アニメ様365日[小黒祐一郎]

第180回 『風の谷のナウシカ』続きの続き

 『風の谷のナウシカ』は映像面についても、色々と感じるところがあった。作画監督が小松原一男であり、原画に金田伊功、なかむらたかしが入っているのは、公開前から知っていた。僕はそれを楽しみにしていたし、事実、劇場では金田伊功や、なかむらたかしの担当パートを楽しんだ。宮崎駿なり、小松原一男なりの手は入っているのだろうが、金田担当パートは彼ならではのド派手なものになっていたし、なかむらたかし担当パートは空間の捉え方、タイミング等に彼の個性が色濃く出ていた。他にも原画マンの個性が出ていると思しきところもあり、宮崎が監督を務めた劇場作品で、作画が一番バラついているのが『風の谷のナウシカ』であるのは間違いないだろう。アニメとしてエネルギーがあるとも言えるし、作りが粗いという見方もあるだろう。どちらかと言えば僕は、エネルギッシュだと肯定したい。
 これはあくまで僕の想像だが、原画マンの個性が出ているのは、小松原一男のスタイルによるところが大きいのではないか。作画監督には絵柄をなるべく統一しようとするタイプと、多少絵柄がバラついてもいいから原画の味を活かそうとするタイプがいる。彼の代表作である劇場版『銀河鉄道999』を観れば分かるように、明らかに小松原一男は後者のタイプだ。宮崎監督も、それまでに会った事のないタイプのアニメーターを相手にして、その原画の個性を活かそうとしたのかもしれないが、そうだったとしても残りすぎている。例えば小松原が独自の判断で、原画の個性を残すような事があったのではないだろうか。
 それから、小松原一男の作画監督作業に関しては、ロマンアルバムのインタビューで本人が語っているが、彼が修正を入れるまえに、宮崎監督が原画にラフな修正を入れていた。彼の仕事は、それを基に修正をする作監補佐のような作業だったそうだ。ナウシカの作画に関しては、小松原の清潔感がありつつ色気のある描線がプラスアルファをしているのだろうが、作品全体として見ると、絵柄に関しても、いまひとつ彼の個性が活きていないと感じた。具体的にどこがどうというわけではなく、微妙なラインでの話だ。宮崎の画と小松原の画は、あまり相性がよくなかったのかもしれない。
 作画以外については、たとえばハーモニーで描いた王蟲のパーツをゴムで止め、伸縮させて撮影した「ゴムマルチ」は面白かったし、腐海の描写は新鮮だった。要所要所のハーモニーもよかった。ではあるが「あれ? ここのセルの色、これでいいの?」とか、「ここは背景描きにした方がいいんじゃないの?」といった疑問を何度も感じた。つまり、期待したほどイケてるアニメではなかった。細かい事で文句を言っているようだが、そういった細部にこだわるのが宮崎作品だと思っていたので気になった。
 内容に関しても、映像に関しても、いいところはあるのだけれど、同時に首をひねるところのある作品だった。映像については、宮崎監督にとってトップクラフトが初めての現場であったからかもしれないし、それまでに手がけた事のない異世界描写に挑戦した作品だったからかもしれない。いずれにしても、僕にとって、ちょっとカオスな印象の作品だ。

第181回へつづく

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(09.08.03)