第243回 『機動戦士Zガンダム』続きの続き
『機動戦士Zガンダム』を尖鋭的な作品と評していいのかどうかは、いまだに僕には分からない。ただ、尖った作品を目指していたのは間違いないだろう。尖ったキャラクターと尖った語り口で作品を作る。先鋭的にする事で『機動戦士ガンダム』第1作を越えようとしたのだろう。
そして、『Zガンダム』は、富野由悠季監督がフィルムの全てを自分のカラーで染めようとした作品だろうとも思う。これは裏を取ったわけではなく、あくまでフィルムを観て、僕が抱いた印象だ。第1作も監督のカラーが強い作品だが、まだ、他のスタッフの個性や考えが入っているように思う。『Zガンダム』は、後述するようにそれをやりきれているわけではないが、富野カラーで全編を作ろうとしているように感じる。繰り返しになるが、これは僕の印象だ。
本放映中に『Zガンダム』に馴染めなかったのにも関わらず、全否定できなかったのは、それが「作家の作品」だったからだ。面白い作品ではないが、何かがある作品だとは感じていた。決して空っぽな作品ではない。作り手が作品に何かを込めようとしているのは理解できた。ギスギスしたドラマを楽しめはしなかったが、何か新しい事をやろうとしているのは分かった。何かがあるのに、それが何なのかが理解できない。だから、ますます不満が募った。
僕が『Zガンダム』という作品を、多少なりとも理解したのは『機動戦士ガンダムF91』が公開された頃か、『機動戦士Vガンダム』の放映が始まった頃。つまり、1990年代に入ってからだった。僕のまわりで『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』がブームになっていた。『逆襲のシャア』のドラマや演出に痺れて、それを絶賛した。富野由悠季監督をリスペクトした。勢いづいて『逆襲のシャア』の同人誌まで作ってしまった。その同人誌の編集長は庵野秀明で、編集作業はGAINAXでやった。
『逆襲のシャア』の何がよかったかと言えば、生々しい人間描写と、ペシミズムの色が濃いドラマだった(正確に書こうとするならば、ペシミズムという言葉で簡単に片づけてはいけないのだが、今回はこの言葉でいく)。それを濃厚にやっていた。富野イズム100%の作品だった。富野監督リスペクトの一環として、僕は『Zガンダム』をビデオで一気観した。3日くらいかけて全話を観た。数年ぶりの『Zガンダム』は本放映時よりは楽しめた。それで『Zガンダム』で、どんな事をやろうとしていたのかが分かった気がした。そして、それをやりきれていない事も分かった。
要するに富野監督が『Zガンダム』でやりたかったのも『逆襲のシャア』と同じような生々しい人間描写であったり、ペシミスティックなドラマだったのだろう。キャラクターの痛みを、視聴者が自分自身の痛みのように感じるドラマをやりたかったのだろう。ひょっとしたら『Zガンダム』では、『逆襲のシャア』よりも、もっとドライにやりたかったのかもしれない。政治や組織についても、『逆襲のシャア』と同様の感覚で描きたかったのかもしれない。
しかし、それを『Zガンダム』はやりきれなかった。僕にとっては『逆襲のシャア』が完成形であり、『Zガンダム』は作り切れていない作品だ。『逆襲のシャア』の後に『Zガンダム』を再見して、それがよく分かった。どの場面でそう思ったのかはすでに忘れてしまったが、「本当は、この場面はああいう事を描きたかったんだろうな」と思いながら観た。『Zガンダム』では作劇や表現が、やろうとした事に追いつかなかったのだろう。それはスタッフの技量だけの問題ではないはずだ。劇中で扱わねばならない設定やドラマの量が膨大で、持て余したというのもあるのだろう。やろうとする事が新しすぎて、個々のスタッフに監督の意図が伝わらなかったのもあると思う。
第244回へつづく
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(09.11.05)