アニメ様365日[小黒祐一郎]

第61回 『ずっこけナイト ドンデラマンチャ』

 この原稿を書くために久しぶりに「ドンはカウボーイ」を観ようとして、ビデオテープを引っ張り出した。8年程前にCSで放送があった際に、DVテープで録画したのだ。何故DVテープかについて説明すると長くなるので端折るが、8年くらい前の僕は、DVデッキを録画のメインにしていたのだ。久しぶりに据え置きのDVデッキに電源を入れて再生しようとしたら、再生できない。それ以前にデッキがテープを飲み込まないで、吐き出してしまう。テープの問題か、デッキの問題か分からないが、とりあえず再生はできなかった。なんてこったい。
 『ずっこけナイト ドンデラマンチャ』は1980年4月15日に放送がスタートしたTVアニメ。全23回で、製作としては東京12チャンネル、葦プロダクション、国際映画社がクレジットされている。セルバンテスの「ドン・キホーテ」を下敷きにしたキャグアニメであり、主人公はドルシネア姫という女性を捜し求めているラ・マンチャの騎士ドン・キホーテ。頭のネジが緩んでいて、さらに直情径行の人物だ。そして、彼が恋い焦がれているドルシネアは、本当はお姫さまではなく、盗賊の娘。毎回、ドルシネアは父親のために、ドン・キホーテをだまして悪事に利用しようとする。シリーズを通じてみると、決して出来がいい作品でもなければ、見どころの多い作品でもないが、基本設定は、面白いものだったと思う。
 アニメマニアがよく話題にするのは、金田伊功が絵コンテと作画を担当した、6話の「ドンはカウボーイ」だ。いや、「ドンはカウボーイ」だけが話題になるという表現の方が適切だろう。それくらい突出したエピソードだった。「作画アニメ」という言葉があるが「ドンはカウボーイ」は、まさしく作画アニメだった。確認した事はないが、ほぼ全カットが金田伊功の原画だろうと思う。しかも、金田自身が絵コンテを描いているのだ。
 作画だけでなく、ストーリーも、ハチャメチャだった。一応、牛飼いの若夫婦(記憶モードで書いているので間違っている可能性がある。結婚を控えたカップルだったかもしれない)の飼っている牛をめぐって、ドン・キホーテと悪党カポネ一味が戦うというストーリーがあるにはあった。おそらく脚本から、相当変わっているのだろう。それまでも金田伊功は、暴走系の作画で多くの傑作をものにしていた。だが、それらは、まともなストーリーを、暴走系の作画で表現していたわけだ。「ドンはカウボーイ」はむしろ逆で、まるで暴走系の作画が先にあって、作画にあわせて物語が作られているかのようなエピソードだった。あるいは、それまで作画だけで表現されていた金田伊功のユニークさを、物語込みで楽しむ事ができた作品というべきか。一番笑ったのは、UFOの仕掛けだった。冒頭でストーリーと関係なく、UFOが飛んでいるのだが、それがクライマックスで物語にリンクする。何故かクライマックスは、牛とカポネの対決になる。牛と対決して殴られたカポネは、ロケットのように下半身から火を噴いて飛んでいく(と、ここまでの粗筋だけでも、わけがわからない)、突然、UFOが現れて、彼にトドメをさすのである。彼は地上に落下して爆発してしまう。その部分はハチャメチャを通り越して、シュールですらあった。また、そんなストーリーを金田作画でやっているのだから、つまらないわけがない。
 作画に関しては、アクションだけでなく、ドルシネアの色っぽさも見どころだった。それから、牛飼いの若夫婦は目の描き方が独特で、これも印象的なキャラクターだった。単純に作画のクオリティについて言うのなら、金田伊功にはもっと密度の高い仕事がある。ただし、物語面も含めて彼のセンスが堪能できるという意味で、「ドンはカウボーイ」は金田伊功の代表作であると思う。
 前回(第60回 スタジオZと金田伊功)で触れたように、僕はこの頃、金田伊功とスタジオZのファンだった。放送開始時には『ドンデラマンチャ』はノーチェックだったのだが、1話放送後に、どうやらスタジオZが参加したらしいと知った。1話を観た友達が「スタジオZが入っていたよ」と教えてくれたのだ(実際にはこの頃、スタジオZは解散していて、すでに金田伊功は、スタジオNo.1の所属だったかのもしれない。また、フリーであった可能性もある)。それで、またスタジオZのメンバーが参加するかもしれないと思い、2話からは毎週観た。この時はビデオデッキを持っていないので、放送時間までに家に帰っていたはずだ。それで6話「ドンはカウボーイ」はリアルタイムで観る事ができた。唖然としたし、笑ったし、興奮した。7話以降も、ほとんどリアルタイムで観ているはずだ。7話以降は、同じスタジオZ出身の長崎重信が参加した回が、2度あっただけで、残念ながら金田伊功の担当回はなかった。
 『ドンデラマンチャ』は映像ソフト化のチャンスに恵まれないタイトルだ。一度、傑作選のかたちで単品ビデオソフトがリリースされているが、僕はそれを目にした事がない。LD化、DVD化はされていないはずだ。僕は本放送から数年後に、テレビ埼玉の放送で「ドンはカウボーイ」を録画した。しかし、そのビデオテープは人に貸したら、返ってこなかった。前述のように、8年ほど前にCSで録画できたのだが、今度はテープが再生できなくなってしまった。次に録画できるのはいつになる事だろうか。心あるビデオメーカーが「ドンはカウボーイ」を単品でDVDかBlu-rayにしてくれたら、こんなに嬉しい事はないのだが。

第62回へつづく

(09.02.06)