第117回 『魔境伝説アクロバンチ』
『魔境伝説アクロバンチ』のタイトルで思い出すのは、まずは、金田伊功のオープニングであり、それが進化するオープニングだった事であり、いのまたむつみのキャラクターであり、「悲恋のサバ王宮」だった。最初は作品世界や大きな物語の流れにも興味を持って観ていたが、放映が進んでからは各話のアニメーターの活躍ばかりを気にするようになった。歪なスタンスだったけれど、僕にとっては、そういったスタンスで観るのが向いている作品だった。
考古学者のタツヤ蘭堂は、遥かな古代から存在する大秘宝クワスチカを求めて、5人の子供達と共に、世界中の遺跡や伝説を求める旅をしている。タイトルになっているアクロバンチとは、彼らの家でもある合体ロボットだ。同じくクワスチカを手に入れようとする地底人ゴブリンと戦いながら、蘭堂ファミリーの旅は続く。というのが物語の概略。いのまたむつみが初めてキャラクターデザインを担当した作品であり(クレジットでは影山楙倫と連名。彼女は、主人公側と敵の一部を担当したらしい)、少女マンガ的テイストを取り入れたキャラクターは華があり、魅力があった。ではあるが、いかにも面白くなりそうな物語の設定やキャラクターを、活かしきれなかったという印象だった。なんだか、もったいないなあ、と思っていた。
放映されたのは1982年5月5日から12月24日で、全24話。5月から10月は水曜19時からの放映で、10月から金曜の夕方に移動した。8ヶ月もかけて24回しかやっていないのは、最初の半年間、野球中継で放映が潰れる事が多かったからだろうか。僕は水曜19時にやっていた頃は、多分、全話を観ている。金曜夕方に移ってからは、観たり観なかったりになった。数週ぶりに放映を観て、アクロバンチが量産されているのに驚いたのを覚えている。最終回は、それまでをちゃんと観ていなかったせいか、よく理解できなかった。「あれ、こんなふうに終わっちゃうんだ」と思った。そんなに似ているわけではないのだけど、『伝説巨神イデオン』の最終回みたいだと思った。
オープニングとエンディングは、絵コンテを金田伊功が、作画をスタジオNo.1が担当。特にオープニングは、ロマン溢れる作品コンセプトをかたちにした傑作なのだが、そう思えるようになったのは、放映が始まってしばらく経ってからだっだ。最初の数話は、オープニングもエンディングも、動くべきところが止め絵であったりした未完成版だった。話数が進むうちに少しずつ完成に近づいていった事から、ファンの間では「進化するオープニング」として話題になった。数年前にリリースされたDVD BOXでは、全話のオープニングが完成版に差し替えられていたが、エンディングは当時のものがそのまま収録されており、変わっていく様子を楽しむ事ができる。また、エンディングの歌は「渚にひとり」というタイトルだったが、クレジットで「猪にひとり」と誤植されていたのも、『アクロバンチ』が語られるうえで、よく話題になるエピソードだ。
作画に関しても、かなり凸凹のあるシリーズだった。大半の話数が冴えない出来で、数本だけあった作画のいい回を、僕は楽しんだ。ファンの間で評判がよかったのは、いのまたむつみ自身が作監を担当した5話「大密林コンゴの秘宝」、14話「幻しのバビロン」、それとスタジオNo.1の越智一裕が絵コンテ、演出を(おそらくは作画監督も)担当した11話「悲恋のサバ王宮」の3本だった。他にアクションの見せ場があったエピソードとして、田村英樹、森山ゆうじ達が参加した9話「吼えよグリフォン」、山下将仁のスタジオ・OZがクレジットされている12話「はるかなるエーゲ」等がある。
「悲恋のサバ王宮」はアニメ誌でも特集が組まれており、特に印象に残っている。人気キャラクターであったヒロと、シルビアという謎めいた少女のドラマを主軸にしたエピソードだ。しっとりした話もよかったし、画作りも凝っていた。ヌードや下着姿といったサービスもあった。物語、ビジュアルの両面において、『アクロバンチ』で一番充実した話だったと思う。越智一裕の作画は、キャラクターが丸顔になる事で知られており、この話でもヒロやジュンが、見事に彼流の絵になっていたが、それも含めて楽しめた。この頃の彼の仕事は、味わいのある描線、表情が魅力で、それが堪能できた。
第118回へつづく
(09.04.30)