第161回 『魔法の天使 クリィミーマミ』
『魔法の天使 クリィミーマミ』は新鮮な作品だった。ロボットアニメ史において『機動戦士ガンダム』がそうであったのと同じくらい、魔法少女アニメの歴史において『クリィミーマミ』は画期的な作品だった。僕は今までも数度『クリィミーマミ』について書いているのだけど、ちゃんと書けた実感がない。今回は何度目かのチャレンジだ。
森沢優は、小学4年の元気な女の子だ。ある日、彼女は夢嵐に遭ったフェザースターの船を助けたことから、妖精ピノピノに1年の期限つきで魔法のステッキを渡される。その力で16歳くらいの美少女に変身した彼女は、芸能プロダクションであるパルテノンプロの立花慎悟にスカウトされ、クリィミーマミとして歌手デビューする事になる。優は、両親や周囲の人達に自分がマミだという事を隠し、芸能活動を続ける。優の年上の幼馴染みであり、想いを寄せている大伴俊夫も、マミの大ファンになった。優は俊夫がマミに夢中なのが、ちょっと不満に感じている。ピノピノが優のところに置いていったポジ、ネガは、猫の姿をした相談役だ。彼らと一緒に、日常と芸能界を舞台にした優の冒険は続く。
放映されたのは、1983年7月1日から1984年6月29日。製作はスタジオぴえろであり、同社の「魔女っ子シリーズ」第1弾である。原案・構成は伊藤和典、チーフディレクターは小林治、キャラクターデザインは高田明美、美術監督は小林七郎。同じスタジオぴえろの『うる星やつら』放映中の作品で、伊藤和典、高田明美とメインスタッフが重複。わずかにではあるがアニメ『うる星』のエッセンスが感じられた。全体に洗練された作品だった。近作であり、違ったベクトルで意欲的だった『魔法のプリンセス ミンキーモモ』は別にして、『クリィミーマミ』の登場によって、既存の魔法少女ものが古くさいものになってしまったようにすら感じた。
大きなところから話を始めると、『クリィミーマミ』は「魔法少女もの」であり、「ファンタジー」であり、「芸能界もの」であり、「恋愛もの」である。そして、驚くべき事に、それぞれの要素を中途半端にせず、作りきっている。主人公の優=マミを、新人歌手であった太田貴子が演じ、劇中でも多数の歌を披露。また、優に当時流行だった(僕にとっては『クリィミーマミ』の後で流行った印象なのだが)フード付きのトレーナーを着せるなど、ファッショナブルでもあった。
ファンタジーではあるが、基本的にリアル志向の作品であった。作品世界に関しても、人物に関しても、現実味のあるものとして描いていた。キャラクターの性格描写に関しては、リアルさとマンガ的なデフォルメのバランスが絶妙。作り手が、キャラクターに思い入れしている感じもいい。『クリィミーマミ』のリアル志向は、小林治の演出と伊藤和典の持ち味が合致した結果なのだろう。それについては次回以降で話題にしたい。
『クリィミーマミ』という作品の気持ちよさについては、優が「大人が考えたモラル」から外れていた事も大きい。『クリィミーマミ』以前の魔法少女アニメは、多少の例外はあるにしても、人助けのために魔法を使うパターンが多く、主人公も優等生的なキャラクターが多かった。ありとあらゆる魔法少女ものを検証したわけではないので、断言はできないが、それまでの魔法少女の大半が「大人が考えたモラル」と共にあったように思う。
それを考えると、優のキャラクターの何が新しかったのかが分かる。彼女はシリーズを通じて、マミに変身する以外の魔法はほとんど使っていない。マミとして人助けをした事がないわけではないが、むしろ、優とマミの二重生活を送る事で、彼女がどんな体験をするかを描いた作品だった。彼女は二重生活を送るために、両親やパルテノンプロの人達に、ずっと嘘をついていた。優自身がマミに変身する事を楽しんでいたかどうかは微妙なのだが、客観的に見れば、小さな子供がアイドルに変身して、芸能活動をするのは快楽以外の何ものでもないはずで、優は自分の快楽のために魔法を使い、快楽のために大人を騙していた事になる。それは視聴者にとっても快楽でもあった。そういった快楽の構造が、既存の魔法少女アニメとの決定的な違いだった。
ストーリーとしては、優、俊夫、マミの三角関係と魔法を主軸にしたドラマはしっかりしたものだった。また、各話の内容がバラエティに富んでおり、それも本作の魅力だった。芸能界ものや、ファンタジー話が多いのは当然として、スラップスティックもあれば、しっとりとした恋愛ものもあった。特にシリーズ後半はそれが顕著で、ミステリー仕立ての37話「マリアンの瞳」、怪獣ものの39話「ジュラ紀怪獣オジラ!」、異次元SFものの44話「SOS! 夢嵐からの脱出」と異色作が続出。飽きないシリーズだった。魔法少女アニメの歴史を振り返っても、各話のバラエティに関して、『クリィミーマミ』に匹敵するのは初代『魔法使いサリー』だけだろう。
各話スタッフに関して言うと、望月智充演出回が抜きんでていた。彼の担当話数がなければ、僕達は、あそこまで熱心に『クリィミーマミ』を観なかっただろう。そのあたりの話も次回以降に。
第162回へつづく
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(09.07.06)