アニメ様365日[小黒祐一郎]

第123回 『さすがの猿飛』

 『ミンキーモモ』の放映が始まったのが1982年3月。同年10月には、同作の首藤剛志がシリーズ構成を務めた『さすがの猿飛』がスタートする。『ミンキーモモ』のノリのよさを、さらにパワーアップさせた作品であり、スタッフの悪ノリを売りにしているところがあった。
 原作は細野不二彦の同名マンガだ。舞台は、忍者の養成機関である忍ノ者高校。超肥満体の少年忍者である猿飛肉丸と、彼のガールフレンドである霧賀魔子をはじめとするユニークな面々が起こす騒ぎを描いたドタバタラブコメディである。アニメ版は、原作を大胆にアレンジしていた。忍ノ者高校と対立するオリジナルの組織として、スパイナー高校が設定され、その関係者がレギュラー、準レギュラーとなった。ニューハーフの00893と004989のコンビは、スパイナー高校の下っ端で、毎週登場していたが、今観ると『ポケットモンスター』のロケット団とイメージがダブる。ズッコケぶりと、ストーリーへの絡み方が似ているのだ。また、忍者ならぬ忍豚という豚は、原作には数度しか出ていないキャラクターだが、アニメではこれをレギュラーにし、作品の語り手として扱っていた(忍豚は当時、メキメキと頭角を現していた田中真弓が演じており、その名調子もあり、印象的なキャラクターとなった)。他にも『戦国魔神ゴーショーグン』のブンドルのそっくりさんがゲストキャラとして登場した事があったし、『魔法のプリンセスミンキーモモ』のモモがゲスト出演した事もあった(モモの場合は、声もオリジナルと同じ小山茉美)。宇宙、原始時代、江戸時代、西部劇の世界等を舞台にし、レギュラーキャラが別の役柄で登場する番外編がやたらと多いのも、本作の特色だ。その番外編の多くが、既成の映画のパロディであった。どういった経緯でそういった構成になったのかについては、前回に続き、「シナリオえーだば創作術 だれでもできる脚本家」を読んでいただきたい。『さすがの猿飛』の話題は第61回からだ。
 『さすがの猿飛』に関しては、フジテレビアニメの1本であるという事も重要だろうと思う。当時のフジテレビは、すでに『Dr.スランプ アラレちゃん』『うる星やつら』をヒットさせており、この後に『ストップ!!ひばりくん!』『Gu-Guガンモ』『ハイスクール!奇面組』等を放映。『タイムボカンシリーズ』も継続中だった。つまり、明るく楽しい事が、この時期のフジテレビアニメのカラーのひとつだった。それは局自体のカラーとも関連していた。アニメ以外で言えば、バラエティ番組「オレたちひょうきん族」が人気を集めていた頃で、「森田一義アワー 笑っていいとも!」が始まるのは『さすがの猿飛』と同じ1982年10月だ。『さすがの猿飛』は、『うる星』と並んで、この頃のフジテレビらしいアニメだと思う。
 パロディ以外の部分に関しても『さすがの猿飛』の笑いはベタなものだった。『うる星』や後番組の『Gu-Guガンモ』と比べてもベタだった。それは作り手のサービス精神の表れであり、そういったところが大好きだったファンがいた事も承知しているが、正直言うと、僕はそのベタな感じがちょっと苦手だった(首藤さん、ごめんなさい!)。なぜ苦手に感じていたのかは、自分でもよく分からなかった。この原稿を書くにあったって、改めて原作単行本を買って、目を通してみた。それで分かったのだけれど、原作はギャグマンガではあるのだけれど、少年アクションマンガ的であり、全体にスマートなのだ。主人公は肥満体の少年忍者ではあるけれど、どこか格好いいマンガだった。それが、ベタな感じのギャグアニメになったので、違和感を感じていたのだろう。頭では、原作とアニメは別ものだと理解していても、感覚的に別のものとは考えられなかった。
 注目していたのは、各話の作画だ。『さすがの猿飛』について話すなら、そこに触れないわけにはいかない。各プロダクションが腕を競いあって、見応えのある作画が続出した。『さすがの猿飛』ほど、突出したアクション作画が続出したTVシリーズは、日本アニメ史でも数えるほどしかない。やる気のあるアニメーターが揃っていたのもあるのだろうし、忍者アクションものという作画の見せ場が作りやすい題材だったのもよかった。そして、制作現場であった土田プロダクションも、たっぷり動かして見応えのあるフィルムにしたいと思っていたのだろう。
 何と言っても見応えがあったのが、STジャイアンツの担当回だ。『さすがの猿飛』のジャイアンツ回は、唖然とするぐらいよく動いていた。後に『新世紀エヴァンゲリオン』で副監督を務める摩砂雪の、ケレンミたっぷりのアクションが素晴らしかった。彼の原画は動きの密度が高く、また、1話当たりの担当カット数も多い。エネルギッシュな仕事ぶりだった。他に印象的だったのが、可愛らしい女の子と、特撮パロディ等が楽しかったアニメアール。いのまたむつみの美麗なキャラクターが魅力のカナメプロ。それから、初期のあにまる屋回では、現在は京都アニメーションに在籍している木上益治の仕事が秀逸だった(ただし、初期のあにまる屋は、スタジオ単位でクレジットされているため、彼の名前は出ていない。あにまる屋回で、濃いパートが彼の作画だというのは、業界筋からの情報だ)。当時、アニメ雑誌に取り上げられたため、ファンの間で、カナメプロばかりが話題になったのが口惜しかった。上記以外のプロダクションも健闘しており、よく動いている回は他にもあった。
 せっかくなので、印象的な話数を挙げておこう。ジャイアンツ回はどれも見応えがあったが、特に記憶に残っているのが、9話「戦国猿飛秘話」、26話「さらば!さすらいのニントン」、36話「パイパニック号を引き上げろ!!」、40話「肉丸inスペースウオーズ」。アニメアールなら34話「肉丸はじめて物語恐竜100万年」、カナメプロなら18話「魔子と肉丸の思い出アルバム」。あにまる屋で見応えのあるパートがあったのは、2話「これがうわさの肉丸ファミリー」、8話「やぶれたり神風の術」、15話「ネグラ忍法帖!」。特に「ネグラ忍法帖!」で、肉丸の祖父である八宝斎が「ナンタルチアのサンタルチア!」と叫びながら回り込むカットは、今の目で見ても凄まじい仕上がりだ。『さすがの猿飛』に関しては、僕は作画ばかりを気にして観ていた。そんなに作画に興味がないファンでも「よく動いているアニメだった」と記憶しているのではないだろうか。

第124回へつづく

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(09.05.13)