第241回 『機動戦士Zガンダム』
『機動戦士Zガンダム』は年齢によって評価が分かれる作品だ。大雑把に分類すると、先のブームで『機動戦士ガンダム』第1作に触れたファンには否定派が多かったはずだし、『Zガンダム』で初めて『ガンダム』を観た人には肯定派が多いようだ。僕はこの作品を肯定できない。ただし、色々と複雑な思いもあり、「こんなのは『ガンダム』じゃないよ!」と頭ごなしに否定する事もできない。そのあたりが自分でももどかしい。
『Zガンダム』は『機動戦士ガンダム』の続編として製作されたTVシリーズだ。原作・総監督は富野由悠季。安彦良和はキャラクターデザインを務めているが、それだけであり、作画監督は一度も担当していない。メカデザインは大河原邦男と若手デザイナー陣が担当。脚本、演出、作画監督は若手を中心にチーム編成されていた。少なくとも、旧作のスタッフが集結して作ったシリーズではない。放映されたのは1985年3月2日から1986年2月22日。全50話。
舞台となるのは、前作の7年後となる宇宙世紀0087。地球連邦軍のエリート集団であるティターンズと、スペースノイドの自由を求める組織エゥーゴの戦いが主軸だった。主人公は新キャラクターのカミーユ・ビダンで、彼はエゥーゴの一員となる。シャア・アズナブルは正体を隠して、クワトロ・バジーナという名前でエゥーゴで活動。他にもブライト・ノア、アムロ・レイをはじめ、旧作のキャラクターが何人か登場する。
『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』について書いた時にも触れたように、僕は『機動戦士ガンダム』の続編はいつか作られるだろうと思っていた。TVシリーズ終盤に物足りなさを感じており、同じ世界や同じキャラクターでまだ描ける事があるだろうと思っていたので、続編が作られる事に抵抗はなかった。つまり、『宇宙戦艦ヤマト2』以降の『ヤマト』シリーズに対して抱いたような感情はなかった。
それでは、放映開始前に『Zガンダム』が始まるのを楽しみにしていたかというと、そうでもなかった。ちょっと醒めた気持ちで放映が始まるのを待っていた。『聖戦士ダンバイン』後半くらいから抱いていた、富野監督作品に対して不信感のためだ。また、『機動戦士ガンダム』の続編が作られる事自体に不満はなかったが、この後に何本も続編が続いて、やがて『宇宙戦艦ヤマト』のようになってしまったら嫌だな、とも思っていた。
僕は『機動戦士ガンダム』の続編がどんなものになるのかを、具体的にイメージした事はなかった。ただ、TVシリーズ最終回で、ニュータイプの覚醒によって、人類が次のステップに進むかもしれないという可能性が示された。つまり、人々の認識能力が向上し、やがて戦いのない時代がやってくるのかもしれない。『機動戦士ガンダム』の続編とは、あの最終回の続きになるのだろうと漠然と思っていた。TVシリーズ放映中には、アムロが一人前の戦士に、あるいは大人の男に成長していくのを期待していたが、それを続編には期待していなかった気がする。それはTVシリーズ終盤の展開を観て、諦めていた。
アニメ雑誌の特集記事で、『Zガンダム』の主人公がアムロではなく、カミーユ・ビダンである事も、シャアが主役級のキャラクターになるらしい事も、放映前から知っていた。ブライトとミライが結婚している事や、ニュータイプ能力を危険だと感じた人々によってアムロ達が強制的に地球に住まわされている事も、やはり記事になっていた。
そして、放映が始まり、『Zガンダム』1話「黒いガンダム」を観た。梅津泰臣の作画によるオープニングは、実にシャープであり、満足した。特にラストの爆発の中から、ガンダムMK-IIが現れるカットが素晴らしかった。よかったのは、それくらいであり、他はあまりいい印象ではなかった。カミーユとファの関係は、『機動戦士ガンダム』のアムロとフラウを思わせるものだった。シャアがモビルスーツで、スペースコロニー潜入するところから始まるのも前作1話と同じで、描写も似たものになっていた。それで「あれ、また同じような事やってるな」と思った。ここまでに『伝説巨神イデオン』や『銀河漂流バイファム』でも「ガンダムっぽい1話」を観ていたのだ。
一番分からなかったのは、ティターンズのジェリド・メサに、カミーユが殴りかかった事だ。ジェリドは、カミーユの名前を聞いて女性と勘違いし、その事でカミーユは怒ったのだ。その前の場面で、カミーユが自分の女性的な名前にコンプレックスを抱いている事は描写されていたが、それにしても、彼の行動は唐突だった。前シリーズの主人公であるアムロ・レイは内向的な少年だった。それは当時の視聴者に近いタイプのキャラクターだったわけだ。カミーユはその路線をさらに進めて、神経が過敏で、キレやすい少年として描かれたのだろう。今となればそう考える事もできるが、1話を観た時には、どうしてこんなやつが主人公なんだろうかと思った。
1話を今ひとつだと感じたのは、ドラマに緊張感がなかったからでもあるのだろう。前作の1話が、キャラクターや舞台の紹介を手際よくやり、ただの少年であったアムロがガンダムに乗って敵を倒すところまでやっているのに、『Zガンダム』の1話はカミーユがガンダムMK-IIに搭乗するところまでもいっていない。山場らしい山場もなく終わってしまっている。
それでも1話は、まだ前作と地続きの作品だと感じられた。『Zガンダム』が『機動戦士ガンダム』とはまるで別の作品だと分かるのは、放映がしばらく進んでからだった。それについては、次回以降で。
第242回へつづく
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(09.11.02)