第114回 『ザブングル』のドライさ
ここ数日『ザブングル』を観返してみて「ああ、自分はこんなに『ザブングル』が好きだったのか」と思った。出来不出来を別にして、このタイトルが好きだ。エンディングの「乾いた大地」や、挿入歌「HEY YOU」を聴くと、生きる勇気が湧いてくるくらいだ。初見が学生時代であり、繰り返し観たから、思い入れが強いというのもあるのだろう。富野由悠季の監督歴にあっても、特殊なタイトルだと思う。彼らしさもあるのだが、その個性の発揮され方が、他の作品と違っている。
『ザブングル』についての話題は、前回で終わらせるつもりだったが、考えてみたら、まだ書いておきたい事があった。まず、『超時空要塞マクロス』との関係だ。両方とも、同じ年に放映されたロボットアニメで、三角関係がドラマの主軸になっており、しかも、両作品とも「文化」がキーワードになっている。三角関係に関して、主人公の男が煮え切らないのは同様だが、互いに距離をとっていて、気持ちがすれ違う『マクロス』に対して、『ザブングル』では女性が「あたしの事を愛してよ!」とストレートに要求する。作り手の年齢や人生観が反映され、そういった違いになっているのだろう。
「文化」に関しては、『マクロス』では文化の象徴であるミンメイの歌が勝利の鍵となり、文化を知らないゼントラーディ人を倒すという展開になり、『ザブングル』では文化を維持していたイノセントが、野性的なシビリアンに倒される。『マクロス』では「文化」が主人公側にあり、『ザブングル』では敵側にあった。これは単純に作り手の年齢の問題ではないはずだが、とにかく両作品には、全く違った価値観があった。『ザブングル』のキャラクターで、本気で文化にこだわっていたのはエルチだけだが、文化的になれきれない彼女の葛藤は、作品の中で決着がついていなかったはずだ。彼女自身は、シリーズ後半で文化なんかにこだわっている状況でなくなってしまったし、ラス前の49話「決戦! Xポイント」で、ありのまま自分を肯定できた事で、彼女のドラマが一段落したとも解釈できるが、きれいにまとまっていないのが惜しい。
もうひとつ書いておきたいのが、ドライさについてだ。19話「コンドルよ、とべ!」で、エルチが惚れたエル・コンドルが死んでしまった。ラストシーンで、ジロンが泣いているエルチを慰めるのだが、そこが面白い。ジロンは、空を飛んでいくコンドルを見て「ほら、エルチ。エルが、エルが飛んでいく……」と、エルチに言う。ジロンとエルチは抱き合ったまま、コンドルを見つめて、音楽もラストシーンらしく盛り上がるのだが、その場面で、ジロン達の様子を見たラグが「やってられないよ!」と言って怒るのだ。
このシーンは、本放映でも印象に残った。ジロンの言動は、わざとクサく演出されており、彼のあまりにもスカした言動は、視聴者が「それはないだろう」と突っ込みたくなるものだった。その視聴者の気持ちを、ラグが代弁したかたちになっていた。主人公のシリアスな言動を笑えるものとして扱う感覚は、当時はまだ珍しく、新鮮だった。今観ても、そういったドライさは面白い。誰かが死んだ時に、鳥の話をはじめるのはジロンの得意技なのか、41話「カタカムは終った」でもやっている。カタカム・ズシムの葬式で、泣き崩れたラグの肩に手を乗せて「あれを見ろよ。カタカムは大鷲になって、この大空を駆けめぐるんだ」と言う。だが、その後で、シリアスな葬式そのものが、ジロン達が「葬式とはこういうものだろう」と想像してやったお芝居だという事が判明する。「なんちゃってシリアス」だったのだ(しかも、カタカムも死んでおらず、その葬式を遠くから見ている)。
ジロン達の自由闊達な生き方や、作品テーマともリンクしているのだが、『ザブングル』には、そんなふうにアニメやドラマによくあるシリアスさを茶化しているところがあった。また、前々回(第112回 『ザブングル』と悪ノリ)も触れたように、ありがちな物語のパターンをからかうようなところがあった。1980年代中盤に顕著になるだが、この頃、作り手も受け手もシリアスなドラマを「クサい」と言って、バカにする傾向があった。視聴者が物語のワンパターンさを突っ込んで楽しむようになったのも、1980年代前半だったと思う。そういう当時の気分と『ザブングル』はマッチしていた。
第115回へつづく
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(09.04.24)