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── 次が『うる星』の「面トラ」(27話「面堂はトラブルとともに!」)ですね。
湯浅 そうですね。高校の時の話なんですけど、仲間の中で、ウチが一番最初にビデオデッキを買ったんですよ。学校からの距離もウチが近かったので、毎週土曜日とかにみんなで面白いビデオを持ち寄って観るというのを、やってたんですよね。その中で山下(将仁)さんの『うる星』を観たんです。
── なるほど。
湯浅 山下さんの名前は、ビデオを観るよりも先に「アニメージュ」の記事で知っていたんですよ。それを見たら、歳も自分とそんなに変わらないし、「わあ、なんか凄いなあ」と思って。山下さんが参加した『うる星』は、画もかっこいいし、話もちゃんと作画を活かすように作ってあったんですよね。この話では、イケイケの面堂というキャラクターが(指差すポーズをとって)「そこをどきたまえ」と、どう見ても倒れそうな角度で言うのカットあって(笑)、それが「かっこいいなあ」と思ったんですよ。絶対に倒れるぞという角度で、全然倒れないのがかっこいい。
── そうですよね。『うる星』のあのあたりの傑作は、コンテがそういう作画を意識したコンテになってますよね。
湯浅 遊ばせ方というか、突出のさせ方が面白かったですよね。当時、僕はちょっと遅かったんですよ。金田(伊功)さんを認識するより先に、山下さんを見ちゃったって感じで。後追いで『(銀河旋風)ブライガー』とかを観たんです。
── (笑)。次は『スプーンおばさん』のエンディングですね。
湯浅 これは「やっぱり南家こうじさんは凄い」という事で。4コマ6コマ使いみたいなタイミングも独特で、どうやってあんな動きを覚えたんだろうと思いますよね。基本的にアニメーションにある潰し伸ばしとていう動かし方を、より複雑にしたみたいな感じで。びっくりした時に潰して伸ばすとか、そういう単純なものじゃなくて、階段状に潰したり、すごい複雑な潰し方をしているんです。かなり高度なテクニックでやられてる。
── 湯浅さん的には、南家さんの作品では『スプーンおばさん』のエンディングがベストなんですか。
湯浅 最初に観たんで、そのインパクトのせいもあります。中割を入れていくのでは多分できない、全部原画で描いてるような高度な動きで。「ああ、こういうのもいいなあ」って、自分が仕事で作画をやってくとしたらこういう高度な方に行くのかな、みたいな気がして。……だけど、行けなかったですけど(笑)。コマ送りで見てもなかなか難しくて。「分かんないなあ、なんでこうなってんだろ?」と思いました。南家さんの場合、あんまり作品は観られないですけどね。
── ビデオ化されている数が少ないですからね。
湯浅 『みんなのうた』とか、後から探って観たりしたんですよ。「めいわく団地」とか、好きですね。『うる星やつら』のオープニングとかは、ちょっと様式的な感じにしてますよね。で、あとは僕の知ってる人、2人の作品を(笑)。
── まず、『マインド・ゲーム』で総作画監督を務められた末吉裕一郎さんの作品として、『暗黒タマタマ大追跡』を挙げられてますが、これはなぜですか。
湯浅 僕が末吉さんを初めて認識したのが、『暗黒タマタマ』だったんです。昔から「常軌を逸したキャクターの芝居をやってみたい!」と思ってたんですよ。『ちびまる子ちゃん』をやってる時は花輪君を描いてみたくて。花輪君がちょっとおかしな感じになるやつとか描きたいなあとか(笑)。でも、なかなかそういうのが回ってこなくて。で、『暗黒タマタマ』のクライマックス前で、野原一家が東京に帰ってくるシーンが、わりと常軌を逸した感じで(笑)。「あ、これ、ちゃんと一線を越えている。凄いうまい!」と思ったら、末吉さんの作画だったんです。それが僕の「末吉さん発見」でした(笑)。前々から『キテレツ(大百科)』とかで、よく動かしてる話を、尾鷲(英俊)さんと末吉さんがやってるな、とは思ってたんですけど。次の『八犬伝』の大平君も、びっくり度ですね、一緒に仕事してて。
── これはどの『八犬伝』なんですか。
湯浅 「新章」の方ですね。
── ああ、やっぱり。
湯浅 とにかく、カルチャーショック的な(笑)。
── 新章4話に関しては、自分の仕事っていう事は置いといて……。
湯浅 そうそう! ま、僕がやったかどうかは、この場合は全然関係ないですね。もう、それは忘れてもらっていいですけど(苦笑)。
── とにかく大平さんの仕事が凄かったと。
湯浅 『八犬伝』をやってる時は「あ、これは勉強して帰ろう!」みたいな感じだったんですよ、大平君の仕事が本当に凄くて、自分は観光に来てるみたいな感じで(笑)。だからちょっと、仕事としてどうなのかな。自分は、あの作品に浸りたかっただけなんじゃないかな、という気がしますけど。とにかく、感心。僕はそれまで、マンガっぽいもの以外は全然知らなくて、初めて見たのが大平君だったんでね。いきなり高いところにぶち当たって、びっくりしたっていうか。もう、どうやって描いてるのか、よく分かんなかったですね。レイアウトとか、原画を見た時のびっくり度が凄くて。出来上がったものも凄いし。僕はできるだけ原画はFIXで、スタンダードに描きたいんだけど、大平君はデカけりゃデカいほどいいみたいな(笑)、それこそ畳いっぱいにレイアウトを描いたりなんかして。
── ほうほう。
湯浅 「大版好き」という、そういう心意気みたいなのもよくて(笑)。「へーっ、こんな人がいるんだあ」みたいな。なんでも描けるし。草木や、山並みや、古い建物なんかも描けて、動きも、思ってもないような動きを描いてくれて。まあ、あれ以上のインパクトは、後にも先にもないですね。大平君の仕事の中でも一番好きな作品ですね。
── なるほど。
湯浅 なんか、前にも話したような話題ですけど(苦笑)。『009』は木村圭市郎さんの方で。
── あ、白黒の方なんですね。
湯浅 もう絶対! 僕、『009』は白黒しか受け付けないんですよ。これは刷り込まれちゃったんでしょうがない。あれ以外はダメなんですよね。木村圭市郎の『009』じゃないと。とにかく「意味不明のかっこよさ」があるんですよね。
── あれでしょ、数人の敵サイボーグがこうクルクルッと回って一つになるとか(笑)。
湯浅 そうそう! よく分かんないんですよ、理屈が(笑)。でも、なんかかっこいい。真似しようとしても真似できない。あのオープニングは全体的にいいですね。火もかっこいいし。
── ビームも飛ばしまくってるし。
湯浅 音楽も合ってるし。作画のスタイルの「かたち」として、木村さんは外せないよなあ、と思います。多分、真似できないし、後に続いてもないような感じがするんで。
── そうですね。大まかに言えば金田さんや百瀬さんが弟子筋に当たるんでしょうけど、根本は違いますよね。あの骨太な感じというか。
湯浅 『タイガーマスク』とかもね、TVアニメをやる上で、理想的なかたちの一つではあるんだけど、なかなかやれないですよね。で、次はまたこれも重複しちゃうかな、『ルパン三世』なんですけど。
── 旧『ルパン』の方ですね。
湯浅 これも選んだのは、どの話数というのはなくて、多分、宮崎さんが原画やってたと思われるところです。なんか動きがイイカンジでかっくんかっくん粘るんですよね。例えば「ジャジャ馬娘を助けだせ!」(21話)で、汽車がボコンボコンって斜面を落ちていって、森を突破していくところとか、それを見送る銭形が「そんなバカな事があるもんか!」とか言って、目がでかくなったり、首が引っ込んだり出たりするところとか。それが面白いんですよ。宮崎さんの動きって、わりとはっきり原画が分かるんですよね。「あ、1枚1枚そういう画を入れていけば、動くんだ」って、動きが認識できるような画だった。だから、少し真似できるかな? みたいに思える動きではあったんですよね。『パンダコパンダ(雨ふりサーカス)』でも、サーカスでパンちゃんを追っかける時、追っかけてる時に人が棒の周りでドタバタするアクションなんかも凄いんですよね。あれが宮崎さんの原画かどうかは分からないですけど、わりと宮崎さん的な動きなんじゃないですかね。「エメラルドの秘密」(14話)の銭形の踊りもいいですし。あと、「美人コンテストをマークせよ」で、五ヱ門がバッタバッタと斬るところの前半で、風呂敷のパラシュートでパッと降りて、警備員の頭をボンと踏んづけて、パッパッパッて斬るあたりは宮崎さんなのかな。五ヱ門が可愛いから。
── なるほど、なるほど。
湯浅 後半は大塚さんなんですかね。あそこら辺も好きでした。さっきも言った、昔繰り返して観ていたビデオに入れていたところですね。
── 湯浅さんにもそういう修行時代というか、繰り返して作画のいいところを観て、アニメの栄養を採っている時代があったんですね。
湯浅 うん。そういうのを観ていると、なんか幸福感があるんですよ。同じところを繰り返し観て、「ああ、いいなあ」と思って。観ているうちに、自分がやったような気分になって。「俺が描いた事になるといいなあ」みたいな(笑)。「自分がこうできたらいいなあ」とか「俺がこれを描いたとしたら、どうだろう?」とか思うんですよね。……で、次はまた全然違うんですけど、『バットマン』のパイロット。
── これまたレアな作品ですね。
湯浅 テレコムにあったビデオテープをちょっと見せてもらって。誰が作ったか分かんないんですけど、多分海外の人でしょうね。バットマンがシルエットで動くんですよ。かなりグラフィックな感じで、ぐにょーんってうねったり。友永(和秀)さんのやった『バットマン』のオープニングにちょっと近いような。パースも思いっきり無茶してて、ブックと背景が合ってなかったり、意外と嘘ついてるんですよ。それが逆にイイ感じなんです。それをテレコムの友達に「ダビングさせてくれ」って何度も言ったんですけど「ダメだ」って(笑)。そいつはカタイ奴で、全然ダビングさせてくれなかったですね。……さっきから脈絡なく喋ってますけど(苦笑)、いいんですかね。
── いえいえ、大丈夫です。
湯浅 次のスタレヴィッチっていうのは、上映会で観て、最近知った人形アニメーターです。剥製のような、かなりよくできたモデルを使って、動物アニメとか昆虫アニメとかを作ってるんですけど。それが動きもよくて画もよくて、結構びっくりしたんですよね。「こんな人がいるのか」って。やっぱり、あんまり表に出てこないような人で。
── それはどこの国の人なんですか?(編注:ロシアの方でした)
湯浅 あー、それも分かんないですね(笑)。僕も何本かしか観てなくて、多分ビデオとかDVDとかも出てないような気がする。『霧につつまれた(ハリネズミ)』とか、『木を植えた男』も好きだけれど、あまりにも有名なんで。ま、「こんな人がいるんだあ」って驚きがあった。あと、これもあまり観る機会がないですけど、「ポポロクロイス」のゲームのアニメですね。
── ああ、はい。
湯浅 僕的には、うつのみやさんの代表作じゃないかと思っています。洗練された、独特の完成された作画スタイルみたいのがありますよね。それともう一つ、でっかい魔神みたいのが出てくるんですけど、その前後は磯(光雄)さんもやってるって聞いたんですけど、宮沢康紀さんという方がやられてるらしくて。
── そうですね。
湯浅 「こんな人いるんだあ」と、びっくりしたというか。宮沢さんはそれで注目して、お気に入りになりましたね。漫画映画的なスケールの大きさがあるような作画で、あまり型にはまってないような動かし方するのが、凄いなって。
── さて、あと2本、いよいよクライマックスです。
湯浅 『タイガーマスク』。さっき話したのと重複してますけれど、これも木村圭市郎さん。強いて挙げるならオープニングですけど、木村圭市郎さん以外でも作画的に凄いところがいっぱいあって。「こんなアニメをやってみたい!」って思いますけど、なかなか難しいですね。3コマでずっと動く背動があったり。割る方もよく割れたなという感じもあるんですけど。
── あれ、3コマより遅くないですか。
湯浅 もっと遅いですかね、4コマとか。
── コマ送りして確認した事はないですけど、4コマとか5コマだと思いますよ。
湯浅 ああそうなんだ、凄いなあ。
── 見ていて、セル画の枚数数えられるもの、1、2、3って(笑)。
湯浅 『タイガーマスク』は一つのTVの理想形ではあるんだけど、その後に同じものは出てないですよね。
── 同じ人達が、後にやっても同じにならないんですよね。
湯浅 勢いがあったんでしょうね。「よくこんなの止め画で出せたな」という感じの画とかもあるじゃないですか。やっぱりあれは勢いがないとできないんでしょうね。特に今は、作画が丁寧になっているから。こんなのできないだろうなあ、と思いつつ、でも理想としたい。
── なるほど。そしてラストは『巨人の星』ですね。
湯浅 これも、このコーナーで前にも出ましたけど、花形ですね。花形の大飛球がやっぱり(笑)。小さい頃に観た時にやっぱり真似しましたもん、ああいうの(笑)。
── 画をまねたんですか。
湯浅 自分のマンガにそういうの描きましたよ。尻がデカくて、バットの先っちょがちっちゃくなってるような(笑)。あれを描いたのが荒木(伸吾)さんだっていうのは後から知ったんですけどね。美形キャラの荒木さんが、アクションもこんなに凄かったんだ、って思いました。これで20本です。
── それから番外として、大塚正実さんを挙げていますね。
湯浅 大塚さんは、作品としてどれを挙げていいか分かんないんですけどね。『しんちゃん』だと……。
── やっぱりTVシリーズの方ですね、大塚さんだったら。
湯浅 そうですね。僕が最初に観たのは「台風がやってくるゾ」(19話A)っていうやつなんです。なんでしょうね、画の凄さとトリッキーな動きもあるんだけど、大塚さんの作画ってそれだけでなく、執拗にこだわって描いてる部分があるんですよね(笑)。それが独特な感じになっているんだと思います。それから、普通あの年齢になると……
── もうちょっと枯れてきますよね。
湯浅 だけど、大塚さんはずーっと変わんないんですよね。逆にどんどんレベルアップしていく。シリーズを観続けてる人なら、大塚さんの具合が分かると思うんですよ。画がどんどん崩れていって、ある頂点まで来ると、その後でまた普通に戻ったりして。周りから「似せてくれ」と言われるのかもしれないですけど。で、また崩れていく。TVを観てて「あ、だんだん来てるぞ〜」っていうのが分かる(笑)。
── 我が道を行っていますよね。
湯浅 大塚さんのキャラクターで、代表作みたいなのを観てみたいですけどね。『フクちゃん』が代表作になるのかな。それもあまり知られていない感じが……。
── そうですね。あるいは『オヨネコぶーにゃん』か、原恵一さんがCDだった頃のTV『ドラえもん』か。
湯浅 亜細亜堂に山田(みちしろ)さんという、うまい人がいるんですけど、やっぱり「大塚さんに影響された」みたいな事を言っていました。そういえば最近、アニメーターの伊東伸高君が「大塚正実さんの作画を初めて観た」と言うから、ちょっとびっくりしたんですよ。「こんな人がいたんだ!」って発見したみたいな事を言ってたんで。
── ああ〜、もう、叱ってやってください!
湯浅 (笑)。「なんで知らないんだ!」と思いました。だから、番外ですけど、大塚正実さんの名前を入れました。
── ずっとシンエイのアニメ観てれば覚えますよね。
湯浅 でも逆にシンエイのアニメ観てないと分かんなかったりするというのが(笑)。『迷宮物語』の福島(敦子)さんとかも入れたかったですけど、でも、みんながすでに言ってますから。
── ベスト20に、なかむらたかしさんが入ってないのが意外でした。
湯浅 あ、それも基本だからと思って外したんです(笑)。
── もし、あえて入れるとしたらどれですか。
湯浅 やっぱり(『Gライタン』の)「大魔神の涙」(41話)ですけどね。アニメ雑誌に「世忘れ村の怪人」(12話)が凄い! みたいな事が書いてあって、それを見てから、毎週なかむらさんの名前が出るのを待ってたら、やったのが「大魔神の涙」だったんですよ。前も言ったけど、金田さんとは違う、粘りのある動きに驚いたんです。岩がこう、ウン・ニャッ! ウン・ニャッ! て持ち上がるところを観て「あ、これがなかむらたかしなんだな」と思ったのが、僕の最初の認識でしたね。TVであれだけ動かしてるのが凄かった。今観ると、当時ほどの衝撃はないですけどね。
── 意外と、ちゃんとコストパフォーマンスを考えていて、凄く動かすところと普通に動かすところを混ぜているんですよね。当時は全カット1コマで動いてるような気がして(笑)。
湯浅 そうそう、なんかフルアニメみたいでしたよね。特に「大魔神の涙」は枚数も多かったのかな。「標的!マンナッカー」(48話)とかは、そんなに枚数いってない感じだけど。
── あれはAパートの原画が別の人でしょ、確か。
湯浅 ああそうか。なかむらさんはやっぱり、手ですよね。手が巧く描いてあって、それが凄く印象的で。「手が描けるとうまいのかなあ」と思って、僕も勉強したりしました。高校の頃に凄い画のうまい友達がいて、そいつがやっぱり「世忘れ村の怪人」の懐中電灯が落ちるシーンを観て「凄い凄い!」って言ったんです。僕はそれが分かんなかったんですよ。「えー、なんでそんなに凄いって言うんだろう」と思ってたら、あとで森本さんがそのカットで「ビビッと来た」みたいな事を言ってたんで、「あー、俺、分かってないんだあ」って(笑)。
── (笑)。いえいえ。
湯浅 最近そういうのがよくあるんですよね。「ああ、そういうのが分かんないのか、俺」なんて思って、もうちょっと勉強したいなと思ったりするんですよね(笑)。
●2004年6月3日
取材場所/東京・スタジオ雄
取材/小黒祐一郎、でぞれ
構成/小黒祐一郎、でぞれ
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