アニメ様365日[小黒祐一郎]

第122回 『魔法のプリンセス ミンキーモモ』

 1982年当時において『魔法のプリンセス ミンキーモモ』は、『うる星やつら』と並ぶ話題作だった。女児向けの魔法少女ものであり、同時にアニメファンから圧倒的な人気を得た作品でもある。原案・構成でクレジットされているのは、このWEBアニメスタイルで「シナリオえーだば創作術 だれでもできる脚本家」(『ミンキーモモ』の話題はここから)を連載してもらっている首藤剛志。総監督は、後に『ポケットモンスター』でも首藤剛志とコンビを組む湯山邦彦。
 主人公のミンキーモモは、夢の国フェナリナーサの王女である。地球の人間が夢を信じなくなってしまったため、フェナリナーサは地球から遠く離れてしまった。モモは、地球の人々の心に夢を取り戻すため、お伴である犬のシンドブック、猿のモチャー、鳥のピピルと一緒に活躍する。モモは幼い少女だが、魔法の力で18歳のモモに変身する。魔法少女ヒストリーにおいては、主人公が魔法で大人になるという設定は、過去に『ひみつのアッコちゃん』があったが、『ミンキーモモ』はそれだけでなく、様々な職業のエキスパートに変身した。また、「夢を取り戻す」というモモの使命は、作品のテーマにもなっており、モモが交通事故で死んでしまう第1部最終回を含めて、ハードなエピソードも生まれている。そういった意味において、はっきりと作家の作品だった。
 本作の魅力は、モモ自身のキャラクターと、作品全体にある自由奔放さ、ノリのよさにあった。調子がよくて、ちょっと甘ったるくて、ちょっとルーズな登場人物や、世界観が心地よかったのだろうと思う。モモ自身の歯切れのいいセリフ回しや、フェナリナーサ国王のルーズな喋り方、「ピピルマ、ピピルマ、プリリンパ……」といった言語感覚の面白さもあった。モモを演じ、主題歌をうたった小山茉美の存在も大きい。声優として表現力があるだけでなく、本人のパーソナリティが、作品に大きく反映されているのだろうと思う。巨大ロボットが登場するエピソードがあったり、宮崎アニメのパロディがあったり、あるいは、前述のモモが交通事故で死んでしまった第1部最終回、その後、赤ん坊のモモが見た夢の中の出来事として第2部を展開した事など、話題の多いシリーズだった(もっと素朴に、モモのパンツが猫柄だったとか、そういう事も話題になった。いや、そういう事の方が話題になったような気もする)。
 作品自体も何でもありのノリノリだったのだけれど、作品自体に匹敵するくらい、周辺がハシャいでおり、それが印象的だった。パロディ同人誌も沢山見たし、身の回りに熱烈なファンが何人もいた。僕の場合、『ミンキーモモ』のタイトルを目にして、最初に思い浮かぶのは本編の画ではなく、パロディマンガで活躍していたみんだなおの画であったりする。モモはいわゆるロリータキャラとはちょっと違っていると思っていたが、『ミンキーモモ』人気が、前回触れたロリコンブームと結びついたものだったのは間違いない。瞬間風速ではあったが『ミンキーモモ』のフィーバーぶりは『うる星やつら』を越えていたと思う。
 僕自身に関しては、本放映時には『ミンキーモモ』には乗り損なった。最初の数話を観て、作画を含めて、作りが粗いと感じたのと、子どもっぽい内容に思えた事から敬遠して、その後、あまり観ていなかった。いまだにシリーズ初期のエピソードについては、一度も観ていないものがある。
 放映が進むにつれて、友達の数人が『ミンキーモモ』にハマった。彼らはキャラクターにハマり、個々のエピソードの素晴らしさを僕に語った。26話から「妖魔が森の花嫁」から、スタジオライブの俊英わたなべひろしが作画監督として参加するようになり、そのあたりから「この話を観ろ!」と言って、僕にビデオを観せるようになった。30話「ふるさと行きの宇宙船」は、童話が大好きであるにもかかわらず、リアリストとして振る舞っているスペースシャトルの船長が出てくるエピソードだ。アイデアが秀逸で、その船長がフェナリナーサで叶えた夢というのが、非常にユニークであり、素晴らしかった。これも、友達がその素晴らしさについて熱弁を振るった。僕が一番好きな話は42話「間違いだらけの大作戦」だ。将軍が自分が飼っている猫が死んだと思い込み、それを嘆いた事が、敵国を攻撃する暗号として伝わり、爆撃機が発進。たまたまその機に乗り込んだモモが、爆撃を阻止する事になるという大アクション編。どこが魔法少女ものなんだろうと思われるかもしれないが、どう考えても少女向けアニメとは思えない話をやってしまうのも、このシリーズの面白さだった。爽やかな男声コーラス曲がBGMとして使われて、それが妙なトリップ感を生んでいた。
 当時も今も、僕が『ミンキーモモ』に惹かれるのは、個々のエピソードにおけるアイデアの面白さだ。「ふるさと行きの宇宙船」にあったような自由奔放な発想は、意外と日本のアニメ界にはない。その意味では『ミンキーモモ』以降に、『ミンキーモモ』のようなアニメは生まれてないと思う。

第123回へつづく

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(09.05.12)