アニメ様365日[小黒祐一郎]

第208回 『夢世界 ホッジポッジ《仮題》』

 『夢世界 ホッジポッジ』は、『魔法の天使クリィミーマミ』の後番組として企画されていたタイトルだ。実現しなかった企画だが、パイロットフィルムが制作されており、1984年頃に、僕はそのフィルムを観る機会があった。その時、すでに『クリィミーマミ』の後番組である『魔法の妖精ペルシャ』の放映は随分進んでいた。パイロットフィルムを誰に観せてもらったのかは覚えていないが、多分、業界の方だろう。それを観て「へえ、こんな企画が進んでいたのか」と驚いた。
 この企画は当時のアニメ誌でも紹介される事はなく、機会があったら、このパイロットフィルムを世に出したいと思った。数年後、僕が編集スタッフとして参加したVHD「アニメビジョン」には、レアな短編フィルムを丸ごと収録するコーナーがあり、摩砂雪が作画した合作TVシリーズ『サンダーキャッツ』のオープニング、庵野秀明が監督したゲーム『夢幻戦士ヴァリス』のプロモーションアニメ等を取り上げていた。そのコーナーで『夢世界 ホッジポッジ』パイロットフィルムを収録できないかと、制作したスタジオぴえろ(現・ぴえろ)に交渉したが、実現しなかった。
 1990年代末に、バンダイビジュアルからスタジオぴえろの魔法少女シリーズのLD BOXがリリースされた。僕はその商品には関わっていないが、仕事でお付き合いがあったバンダイの担当に『夢世界 ホッジポッジ』を映像特典で付けてほしいとお願いした。僕の要望だけで実現したわけではないのかもしれないが、『ペルシャ』LD BOXに『夢世界 ホッジポッジ』が収録された。このフィルムが公式にファンの目に触れたのは『ペルシャ』LD BOXが初めてだったはずだ。僕としては10年数年ごしの願いがかなって嬉しかった。DVDだと『ペルシャ』DVD BOX 2に同じものが収録されている。
 話は前後するが『夢世界 ホッジポッジ』パイロットフィルムの内容について説明しよう。これは3分ほどの短いフィルムで、『クリィミーマミ』スタッフによって作られたものだ。劇中で表示されるタイトルには「仮題」の文字が付いており『夢世界 ホッジポッジ《仮題》』となっている。主人公は、ナオミとミナエという2人の少女(名前の正式な表記は僕にはわからない。以下同)。2人はアイスクリーム屋の娘であり、片方がボーイッシュで、もう片方が大人しい女の子。ナオミとミナエはマンション裏に広がる雑木林で旧い石の祠を見つける。祠は不思議な世界の入り口であり、その世界には小さな2匹のカッパがいて、謎の大きな卵があった。2人は夢の扉を開く鍵を授かり、それを使って夢の扉を開いていく事になった。いくつもの夢の扉を開く事によって、いつか大きな卵が孵るのだ。最初の扉を開けてみたところ、2人はそれぞれヒロイックファンタジーの女戦士、お姫さまの姿になって、街中に出現。それを近所の悪ガキであるクリモトリョウに目撃されるまでが、パイロットフィルムの内容だ。なお、ここで登場したカッパのキャラクターのデザインは、そののまま『ペルシャ』のレギュラーキャラであるゲラゲラ、プリプリ、メソメソに流用されている。パイロットフィルムでは2匹だったカッパが、『ペルシャ』で3匹になった。
 『ペルシャ』のDVD BOX 1解説書によれば、パイロットフィルムのスタッフは、絵コンテ・演出が小林治、作画監督が河内日出夫、キャラクターデザインが高田明美。1984年頃の初見時に、伊藤和典や望月智充もこの作品に関わっていると聞いた覚えがあるのだが、昔の話であるし、噂話として耳にした情報なのでアテにならない。噂話といえば、当時『夢世界 ホッジポッジ』のTVシリーズが実現しなかったのは『クリィミーマミ』のOVA『永遠のワンスモア』の制作が決まったからだと聞いた。『クリィミーマミ』スタッフは『永遠のワンスモア』にかかりきりになるため、『夢世界 ホッジポッジ』を作れなくなったというのだ。これもあくまで噂話であり、他にも理由があったのかもしれない。そのあたりは機会があったら確認したいと思っている。
 僕が『夢世界 ホッジポッジ』のパイロットフィルムに興味を持ったのは、『クリィミーマミ』の正統後継作品になったかもしれないと思ったからだ。高田明美のキャラクターは『クリィミーマミ』と同じラインだ。パイロットフィルムだけでは、どのような物語が想定されていたのかは分からないが、『クリィミーマミ』と同じように、リアルな日常を舞台にしてファンタジー的な事件を扱う物語だったのかもしれない。芸能界ものの要素がないので『クリィミーマミ』よりも、もっとファンタジー寄りの作品になったのかもしれない。
 『クリィミーマミ』の続編である『永遠のワンスモア』を観る事ができたのは嬉しかったが、『永遠のワンスモア』を作ってしまったがために、同チームによる新TVシリーズが作られなかったとも考えられる。初見時も今も『夢世界 ホッジポッジ』も観るたびに「これをちゃんとシリーズで観てみたかった」と思う。

第209回へつづく

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(09.09.10)