アニメ様365日[小黒祐一郎]

第111回 『戦闘メカ ザブングル』

 『戦闘メカ ザブングル』は、西部劇を思わせる世界を舞台に、エネルギッシュなキャラクターがぶつかり合う作品だった。登場するロボットは、ガソリンで動くウォーカーマシンと呼ばれるものだ。主人公格のマシンを除けば、土木工事機械のような印象のものであり、それまでのアニメのロボットに比べると、ずっと現実感のあるメカだった。登場人物もドラマも陽性で、全体に明るいタッチだった。シリーズを通じて、身体を使ったアクションが多く、それが笑いに繋がる事が多かった。『伝説巨神イデオン』に続く、富野由悠季&湖川友謙コンビの作品であり、『ガンダム』『イデオン』とは全く傾向が違う作品だった。
 富野監督は同時期に『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』劇場版『伝説巨神イデオン』を手がけており、湖川友謙も劇場版『イデオン』と同時進行だったはずだ。事実、湖川友謙の作監回は少ない。演出や作画に関して、大きな粗があるシリーズではなかったが、『めぐりあい宇宙編』や劇場版『イデオン』と同時進行でなければ、もっと違った感じのフィルムになったのだろうな、とは思う。放映されたのは、1982年2月6日から1983年1月29日。
 「パターン破り」が作品の売りになるくらい、それまでのロボットアニメの定番を外した作品だった。まず、主人公のジロン・アモスが、まんじゅうのような面相で、決して二枚目とは言えぬ男であるという事。彼は、劇中でも「土まんじゅう」と悪口を言われている。主役メカのザブングルは、1話から同じものが2機登場。しかも、シリーズ中にジロンは、新ウォーカーマシンのウォーカー・ギャリアに乗り換えてしまう。シリーズ中で主役メカが交代したのは、ロボットアニメ史上初だったし、新しい機体に「ザブングル」の名がついていない(つまり、ザブングルGとかでない)のも大胆だった。アイキャッチのバリエーションが豊富で、様々なキャラクターが登場したのも、当時としては画期的だった。
 惑星ゾラと呼ばれる星では、イノセントと呼ばれる支配階級と、シビリアンと呼ばれる人々が暮らしていた。シビリアンには「3日限りの掟」という決まりがあり、自分のものを盗まれても、肉親を殺されても、3日経ったら忘れなくてはいけなかった。しかし、その世界にあって「3日限りの掟」に従わず、自分のこだわりを貫いて生きる男がいた。それが主人公のジロン・アモスである。と、物語の発端からして格好よかった。ジロン・アモスとは「持論を持つ」。つまり、自分の考えを持って生きるという意味のネーミングではないかと、本放送の頃から思っていた。猪突猛進のジロンの活躍は、文化に憧れるお嬢様のエルチ・カーゴや、不良集団サンドラットの女リーダーであるラグ・ウラロをはじめとする大勢の人間を巻き込み、やがて、シビリアンとイノセントの戦いに繋がっていく。
 1話「命をかけて生きてます」がよかった。冒頭のホバギーのアクションも、ジロンの意地の張り方も、ラグやエルチの一癖も二癖もある感じもよかった。ジロンが面識がなかったラグ達を助けた後で、その理由について「親父が女は大事にしろ、って」と言う。つまり、父親に女は大事にするものだと教えられたから、何者か分からないラグを助けたのだ。それを聞いて、サンドラットのブルメはカラカラと笑い、笑った彼をラグが叱りつける。男勝りのラグが、女扱いされて内心嬉しく思った事は、後のシーンのハシャギっぷりで分かる。これがよかった。そういうジロンの無骨なところも、そんなジロンを主人公にしたのも面白いと思った。1話の作画に関しては、ジロンと、サンドラットのダイクが握手するカットが一番好きだった。身体に立体感があって、感心した。
 1話の後半でジロンは、キャリング・カーゴが所有していたザブングルを盗み出すのだが、エルチが操縦するもう1台のザブングルによって、彼の乗ったザブングルは動きを止められてしまう。そして、エルチと従者のファットマンは、ジロンのザブングルの操縦席に飛び移り、彼を手錠と回し蹴りで倒してしまう。敵の操縦席への突入と身体を使った攻撃で、ロボット同士の戦いの決着がついてしまったのだ。それまでのロボットものでは考えられない事であり、僕は驚いた。その後の展開にもいいところは沢山あったけれど、僕の中だと、1話がベストエピソードだ。
 キャラクターが元気であり、カラッとしているところが、この作品の一番の魅力だったのだろうと思う。『ザブングル』の登場人物には、身体を動かして生きている人間の気持ちよさがあった。女性の裸が出る事も多いのだが、プロポーションのためか、劇中の扱いの問題なのか、健康的に感じられ、まるでいやらしくなかった。また、ジロンをめぐるエルチ、ラグの三角関係はかなりのグダグダぶりで、さらに、エルチとラグにはジロン以外の想い人が複数いた。ジロン自身がウジウジする事も多かったのだが、作品全体の印象はウェットにならなかった。
 メカニックであるコトセット、前述のファットマン、やたらと自己主張が激しい敵役のティンプ・シャローン、エルチに片想いしている小悪党のキッド・ホーラといった、ユニークなサブキャラクターも、本作の見どころだった。ジロン達の家でもあるアイアン・ギアーに、エルチが文化的な活動のために集めた踊り子達が乗り込んでいるのも、可笑しかった。また、忘れるわけにいかないのが、銀河万丈(当時・田中崇)による講談調のナレーションだ。饒舌なだけでなく、悪ノリ気味なところもあり、メインキャラクターに匹敵するくらいの存在感があった。ティンプを演じていたのも銀河万丈であり、ティンプとナレーションの2役が、本作に膨らみを与えていたと思う。
 『ザブングル』が『ザブングル』らしく、そして、面白かったのは、ジロンが親の敵であるティンプを追いかけていたシリーズ前半だろう。後半になると、エルチが捕まって洗脳され、敵に回ってしまう。さらにジロン達が、イノセントに反抗する組織であるソルトと行動をともにするようになり、全体に堅苦しくなっていった。エルチの洗脳は終盤で解けるのだが、最終回では失明してしまう。そのあたりの展開には、ちょっと首をひねった。ああ、やっぱり富野監督は、明るく楽しいだけでは終わらないのだな、と思った。
 終盤の展開については、他にも書きたい事がある。それについては、次回で。

第112回へつづく

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(09.04.21)