アニメ様365日[小黒祐一郎]

第139回 劇場版『ゴルゴ13』

 1983年における出崎統監督の新作は、さいとう・たかをの超ロングセラー『ゴルゴ13』の映像化だった。今春まで、同じ原作のTVシリーズが放映されていたが、こちらは劇場版だ。作画監督は当然、杉野昭夫。公開日は1983年5月28日だ。残念な事に、僕はこの作品を公開時に観ていない。多分、題材がアダルト過ぎて、19歳の僕は、食指が動かなかったのだろう。この作品はCGが使われた事がセールスポイントとなっていた。国内作品としては、3DCGを本編で使った最初期のものだ。僕は劇場で本編は観なかったが、この映画の拳銃やガイコツのCGは、観た記憶がある。多分、予告編を観たのだろう。拳銃やガイコツのCGの印象は、そんなに悪いものではなかった。
 僕が劇場版『ゴルゴ13』を観たのは、ビデオ化されてからだ。LDを買って観たのが最初だったかもしれない。石油王のレオナルド・ドーソンが、ゴルゴに息子を殺され、彼に復讐を誓う。彼はFBI、CIA、ペンタゴンまで動かして、ゴルゴを抹殺しようとする。物語はしっかりと構築されており、こってりしているのもいい。アダルトだし、ハードだ。原作のゴルゴと違うという意見もあるようだが、僕は気にならなかった。殺し屋ビッグ・スネークのキャラクターもよかったし、妻子を人質にとられた情報屋とゴルゴのエピソードも印象的だ。杉野昭夫の作画は、より緻密になっており、この映画で、彼のスタイルが完成したのだろうと思う。作画の主力はあんなぷる。劇場版『ゴルゴ13』は同スタジオの代表作にもなっている。
 出崎監督は、疑問を追いかけながら作品を作っている場合が多いような気がする。『あしたのジョー2』では「矢吹丈とはどこから来て、どこに行くのか?」と考えながら、『エースをねらえ!』シリーズでは「どうして宗方は、ひろみを選んだのか」について考えながら作った。『宝島』での疑問は「人間にとって、本当に大事な宝物ってなんだろう」だ。『ゴルゴ13』では「ゴルゴ13という男は何者なのだろうか」だったのだろう。その答えがドーソンの最期のセリフで語られている。全体にドライな作りであるためか、好き嫌いでいうと、僕にとって、出崎作品の中ではあまり好きな作品ではない。ただ、よくできた作品であるのは間違いない。問題はCGだった。
 CGが使われたのは、オープニングとクライマックス直前だ。オープニングのCGは、拳銃やガイコツ。これはイメージ的な扱いで、アニメのキャラクターとは絡まない。さっきも言ったように、それらのCGは、そんなには悪くない。ただ、パイオニアLDCから出ていたDVDにはコメンタリーが収録されており、山本又一朗プロデューサーの発言によれば、オープニングも全てがCGだったわけではなく、一部、実写を使っているのだそうだ(現在、東宝からリリースされているDVDにはコメンタリーがない)。
 クライマックス直前のCGは、ビル街を飛ぶヘリコプターだ。このCGが、実に残念な出来だった。初めて観た時は、本当に驚いた。板垣君はコラムで、当時の技術を考えれば「むしろ、よくやってますよ!」と言っている。いや、確かに技術史的にはそうなのかもしれないが、この部分が、映画の大きな傷になっている。初めて観た時、このパートのインパクトが物凄すぎて、物語の印象が消し飛んでしまったくらいだ。
 何しろ1983年のCGだ。それに対して、出崎&杉野コンビのアニメだ。そのギャップが凄まじかった。手描きの部分は細部まで描き込まれ、陰影もつけられている。現在の目で見ても、立派な出来だ。それに対してCGの部分は、モデリングも大味で、質感もペラペラ。手描きアニメの中に、CGのカットが挿入されるかたちだったが、両者が同じ映画のカットに見えない。TVゲームの悪口みたいになってしまって申し訳ないが、実写映画の中に、いきなりTVゲームの映像が挿入されているように見えた。CGが使われている箇所もよくない。物語が盛り上がって、これがCGをセールスポイントにした映画である事を忘れた頃に、ヘリコプターとビルが出てくる。そのタイミングのせいで、ガッカリ感が強まっている。
 出崎&杉野コンビは、この後、海外との合作作品を手がけるようになり、TVシリーズの再編集を除くと、1988年の『エースをねらえ!2』まで、国内での新作はない。ファンにとっては、あまりに長い5年間だった。

第140回へつづく

(09.06.04)