アニメ様365日[小黒祐一郎]

第173回 『CAT'S EYE』(第1期)

 『CAT'S EYE』は、北条司の同名人気マンガを映像化したTVシリーズで、放映されたのは1983年7月11日から1984年3月26日。犬鳴署の刑事である内海俊夫は、怪盗キャッツ・アイを捕まえるために、日々、走り回っている。キャッツ・アイは、レオタードを着込んだ正体不明の女泥棒で、実はその正体は、俊夫の高校時代からの恋人である来生瞳、そして、彼女の姉の泪、妹の愛の3人だった。本作はアクションものであり、ラブコメディ。『ルパン三世』に始まり、現在の『名探偵コナン』まで続く、東京ムービーのクライム路線の1本でもある。杏里が歌った主題歌が大ヒットしたのも、本作を語るうえで忘れてはいけない話題のひとつ。また、オープニングとエンディングは、三姉妹がレオタード姿で踊るというもので、そのセクシーさと凝った映像が、本作のイメージを形づくっていると思う(本編は、オープニングやエンディングほどはセクシーではない)。
 チーフディレクターは竹内啓雄、キャラクターデザインは杉野昭夫、作画監督は平山智(塚田信子と連名の話数もあり)。竹内は、出崎統のあんなぷるに所属していた演出家で、前年の『スペースコブラ』では出崎と連名でチーフディレクターを務めている。あんなぷるに『CAT'S EYE』の話がきた時、出崎が、竹内を独り立ちさせるために、1人でチーフディレクターをやるように勧めたのだそうだ。そういった経緯で作られた『CAT'S EYE』には、出崎自身が参加していないにも関わらず、ところどころに出崎風の演出、出崎作品調の作画が見られる。出崎ファンとしては、不思議な印象の作品だった。
 話の作りは、ちょっと大人っぽかった。この作品がターゲットにしたのは、アニメファンではなくて、レオタード姿を喜ぶお兄ちゃん、お父さんを含めたファミリー層だったのだろう。僕自身も、アニメというよりは、TVドラマを楽しむような感覚で見ていた。キャッツ・アイは、怪盗のくせに顔を隠さない。監視カメラにでも撮られたら、一発で正体がバレそうなものだが、なぜかバレない。俊夫に正体がバレそうになる状況が数え切れないくらいあったが、なんとか切り抜けていた。バレそうになるのをハラハラを楽しむ番組でもあった。そんなに正体を隠したいなら、仮面でもつければいいのにと思うが、そういう突っ込みを入れるのは野暮というものだ。バカバカしいなあと思いながらも、そういうお約束を楽しんでいた。
 本作のアイキャッチのために、毎回、平山智がイラストを描きおろしていた。イラストは、本編では見られない、ファッショナブルな衣装を着た三姉妹で、毎週どんなイラストなのかが楽しみだった。キャラクターでいうと、三姉妹もいいのだが、僕は警察側の課長、俊夫、浅谷の凸凹トリオの方がお気に入りだった。声優はそれぞれ内海賢二、安原義人、榊原良子。内海賢二のオーバーな芝居も、安原義人の暴走気味の演技も楽しかった。安原義人の俊夫は、人間味が溢れていてよかった。彼の持ち役の中で、これが一番好きだ。俊夫は浅谷の事を「あさったに君」と呼ぶのだけど、その言い方に、俊夫の人柄が感じられた。浅谷はマジメ過ぎる三枚目という役どころで、榊原良子がドンピシャリ。「この人に話を聞きたい」で彼女に取材した時、「榊原さんの仕事だと、浅谷が好きです」と言おうと思っていたのだが、話題がマジメな演技論に流れてしまって、その話ができなかった。
 『CAT'S EYE』は仕事で観返す機会が多いのだが、意外と古びてない。この作品は画作りも、話も落ちついている。派手さを狙わず、丁寧に作ったのがよかったのだろう。ただ、愛のセリフまわしに関しては、ちょっと時代を感じる。いかにも1980年代前半の女の子という感じなのだ。本放映時には、各話の演出や作画をあまり意識しないで観ていたのだが、観返すと、凝った事をやっているな、と思う。
 それから『CAT'S EYE』と言えば、忘れてはいけないのがオープニングの撮影ミスだ。瞳が腕を組んで立ったカットで、タイトルロゴが出るのだが、ロゴが出た直後に、一瞬だけ瞳がハゲになる。身体と風に流れている髪を別セルにしており、撮影時に、髪セルを載せ忘れてシャッターを切ってしまったのだろう。単純ミスなのだが、ここぞという決めのところなので、やたらと気になっていた。

第174回へつづく

CAT'S EYE DVD-BOX Season 1

カラー/900分/9枚組/4:3/
価格/35910円(税込)
発売元/デジタルサイト
販売元/ハピネット・ピクチャーズ
[Amazon]

(09.07.23)