アニメ様365日[小黒祐一郎]

第244回 『機動戦士Zガンダム』続きの続きの続き

 『機動戦士Zガンダム』の画作りに対する想いも複雑だ。作画の方向性についても『Zガンダム』は、『機動戦士ガンダム』第1作とずいぶん違っていた。キャラクター作画については、まず、放映が始まって早々に「ああ、これは安彦良和の画ではないな」と感じた。キャラクターデザインは安彦の手になるものなのだが、作画で随分ニュアンスが変わっていた。画が硬くなり、重たくなっている印象だった。前々作『聖戦士ダンバイン』や前作『重戦記エルガイム』のビーボォーの画風で、安彦良和のキャラを描いたという事なのだろう。
 『Zガンダム』の画作りで印象的なのは、キャラクターに付けられた濃い影だ。1枚の画に二重、三重に影がつけられる事もあった。影がつけられる面積も広く、こってりとした印象になっていた。ただ、ここが微妙なところなのだが、実際に作品を観返してみると、二段影、三段影のカットはあまりない。ではあるが、そういった画作りの印象が強かった。僕にとって「『Zガンダム』と言えば二段影」だ。ひょっとしたら、本編ではなく、アニメ雑誌に掲載された描き下ろしイラストの影響でそう感じたのかもしれない。
 そういった影のつけ方は、当時としては格好いい処理だった。今の若いファンにはピンと来ないだろうが、「影がこってりとついていればついているほど、格好いい」という時代だったのだ。影なしは格好悪く、一段影より二段影が格好よく、二段影より三段影の方が格好いい。描き手の一部と、ファンの多くがそう考えている時代だった。『Zガンダム』のキャラ作画が、そういった流行の中にあったのは間違いない。
 メカ作画に関しては、BL影がつけられる事が多く、エフェクトは金田伊功系統の派手なものが目についた。要するにケレンミが強くなっていた。これも当時としては流行のスタイルだった。ワカメ影と呼ばれる模様のような影がつけられる事もあった(メカデザインに関しては、形が複雑になったのと、可変モビルスーツが多いのは気になったが、いいとも悪いとも思わなかった)。
 実際の描き手がどう考えていたのかは知らないが、『超時空要塞マクロス』的なキャラクターの影や、流行っていた金田モドキのメカ描写を『ガンダム』に取り入れた感じだった。だから、『Zガンダム』の画作りを「今風だな」とは思った。当時はそれが嫌ではなかった。ではあるが、画作りの見事さに惚れ惚れする事もなかった。おそらく『Zガンダム』の画作りは、ひとつのアニメのスタイルとして、完成したものになっていなかったのだろう。
 『Zガンダム』の画作りは、今観るとイケていない。硬質なキャラクターも、二段影も、メカの処理も格好よくはない(きちんと検証した事はないが、日常芝居の場面における構図の取り方も、垢抜けてないような気がする。これは絵コンテレベルの話だ)。しかし、当時の流行のスタイルだったのだ。それも間違いない。たまに『Zガンダム』の映像を観ると、垢抜けないなと感じるのだが、それと同時に「ああ、あの頃はこれが流行りのスタイルだったんだよな」とも思う。
 放映当時は『Zガンダム』の画作りをエキセントリックだと思っていた。作品の内容についても、登場するキャラクターもエキセントリックだと感じていた(実は、今観返すと、それほどエキセントリックとは感じない。それは、他にエキセントリックな作品が沢山作られたためだろう)。物語と画作りの相乗効果で、より尖った作品になっていったのだろう。その意味では、画と内容がマッチしていた。

第245回へつづく

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(09.11.06)