アニメ様365日[小黒祐一郎]

第228回 『魔法の天使クリィミーマミ 永遠のワンスモア』

 TVシリーズ『魔法の天使クリィミーマミ』が最終回を迎えたのが1984年6月29日。その4ヶ月後の10月28日に、OVA『魔法の天使クリィミーマミ 永遠のワンスモア』がリリースされた。ほぼ90分のビデオソフトで、前半がTVシリーズの総集編、後半が新作という構成だった。OVAとしてもごく初期のタイトルであり、TVシリーズの後日談をOVAとして制作したのは、これが初めてのケースだった。チーフディレクターは、TVシリーズと同じく小林治で、彼はレイアウトも兼任。脚本は伊藤和典、絵コンテと演出は望月智充。作画監督は河内日出夫と後藤真砂子の2人だった。実際の仕事分担がどうだったのかは分からないが、僕は、これを望月智充監督作品だろうと思っていた。
 『永遠のワンスモア』については、TVシリーズ放映中から噂を聞いていた。何かの機会に望月智充自身から聞いたのかもしれない。その時は「TVシリーズは52話で終わるけれど、実は、その後の53話をすでに作り始めている」と聞いたのは間違いない。
 リリースされてすぐに観た。新作パートは、本当に「その後」の話だった。マミが人々の前から姿を消してふた月が経った。優と俊夫の仲は微妙に進展しているようだ。優は、守に教えられて、ポジとネガに似た野良猫を拾ってくる。そんな日々の中で、マミが芸能界に戻ってくるという噂が立ち、立花がなにやら怪しい動きをしている。そして、立花が進めるプロジェクトの陰に謎の少女、早川愛の姿が見え隠れする。優達はめぐみ達と共同戦線を張り、その謎に挑むのだった。あらすじとしてはそんな感じだった。早川愛は、最終話のエンディングに登場したみどりのガールフレンドと思しき少女であり、この作品で、彼女とみどりの出逢いと、これから2人が仲がよくなっていくであろう事が描かれている。
 それで、話が面白かったかというと、実はあまり面白くはなかった。単純に話の面白さで言ったら、シリーズ終盤の各エピソードに、もっと面白い話があった。『永遠のワンスモア』の新作パートは、全体にまったりしていて、緊張感がなかった。マミ復活計画の秘密も、早川愛の正体も、謎が解ければ「な〜んだ」というものだった。それでは楽しめなかったのかと言うと、そこそこ楽しめた。今思えば、オリジナルビデオだからと言って、無理に派手にしたりせず、TVシリーズと同じ調子でキャラクターを描いたのがよかったのだろう。
 本作の最後で、優は、フェザースターに帰ったボジとネガが、自分の近くに来ていた事に気づく。そして、ボジとネガが飛んでいった空に向かって、手を振って「おーい、優は元気だよ〜」と叫ぶ。これがラストシーンだ。これはTVシリーズのファンのための作品であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。TVシリーズのファンにとっては、レギュラーのキャラクター達が、その後も、相変わらずの調子でいる事を確認するための作品だった。
 最後の優のセリフが、ファンに向かって投げかけられたものでもあるのは言うまでもない。TVシリーズを観ていない人にとっては、何だかよく分からない終わり方だったろうし、ファンにとっては、納得の終わり方だったろう。僕は納得した。そこまでのドラマは薄味だったのに「優は元気だよ〜」の1カットで、いい作品だったような気がした。ファンの思い込みというのは恐ろしい。
 映像的には、派手めのカーチェイスがあったが、それ以外は変わった事はしていない。TVシリーズと同じスタンスで丁寧に作られていた。演出面でも奇抜な事はやっていない。エレベーターから降りた愛が、自分の指を鉄砲に見立てて、振り向きざまに、みどりに向かって「バン!」と撃つマネをする場面がある。次のカットで、エレベーターに乗っているみどりが撃たれた芝居をするのだが、ここのカットの繋ぎ方が非常に格好よくて、感心した。この時点でみどりと愛は、顔見知り程度で、まだ友達ではない。そんな愛の突然の「バン!」に対し、彼女に対してちょっと気があったみどりが、アドリブの芝居で応えたのだ。後で2人が仲よくなるきっかけになる描写でもあり、その意味でも巧かった。『永遠のワンスモア』で思い出すのは「優は元気だよ〜」と、愛の「バン!」だ。

第229回へつづく

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(09.10.14)