アニメ様365日[小黒祐一郎]

第200回 『ルパン三世 PARTIII』

 『とんがり帽子のメモル』と同じ1984年3月3日に始まったのが、『ルパン三世 PARTIII』だった。『ルパン三世』のTV第3シリーズだ。『メモル』が朝日放送系で『PARTIII』がよみうりテレビ系であり、いずれも土曜19時からの放映だった。友達が『PARTIII』を録画するというので、僕は『メモル』を録る事にした。リアルタイムで『PARTIII』を観て、『メモル』は録画して後で観ていた。『メモル』の放映時間が移動してからは『PARTIII』も録画できるようになった。
 第1シリーズの『旧ルパン』と第2シリーズの『新ルパン』でもスタッフの顔ぶれは変わっていたが、『新ルパン』と『PARTIII』でもスタッフの多くが入れ替わっている。ただし、メインキャストと音楽家、選曲等は『新ルパン』から引き続きのメンバーだ。キャラクターデザインも大幅に変わり、ルパンのジャケットの色は蛍光ピンクになった。
 TV局がよみうりテレビであった事が、『PARTIII』の方向性について大きな影響を及ぼしている。以下、前に取材でうかがった話を元にして記述する。大ヒットを飛ばした『新ルパン』は、日本テレビの作品だったが、アニメ『ルパン三世』の元祖である『旧ルパン』はよみうりテレビの作品だった。よみうりテレビ側は、自分達がアニメ『ルパン三世』を始めた事にプライドを持っており、『PARTIII』を『新ルパン』的に作りたくなかったらしい。
 『PARTIII』の制作初期段階で、よみうりテレビから東京ムービー新社に対して「『新ルパン』的にしないでほしい」というオーダーが出たのそうだ。具体的には、内容に関しては『旧ルパン』に近いハードな内容にする、テーマ曲も『新ルパン』のものは使わない、という事であったようだ。これは当時のスタッフから聞いた話だが、東京ムービー新社側が「だったら、ルパンの背広も青に戻すんですか?」と訊ねたところ、よみうりテレビ側は「青にする必要はない。だが、赤はやめてくれ」と答えたそうだ。ルパンのジャケットの色をピンクに決めたのは、本作では作画監修の役職で参加し、作画監督のみならず、演出、絵コンテまで手がけた青木悠三だった。
 放映が始まった『PARTIII』は、ドラマのテイストについては『新ルパン』ほどおどけた感じでもなく、かと言って『旧ルパン』ほどハードにもならず、その中間の作品となった。具体的にエピソード数をかぞえたわけではないが、アメリカンな話が多い印象で、キャラクターに関しては『旧ルパン』『新ルパン』に比べて、ルパン達がややアダルトになっていたと思う。『新ルパン』によくあった現実離れした奇人怪人が出る話も、マンガじみた大仕掛けもなく、『新ルパン』の軽さが嫌だったファンとしては、安心して観られるシリーズだったはずだ。
 総作画監督制をとっていない事もあり、各話の作画スタッフの個性が炸裂していた。わざと各作画スタッフの個性が際立つように作っていたのではないかと思うくらいだ。青木悠三を除けば、印象的なのは、ユニークな絵柄の柳野龍男作監と、動かしまくっていた尾鷲英俊作監だ。『メモル』で1話も担当した尾鷲英俊はオープロダクションの所属で、原画メンバーも充実。『PARTIII』のオープロ回は、アクションの見せ場が多く、びっくりするくらいよく動いている。ちなみに、絵コンテでクレジットされている甲賀電とは、尾鷲英俊のペンネーム。彼は「宇宙刑事シャリバン」のファンであり、「シャリバン」の主人公の伊賀電をもじって、甲賀電にしたのだ。スタジオNo.1、スタジオZ5系列のスタッフの参加もあり、パンチの効いたエピソードを残している。特に山下将仁の目立ち方は、凄まじいものだった。尾鷲英俊以外でも、絵コンテや演出を、アニメーターが担当する事が多かった。全体に「アニメーターが中心になって作った作品」という印象がある。
 見応えのあるエピソードは少なくない。僕が一番好きなのは、30話「カクテルの名は復讐(リベンジ)」(脚本/平野靖士、絵コンテ・演出/曽我部孝、作画監督/青木悠三、柳野龍男)だ。Aパートの大半が、ロンドンのパブ店内のみで進むという異色編。ルパンはバーテンダーとして登場し、いわくありそうな女性客の相手をする。ルパン達はシェイクスピア芝居の役者を気取って、彼女の復讐のために一芝居を打つのだった。静かな雰囲気と、ルパンの軽妙な会話が魅力のエピソードだ。一番インパクトがあったのは、13話「悪のり変装曲」(脚本/鈴木清順、絵コンテ・演出/吉田しげつぐ、作画監督/田中平八郎、高田三郎)。『新ルパン』で監修を務めていた鈴木清順が、たった1本だけ脚本を書いたのが、このエピソード。怪作中の怪作だ。「悪のり変装曲」については次回改めて触れたい。
 『PARTIII』は一般的な視聴者にとっては、『ルパン三世』としてはマイナーなシリーズであり、『ルパン三世』ファンの間でも、人気がいまひとつだ。理由は、キャラクターの外見がそれまでのシリーズと違いすぎたため。それから、作品に華がなかったためだろう。僕はどうだったかと言えば、この頃すでに、「『ルパン三世』という作品は、作り手が変われば、作品の方向性がまるっきり変わってしまう」という事が分かっていた。放映が始まった頃は、ちょっと馴染めないでいたが、途中からは毎週楽しんで観ていた。友達が「『PARTIII』はいまいちだ」と言うと、「いいところもあるぞ」と言って熱弁を振るった。

第201回へつづく

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(09.08.31)