アニメ様365日[小黒祐一郎]

第150回 『銀河漂流 バイファム』

 『銀河漂流 バイファム』は1983年10月21日から1984年9月8日まで放映された、日本サンライズ(現・サンライズ)のロボットアニメだ。クレアド星の地球移民達は、異星人であるククトニアンの攻撃を受けて、宇宙に待避。大人達は命を落としてゆき、ロディをはじめとする13人の少年少女だけが残された。13人は敵に捕らわれた家族と再会するために、子供達だけで宇宙船ジェイナスで旅をする。この作品の世界では、ロボットはラウンドバーニアンと呼ばれており、タイトルになっているバイファムとは、主人公側の主力ラウンドバーニアンの事だ。広義ではロボットアニメではあるし、ロボット名が作品タイトルになってはいるが、必ずしも戦闘がメインではなく、等身大の少年少女のドラマを主眼にした作品だった。
 原作としてクレジットされているのは、監督も兼任する神田武幸と、脚本家の星山博之。それと別に、原案として矢立肇と富野由悠季の名前がある。放映当時「どうして富野さんが?」と思ったが、『機動戦士ガンダム』企画時に検討したテーマを下敷きにしており、そのため彼の名前がクレジットされたという事であるらしい。キャラクターデザインは芦田豊雄。彼が率いるスタジオライブの代表作でもある。ライブの担当回は、今観てもかなりのクオリティだ。本放映当時、僕の周りでは「あの日本サンライズがこんな作品を作るとは……」といった感想が出ていた。つまり、日本サンライズはハードな作品、あるいは乱暴なくらい元気のいい作品を得意としており、『バイファム』のように日常的なドラマに重点を置いた、ハートウォーミングな作品を作るとは思っていなかったという事だ。また、業界の知り合いで、演出の丁寧さに感心している人もいた。
 そのように評判のいい作品だったけれど、前回話題にしたように、僕はこの作品をあまり観ていなかった。それは、裏番組をチェックしていたからでもあるのだけど、等身大の少年少女を描いていく内容に馴染めなかったから、というのもあった。それが本作の魅力ではあるのだが、本放映当時の僕は19歳。もっと大人っぽい作品や、過激な作品に惹かれていた。ラウンドバーニアンの設定に新しさが感じられなかったから、というのもある。だから『バイファム』を観て、「よくできているなあ」と思ったし、「面白い」と感じもしたのだけれど、毎週リアルタイムで追いかけはしなかった。
 本放映後も全話を観返す機会はなく、『バイファム』をきちんと観ていない事は、僕にとってちょっとしたトラウマになっていた。いい機会だと思い、この原稿を書くにあたって、全話を観てみた。レンタル店でDVDを借りてきて、他の作業をしながらの、ながら観ではあるが、2日かけて全46話を観た。観て「あれ?」と思ったのだけど、シリーズ前半は意外と観ていた。ひょっとしたら、後に作られた総集編の記憶とごっちゃになっているのかもしれないが、ケイトが酒におぼれるようになるあたりまでは観ている。シャロンがケンツに裸を見られても平気にしている話とか、スコットのエロ本の一件も観た記憶がある。裏番組を録画して、オンエアでこちらをチェックしていたのかもしれない。時間帯が変わってからの、シリーズ後半は、ほとんど観た記憶がなかった。
 で、観た感想だけれども、これがメチャクチャ面白かった。特にシリーズ前半がいい(シリーズ後半はやや失速している)。本放映時には苦手に感じた部分が、今はいいと思える。どの子のキャラクターも類型的でないし、しかも、掘り下げ方が巧い。描写は柔らかくてナイーブ。子ども達は元気があり、初々しく、溌剌としている。基本的には全員が「いい子」なのだが、決してきれい事だけを並べているわけではない。ケイトというのは、子供達と行動を共にしていた学者の女性だ。彼女の水浴びを、ロディとバーツが覗くエピソードがあるのだけれど、これなんか、いかにも思春期の男の子達らしくていい。ただ、この話も本放映時で観た記憶がある。確か本放映では、このシーンにもあまり感情移入できなかった。むしろ、年をとって思春期的な感じに、惹かれるようになったのかもしれない。
 生活の部分をきっちり描いてるのも素晴らしく、替えの下着がなくなったために女の子達が手製のパンツを作る挿話や、旅先でシャロンがトイレを自作するエピソードなんて、ロボットアニメ史上空前にして絶後のものだ。下ネタばかり例に挙げているようだが、『バイファム』にそういったネタが多いのも事実。それも、この作品のリアルなところだと思う。あのくらいの年齢の子ども達が、一緒に旅をしたら起こるであろう出来事を、ひとつひとつ描いていく作品だった。
 『機動戦士ガンダム』にも参加していた星山博之が、どのような想いでこの作品を手がけたのかは知らないが、僕にはこの作品が「ありえたかもしれないもうひとつの『ガンダム』」に思えた。第1TVシリーズ前半にはアムロのマチルダへの淡い憧れがあり、フラウ・ボゥやカツ、レツ、キッカのちょっとした描写になごんだ。『ガンダム』のシリーズ前半にあったそういった柔らかい部分は、後半では相当薄くなっていった。『伝説巨神イデオン』以降の富野作品では、それがほぼない。そして、そういった柔らかい部分がふんだんにあるのが『バイファム』だった。

第151回へつづく

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(09.06.19)