第213回 『巨神ゴーグ』とアンチドラマチック
『巨神ゴーグ』のシリーズ後半は、ゴーグと悠宇、ゴーグを生みだした異星人、巨大企業GAILの三者の対立が中心となった。23話で、異星人の遺跡が眠るオウストラル島が危険なものと見なされ、核ミサイルで消去される事になる。それまで主人公達の敵だったGAIL支社長のロッド・バルボア(二枚目の青年で、声は池田秀一)は反旗を翻すが、力及ばず、25話ラストで、核ミサイルは発射されてしまう。最終話ではアクションらしいアクションはない。オウストラル島に残された人々は、核ミサイルが落ちてくる瞬間を淡々と待つだけだ。
悠宇達が、島の中の仲間のいる場所に戻ろうとするという展開はあるのだが、自分達の力で核ミサイルを撃退しようとはしないし、慌てて逃げだそうともしない。結局、異星人マノンによって、オウストラル島と悠宇達は、核ミサイルから守られる。その後で、悠宇とゴーグの別れがあり、最終回らしいラストシーンとなるのだが、僕は「これが冒険物のクライマックスなの?」と思った。
この終盤の展開は、前回話題にした「薄味」とは、別の問題だ。作り手はアンチドラマチックを狙ったのだろう。第204回「『クサい』『ダサい』の時代」でも触れたように、この頃、大袈裟な展開で視聴者を感動させるようなドラマが、古くさいものとされていた。そういった風潮を背景にして『巨神ゴーグ』は、ドラマチックではないクライマックスを選んだのだろうと思っている。
話は前後するが、ロッド・バルボアは、オウストラル島の秘密を世間に発表する事で、島を救おうとしていたが、それも失敗。25話で万策尽きたロッド・バルボアは、かつての恋人であるレイディ・リンクスとヨットに乗る。悠宇の仲間に、船長と呼ばれる謎めいた中年男がいる。彼は牢に入れられていたが、ロッド・バルボアによって解放され、酒を呑みながら海を見る。もうすぐ核ミサイルが飛んでくるというのに、ヨット遊びに興じ、酒を呑んでいるのだ。そこでムーディな挿入歌が流れる。アンニュイな場面に感じられ、格好いいと思った。僕が『巨神ゴーグ』で一番好きなのが、実はこの場面だ。「これは冒険物のクライマックスじゃないなあ」と思ったけれど、それと同時に「いい場面だなあ」と感じたわけだ。
クライマックスがドラマチックでない事、あるいは主人公達の核ミサイルに対する無力感、終盤に悠宇やゴーグの英雄的な活躍がない事。それらは安彦良和の作家性とリンクしたものでもあった。だが、『巨神ゴーグ』の時点では、まだそれは確信に至っていなかった。
以下は、別の話。『巨神ゴーグ』のDVD BOXには安彦良和を中心にした、スタッフ達のコメンタリーが収録されている。DVD BOXリリース当時から「『巨神ゴーグ』のコメンタリーは面白いよ」と噂に聞いていた。僕は今回初めて聴いたのだが、安彦良和が当時の想いを赤裸々に語っている箇所があるのだ(コメンタリーはディスク1、ディスク6に収録されており、面白いのはディスク1の途中からだ)。中途半端に内容を抜き出すと、誤解をまねきそうなので紹介はしないが、本当に面白かった。
第214回へつづく
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(09.09.17)