿飛』2話「これがうわさの肉丸ファミリー」
『タイガー マスク』21話「復讐の赤い牙」
『魔法のプリンセス ミンキーモモ』42話「間違いだらけの大作戦」
『ずっこけナイト ドンデラマンチャ』6話「ドンはカウボーイ」
『Dragon Slayer ―The Legend Of Heroes―』
『天才バカボン』
『タイムパトロール隊 オタスケマン』「死の翼アルバトロス」のパロディの回
『ファイトだ!! ピュー太』



吉松 ビデオを買って、その時に録ったのが『わんぱく王子』のオロチ退治のところだったんです。テープがもったいないから、そこだけね(笑)。
 それから、TVで流れたんだけど、ディズニー映画の踊りのシーンを編集して、ディスコサウンドを合わせたものがあったんですよ。その中でミッキーマウスがトランプの上でタップダンスをしているやつが、凄くよくてね。
―― それはソフトになってます?
吉松 いやあ、知らない(笑)。で、「どうやって描いてんだろ?」と思ってコマ送りしても何かよく分かんなくてね。
―― ええと、それは原画と中割りの区別がつかないって事なの?
吉松 うん。もしかすると全部原画なのかもしれないけど。だから凄いなあ、と思ったわけ。
長谷川 それは新作なんですか。
吉松 いや、これまでのディズニー作品を集めて、曲に合わせてるだけなんだけど。
―― この2つが原点なんですか。
吉松 それほどのものじゃないですよ(笑)。まあ、「タップダンスは、ワケ分かんない絵をランダムにいっぱい描けばできるんだな」っていうのは分かったね(苦笑)。
―― 『大蛇退治』は?
吉松 『大蛇退治』は、単純にカッコイイ。怪獣映画が好きなんです。オイラは元々、アニメよりは特撮方面の人間なんですよ。『わんぱく王子』は特撮映画に近いし、キャラクターのあのペッタリした感じが海外のアニメーションみたいで結構好きだった。元々、『ドボチョン一家』とか『チキチキマシン』とかが凄い好きで。
長谷川 『まんがキッドボックス』系という事ですか?
吉松 そうそう、『まんがのくに』というか。結構、向こうのアニメで育ってるよね、我々は。『ドボチョン一家』が凄い好きだったんだけど、今観るとツライかもしれない。CATVなんかでも、これってやらないよね。変なモンスターがいっぱい住んでる幽霊城があって、そこが舞台のお話なんですけど。
―― 『ピンクパンサー』を観たのも子供の頃ですか?
吉松 あ、そうですな。『ピンクパンサー』って、オープニングにアニメがつくじゃないですか。ああいう、おまけみたいなのが好きなんですよ。映画を観に行ってアニメも観られる、みたいなね。
―― あのアニメって、ちょっとシャレてますよね。
吉松 そうそう、結構面白い。ああいう感じのキャラクターが出てきて、画と音が合ってる、っていうものが、凄く好きなんですよね。
―― えっ、そうなんですか! そのわりに、そういう仕事はしてませんよね。
吉松 いやいや、好きなだけですよ(笑)。
 で、長谷川さんじゃないけど、やっぱり金田さんを挙げておかないと。「アニメージュ」なんかの記事を見て「凄いな」と思いました。『ブライガー』なんかは、友達と一緒にさんざんコマ送りで観ましたね。
―― コマ送り世代ですねえ。
吉松 うん。ビデオっていうのは、凄く面白かったですよね。
―― 僕らの世代っていうのは、ちょうど中学高校の頃にビデオが普及し始めたんですよね。それで、デッキは手に入っても、テープはなかなか高くて買えない。
吉松 そうそう。録画しても消しちゃうんだよね。
長谷川 そもそも、デッキがない頃は、音声だけオーディオテープに録ったりとか。
吉松 ああ。小学校の時は、オープニングとか、スピーカーにマイク近づけましたね(笑)。
長谷川 僕なんか、TVの『銀河鉄道999』も音だけ録ったりしてましたもん。弟と「音だけアニメっぽくしよう」って、2人でセリフを声に出して録音したり。
吉松 それで言うと、オイラは、『ルパン』の「マモー編」をテレコでこっそり録音したんですよ。それで、家に帰った後で、自分で「マモー編」の画を描いて、録音したテープを聞きながら、友人と紙芝居みたいな事をしてた。
―― えーと、それは、録音したものを聞きながら画を描いたという事?
吉松 いや、そうじゃなくて、自分で描いた画を観ながら、テープを聞くの(笑)。
―― ああ、つまり「俺マモー編」なんですな。
吉松 そうそう(笑)。
長谷川 じゃあ、その頃はもう、ちゃんと「音と画が融合したもの」を、すでに意識してたんですね。
吉松 そういうのが気持ちいいって感じがあったんですかねえ。だから、オープニングなんかが、やっぱり面白いよね。アニメのオープニングだけ集めたし。
 で、その後、アニメーターになる直前に印象的だったものと言うと、『ドンデラマンチャ』とか『ミンキーモモ』とか『さすがの猿飛』とか『アラレちゃん』とか、その辺になりますか。『アラレちゃん』では、「八ッ墓ものがたり」っていう、芦田さんがまるまる1本描いてるやつがあるんです。
―― あれは凄い力作でしたよね。よく動いていたし。
吉松 面白いんだよね。芦田さんが、原案、コンテ、作画を1人でやってて。
長谷川 へえ。
吉松 当時、『うる星やつら』で若い人達が暴走してたじゃないですか。それを、芦田さんなりの解釈でやったんじゃないかな。「若い者に負けてられない」っていう意識があったんですかねえ。
長谷川 当時、芦田さんっていくつぐらいだったんですか?
―― 30代後半ですね。
長谷川 元気だなあ。
―― 芦田さんが1人でコンテ、作監、原画までやった話が100話前後に何回かあって、その後『アラレちゃん』から離れちゃうんですよね。
吉松 『アラレちゃん』は1話から観ていたんですけど、芦田さんの回は面白かったですからね。そこで芦田さんの名前を意識したんです。それから、『ミンキーモモ』が始まったんですよ。で、『ミンキーモモ』が大好きになって。
―― 「間違いだらけの大作戦」は、どのあたりがよかったんですか?
吉松 うーん。『ミンキーモモ』の中で1本選ぶとすれば、これ、という事で。全部好きなんだけどね。中盤の「最終回」(46話「夢のフェナリナーサ」)も結構好きです。
 そんなわけで、オイラは『ミンキーモモ』と『アラレちゃん』がきっかけでスタジオライブに行く事になったんです。当時「アニメージュ」にスタジオ訪問みたいな記事が載っていて、「スタジオライブは楽しい職場ですよ」という感じだったんですね。そんな“インチキ”な記事があったんですよ(笑)。それを見て入ってしまった。
長谷川 でも、ライブも楽しそうに見えましたよね。「芦田さんって、いつもああいう格好してるのかなあ」って当時思ってた。
吉松 ははは。僕の当時の絵柄は、あんまりライブっぽくなかったんですよ。でも西島さんもいらしたので、別にライブっぽい絵じゃなくてもいいのかなと思って持ち込みして、入れてもらったんです。西島さんは、僕が入って、数ヶ月でいなくなってしまったんですけど(笑)。最近西島さんに会ったら、「吉松くんもすっかりライブの絵になっちゃって」と言われましたよ。
長谷川 学生の頃は、芦田さんの絵が描けないとライブに入れないのかなっていう印象があったんですけど、別にそういうわけじゃなかったんですね。
吉松 そういうわけじゃないみたいですよ。
―― やってるうちにあの絵になっちゃうんですね。
吉松 なんか「菌」がバラまかれてる(笑)。
―― そういう風に一時期、アニメスタジオが楽しそうに見えた時代がありましたよね。それが、ライブだったり、アニメアールだったり、AICだったりしたわけですが。
吉松 そうそう。
長谷川 そうだったですよね。
吉松 ウソだったんだけどね(笑)。
長谷川 アニメーターの人たちが本業以外で、雑誌に画を載せるような、そういう事がチョロチョロ始まった頃でしたよね。
吉松 金田さんのイラスト、よかったですよね。真似したもの、あの(タイムシートにサインとして書く)「か」っていう字。
長谷川 ああ、そうですね。葦プロでもみんなああいう風に描いてましたもん。羽原さんは「は」、(前田)明寿さんは「め」(笑)。僕なんか、大張さんの「A1」って書き方、結構真似したりしてましたよ。
―― そういう楽しい感じって、また欲しいですねえ。
長谷川&吉松 うん。
―― もう、難しいのかなあ。
長谷川 ならんでしょうかね。
吉松 今はもう、絵の感じが平均化されちゃってますよね。なんで当時ああだったんですかねえ。
―― 話を戻して、次は?
吉松 『さすがの猿飛』の2話。お母さんがね、こう、ヨヨヨってなる動きがいいんだよね。それとお爺さんが回転するカット。
―― 「なんたるちあ、さんたるちあ」でしたっけ。
吉松 そうそう。確かそんなセリフを言うの。『さすがの猿飛』って異様に動いていたよね。「どうなってるんだろう?」と思ってコマ送りしても、サッパリ分からなかった。当時、自主制作アニメを作っていたので、「参考になるかな」と思って、そういうのを色々観てたんだけど。
長谷川 あ、学生の頃ですか?
吉松 そう。中学、高校とアニメを作ってたんですよ。
長谷川 おお。
吉松 アニメスタイルのイベントなんかで流せると面白いんですけどね。
―― 持ってるんですか?
吉松 持ってないんですよ。誰かは持っていると思うんだけど。
―― じゃあ、ここで持っている人に呼びかけましょう。持っている人、よろしくお願いします(笑)。
吉松 高校時代に作ったのには、全然イケてない金田シーンがあるんだよ(笑)。金田(伊功)さんが上を指さす、っていう。
長谷川 なんすか、それ?
―― えーと、金田さんが登場人物として、そのアニメに出てくるんですか?
吉松 そうそう。ロシアの宇宙飛行士とアメリカの宇宙飛行士が酸素ボンベを1個持って、大気圏に突入する競技をする、っていう話なんですけど。で、金田さんが、その落ちてくるのを発見して指さす(笑)。しかも、後ろには金田さんのやったキャラクターがいっぱいいるんです。それがまた、全っ然イケてない金田アクションで(大爆笑)。
長谷川 ははは(笑)。その頃、もう「DAICONオープニングアニメ」はあったんですか?
吉松 うん。最初は「DAICONオープニングアニメ」の影響で、女の子が出てきて、ロボットが出てきて、追っかけっこして、ミサイル飛んでみたいなものを作ろうとしてたんですよ。ところが、「いや、それじゃダメだ」って今、漫画家やってる椎名高志さんから言われて。
長谷川 え、椎名さんって、学校の同期だったんですか?
吉松 というか、友達の友達で、そのアニメに参加していたんです。それで、オッサンが2人しか出てこないアニメになった(笑)。手伝いに来てた人が次々にいなくなるようなアニメに……。
一同 わはは(笑)。
長谷川 それは学祭用に作ってたんですか?
吉松 違うんですよ。参加している人間の学校がバラバラだったんです。だから、あちこちの高校で上映するという感じでしたね。
―― で、ベスト20に戻って……。
吉松 『うる星やつら』っていうのはやっぱり、ねえ……。
―― 僕らの世代としては避けては通れない?
吉松 そうそう。毎回が驚きというか。
長谷川 僕、『うる星やつら』はノーチェックだったんですよ。やっぱり女の子が主人公だと、なんとなーく恥ずかしかったんですよねえ。友達はみんな普通に『うる星やつら』観てるわけですよ。ところが、僕は、ビキニのおねえちゃんがガンガン出てくるから、なんか正視できなかった。
―― えっ、でもアニメはあんまり生々しくなかったでしょう。後に実際にコスプレした人を見ると、「こんなにエッチだったのか」って思いましたけど。
長谷川 そうそう。「うわぁ」って感じなんですよね。「やっぱりこういう風になるんだな」と。
―― 結局、長谷川さんは想像力があるから、あのセル画を見てエッチだと思うんじゃないですか。
吉松 うーむ(苦笑)。僕はエッチというよりも、『うる星やつら』って、雑多な感じがあって、アニメーターになったら、こういう楽しい作品に参加できるのかなあ、みたいに思いましたね。
―― なんでもアリでしたからねえ。
吉松 うん。
長谷川 『さすがの猿飛』もそういうとこありますよね。
吉松 ありますねえ。また、微妙に面白くないんだよね(笑)。
―― うーん。『さすがの猿飛』はムリしておどけてる感じがあったかもしれませんね。
吉松 まあ、裏『うる星やつら』みたいなものだったんでしょうね。
―― 『ルパン』は、新『ルパン』も旧『ルパン』もOKなんですか?
吉松 どっちかというと旧『ルパン』。やっぱり、オイラがいちばん好きなアニメーションは『ルパン』なんだよなあ。
長谷川 『ルパン』を観てる頃から、もうアニメーターになろうと思ってたんですか?
吉松 いやいや、まさかまさか。僕は元々漫画家になりたかったんです。
長谷川 でも、学生時代からアニメを作ってたんでしょう。
吉松 いや、「それはそれ」って感じで、プロになるっていう意識は全然なかった。でも、ある日、学校の先輩に「吉松はアニメーターになるんだよな?」と言われて、「なんで?」と思いつつ、「そういや、そうか……」と。それまでアニメが好きでアニメを作ってたけど、職業としてアニメーターになるという意識はあんまりなかったですね。
長谷川 それじゃ、専門学校は……。
吉松 入ってないですね。
長谷川 じゃあもう、学校を出て直接アニメーターに?
吉松 そう。高校の夏休みに上京して、ライブにスケッチブックを持っていって。
―― 『ダンクーガ』でキャラデザインをやったのって、いくつなんです?
吉松 18か19歳ですね
―― じゃ、翌年なんですね。
吉松 うん。
長谷川 あ、そうなんですか。じゃあもう、すぐに「いんどり小屋」の一員に。誰をデザインしたんですか?
吉松 シャピロ・キーツと、デスガイヤー将軍。
長谷川 わあ、敵系。確かに、ライブっぽい感じとはとちょっと違いますよね。線が細いと言うか劇画的と言うか。
吉松 漫画っぽい。
長谷川 そうですね。線も多いし。
吉松 懐かしいですねえ。まだ、動画だったんですけど。
長谷川 あ、そうなんですか。動画をやりつつ、キャラクターデザインもやった?
吉松 そうですね。社長が「吉松もやれ」みたいな感じで。只野(和子)さんと松下さんと、山内さんと小林(早苗)さんと、神志那(弘志)さんもいて、オイラは隅っこの方で……(笑)。
長谷川 確かにライブって、みんなでデザインする作品って多いですもんね。
吉松 やっぱり、1人の人間が描けるキャラクターのバリエーションって、限界があるんで。
―― 話を戻して、『バカボン』は?
吉松 『バカボン』は『ルパン』より前に観たんですよ。TV番組で、いちばん最初に認識したヒーローですね、バカボンのパパは。先に原作を読んでいたんで、アニメーションは最初ちょっと抵抗あったんですけど。声のイメージが合わなくて。
―― それは旧『バカボン』ですか?
吉松 ええ。当時、幼稚園児だったんだけど、ウチには「マガジン」「ジャンプ」「サンデー」「チャンピオン」が大体揃ってたんで。中でも『バカボン』が特に好きだったんですよ。
長谷川 えーっ、羨ましい。
吉松 買ってもらっていたわけじゃないんです。僕が漫画が好きだったんで、母親が知り合いの喫茶店からもらってきてくれていた。
―― それは恵まれてますね。もうアニメーターか漫画家になるしかない。
長谷川 僕は、漫画なんか買ってもらえなかったですもん。自分の小遣いで初めて買った漫画が『009』の2巻でしたよ。本屋で一番ブ厚い漫画を探そうと思って。だって、同じ値段で、一番いっぱい量が読めるじゃないですか。そうしたら、2巻だった(苦笑)。
―― 『オタスケマン』は?
吉松 そもそも「タイムボカン」シリーズが好きなんです。その中でも『オタスケマン』がいちばん洗練されていたかなあ、と。僕の中のアニメファングラフがいちばん頂点の時にやっていた「タイムボカン」シリーズが『オタスケマン』だったんです。軍艦鳥メカ・アルバトロスっていうメカが出てくる回があって、要するに(『新ルパン』の)「死の翼アルバトロス」のパロディなんですけど。
―― そんなのがあるんだ。それって今観ても面白いんですか?
吉松 さあ?(笑)
長谷川 『タイガーマスク』を観たのは、かなり昔の事になるんですか?
吉松 昔から大好きではあったんですけど、これは改めてLDを買って観て「凄いな」と。これは小黒さんとも一致したんだけど、この話は凄い。伊達直人がホテルに帰ってきて驚く、という場面があるんですけど、次のカットで画面いっぱいの靴のアップがあって、その足が開くと、画面の遠く向こうにミスターXの顔がある(笑)。要するにパースつけて、ふんぞり返ってるわけです。凄いアイデアだよねえ。
長谷川 そうですか?
―― いや、言葉で言うとなんて事ないんですけど、映像だと衝撃があるんだよ。
長谷川 なんか、凄いケレン味ある演出ですよね。
吉松 その回は演出だけじゃなくて、作画も凄い。乱闘場面を、止め画でパパパッと観せるんだけど、結構、お遊びも入っていて。当時、観てた人は何も感じなかったのかなあと(笑)。かなり変ですよ、アレ。
―― この回は新田義方さんの担当なんだけど、新田さんは他の回でも結構ケレンみのある演出をしてるんだ。
吉松 アレは観た方がいいですよ。このジャック・ブリスコの弟が復讐にくる回は。……あ、今思い出したけど、ライトが揺れて、ジャイアント馬場の顔の照り返しが、ゆらゆら動く場面があるんだけど、あれは「ウエスタン」という映画を下敷きにしてるんですよ。
長谷川 じゃあ、「足パカッ」ってやつも何か元ネタがあるんじゃないですか。
吉松 いやあ、それはないかもしれない(笑)。まあ、西部劇テイストが溢れる回でしたね。
―― で、次が『Dragon Slayer』。
吉松 これは、ビックリしたよね(笑)。こんなに落ち着きのないアニメが世の中にあるのか、と。
長谷川 衝撃的だったです。「は、速い!」って。あれを観た頃はもうアニメーターをやっていて、(タイム)シートを直される事も経験してたんで、「絶対に演出家が(タイムシートを)速めてるよ、これ」って思ったんですよ。3コマ打ちしてたのを2コマにしたりしてるんじゃないか、と。本当はどうだったんですか?
―― うん、うわさ話的に聞いたんですけど、シートを直してるそうです。ただ、「シートを直すよ」という前提で作打ち(作画打ち合わせ)をしているみたい。でも、演出家とアニメーターが競い合って速くしてるみたいなところもあったらしいですよ。
一同 (笑)。
長谷川 (キャラクター原案の)石川賢らしさは出てるなと思ったんですけども。速さも含めて。
吉松 観ていて思わず、「君達、落ち着きたまえ」って言いたくなるよね。あれは、DVDにならないのかなあ。大畑(清隆)さんに同じ演出の方がやった、『ミスター味っ子』を観せてもらったんだけど。
―― 中村憲由さんですね。
吉松 それも似たような感じの素晴らしいアニメでした(笑)。
―― 『Dragon Slayer』は“カルトアニメ”と認定してもいいんじゃないですかね。
吉松 ええ。変で、なおかつ観ていて面白い。変なアニメって、観ると大概やるせない気持ちになるだけなんだけど。
長谷川 ははは。
吉松 これは面白いんですよ。
―― 王子が敵に捕まって、「どうやって脱出するんだ?」と思って観てたら、牢に入れられて3カットぐらいで、「助けに参りました」って助けがくる。普通は何かあって助かるんだけど……。
吉松 助かるから助かる(笑)。
長谷川 画だけじゃなくて、話も有無を言わさぬところがあるんですよねえ、アレ。しかも、速すぎて、ツッコむ隙がない。
吉松 ジェットコースターアニメと言うか……。まあ、新しい娯楽の形でしょう。
―― じゃあ、これは「キングレコードさんDVD化お願いしますっ」て事で。
吉松 うん。するべきですよ。
―― 「アニメスタイル」読者にもお勧めですね。で、『ファイトだ!! ピュー太』ですか。
吉松 やっぱり、“カルトアニメ”って言ったら『ファイトだ!! ピュー太』ですねえ。長谷川さんは観た事ありますか?
長谷川 ありますよ。黒沢(守)さんに「観た方がいいよ」って言われて、ビデオを借りました。
吉松 あれは、まさにオーパーツと言うか。
長谷川 うーん、あんな昔にこんなマニアックな作品が……。
吉松 若気の至りがこんな時にすでにあった(笑)。でも、アレは、元はもっとカット数があったんじゃないですかねえ。「そんなカット割りしないだろ」っていうカット割りがありますもんね。
―― 妙なインサートとかね(笑)。とにかく『ピュー太』はカルト中のカルト。話も凄いし、作画もがんばってますよね。
吉松 作画、凄いよねえ。画も巧いし。それに、オープニングのあのテンポのよさ。当時の子供達はついていけないよね。あのスピードはね。
―― あ、ちょっと読者に説明すると、『ピュー太』というのは、今ソフト化されているのが、1本だけなんですよ。そのソフト化されているエピソードと、オープニングは、きっと同じスタッフがやっているんじゃないかな、と思うんです。
吉松 ああ、そうでしょうね。カッコちゃんが旗を振る、短いカットがいいよね。デザインもカワイイ。とにかく、どういう状況でああいうアニメーションができたのか、検証してもらいたいもんですよね。
長谷川 最初、「古い画だな」という印象で観ていると、アッと驚くという。
吉松 最初の爆発の書き文字が、またいいんだよね。
長谷川 なんか、林静一の漫画がそのままアニメになったような感じもありますよね。
吉松 えっ、林静一って、ああいう感じなんですか。
長谷川 たまにああいう感じのものありますよ。アメコミ系のキャラクターが出てきたり。ロボットと戦う金太郎みたいなやつが出てきたり。
吉松 あ、そうなんだ。それは知らなかった。そんな脂っこいもの描いてたんだ。
長谷川 いや、濃い漫画は結構濃いですからね。
―― じゃあ、アメコミ調のヒーローがエンドレスで出てくるところは、林静一さんかもしれませんね。
長谷川 多分、そうじゃないかなあ。漫画はもっと(思想的に)濃いんですけど。
吉松 日本のアニメ史に現れた、最初の暴れん坊ですかね。
―― いや、林さんだけではなくて、構成で名前が出ている永沢詢さんもキーマンらしいんですよ。今はイラストレーターをおやりの永沢さんです。
吉松 「来週こそ見てろ!」ってセリフがあるでしょ。あれは驚いたよね。「え! 来週もあるの、コレ?」って(笑)。
長谷川 そうそう。
吉松 とてもじゃないけど、コレ、来週ある内容じゃないよ。
―― OVA30分1本っていうノリですよね。あれを毎週1本放映する中で作ったんだから凄い。
吉松 『うる星やつら』なんかがやっていたような、細かい遊びもいっぱい入っていて。当時はビデオなんかありゃしないのに(笑)。
―― 残り25本が発掘されて全貌が見えると、実際にはガッカリするかもしれませんが(笑)。さて、最後は、同じもので終わりますね。『らんま1/2』OVA1話。
吉松 僕がアニメっぽいアニメで「よかった」と思ったのは、あんまりないんだよね。これはその数少ない1本。「アニメもいいな」って(笑)。
長谷川 どの辺がキたっすか?
吉松 いやあ、あのシャンプー可愛かったですよ。
長谷川 うん。
―― そうそう、入浴シーン以外もいいんですよね。
吉松 繰り返しのギャグも面白い。反転宝珠でキャラクターが変わる事による、繰り返しギャグのくすぐり方が巧いんですよ。かなりくすぐられてムズムズしました(笑)。キャラクターもみんな活きてたしね。
―― ちなみに他の『らんま』は、どうなんですか。劇場版なんかもいいでしょう?
吉松 僕は『らんま』はそれしか観てないんですよ。TVを何本かみたぐらい。
長谷川 劇場版って、みんなで海に行くやつ?
―― そうです、そうです。
長谷川 アレは僕、ダメだったなあ。
―― エッチな場面が全開過ぎました?
長谷川 そうそう。ありがたみなし、って感じで。
吉松 それが今回の長谷川さんのテーマなんだね。
長谷川 いえいえ(笑)。
―― 長谷川さん、どうでしたか? 吉松さんの20本は。
長谷川 ああ、吉松さんが選んだ、という感じでしたね。吉松さんって、作品を選ばないというか、サービス精神旺盛というか、いろんなものがガンガンできる人って印象なんですけど、そのバイタリティが出てるなっていう感じはしますね。
吉松 単にバラバラなんです。
―― でも、美形ものとか、ハードな作品は挙がってませんね。
吉松 ああ、そうですね。
―― 要するに、楽しいアニメが好きなんでしょう。
吉松 ええ、単純にパッと観て楽しいものが好きですね。
長谷川 逆にだから、僕みたいに偏った見方をしてると、偏った物しか作れない。だから、読者のみんなも、自分なりに、いろいろな見方をしようね、というのがまとめかなあ。
吉松 好き嫌いはダメだよ、みたいなね(笑)。なんて偉そうな事を言ってるけど、オイラ、最近はあまりアニメ観てないんだよね。ゴメンなさい。
―― あれ、数えてみたら、吉松さんのセレクションは19本しかないですよ。
吉松 あ、本当だ。じゃあ、『GS美神』を入れてください。
長谷川 意外ですね。『美神』はどうして?
吉松 オイラ、マリアが好きなんですよ。
―― 美少女アンドロイドですね。
長谷川 それは原作の椎名高志さんと知り合いだって事と、関係あるんですか。
吉松 これいいなあと思って漫画を読んでいたら、後で高校時代の知り合いだってわかったの。いやあ、マリアはいいっスよ(笑)。

●2002年12月30日
取材場所/東京・スタジオ雄
司会/小黒祐一郎・小川びい
構成/小黒祐一郎・小川びい

 

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(03.05.02)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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