アニメ様365日[小黒祐一郎]

第144回 『聖戦士ダンバイン』

 『聖戦士ダンバイン』は、『伝説巨神イデオン』『戦闘メカ ザブングル』に続く、富野由悠季&湖川友謙コンビの新作。勿論、アニメファンの注目作だった。放映されたのは1983年2月5日から1984年1月21日。序盤から中盤までの舞台となるのは、海と陸の間にある世界バイストン・ウェルだ。その世界の制覇を画策する領主ドレイク・ルフトは、地上界から召喚したショウ・ザマ、トッド・ギネス、トカマク・ロブスキーの3人を聖戦士とし、オーラバトラーを与えた。彼らはドレイクの元で戦う事になったが、同じ地上人であるマーベル・フローズンによってドレイクの真意を知らされたショウは、ニー・ギブンが指揮するゼラーナに乗り込む事になる。
 バイストン・ウェルの文化は、中世ヨーロッパを思わせるものであり、そこにはコモンと呼ばれる人間だけでなく、我々の知る妖精に似たミ・フェラリオやエ・フェラリオ達がいる。この世界の人々は、我々が住む世界を「地上界」、そこにいる人間を「地上人」と呼んでいる。ショウ達よりも先に、地上人のショット・ウェポンがバイストン・ウェルを訪れており、彼はその世界を支える生体エルネギー「オーラ力」で動くオーラマシンを建造していた。といったところが、物語と世界観の概略。主人公のショウ・ザマの名前は「生き様」に引っかけたネーミングだろうと思う。
 振り返って見れば『ダンバイン』は世界観やデザインの面白さを楽しむ作品だった。ダンバインを始めとするオーラバトラーのデザインは、昆虫をモデルにしたものであり、生物的なイメージが新しく、シルエットが美しかった。湖川友謙のキャラクターデザインは『イデオン』のものの発展形で、今回もキャラクターが、世界観や物語とマッチしていた。そして、中世ヨーロッパ的世界に、フェラリオやそういったロボットがいるという組み合わせが新鮮だった。「剣と魔法の物語」のヒロイックファンタジーから、魔法を抜いて、オーラ力とロボットを加えた作品だった。当時、日本ではヒロイックファンタジーはまだ一般的ではなく、国内でヒロイックファンタジー的な世界を扱った映像作品としては、最初期のものであるはずだ。
 富野監督のネーミングセンスは業界屈指のものだが、本作でも、傑作ネーミングが続出。用語なら「オーラ力」「オーラロード」「ミ・フェラリオ」、人名なら「ショット・ウェポン」「バーン・バニングス」「トッド・ギネス」「ガラリア・ニャムヒー」「キーン・キッス」「ジャコバ・アオン」、オーラバトラーなら「ボチューン」「ズワァース」「レプラカーン」、オーラバトルシップなら「ウィル・ウィプス」「ゲア・ガリング」「グラン・ガラン」等々。そういったネーミングが、作品世界をさらに豊かにしていた。「ラース・ワウの脱出」「戦士リムル・ルフト」「敵はゲア・ガリング」「ビヨン・ザ・トッド」なんて、サブタイルを聞いただけでワクワクする。これも語感の力だ。
 『機動戦士ガンダム』以降、富野監督の作品は、新作が作られるたびに従来のロボットアニメのイメージからの飛躍が大きくなっていた。『ダンバイン』にしても、登場人物がロボットに乗り込んで戦う作品ではあるのだが、パッと見の印象に関しては、ほとんどロボットアニメではなくなっていた。「ロボットアニメもここまできたか」と思ったものだ(ただ、シリーズ半ばで登場する新主人公メカのビルパインは、他のオーラバトラーに比べると、ヒーローロボット的なデザインだった。それにしても世界観を壊すほどではなかったと思う)。シャープな宇宙SFものであった『イデオン』の次に、西部劇的な世界で土木工事機械のようなウォーカーマシンが活躍する『ザブングル』。その次が『ダンバイン』である。次々に新しいコンセプトのロボットアニメを発表。しかも、『ザブングル』と『ダンバイン』のコンセプトは、かつてないほど斬新なものだった。僕達が「オリジナルアニメ」というものの魅力を、最も強く感じていたのが、この頃だったのだろう。
 さっき、『ダンバイン』は世界観や、デザインの面白さを楽しむ作品だったと書いた。作品世界やデザインは非常に魅力的であり、オープニングやエンディングもいい出来だったのが、各エピソードが面白かったかというと、残念な事にそれほど面白くはなかった。多くの勢力が乱立する物語構成のためなのか、主人公が自分の目的や感情で動くタイプでなかったためなのか、あるいは、カタルシスが少なかったためなのか。シリーズを通じて、派手さに走らず、落ちついた語り口を狙っているところはあった。ただ、それが単に地味な仕上がりにつながっているように思える。本放映当時に全話を観たが、本当に面白いと思ったのは「東京上空3部作」と「ハイパー・ジェリル」だけだった。最終回も、不完全燃焼のまま終わってしまった印象だ。『無敵超人ザンボット3』『伝説巨神イデオン 発動篇』のような、作り手がやりたい事をやりきった作品には思えなかった。
 「東京上空3部作」と「ハイパー・ジェリル」については、次回触れる事にしたい。

第145回へつづく

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(09.06.11)