アニメ様365日[小黒祐一郎]

第130回 『幻魔大戦』続きの続き

 やたらと期待していたし、楽しめるところはたっぷり楽しめた。しかし、満足できないところもあった。だから、僕は『幻魔大戦』という映画に対して、ひどく屈折した想いがある。残念に感じたのは物語やテーマについてだった。中盤にニューヨークでのバトルがあり、サイオニクス戦士が集結する。そこに至るまでの展開に関しては、丈が、姉の三千子と空中デートをするあたりを甘ったるいと思ったくらいで、首を傾げるところはなかった。
 ニューヨークで、バトルはかなりの盛り上がりを見せる。だが、ニューヨークの後が長い。バトルの後、丈は日本に戻って、三千子の死に立ち会う。彼は仲間と別れて、砂漠と化した日本を彷徨う。火事の中から子鹿を助ける展開があり、そこで「子鹿?」と思った。子鹿のデザインが、ディズニー映画にでも出てきそうな可愛らしいものであるのも、違和感があった。その後で、丈が他の動物達と歩いていくのだが、そのシチュエーションはファミリー映画のようだった。鹿や動物達との出逢いは、姉を喪い、超能力を失ってしまった丈が立ち直るきっかけなのだが、僕が『幻魔大戦』というタイトルに求めいてたハードさから、かけ離れたものだった。その後で、丈が超能力者としてレベルアップするたびに、超能力少女のタオが「レッスン1、終了!」などと言う。これは本当に好き嫌いの話になってしまうが、おどけ過ぎていて嫌だった。今となれば、丈の葛藤や成長を描こうとした意図は分かるのだけど、それが分かってから観ても、日本に戻ってからの展開は退屈だ。単純にアクション映画として作るなら、ニューヨークのバトルの後で、ちょっとドラマがあって、そのまま日本に戻らずに最終決戦に突入しても構わないと思う。
 それから、全体に甘ったるいところがあった。この映画では「愛」というものが何度も語られている。「愛と勇気があれば、誰でもサイオニクサーになれるわ」であり、「幻魔の破壊から地球を護る力は、怒りや憎しみからではなく、仲間達へのこの想いから湧いてくるんだ」であり、「姉さんの残留思念がカフーを滅ぼすときに、強く感じたよ。愛がエネルギーだって事を」である。地球人の愛を体現しているのは三千子であり、その力に支えられた丈を中心としたサイオニクス戦士が、最終決戦で、幻魔の尖兵を倒したというかたちになっている。筋が通ってはいるのだが、説得力があるかというと難しい(雑誌「アニメスタイル」2号の、りんたろう監督インタビューでも、そのあたりの事が話題になった。りん監督は「本当に愛で地球が救えるんだろうか」という事を含めて、今でも引っかかっている点があると語ってくれた)。
 これも非常に個人的な思い込みになるが、前々回(第128回 『幻魔大戦』)でも話題にしたように、僕は『幻魔大戦』に、『ヤマト』『ガンダム』を越える作品を期待していた。それなのに、『ヤマト』的ともいえる「愛が地球を救う物語」であったのにガッカリしたというのもある。幻魔は、全てのものの完全なる破壊を望む存在だ。そういった抽象的な絶対悪を描く映画、それと戦う物語には、哲学的なものなのか、オカルト的なものなのかは分からないけれど、何か新しい思想のようなものがあるのだろうと思っていた。それから、ハルマゲドンというモチーフ、大友克洋のキャラクターから、もっとエキセントリックな内容を期待してた。後に作られる劇場版『AKIRA』くらいのクールさ、過激さを、『幻魔大戦』に求めていたのだろうと思う。
 それでは、この映画について否定的なのかというと、そうでもない。初見時にも満足して劇場を出た。それは、クライマックスにおけるサイオニクス戦士と火焔龍の大決戦が素晴らしかったからだ。あのシーンには、それまでの甘ったるさを忘れさせるくらいの破壊力があった。りん監督の言葉を借りれば「演出家の腕力」でまとめた映画という事になるのだろう。
 単に映像に魅力があり、盛り上がるというだけではない。それまでリアルな世界で展開してきた物語が、あそで「リアルな大友キャラVSメタモルフォーゼし続ける金田作画」の戦いになる。「具象VS抽象」になったのだ。作品世界そのものがメタモルフォーゼしていくようであり、それまで築き上げてきた世界観が崩れ去っていく気持ちよさがあった。初見時に、僕はあのシーンで「ハルマゲドンとはこれか!」と納得したはずだ。善と悪の最終決戦なんて、映像で描けるものではないと思うところだが、それを『幻魔大戦』は世界観の崩壊と、圧倒的なエネルギーで描ききった。さらに付け加えるなら、ストーリー的にはサイオニクス戦士が、火焔龍を倒したかたちになっているが、とどめの技として超能力絶対零度を使うところで、丈が、幻魔のような恐ろしい形相になる。身体が一瞬、左右に分断され、彼もメタモルフォーゼを始めたように見える。それがよかった。「愛がエネルギーだと言っても、やっぱり人間の中には、幻魔のような魔的なものがあるのだ」という事が表現されている気がして、痛快に思った。

第131回へつづく

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発売元/角川映画
販売元/角川エンタテインメント
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(09.05.22)