アニメ様365日[小黒祐一郎]

第181回 『風の谷のナウシカ』続きの続きの続き

 僕が『風の谷のナウシカ』を再見したのは、ロードショーの数年後だった。『となりのトトロ』公開時に、「アニメージュ」で『ひみつのアッコちゃん』等のアニメーター時代の仕事を含めた、過去の宮崎駿の作品をまとめて紹介する記事を担当する事になり、ビデオで『風の谷のナウシカ』を観返したのだ。久しぶりに観た『風の谷のナウシカ』は、記憶よりもずっと緊張感があり、殺伐とした作品だった。何かに似ているな、と感じて、しばらく考えて思い当たった。『宇宙戦艦ヤマト』に似ていたのだ。特に緊張感が『ヤマト』に近い。そう言えばラストの復活劇も、公開時に『ヤマト』みたいだと思った。もっと言えば、終末的な世界観も『ヤマト』とリンクする。
 この映画について、「『ヤマト』のようだ」という感想は、今まで目にした事がない。ひょっとしたら、日本でそんな事を思ったのは自分だけかもしれない。勿論、宮崎駿が『ヤマト』を意識して、『風の谷のナウシカ』を作ったと思っているわけではない。宮崎のミリタリー好きは有名だが、彼はアニメで好戦的なものを作る事については否定的であったはずで、『ヤマト』を意識する事はあっても、わざわざ似たものを作る事はないだろう。
 作り手がどんな意識であったかは置いておいて、とにかく僕は『風の谷のナウシカ』を『ヤマト』的だと感じた。作画監督の小松原一男、原画の金田伊功、鍋島修、なかむらたかしといった顔ぶれも、『ヤマト』シリーズ、劇場版『銀河鉄道999』『幻魔大戦』といった、アニメブームの中心となった大作を思わせる(『幻魔大戦』公開時、すでにアニメブームは終わっていたかもしれないが)。特に、金田伊功担当パートを観ると「まるで『ヤマト』か『幻魔大戦』だなあ」と思う。そのパートは、宮崎アニメと『ヤマト』がクロスしているようにみえる。
 いきなり違った話になるが、『風の谷のナウシカ』が公開された1984年は、「作家の時代」が始まった年なのだろうと思う。前にも書いたが、1984年は、1979年に続く「劇場アニメの当たり年」でもある。1979年に発表された劇場版『銀河鉄道999』、劇場版『エースをねらえ!』『ルパン三世 カリオストロの城』といった作品は、あるいはTV作品だが『機動戦士ガンダム』は、いずれも、TVアニメ初期から活躍してきたクリエイターの集大成とも言える作品だ。
 それに対して、1984年を代表するタイトルには、より作家性を強めた作品となったという印象がある。『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』は押井監督ならではのモチーフ、アイデアで作られた作品だったし、『風の谷のナウシカ』は宮崎監督の問題意識や、彼が創りだした異世界を舞台にした作品だ。宇宙戦争を深刻なものとせず、恋愛と等価に扱った『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は、新世代クリエイターの時代が到来した事を告げていた。
 『風の谷のナウシカ』が公開された1984年に、すでにアニメブームは終わっていた。アニメブームは終わっていたし、『風の谷のナウシカ』は「作家の時代」を代表する1本だ。であるにも関わらず、この映画は、内容に関しても、映像に関しても、不思議とアニメブーム期の作品を思わせるところがあった。ブーム期には、ブームと別のところにいた宮崎駿が、ちょっと遅れて、ブームとクロスした作品だと思っている。

第182回へつづく

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(09.08.04)