アニメ様365日[小黒祐一郎]

第62回 『キャプテン』(TVスペシャル)

 第19回(『100万年地球の旅 バンダーブック』)でも触れたが、アニメブームの頃には、TVスペシャルとして多数の長編アニメが作られた。その中には冴えない出来の作品もあり、仕上がりに関して言えば、玉石混淆な状況だった。『キャプテン』は、そんなTVスペシャルブームが生んだ成果のひとつだった。
 原作は、ちばあきおの同名野球マンガ。主人公は、野球の名門である青葉学院から墨谷二中に転校してきた谷口タカオという少年だ。彼は青葉学院では二軍の補欠だったのだが、墨谷二中の野球部で、青葉のレギュラーだったと勘違いされてしまう。谷口は周囲の期待に応えるために、猛烈な練習を続けていく。やがて、先輩にその努力を買われ、墨谷二中野球部のキャプテンとなるのだった。
 この作品には複数のバージョンが存在する。最初に放映されたのが1980年4月2日。地区予選の決勝で墨谷二中が、強豪青葉学院と試合をし、惜しくも敗退するまでが描かれた。この最初の放映が高視聴率を記録し、さらに視聴者からの反応も大きかった事から、新作を加えたバージョンアップ版が作られ、8月20日に放映された。物語的に言うと、青葉学院が決勝で16人もの選手を投入した事が、アマチュア精神に反すると判断されて、再試合が決定。バージョンアップ版では、その再試合分が追加されていた。さらにバージョンアップ版に、細かな新作シーンを追加した劇場版が、翌年7月15日に公開されている。現在DVD化されているのは、この劇場版だ。1983年には、全26話のTVシリーズも作られている。
 スポーツもののアニメと言えば、主人公がヒーロー的なキャラクターである場合が多いが、『キャプテン』は、平凡な少年達がひたすら頑張っていく様子を描いた作品だった。いまだに原作はちゃんと読んだ事がないのだけど、おそらくは原作に忠実に作られているのだろう。墨谷二中が負けて終わってしまう最初のバージョンも、充分に面白かった。原作を読んでいない事もあって、ハラハラして観た。だから、バージョンアップ版で再試合が描かれると知った時は、ちょっと嬉しかった。墨谷二中野球部の活躍が視聴者の心に響き、その結果として、アニメでも再試合が描かれる事になったわけだ。つまり、主人公達の努力が、再試合につながったわけだ。
 映像的な事を言うと、基本的にはごく普通のTVアニメ的な作りなのだが、野球シーンを丁寧に描いていた。派手な演出でごまかしたりはしていなかった。ちゃんと野球をやっているように見えた。奇を衒わない誠実な作り方が、作品の内容とマッチしていた。制作としてクレジットされているのは日本テレビとエイケンだが、実際のアニメーション制作はマジックバスが担当したようだ。同社の初期を代表する仕事だろうと思う。声に関しても新鮮だった。主人公達にキャスティングされたのは、キャラクターと年齢が近い少年達だったようだ。こなれていない感じの喋り方が、主人公達が平凡な少年である事を強調していた。「普通に面白い原作を、普通に映像化するだけで、こんなに面白くなるのか」と思った作品だった。
 それから、主題歌「君は何かができる」について触れないわけにはいけない。この主題歌が『キャプテン』の爽やかさを強調していた。何かに打ち込む事は素晴らしいのだと、歌い上げる青春賛歌だ。聞き返すと歌詞がやや饒舌な気もするが、劇中で流れている時に、その饒舌さが気にならない。それは、この歌が主人公達への応援歌になっているからだろうか。

第63回へつづく

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(09.02.09)