第297回 『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大戦争』
『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大戦争』は、『ゲゲゲの鬼太郎』TV第3シリーズ放映中に制作された劇場版の第2作だ。「東映まんがまつり」の1本として、1986年3月15日に公開された。第1作は南方妖怪が敵だったが、今回戦うのは、バックベアードが率いる西洋妖怪軍団だ。部下には、ドラキュラ、魔女、フランケンシュタイン、狼男とメジャーな妖怪が揃っている。1人で東京にやってきたアキオ少年の頼みをきいて、鬼太郎をはじめとする日本妖怪達はホウキボシ島に向かった。その島は、突然現れた西洋妖怪達によって支配されていたのだ。しかし、西洋妖怪は手強い。鬼太郎は島の人達と力を合わせて、立ち向かう事になる。
今回もバトル中心の内容だ。前半でドラキュラ達を強敵として描き、中盤でケタ違いの化け物として、ボスのバックベアードが登場。全体にテンションの高い作品だ。ゲストキャラクターのアキオが出しゃばり過ぎないのも、島の人達が一方的に助けられるだけでなく、鬼太郎達と共闘するのもよかった。後半でバックベアードによって動きを封じられていた鬼太郎が、アキオのおかげで復活する場面がある。逆さ宙づりにされていた鬼太郎が、ググっと身を起こすのだが、ヒーローらしい力強さが感じられ、ワクワクしたのを覚えている。
スタッフに関しては、脚本が星山博之。監督と作画監督を、それぞれTV第3リーズでシリーズディレクターの葛西治、キャラクターデザインの兼森義則が務め、美術監督が土田勇という強力な布陣。僕がこの作品に惹かれたのは、映像面が充実していたからでもある。バックベアードの砦はいかにも土田勇らしいかっこよさだったし、特殊効果のカタマリのようなバックベアードのルックスも素晴らしい。原画陣は、スタジオジャイアンツのメンバーが主力となっており、作画的な見応えもたっぷり。最近のアニメマニアの言葉で言えば「作画アニメ」だった。
とにかくよく動く作品だった。動いているのは、アクションシーンだけではない。後半は水の描写が沢山あり、また、バックベアードの砦が崩壊する場面もあるのだが、そんな大変なカットも丁寧に動かしている。スタジオバードのファンとしては、兼森作監の味わいのある作監修正も楽しめた。
具体的な作画の見どころとしては、前半にある鬼太郎達とドラキュラ達の浜辺での戦い。ここは、鬼太郎達が海上で魔女と出会うあたりから、スタジオジャイアンツを代表するアニメーターが(彼の名前はクレジットされていないようなので、ここで名前は書かない。摩砂雪ではない)1人で原画を描いているはずだ。動きが実にシャープで、カットの構築も巧い。作画の話ではないが、浜辺のシーンは、コントラスト強めの色遣いもいい(色遣いについては「色彩設計おぼえがき」第16回 昔々……(11)『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大戦争』を参照)。それから、後半の洞窟内でのねずみ男のドタバタした芝居。ここは、同じくスタジオジャイアンツに所属していた鈴木俊二(この作品でのクレジットでは、鈴木しゅんじ)の担当だと聞いている。原画の密度が高く、動きまくっている。動きに遊びが多いところもいい。
スペシャルな仕上がりだったのが、中盤で鬼太郎とアキオが、バックベアードの砦に忍び込む場面だ。2人をドラキュラと狼男が迎え撃つのだが、奇抜な映像表現が続出し、その仕上がりはシュールですらあった。正直言うと、初見時には何が起きているのかは分からなかった。何が起きているのはか分からなかったが、怪奇物らしいムードと、ドラキュラと狼男を目の前にして、アキオがパニックに陥っている事は充分に表現されていた。この場面はスタジオバードの稲野義信が原画を担当しており、この場面のみ、絵コンテも彼が描いている。稲野義信は業界内にもファンの多い、スーパーアニメーターだ。彼のセンスとアイデアによって生まれたシーンだった。
物語の話に戻るが、この作品には、公開された1986年に地球に接近したハレー彗星を絡めてあった。ホウキボシ島とハレー彗星は関係があり、ハレー彗星によって起きた天変地異が勝敗を分ける鍵になる。バックベアード自身とハレー彗星の因縁をほのめかすような描写もあった。しかし、ハレー彗星とホウキボシ島との関係も、バックベアードとの関係も、説明されないままに映画が終わってしまう。ラストシーンでは、鬼太郎をはじめとするレギュラーキャラ達が、今回の事件において、ハレー彗星がなんだったのかがよく分からず首をひねっている感じだ。目玉おやじが無理矢理に話をまとめているのだけれど、それが傷口を広げているように思えた。作り手も、設定的な部分を整理しきれなかったのではないだろうか(「ゲゲゲの鬼太郎 劇場版DVD-BOX」解説書の葛西治監督インタビューには、ハードスケジュールで作られた作品であり、シナリオ第2稿の段階で絵コンテを描き始めた、とある。わざわざ「第2稿で……」と言っているのは、決定稿になっていないという意味かもしれない)。『妖怪大戦争』は内容的にも、ビジュアル的にも力が入った作品であり、「まんがまつり」の1本としてはゴージャスな仕上がりだ。ハレー彗星について未整理であるのだけが、残念だった。
第298回へつづく
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(10.02.01)