第13回 劇場版『ルパン三世[マモー編]』
『新ルパン』の放送がスタートし、『ルパン三世』の人気はますます高まり、ついに劇場版が製作される事になる。時期的にはアニメブームと重なっている。だが、微妙にアニメブームとはズレていた気がする。勿論、アニメファンの中にも『ルパン三世』ファンは大勢いたし、広い意味で言えば間違いなく、アニメブームを担ったタイトルだ。だけど、アニメブームと別に『ルパン三世』人気の盛り上がりがあった、という印象だ。あくまでアニメブームは、ティーン向けの作品のブームだ。『旧ルパン』のターゲットはもっと上だし、『新ルパン』の場合はファミリー層だろう。
劇場版『ルパン三世』第1作は、永遠の時間を生き、人類の歴史に介入してきたと嘯く怪人マモーとの対決を描いたSFタッチの大作。公開は1978年12月16日で、通称は『マモー編』。ビデオパッケージ等では『ルパン三世 ルパンVS複製人間(クローン)』とタイトル表記されている。『旧ルパン』スタッフの集結が、この作品のセールスポイントのひとつだった。『新ルパン』が放送中であり、それが人気を博していたにも関わらず、『旧ルパン』的である事を売りにした作品が作られるところが、『ルパン三世』というタイトルの複雑なところだ。
公開の1週間前くらいだったと思うが、都内で有料完成披露試写会が行われた。大きな劇場での早朝上映だ。僕はその行列に並んで『マモー編』を観た。満足だった。完全に『旧ルパン』的だったわけではないのだけれど、『新ルパン』で物足りなく思っていたものの全てがそこにあった。アダルトかつセクシー。『新ルパン』ではルパン、次元、五右ェ門がルパンファミリーとして仲間になっていたが、『マモー編』では人間関係が少しドライで、仲間割れも描かれた。不二子はきちんとヒロインだったし、銭形も必死にルパンを追う執念の人。過度な馴れ合いはしなかった。それぞれに見せ場があるし、名台詞が多いのもいい。中でも、次元の「長ぇ事、モンローとハンフリー・ボガードのファンだったが、今日限りだ!!」がいい。その後、何度も使われる五右ェ門の「またつまらんものを斬ったか」もこの映画から。ルパンなら、やっぱり「俺は、夢、盗まれたからな。取り返しに行かにゃあ」と「……実際、クラシックだよ。お前ってやつは」になるか(このセリフについては前に書いた。「アニメ様の七転八倒」21回参照)。敵であるマモーも、ルパンが全力でぶつかるのに相応しい相手だったし、物語のスケールが無闇に大きいのも嬉しかった。『旧ルパン』でもタイムマシンが出てきたくらいだから、クローン人間というモチーフにも違和感はなかった。作画に関しては、グラフィックな感じが格好よかったし、大型トレーラーとのカーチェイスにも満足した。完成披露試写会では、大型トレーラーにはじき飛ばされたルパン達の車が、ガードレールを片輪走行して道路に戻るアクションで、拍手が起こったと記憶している。ちなみに、カーチェイスの作画担当は青木悠三だ。
『マモー編』は、別々だったアニメブームと『ルパン三世』人気がクロスした作品だったと思う。パワーのある作品だったし、全体にお祭り気分があったと思う。エンディングは三波春夫の「ルパン音頭」。歌だけ取り出すと、とてもルパンの歌とは思えないが、あの映画の最後を飾るのには、不思議に合っていたと思う。
完成披露試写会の帰りに、友達と感想を言いながら歩いていたら、駅前で大学生くらいのお兄さんに「ねえ、君達。『ルパン三世』を語り合わないかい」と声をかけられた。僕らは知らない人にいきなり声をかけられたのにビビって、辞退してしまった。あのお兄さんも『マモー編』に興奮して、誰かと話をしたかったのだろう。今思うと申しわけない事をした。
第14回へつづく
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(08.11.20)